異世界おじさん、原神の世界へ   作:ところてんの

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ベネットが抜けてましたので修正しました


第26話「断片的な情報」改

  フィッシュルとオズが加わった一行は、モンドへ戻る街道を歩いていた。

 

 もちろん、ベネットも一緒だ。

 

 遺跡を出てから、しばらく経っている。

 

 先ほどまでいた遺跡とは違い、外は穏やかだった。

 

 青い空。

 

 遠くに見える草原。

 

 風に揺れる木々。

 

 街道を歩く人々の姿も見える。

 

 遺跡の中で起きていたことが、まるで別の世界の出来事だったように感じられた。

 

 しかし。

 

 たかふみの頭の中には、先ほど聞いた話が残っている。

 

 ヒルチャール。

 

 魔物。

 

 そして、西の森。

 

「それで、もう一度確認したいんだけど」

 

 たかふみが口を開いた。

 

「フィッシュルたちは、最近この辺でヒルチャールとかの動きがおかしいって調べてたんだよな?」

 

「然り!」

 

 フィッシュルが振り返る。

 

「この地に潜む闇の眷属どもが、平穏なる森を徘徊しているのだ!」

 

「……つまり?」

 

 たかふみはオズを見る。

 

「複数の地点で、ヒルチャールの移動が確認されています」

 

 オズが落ち着いた口調で説明した。

 

「普段なら、それぞれの集落周辺にいるはずのヒルチャールが、少しずつ別の場所へ移動しているのです」

 

「なるほど」

 

 たかふみは頷いた。

 

「フィッシュルの言ってる『闇の眷属が森を徘徊している』って、そういう意味か」

 

「我が言葉をその程度の表現に落とすとは……」

 

 フィッシュルが少し不満そうに言う。

 

「いや、分かりやすくはなったけどな」

 

 たかふみは苦笑した。

 

「他には?」

 

「西より不吉なる気配が漂っている」

 

「それは?」

 

「西側の森で、ヒルチャールだけでなく、他の魔物の移動も確認されています」

 

 オズが答える。

 

「魔物の数そのものが急激に増えているというより、普段とは違う場所で確認されることが増えている、と考えたほうがいいでしょう」

 

「なるほど……」

 

 たかふみは少し考えた。

 

 フィッシュルの言葉だけなら、かなり曖昧だ。

 

 だが、オズの説明を合わせれば話は変わる。

 

 複数の地点。

 

 ヒルチャール。

 

 魔物。

 

 そして、西側への移動。

 

 偶然で片づけるには、少し気になる。

 

「ベネットは何か知らない?」

 

 たかふみが隣を見る。

 

「俺?」

 

 ベネットが自分を指差した。

 

「ああ。冒険者なんだろ?」

 

「もちろん!」

 

 ベネットは頷いた。

 

「最近のことなら、少し気になる話は聞いてるぞ」

 

「どんな?」

 

「西のほうで、普段とは違う場所に魔物が出るようになったって話だ」

 

「それ、どこで聞いたんだ?」

 

「冒険者仲間からだな」

 

 ベネットは少し考える。

 

「俺自身も何度か見てる。ヒルチャールが普段いる場所から離れてたんだ」

 

「数は?」

 

「そのときはそんなに多くなかった」

 

「でも、場所が変だった?」

 

「ああ」

 

 ベネットが頷く。

 

「だから、ちょっと気になってたんだ」

 

「なるほど……」

 

 たかふみは地図が欲しくなった。

 

「パイモン、地図ある?」

 

「あるぞ!」

 

 パイモンが荷物から地図を取り出す。

 

「こんなのでいいか?」

 

「うん」

 

 たかふみは地図を受け取った。

 

 街道の脇で立ち止まり、地面の上に広げる。

 

 蛍も隣から覗き込んだ。

 

 ベネットも地図の反対側から覗く。

 

「フィッシュル、最初にヒルチャールを見つけたのは?」

 

「森の東より進みし場所だ」

 

「……東側か」

 

 たかふみは地図を見る。

 

「それから?」

 

「北西へ向かう影を見た」

 

 フィッシュルが答える。

 

「その後、西の森にて闇の眷属の気配を感じたのだ」

 

「オズ、具体的には?」

 

「こちらです」

 

 オズが地図を指差した。

 

