フルメタル・パニック 治安の盾と防人の防塁   作:山さん

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第2話 治安の巨人

 

警視庁特車二課。

海沿いに建つ二課棟。

周辺はいつもと変わらない。

風。

海。

岸壁。

そして、少し離れた場所には長年使い込まれた整備設備。

かつて社会の最先端だった有人レイバーも、旧式になっていた

それでもここにはまだ二機の白い巨人がいた。

AV-98Plus。

イングラム・プラス。

長い年月を、改修と再整備を繰り返しながら生き延びてきた警察用レイバー。

パトレイバー

その二課棟の中。

静かな時間を壊したのは電話だった。

「はい、特車二課」

当直の職員が受話器を取る。

数秒。

表情が変わった。

「……はい?」

聞き返す。

「AS?」

さらに数秒。

「了解しました」

電話を置く。

そして部屋の奥へ向かって声を張った。

「課長!」

安井鋼太郎が、ゆっくり顔を上げた。

「なんです?」

「本庁から緊急出動要請です」

「うちに?」

「はい」

安井は少しだけ眉を上げる。

「珍しいですねえ」

「お台場です」

「お台場」

「港湾地区で交通機動隊が人型機械と遭遇」

その言葉に。

近くにいた隊員たちが反応した。

「レイバー?」

「それが……」

職員が困ったような顔をする。

「レイバーじゃないそうです」

沈黙。

安井。

「じゃあ、なんです?」

「ASだそうです」

さらに沈黙。

「……えーえす?」

「アーム・スレイブ」

二課棟の空気が完全に止まった。

そこへ第二小隊長、佐伯貴美香が入ってくる。

「どうしました?」

安井が書類を彼女へ渡した。

「佐伯さん。お仕事です」

「またレイバーですか?」

「それが違うらしいんですよ」

佐伯が紙を見る。

国籍不明。

所属不明。

全高推定八メートル。

人型。

高機動。

タンカー周辺。

警察車両の進路を妨害。

そして。

AS。

佐伯は数秒、それを読む。

「……なるほど」

反応は、それだけだった。

近くにいた久我十和が身を乗り出す。

「なにがあったんですか?」

「十和」

佐伯が資料を渡す。

十和は読む。

その目がだんだん大きくなる。

「人型兵器!?」

隣から天鳥桔平が覗き込む。

「ちょっと待って」

一行ずつ読む。

「全高八メートル……人型……有人らしい……」

そして最後。

「アーム・スレイブ?」

十和が言った。

「聞いたことある?」

「名前だけなら」

桔平の声が少し変わる。

メカ好きの顔になった。

「軍事系の人型機動兵器だよ。レイバーとは思想が違う」

十和。

「思想?」

「レイバーは基本的に作業機械から発展したものだろ?」

「うん」

「ASは最初から戦うことを前提にしてる」

十和。

「……」

もう一度資料を見る。

そして。

「面白そう」

佐伯が即座に言った。

「面白がらない」

「でも隊長!」

「相手は軍用機かもしれないの」

「はい」

「うちの仕事は怪獣退治じゃないですよ」

「怪獣じゃありません!」

「似たようなものです」

その時。

平田紗季が端末を持ってやってきた。

「現場映像が転送されました」

全員がモニターを見る。

交通機動隊の車載カメラ。

激しく揺れる映像。

赤色灯。

タンカー。

そして。

画面中央。

巨大な暗色の人型機。

一瞬。

十和の表情から笑みが消える。

「……でかい」

桔平。

「イングラムとほぼ同じくらいか」

平田が冷静に映像を拡大する。

「それだけじゃありません」

静止。

脚部。

拡大。

「関節構造がレイバーとは違います」

次。

胴体。

「装甲配置も」

次。

肩。

腕。

「どう見ても工業作業用ではありません」

間昭彦が腕を組んだ。

「つまり?」

平田。

「軍用です」

十和。

「やっぱり!」

平田は彼女を見る。

「喜ぶところではありません」

「喜んでません」

「顔が喜んでます」

「気のせいです」

桔平が映像をさらに見る。

「……でも妙だな」

佐伯。

「何が?」

「交通機動隊のパトカーが、この距離にいる」

画面。

十数メートル。

ASとパトカー。

あまりにも近い。

「本気で敵対してるなら」

桔平が言う。

「あんなところでパトカーが無事なわけない」

平田も頷く。

「同感です」

佐伯。

「つまり?」

「妨害はしてるけど、排除していない」

佐伯は少しだけ目を細めた。

「警察官を殺す意思はない可能性がある」

「現時点では」

平田が付け加える。

「ただし保証はできません」

「当然」

そこへ再び通信。

『特車二課。本庁より』

佐伯が無線を取る。

