死亡エンドの弱小生徒たちを救うため、闇落ちさせて最強に育てたら教え子たちの愛が重すぎる 作:綿紙チル
週明けの職員室での朝会議。
シンシアの魔獣事件に巻き込まれた生徒は奇跡的になかったことが告げられた。
都合が良いことに先生たちも大怪我を負った人物はいないようだった。
『条件は全部揃ったね。せんせ』
アレンはモルガナだけに分かるように頷いた。
「では、朝会議を終了――!?」
校長先生が言葉を途切れさせた。
いきなり気配無く職員室の中央に二人の女子生徒が現れたからだ。
エラとクレアの二人だ。
クレアはいきなり――。
「
彼女の体から黒い霧のような魔力が職員室中に広がっていく。
悲鳴を上げる間もなく、教師たちがクレアによってゾンビ化させられていった。
だが、何人かの先生は防御魔法や風魔法でクレアの魔力を払った。
その中には校長も含まれていた。
冷静に不意打ちを防いだ老婆は声を張り上げた。
「逃げて軍に報告を! アレン先生のクーデターです!」
そこで逃げ出せたのは数人の先生たち。
誰も彼もベテランと言っていい教師たちだった。
「アレン先生、申し訳ない。五人ほど取り逃がしてしまった」
クレアが駆け寄ってくる。
ちょっとだけ眉が下がっていて、落ち込んでいるように見えた。
「五人は想定の範囲内だよ。クレア、不意打ちありがとう」
「まだ作戦は途中だ。終わったら、ちゃんと褒めてくれ」
「勿論だ」
ここからは逃げ出した五人の先生たちを捕らえる段階。
気づけば職員室にアレンの教え子たちが集まっていた。
エラ・ハリソン。
クレア・バートン。
シンシア・クリフォード。
シャーロット・ポール。
「みんな、作戦通りに。でも無理はしないでくれ。危険を感じたら、すぐに逃げろ」
アレンは心配だった。
如何に彼女らが特別な闇魔術を使えようと、実戦経験は少ない。
何か不測の事態が起きないか、心がざわついている。
最初に口を開いたのはエラだった。
「もっと先生から心配されたいです! わざと怪我して来ようかな……?」
「やめてくれ……無傷で帰ってくるんだ」
「迷いますね……でも、先生のお願いなら聞きましょう。また!」
そう言ってエラは駆け出して行った。
迷いなくある先生を狙って。
次に動こうとしたのはクレアだった。
「それじゃあ私も行くとしようか。すぐに片づけて、明日は打ち上げでもしようじゃないか? 色々とよろしく頼むよ。先生」
「クレアも、頼む」
「うん、待ってるぞ」
クレアはゾンビ化させた先生たちを操り担がれて消えていった。
彼女こそ、作戦の要。
「じゃ、じゃあ私も行きます」
シンシアは俺の言葉なんて必要ないのか、もう動き出していた。
「シンシア! 落ち着いて敵と戦うんだ」
「い、嫌です。私を苦しめた教師たちは、死ぬほど痛めつけます」
「……それでも良い。ただ無理はし過ぎないでくれよ」
シンシアは頷くことなく、生み出した空想生物に乗って消えていった。
彼女の怒りの炎で、自分自身すら燃やし尽くさないか心配だった。
「じゃあ、アレン先生。行ってきます」
残ったシャーロットはアレンの傍に寄って来た。
「……シャーロット、お前も心配だ」
「……私は先生の方が心配です」
シャーロットに対してはどう向き合っていくべきか、答えが出ていない。
彼女が自分を救おうとしているのは分かっているのだが……自分自身を罰して欲しい気持ちの方が強いからだ。
「先生、すぐに助けに行くので……では」
そしてシャーロットも出て行った。
アレンと生徒たちはこれから逃げて行った五人の教師たちを拘束する。
そして、完全に学校内を掌握するのだ。
「じゃあ、行くか」
アレンは魂を弄って体を改造。
走る速度を人間が出せる全力を超えて、ある場所を目指す。
学院にある訓練場。
魔術の実践的授業をする場所だ。
そこにいたのは校長オリビア・アクト。
この学院で最も偉大で強いとされる教師だった。
「あなたが私を追いかけてくるのは分かっていましたよ――しかし、よく私がここにいると気づきましたね。これも何かしらの闇魔術でしょうか?」
「答える義務はありません」
どうして校長がここに逃げたのか、理由までは分からない。
確かにモルガナの人生視でオリビアの逃げた場所は見えていたが……。
「アレン先生、非常に残念です。あなたには生徒たちを変えられる強い意思と実行力がある、なのに――王国への反逆など、勿体ないことです」
アレンは校長に話に付き合うつもりは無かったので杖を抜いた。
