フルメタル・パニック 治安の盾と防人の防塁   作:山さん

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第5話 決断

――東京・永田町

総理大臣官邸 危機管理センター

最初に大型モニターへ映し出された時。

部屋にいた誰もが、それを「AS」だとは認識できなかった。

赤い。

巨大な赤。

ただそれだけだった。

港湾監視カメラ。

警視庁のヘリテレ映像。

道路監視システム。

現場の交通機動隊員が撮影した映像。

複数の画面に映っているそれは、どこから見ても人型をしていた。

だが。

人間が知っている人型機械の尺度から完全にはみ出している。

国籍不明機のAS

イングラム・プラス。

それらが八メートル前後。

しかし、その背後でタンカーを押し壊すように姿を現した赤い巨体は――

その何倍もある。

コンクリートの建物が歩いている。

そう言われた方がまだ理解できる。

高城遼子総理は腕を組んだまま、巨大スクリーンを見上げていた。

一度瞬きをする。

もう一度見る。

そして。

「……何、あのバカでかい赤い機体は?」

危機管理センターに沈黙が落ちた。

官房長官が資料端末を見る。

何もない。

防衛省から上がってきている識別資料。

警察庁。

公安。

海保。

外務省。

どこにも該当しない。

官房長官は正直に答えた。

「分かりません」

高城。

「分からない?」

「はい」

「戦車でもない」

「はい」

「レイバーでもない」

「特車二課からは『既知のレイバーではない』と」

「AS?」

「ASではあるようです」

高城は画面を指差した。

「ASって、あんなに大きかった?」

誰も答えない。

中泉防衛大臣が小さく呟く。

「普通は……違いますね」

画面。

赤い巨人。

その足元。

警視庁第四機動隊。

特車二課。

 