「この辺りです。複数のヒルチャールが確認されています」

 

「ここと……」

 

 たかふみは印をつける。

 

「ここにもいるんだよな?」

 

「はい」

 

 オズが頷く。

 

 たかふみはさらに別の場所へ印をつけた。

 

「ここと、ここ。それからこの辺にも魔物が移動してる」

 

 地図を見る。

 

 いくつかの地点に印が並んだ。

 

 ベネットも自分が知っている場所を指差した。

 

「俺が見たのは、この辺だ」

 

「ここ?」

 

「ああ」

 

 たかふみはベネットの指先を見る。

 

「……他の場所と近いな」

 

「そうだな」

 

 ベネットが頷く。

 

「これ、たまたまじゃないかもしれない」

 

 たかふみが言った。

 

 パイモンも地図を覗き込む。

 

「つまり、魔物が同じ方向へ動いてるってことか?」

 

「そう」

 

 たかふみは頷いた。

 

「少なくともバラバラに増えてる感じじゃない」

 

「西へ向かってる」

 

 蛍も地図を見る。

 

「そうなんだよ」

 

 たかふみは指で地点をなぞる。

 

「もちろん、これだけじゃ断定はできない。でも、複数の地点で同じような動きがあるなら、何か理由がある可能性は高い」

 

「俺もそう思う」

 

 ベネットが言った。

 

「魔物って、何もなければそんなに大きく移動しないからな」

 

「そうなのか?」

 

「全部がそうってわけじゃないけどな」

 

 ベネットは冒険者らしく説明する。

 

「住みやすい場所があるなら、わざわざ離れる理由はあまりないんだ」

 

「じゃあ、何か原因がある?」

 

「その可能性はあると思う」

 

 ベネットは頷いた。

 

「でも、まだ分からない」

 

「まあ、そうだよな」

 

 たかふみも頷く。

 

「闇の者どもが、何かを求めて集っているのかもしれぬ」

 

 フィッシュルが言った。

 

「……何かって?」

 

「それはまだ分からぬ」

 

「そこは分からないのかよ」

 

 たかふみがツッコむ。

 

「だからこそ調査しているのだ!」

 

「まあ、それはそうだけど」

 

 フィッシュルは堂々と胸を張る。

 

 オズが小さく頷いた。

 

「現時点では、何かを目的としているのか、それとも別の原因によって移動しているのかも判断できません」

 

「つまり、情報が足りない」

 

「その通りです」

 

 たかふみは地図を見る。

 

 まだ断片的だ。

 

 それでも、完全に何も分からないわけではない。

 

 少なくとも。

 

 魔物の移動には一定の方向がある。

 

 西。

 

 そこへ向かっている。

 

「アビスの魔術師が関係してる可能性は?」

 

 たかふみが尋ねた。

 

 フィッシュルとオズが顔を見合わせる。

 

「否定はできません」

 

 オズが答える。

 

「最近確認されている動きの中には、アビスの魔術師の存在を疑わせるものもあります」

 

「やっぱりか……」

 

 たかふみは小さく息を吐いた。

 

 原神を知っている身としては、アビスという言葉は気になる。

 

 ゲームでも何度も戦う存在だ。

 

 ただ。

 

 実際に目の前に現れたら、話は別だ。

 

「ベネットは?」

 

「アビスの魔術師なら、俺も戦ったことがある」

 

 ベネットが答えた。

 

「普通のヒルチャールとは違う。元素の盾を使うし、遠くから魔法を撃ってくる」

 

「そうなんだよな」

 

 たかふみは頷く。

 

「面倒な相手なんだよ」

 

「たかふみ、知ってるのか?」

 

「まあ……少し」

 

 ゲームで知っている。

 

 そう言うわけにはいかない。

 

 ベネットは少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は聞かなかった。

 

「だったら、準備はちゃんとしたほうがいいな」

 

「そうだな」

 

 おじさんが初めて口を挟んだ。

 

「急ぐ必要はない」

 

「おじさんもそう思う?」

 

「ああ」

 

 おじさんは地図を見る。

 

「情報が足りない」

 

「やっぱり」

 

「まず周囲を調べる」

 

 おじさんはそう言うと、周囲へ意識を向けた。

 

 たかふみには何も見えない。

 

 当然だ。

 

 精霊そのものを見ることはできない。

 