「こちら特車二課第二小隊、佐伯」

『第二小隊に出動命令』

室内の空気が変わる。

『お台場港湾地区へ急行。現場交通機動隊及び第四機動隊と合流せよ』

佐伯。

「任務内容を確認します」

『第一。周辺警戒』

『第二。国籍不明ASに対する監視及び必要に応じた制止』

『第三。タンカー乗員ならびに周辺民間人の安全確保』

佐伯。

「対象への武器使用権限は?」

『現時点では許可しない』

「了解」

『なお第四機動隊も出動中』

佐伯の眉がわずかに動いた。

「第四機動隊?」

『そうだ』

「ずいぶん大掛かりですね」

『現場から追加情報がある』

声が少し低くなる。

『タンカー内部に複数の武装勢力が存在する可能性』

その瞬間。

誰も冗談を言わなくなった。

佐伯。

「了解しました」

通信終了。

数秒。

佐伯は全員を見る。

「ということです」

十和。

「一号機出します?」

「出します」

十和の目が輝く。

「よし!」

「だから喜ばない」

「はい!」

桔平。

「隊長、相手が軍用ASならイングラムで止められますか?」

その質問。

佐伯は少し考える。

そして。

「分かりません」

十和。

「え?」

「分からないものは分からない」

平田もモニターを見る。

「性能データがありません」

間。

「武装も?」

「不明」

「装甲厚」

「不明」

「出力」

「不明」

「制御方式」

「不明」

間は溜息をついた。

「何も分からんじゃないか」

平田。

「ですから困っているんです」

そこへ整備班側から斯波繁夫が顔を出した。

「なんだなんだ、騒がしいな」

十和。

「シバさん! 謎のロボットです!」

「ロボット言うな」

「ASです!」

「AS?」

斯波が画面を見る。

数秒。

表情が変わる。

「……ほう」

桔平。

「知ってます?」

「いや」

「じゃあなんで嬉しそうなんです?」

「知らない機械だからだよ」

佐伯。

「整備班まで喜ばないでください」

斯波は画面に近づく。

「しかしこれ、レイバーじゃねえな」

桔平。

「やっぱり?」

「腰の作りが違う」

指差す。

「重心の取り方もな」

別の部分。

「こいつは歩く機械じゃない」

十和。

「?」

斯波。

「走る機械だ」

その言葉。

全員が画面を見る。

一瞬、空気が重くなる。

佐伯が腕時計を見る。

「出動」

それだけ。

瞬間。

特車二課が動いた。

柳井雄太が叫ぶ。

「一号機キャリア準備!」

柚木八久万。

「二号機も出します!」

平田。

「現場データ、各車両へ転送!」

間。

「了解!」

桔平がヘルメットを掴む。

十和はすでに走っている。

「十和!」

「はい!」

「まだ乗るな!」

「準備です!」

「分かってる!」

格納スペース。

巨大な照明が灯る。

暗闇の中から。

白い脚。

白い装甲。

警視庁の文字。

赤色灯。

AV-98Plus イングラム。

かつて最先端だった。

今では「旧式」と笑われることさえある。

それでも。

何十年にもわたり東京を守ってきた警察の巨人。

整備員たちが一斉に取りつく。

電源接続。

油圧チェック。

制御系起動。

診断開始。

コックピット。

久我十和が乗り込む。

ヘッドギア装着。

AR-HUDに文字が浮かぶ。

AV-98Plus SYSTEM ONLINE

桔平の声。

『十和』

「はい」

『今日の相手、いつものレイバーだと思うなよ』

十和は正面を見る。

「分かってる」

一瞬。

そして。

笑う。

「向こうがASなら――」

桔平。

『なら?』

「こっちはパトレイバー」

桔平は一瞬黙った。

そして苦笑する。

『……それ、理屈になってないぞ』

「いいんです」

そこへ佐伯の声。

『二人とも』

二人。

「はい」

『勝ちに行くんじゃありません』

静かな声だった。

『警察官として行くんです』

十和の表情が変わる。

『現場にいる人を守る。交通機動隊も、第四機動隊も、タンカーの乗員も』

少し間。

『そして、可能なら』

モニターには国籍不明ASの静止画像。

『あの機体に乗っている人間も』

十和。

「……了解」

桔平。

『了解です』

佐伯。

『第二小隊――出動』

巨大なキャリアのエンジンが唸った。

赤色灯が回転を始める。

一号機。

二号機。

二台のレイバーキャリアが特車二課を出る。

行き先は、お台場。

そこには既に第四機動隊が向かっている。

そしてその先には。

警察がこれまで相手にしてきたどんなレイバーとも違う、

一機のM9ガーンズバックが待っていた。

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