パトカー。

どれも玩具のように見える。

高城。

「冗談でしょ」

その時だった。

危機管理センター側面の扉が開く。

警察庁長官が職員から一枚の資料を受け取った。

読む。

表情が変わる。

二枚目。

三枚目。

そして。

高城の席まで早足で歩いてくる。

「総理」

「何?」

「公安から緊急情報です」

高城が振り返る。

長官。

「今回の事件に関与している組織について、かなり絞れました」

高城。

「どこ?」

長官は言った。

「A21」

聞き慣れない名前。

高城の眉が寄る。

「何それ?」

長官。

「公安が以前から内偵していた集団です」

「テロ組織?」

「現在の評価では、そうです」

モニターの横。

職員が資料を大型スクリーンへ転送する。

A21

文字。

人物写真。

過去資料。

島。

訓練風景。

新聞記事。

警察資料。

高城。

「何が目的なの?」

長官は少し息を吸った。

「発端から説明します」

全員が黙る。

「A21は、最初からテロ組織として作られたわけではありません」

高城。

「え?」

「創設者は武知征爾」

画面に人物写真。

「元傭兵です」

中泉。

「傭兵が少年更生?」

「はい」

長官。

「非行少年や、家庭や社会からこぼれ落ちた若者を集め、無人島で共同生活、訓練、サバイバル教育などを行わせていました」

高城。

「……ずいぶん荒っぽい更生施設ね」

「実際、初期には成果も出ていたとされています」

官房長官。

「問題は?」

長官の顔が硬くなる。

「潜入取材です」

一枚の古い報道写真。

「マスコミ関係者が施設へ潜入。その過程で施設内の危険物に接触し、爆発事故が発生しました」

高城。

「死亡者は?」

「複数」

空気が変わる。

長官。

「事故後、A21は大規模な批判に晒されました。武知は逮捕。その後――」

少し間。

「獄中で自殺」

誰も話さない。

長官。

「残されたメンバーは、武知を英雄視していました」

画面。

セイナ。

クガヤマ・タクマ。

複数の若者。

長官。

「彼らの認識では、武知を殺したのは社会そのものです」

高城。

「社会への復讐」

「そう見ていいでしょう」

官房長官。

「政治的要求は?」

「確認されていません」

「人質交換?」

「なし」

「仲間の釈放?」

「なし」

「政権への声明?」

「現段階ではなし」

高城の顔が険しくなる。

「つまり」

長官を見る。

「交渉して要求を飲ませれば終わる類じゃない?」

長官。

「その可能性が高いです」

「暴れること自体が目的?」

「……はい」

高城は椅子へ背を預けた。

「最悪じゃない」

官房長官がぽつりと言った。

「連合赤軍やオウムより、ある意味では目的だけなら分かりやすい」

高城。

「分かりやすいけど、止め方は一番面倒よ」

誰も否定しなかった。

長官は資料をめくる。

「もう一点」

「何?」

「武器の入手経路です」

高城が見る。

長官。

「A21単独で、あの巨大ASを製造したとは考えられません」

「でしょうね」

「通常のASについても同様です」

中泉。

「供与元がいる」

「はい」

外務大臣が身を乗り出す。

「ロシアか?」

長官。

「現在のところ、それを示すものはありません」

「中国?」

「確認なし」

「北朝鮮?」

「それもありません」

外務大臣。

「じゃあ、どこの国なんだ」

長官。

「それが――」

声を低くする。

「国ではない可能性があります」

高城。

「何?」

「別の組織」

中泉。

「別のテロ組織?」

長官。

「公安はその可能性も見ています」

防衛大臣が画面を見る。

全高四十メートル級。

数千トン。

巨大AS。

中泉。

「あんな物を用意できるテロ組織なんて、本当に存在するんですか?」

長官。

「分かりません」

「……」

「まだ調べている段階です」

中泉。

「しかし、国家支援ではない?」

「少なくとも現時点で、中国・ロシア・北朝鮮の関与を裏付けるものは見つかっていない」

 

 

高城は巨大画面を見た。

「とにかく」

静かになる。

「供給元の正体は後」

全員が総理を見る。

「今は東京にあれがいる」

赤い巨人。

高城。

「A21の目的は、政治交渉じゃない」

長官。

「はい」

「社会への復讐」

「はい」

「つまり人口の多い方へ行く可能性がある」

「否定できません」

高城は机の上の東京湾岸地図を見る。

令和島。

有明。

豊洲。

晴海。

勝どき。

銀座。

都心。

指で辿る。

ほんの十数キロ。

「警察庁長官」

「はい」

「あなた達だけでは、もう無理ね?」

長官はしばらく答えなかった。

警察組織の長として。

その言葉を認めるのは重い。

第四機動隊。

特車二課。

何万人もの警察官。

しかし。

画面の赤い巨体。

警察装備で対抗できる範囲ではない。

長官。

「……はい」

高城。

「警察は時間を稼いで」

「はい」

「A21構成員が周囲にいたら確保」

「了解」

「住民の避難誘導」

「はい」

「道路規制」

「実施中です」

「消防、海保と連携」

「既に開始しています」

高城。

「ASそのものを止めるのは」

間。

「自衛隊に任せます」

空気が変わった。

官房長官。

「総理」

「法制局長官」

内閣法制局長官が顔を上げる。

高城。

「これ、防衛出動?」

法制局長官。

「いいえ」

即答。

「国内主体による大規模な破壊活動として整理するのであれば、基本的には治安出動の枠組みを検討します」

高城。

「国内テロだから」

「はい」

 

