異世界おじさん、原神の世界へ   作:ところてんの

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第28話「占星術師の警告」

モンドへ戻ってきた俺たちは、そのまま街の中へ入った。

 

夕方前のモンドは、いつも通り人の往来が多い。

 

風が吹き抜け、街の中には商人や冒険者たちの声が響いていた。

 

少し前まで風魔龍の襲撃で騒然としていたとは思えないくらい、街には普段の空気が戻りつつある。

 

……まあ、完全に元通りというわけじゃないけど。

 

俺たちは大通りを歩きながら、今回の調査について話していた。

 

「とりあえず、今日はもう遅いし、ギルドに報告して終わりでいいんじゃないか?」

 

俺がそう言うと、ベネットが頷いた。

 

「そうだな。今日はいろいろあったし、明日また調べればいいと思う!」

 

「私も、それでいいと思う」

 

蛍も賛成する。

 

フィッシュルは腕を組みながら、街の向こうを見ていた。

 

「ふむ……だが、此度の異変はまだ幕を閉じてはいないように思えるぞ」

 

「そうなの?」

 

パイモンが首を傾げる。

 

「我が感じ取ったわけではない。だが――」

 

「フィッシュルはいつもそういう言い方をするからな」

 

隣にいたオズが静かに補足を入れる。

 

「なるほどな!」

 

ベネットが納得したように頷いた。

 

「いや、分かってないだろ」

 

俺は思わずツッコんだ。

 

そのときだった。

 

「待って」

 

後ろから声がした。

 

振り返る。

 

モナだった。

 

彼女は少し離れた場所で立ち止まり、空を見上げている。

 

「どうした?」

 

蛍が尋ねる。

 

モナは答えず、しばらく夜空を見つめていた。

 

やがて、小さく息を吐く。

 

「……やっぱり」

 

「何が?」

 

パイモンが聞く。

 

モナは俺たちのほうへ振り返った。

 

「少し、確認したいことがあるわ」

 

「確認?」

 

「ええ」

 

モナは持っていた占星術用の道具を取り出した。

 

街の中で占星術をするつもりらしい。

 

俺は少し離れたところから、その様子を眺めた。

 

ゲームで見たことのある光景。

 

でも、実際に目の前で見ると、やっぱり違う。

 

モナが道具を動かすたび、淡い光が周囲に広がっていく。

 

星の動きを読み取っているのか、モナは何度も位置を調整していた。

 

その表情から、いつもの余裕が少しずつ消えていく。

 

「……昨日より、乱れが強くなっている」

 

「昨日?」

 

蛍が聞き返す。

 

モナは頷いた。

 

「ええ。風魔龍の騒動だけなら、ここまで星の流れが乱れる理由にはならない」

 

「つまり?」

 

「この土地に流れているものそのものが、乱されているのよ」

 

モナは空を見上げる。

 

「何かが、この土地の流れを乱しているわ」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺は少しだけ嫌な感じがした。

 

風魔龍。

 

アビス教団。

 

そして、その裏で進んでいる計画。

 

ゲームでは、このあといろいろな出来事が起きる。

 

俺は知っている。

 

でも――。

 

俺の知っている原作の展開が、この世界でもそのまま起こるとは限らない。

 

実際、俺たちがここにいる時点で、ゲームとは違う。

 

おじさんもいる。

 

しかも、おじさんの精霊魔法なんて、ゲームには存在しなかった。

 

俺たちが関わったことで、すでに何かが変わっている可能性もある。

 

だから、知っていることをそのまま口にするのは危険だった。

 

「たかふみ?」

 

「え?」

 

蛍に呼ばれて、俺は顔を上げる。

 

「どうしたの?」

 

「いや……ちょっと考え事してただけ」

 

「そう」

 

蛍はそれ以上聞かなかった。

 

助かった。

 

モナはそんな俺をじっと見ていた。

 

「……あなた」

 

「俺?」

 

「さっきから、妙に反応が早いわね」

 

「そう?」

 

「ええ」

 

モナは目を細める。

 

「まるで、何かを知っているみたい」

 

「いやいや、そんなことないって」

 

俺は笑って誤魔化した。

 

モナはしばらく俺を見ていたが、それ以上追及することはなかった。

 

「まあいいわ。今はそれより、こちらのほうが重要ね」

 

モナは再び占星術に集中する。

 

しばらくして、地面に視線を落とした。

 

「……街の外にも、いくつか妙な場所がある」

 

「外?」

 

ベネットが反応する。

 

「ええ。星の流れが、ところどころで歪んでいるの」

 

「それって、魔物がいるってことか?」

 

「そうとは限らないわ」

 

モナは首を横に振った。

 

「むしろ、魔物だけでは説明がつかない」

 