 おじさんも精霊の姿を目で追っているわけではない。

 

 ただ、何かと意思を通わせている。

 

「……調べられるのか?」

 

「近くならな」

 

 おじさんが短く答える。

 

「へえ」

 

 フィッシュルが興味深そうに見つめる。

 

「では、その異界の秘術が答えを示すというのか」

 

「精霊に頼むだけだ」

 

「いや、その説明で全部分かるわけないだろ」

 

 たかふみがツッコむ。

 

 ベネットも興味深そうにおじさんを見る。

 

「精霊って、どんな感じなんだ?」

 

「説明は難しい」

 

「そうなのか?」

 

「ああ」

 

 おじさんは淡々と答える。

 

「意思を持った存在だ」

 

「なるほど……」

 

 ベネットは素直に頷いた。

 

「じゃあ、精霊にお願いして周りを探してもらうってことか」

 

「そうだ」

 

「すげえな!」

 

「まあな」

 

「おじさん、すげえな! そんな魔法が使えるのか!」

 

 ベネットが笑う。

 

「精霊魔法って元素とは違うんだろ? 面白いな!」

 

「そうだ」

 

 おじさんは短く答えた。

 

「元素とは違う」

 

「やっぱり別物なんだな」

 

「別物だ」

 

 フィッシュルも目を輝かせる。

 

「異界より伝わりし秘術……まさしく禁断の魔導ではないか!」

 

「禁断かどうかは知らない」

 

 おじさんは淡々としている。

 

「精霊に頼んでいるだけだ」

 

「いや、それで済ませるなよ……」

 

 たかふみは思わずツッコんだ。

 

 だが、フィッシュルとオズは笑わなかった。

 

 むしろ真剣におじさんを見ている。

 

 オズが静かに口を開いた。

 

「異界の魔術師。その力は、我々の元素とは明らかに異なるようですね」

 

「そうだ」

 

「なるほど……精霊と意思を通わせ、その力を借りているのですか」

 

「ああ」

 

 おじさんは短く答えた。

 

 そして、調査を続ける。

 

 風が草原を通り抜ける。

 

 木々の葉が揺れる。

 

 遠くで鳥の鳴き声が聞こえる。

 

 その中で、おじさんだけが何かを探るように黙っていた。

 

 やがて。

 

「いた」

 

「何が?」

 

 パイモンが聞く。

 

「ヒルチャール」

 

「数は?」

 

「複数」

 

「場所は?」

 

「この先の森」

 

 おじさんが地図を見る。

 

「この辺だ」

 

 指が示した場所は、先ほどまでの情報とは少し離れていた。

 

 たかふみが地図を見る。

 

「じゃあ、こっちにもいるってことか」

 

「ああ」

 

「……ってことは」

 

 たかふみはいくつかの印を見比べた。

 

 最初はバラバラに見えた情報。

 

 東。

 

 北西。

 

 西。

 

 そして、さらにその先。

 

「集まってる……」

 

 蛍が呟いた。

 

「そう見えるな」

 

 たかふみも頷く。

 

 ベネットも地図を見る。

 

「俺が見た場所も、この方向だ」

 

「やっぱりか」

 

「ああ」

 

 ベネットが頷く。

 

「だったら、やっぱり何かあるのかもしれない」

 

「そうだな」

 

 フィッシュルが満足そうに笑った。

 

「やはり我の見立てに間違いはなかった!」

 

「いや、まだ何も分かってないからな?」

 

「ぬ……」

 

「場所が絞れただけだ」

 

 たかふみが言う。

 

「そこに何があるのかまでは分からない」

 

 フィッシュルは少し黙った。

 

「……ならば、確かめるまでだ」

 

「そういうこと」

 

 蛍が頷く。

 

「俺も行くよ」

 

 ベネットが言った。

 

「西の森へ?」

 

「ああ」

 

 ベネットは笑う。

 

「ここまで調べたんだ。最後まで付き合うよ」

 

「助かる」

 

 たかふみが答える。

 

「それに、仲間が困ってるなら放っておけないだろ?」

 

 ベネットは当たり前のように言った。

 

「ベネットらしいな」

 

「そうか?」

 

「ああ」

 

 たかふみは少し笑った。

 

「じゃあ、次は西の森だな」

 

 パイモンが言う。

 