高城。

「一つ聞く」

「はい」

「戦車、出していい?」

「可能です」

「戦闘機」

「可能です」

「攻撃ヘリ」

「それ自体が直ちに違法というものではありません」

高城。

「武器使用は?」

法制局長官は慎重に答える。

「状況依存です」

「具体的に」

「対象が現実に重大な破壊活動を行い、生命身体への切迫した危険が存在し、他の方法では阻止できない場合」

高城。

「つまり」

「比例性、必要性を満たす必要があります」

高城。

「人口密集地域へ向かっている」

「はい」

「止めないと大量の死者が出る」

「はい」

「警告しても止まらない」

法制局長官。

「その段階で、必要な武器使用を命ずる法的余地はあります」

沈黙。

高城は赤い巨体を見る。

そして。

「分かった」

立ち上がる。

「治安出動を発令します」

部屋の空気が完全に変わった。

全員が席を立つ。

高城。

「自衛隊は現場到着後、まず警告」

中泉。

「はい」

「停止命令」

「はい」

「投降要求」

「はい」

「それでも止まらない」

高城は画面を見た。

「人口密集地域への侵入を阻止するため必要なら――」

一拍。

「武器使用を許可します」

中泉防衛大臣が立ち上がる。

「了解しました」

敬礼。

「市ヶ谷へ伝えます」

市ヶ谷

防衛省・統合作戦司令部中央指揮所

警報音。

巨大スクリーン。

東京湾岸の地図。

衛星画像。

航空写真。

警視庁から送られた映像。

画面中央。

赤。

巨大な人型。

その前。

統合作戦司令官が立っていた。

黒木慎吾・陸将。

五十代半ば。

感情をほとんど表に出さない。

無駄な言葉を嫌う。

状況判断が比較的早い

副官が近づく。

「司令官」

紙を差し出す。

黒木は読む。

短い。

内閣総理大臣命令。

治安出動。

黒木。

「確認した」

紙を机へ置く。

周囲を見る。

陸。

海。

空。

統合幕僚。

情報。

作戦。

全員が待っている。

黒木は言った。

「治安出動だ」

その一言。

中央指揮所全体が動いた。

「各幕、作戦案」

航空幕僚長が真っ先に口を開く。

「航空自衛隊」

東京湾地図を拡大。

「百里を使います」

黒木。

「機種」

「F-2」

「兵装」

空幕長。

「JDAM」

情報幕僚。

「装甲強度不明」

空幕長。

「承知しています」

黒木。

「F-2何機」

「まず四機」

黒木は頷く。

「妥当だ」

空幕長。

「百里基地 CASの準備。F-2にJDAM搭載」

「実弾」

「はい」

誰も冗談を言わない。

次。

陸上幕僚長。

「陸自」

東京湾岸地図。

「対象は現在、令和島方面」

レーザー。

「ここ」

そして。

北西。

「晴海」

「ここを最終防衛線の一つにします」

黒木。

「理由」

陸幕長。

「晴海を抜かれると」

地図がさらに広がる。

勝どき。

築地。

銀座。

新橋。

「人口密度が跳ね上がります」

黒木。

「投入部隊」

陸幕長。

「練馬」

表示。

第1普通科連隊

「第一普通科連隊を前進」

さらに。

「朝霞」

第1戦闘偵察大隊

「機動戦闘車中隊を含む第一戦闘偵察大隊」

黒木。

「16式」

「はい」

「晴海へ?」

「暁埠頭公園周辺、およびコンテナ街」

地図。

道路。

射線。

退避区域。

黒木

「機動戦闘車は?」

陸幕長

「対象の阻止」

黒木。

「105ミリ効くか?」

陸幕長は正直だった。

「分かりません」

沈黙。

「ですが」

陸幕長。

「撃てるものを持たずに待つよりはいい」

黒木。

「続けろ」

「木更津」

表示。

対戦車ヘリコプター隊

「攻撃ヘリを前進」

黒木

「ミサイル使用は?」

陸幕長

「総理命令の範囲内。可能な限り海側、港湾区域で止める」

黒木。

「そうだ」

黒木が地図へ近づく。

「市街地に入れてから戦うな」

全員が見る。

「市街地に入る前に止める」

低い声。

「それが今回の基本だ」

「了解」

黒木。

「装輪車両は先行」

「了解」

「了解」

「住民退避が最優先」

「了解!」

黒木はもう一つ気になる方へ目を移した

「向こうにASが一機いる」

陸幕長が答える

「所属不明ですが、警察へ攻撃していません」

黒木。

「敵味方を決めつけるな」

「はい」

「赤い大型ASと交戦するなら、その時点で再評価する」

「了解」

そして。

海上幕僚長。

静かに口を開く。

「海自」

黒木。

「どうする」

海幕長。

「横須賀から第一護衛隊群を出します」

中央指揮所。

ほんの僅か。

空気が揺れた。

ある幕僚。

「第一護衛隊群?」

別の幹部が小声。

「山口か」

さらに別の者が。

「海の魔女のお出ましか?」

黒木が横目で見る。

「聞こえているぞ」

「失礼しました」

だが。

否定はしなかった。

海幕長。

「第1護衛隊群司令、山口鈴花海将補」

画面に顔写真。

冷静な女性。

「横須賀所在艦を即応出港」

防人達が動き出そうとしていた

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