俺たちの間に、少しだけ沈黙が生まれた。

 

おじさんが口を開く。

 

「……なら、確認する」

 

「どうやって?」

 

ベネットが聞く。

 

おじさんは街の外へ視線を向けた。

 

「精霊に頼む」

 

「またそれか」

 

俺は思わず言った。

 

「他に方法がない」

 

「いや、そうだけどさ……」

 

おじさんはそのまま街の外へ向かって歩き出す。

 

俺たちも後を追った。

 

街の門を抜ける。

 

少し離れた場所で、おじさんが立ち止まった。

 

目を閉じる。

 

周囲の風が、一瞬だけ変化した。

 

「……」

 

おじさんは何も言わず、その場に立っている。

 

俺には何も見えない。

 

でも、おじさんには何か分かっているらしい。

 

「どう?」

 

蛍が尋ねる。

 

「この辺りにはいない」

 

「いない?」

 

「少し離れた場所にいる」

 

おじさんが周囲を見渡す。

 

「数は少ない」

 

「じゃあ、やっぱり魔物じゃないのか?」

 

ベネットが聞く。

 

「分からない」

 

おじさんは短く答えた。

 

「ただ……落ち着いていない」

 

モナが反応した。

 

「精霊が?」

 

「そうだ」

 

「……なるほど」

 

モナは腕を組む。

 

「私の占星術でも、同じように周囲の流れが乱れている」

 

「つまり?」

 

蛍が尋ねる。

 

「私の占星術と、彼の感知したものが一致している」

 

モナはおじさんを見る。

 

「偶然とは考えにくいわね」

 

おじさんは特に反応しなかった。

 

「調べる必要がある」

 

「同感ね」

 

モナが頷く。

 

俺は周囲を見渡した。

 

何かがいるようには見えない。

 

風も普通。

 

草木も普通。

 

少なくとも、俺にはそう見える。

 

けれど、モナは異常を感じている。

 

おじさんも何かを感じ取っている。

 

ゲームでは、こういう場面なんてなかった。

 

少なくとも、俺の知っている範囲では。

 

「……本当に、同じじゃないんだな」

 

小さく呟く。

 

「たかふみ?」

 

蛍が聞く。

 

「何でもないよ」

 

蛍は少しだけ首を傾げた。

 

その横で、モナが空を見上げる。

 

「……まだ終わっていない」

 

「え?」

 

パイモンが聞き返す。

 

モナは空を見たまま続けた。

 

「風魔龍の騒動で、この土地は大きく揺らいだ。それは間違いない」

 

一度、言葉を切る。

 

「でも、それとは別に……何かが動いている」

 

「何かって?」

 

ベネットが聞く。

 

「そこまでは分からないわ」

 

モナは素直に答えた。

 

「星が示しているのは、異常があるということだけ。原因までは、まだ読み切れない」

 

「そっか……」

 

ベネットの表情が少し真剣になる。

 

「じゃあ、もっと調べないとな」

 

「そうね」

 

蛍も頷いた。

 

「このままにはできない」

 

俺も頷く。

 

「俺も手伝う」

 

フィッシュルも胸を張った。

 

「当然であろう! この異変の正体を暴き、世界の運命を――」

 

「私も行くよ!」

 

ベネットが元気よく手を挙げる。

 

「人数が多いほうが調査もしやすいからな!」

 

「お前、前にもそれ言ってたな」

 

「そうだっけ?」

 

「言ってた」

 

パイモンが即答した。

 

「そっか!」

 

ベネットは笑った。

 

……緊張感がちょっと戻らない。

 

まあ、ベネットらしいけど。

 

そんな中、モナだけは笑わなかった。

 

彼女は俺たちを見回したあと、静かに言った。

 

「気をつけなさい」

 

「……」

 

「今回の異変は、まだ終わっていない」

 

その言葉だけは、妙に重かった。

 

風が吹く。

 

街の旗が揺れる。

 

俺は無意識に西の方角へ目を向けた。

 

何が起きているのかは、まだ分からない。

 

ただ、俺の知っているゲームの世界と、目の前にある現実が少しずつ重なってきている。

 

そして同時に、少しずつズレてもいる。

 

そのズレを作っている原因の一つが、俺たち自身なのかもしれない。

 

特に――。

 

隣を歩くおじさんを見る。

 

何を考えているのか、相変わらず分からない。

 

「……まあ、おじさんがいる時点で、普通の原神にはならないよな」

 

モンドの街へ戻る道を進みながら、俺はもう一度だけ西の方角を見た。

 

何かがいる。

 

そんな確証はない。

 

それでも、嫌な予感だけは消えなかった。

 

そして、その予感が外れることはなかった

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