「そうなる」

 

 たかふみは地図を畳んだ。

 

「でも、もうすぐモンドだよ?」

 

 たかふみは街道の先を見る。

 

「一度戻って準備したほうがいいんじゃないか?」

 

 おじさんは少し考えた。

 

「そのほうがいい」

 

「だよね」

 

 急いで行く必要はない。

 

 情報は集まり始めている。

 

 だったら、一度モンドへ戻って準備を整えたほうがいい。

 

「冒険者ギルドにも聞いてみようぜ」

 

 ベネットが言った。

 

「何か知ってるかもしれない」

 

「それいいな」

 

 たかふみも頷く。

 

「目撃情報が集まってる可能性あるし」

 

「じゃあ、決まりだな!」

 

 ベネットが拳を握る。

 

「モンドに戻ったらギルドで情報を集めて、それから西の森を調べよう!」

 

「おう!」

 

 パイモンも元気よく答えた。

 

 フィッシュルが胸を張る。

 

「我らが力を合わせれば、闇の正体もいずれ明らかになるであろう!」

 

 オズが続く。

 

「焦らず、情報を集めるのがよいでしょう」

 

「そうだな」

 

 蛍も頷いた。

 

 おじさんが先に歩き出す。

 

「モンドへ戻るぞ」

 

「分かった」

 

 たかふみも歩き出した。

 

 ベネットも、その隣につく。

 

「なあ、たかふみ」

 

「ん?」

 

「西の森って、どんなところなんだ?」

 

「俺も詳しくは知らない」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。ゲームでは行ったことあるけど、実際に歩くのは初めてだから」

 

「そっか!」

 

 ベネットは笑った。

 

「じゃあ、一緒に見て回ろうぜ!」

 

「……そうだな」

 

 たかふみも笑う。

 

 ゲームで知っている場所。

 

 ゲームで知っているキャラクター。

 

 それなのに。

 

 実際に隣を歩いているのは、本物の人間たちだ。

 

 フィッシュルも。

 

 オズも。

 

 ベネットも。

 

 蛍も。

 

 パイモンも。

 

 そして、おじさんも。

 

 ゲームの知識だけでは分からないことが増えている。

 

 たかふみは歩きながら、そんなことを考えていた。

 

「情報はまだ少ない」

 

 フィッシュルから得た情報。

 

 オズから得た具体的な証言。

 

 ベネットが知っていた目撃情報。

 

 おじさんが精霊から得た情報。

 

 どれも単独なら断片的だ。

 

 けれど。

 

 地図の上に並べてみれば、少しずつ意味が見えてくる。

 

 魔物は無秩序に動いているわけではない。

 

 西へ向かっている。

 

 そこに何があるのかは、まだ分からない。

 

 アビスの魔術師が関係しているのか。

 

 風魔龍の事件と繋がっているのか。

 

 それとも。

 

 まったく別の何かなのか。

 

「……とりあえず、調べるしかないか」

 

 たかふみは前を見る。

 

 街道の先。

 

 遠くにモンドの街が見えてきた。

 

「おっ、モンドが見えてきたぞ!」

 

 ベネットが声を上げる。

 

「本当だ!」

 

 パイモンも喜ぶ。

 

「もうすぐ飯だ!」

 

「結局そこかよ」

 

 たかふみが笑う。

 

「俺も腹減ってきた!」

 

 ベネットも笑った。

 

「お前もかよ!」

 

「冒険の後だからな!」

 

「まあ、俺も少し腹減ったけど」

 

「ほら!」

 

「何が『ほら』だよ」

 

 笑い声が街道に響く。

 

 その後ろをフィッシュルとオズが歩いている。

 

 少し前には蛍。

 

 そのさらに前には、おじさん。

 

 いつの間にか、七人の一行になっていた。

 

 まだ分からないことは多い。

 

 集まる魔物。

 

 西へ向かう動き。

 

 そして、その背後にいるかもしれないアビスの魔術師。

 

 断片的な情報は、まだ一本の線にはなっていない。

 

 それでも。

 

 少しずつ、その形が見え始めていた。

 

 次に向かうのは、西の森。

 

 そこに何があるのか。

 

 まだ誰にも分からない。

 

 だからこそ。

 

 一行はまず、モンドへ戻る。

 

 次の調査に備えるために。

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