「そうですね。お話は戦いながらでもできることです、一瞬で終わらなければの話ですが――光魔術巨砲《フォトン・キャノン》」
校長から放たれた光の砲撃がアレンの体を貫いた。
「おや、アレン先生……お腹に大きな穴が開いてしまったようですけど、大丈夫ですか? やはりこれではお話どころではありませんね」
光魔術巨砲《フォトン・キャノン》を受けたアレンは喪失感を覚えていた。
一瞬光ったのは見えたが、その時にはもう既に魔術を食らっていた。
「……そうですか? 別に俺は死んでませんよ」
だが、アレンは生きている。
傷など平気な顔をして、立っている。
クレアやシンシアにかけたように、魂を弄って一時的に肉体を不死にしていた。
「なるほど……アレン先生も闇魔術の使い手ですか。魔術の具体的な能力は推し量れませんが、何らの手段で不死性を得たのですね。素晴らしい……!」
校長は満足げに口角を上げていた。
この人は今の状況を危機的だとは思っていないのだ。
「アレン先生も光魔術師はご存じでしょう? 闇魔術とは反対に位置する力……本来、魔術師が目指すべき頂き」
校長は何かいきなり語り始めた。
光魔術師……彼らは王国から認められた優れた魔術の使い手たち。
「光魔術師とは闇魔術師の対極に位置するもの。闇魔術が感情の暴走で発現するなら、光魔術師とは究極の精神統一で生まれるのです。そうこの光魔術巨砲《フォトン・キャノン》のように」
校長が杖をこちらに向けた瞬間に回避行動を取った。
見てからでは間に合わない……そう感じたからだ。
だが。
「アレン先生も反撃したらどうですか? いくら死なないと言ってもこのままでは嬲っているだけになってしまいますよ」
左足が消し飛んでいた。
やはり回避が間に合わないほどの速さを持っている魔法のようだ。
前方に倒れるアレン。
だが校長はその場から動かない。
「……つまらないものですね。やはりこのまま少しだけお話するとしましょう」
明らかに舐められている。
だけど今のアレンでは校長に叶う術がない。
「私はですね。アレン先生にとても期待しているんです」
「期待……? いったい俺に何を」
そういえば校長は前にもそんなことを言っていた。
具体的に何を望んでいるのかまでは言っていなかったと思うが。
「それは勿論、闇魔術への可能性ですよ」
校長は魔術を使って黒と白を表現した。
そして白をより輝かせる。
「光魔術師を育成するにはとても時間がかかります。果てしない精神統一、揺るがない魔力……たったこれだけのことに多くの時間を費やさなくてはならない」
校長の言うことは教科書に書いてあるレベルだった。
自分をコントロールしきらなければ優れた魔術師になることは難しい。
「教職者としてそれでいいのか? ずっと私は悩んできました」
校長は視線を落とした。
何かがあったのだろうと、想像はできる。
「教師として多くの優秀な生徒たちが挫折していくのを見ました」
この人は元々、もっと魔術の才能がある者が通う学院の教師をしていたのだろう。
「だったら、なぜこの第十魔術学院の校長になんて……」
「才能が無く、向上心もない者たちが通う学院に行けば……苦しくならない、そう思ったからです。事実、私は生徒たちが爆弾にされようと気にしていなかった」
校長オリビア・アクトは歪んでいる。
才能がある者だけしか、この老婆の眼中には映っていない。
「だけど、その考えは変わりました。アレン先生によって」
アレンは特に驚かなかった。
でなければ、闇魔術の推進なんてことを考えないからだ。
「始めに気づいたのはエラ・ハリソンの変化です。彼女……何日間か、無断で学院を休んでいました。一応捜索の義務があるので、最後に目撃された学院内をメインに探してみました。すると――面白いことに黒い魔力の痕跡を発見したんです。そしてエラ・ハリソンが見つかったと思えば、その後は。なるほど! 闇魔術を発現させて魔術師としての強化を図る! という手段があることに気づいたんです」
校長が興奮しながら語るが、アレンは冷や汗が止まらなかった。
なぜならこの人が言っていることは――。
「まさか、最初から、気づいて……?」
「最初をどこからにするかは分かりませんが……まあ、色々と分かってはいますよ」
アレンは絶句してしまう。
話しぶり的にエラの家族を惨殺されたのも知っていると見ていい。
「見逃されていたというわけ、ですか?」
「そういうわけないですけど……期待なので」
善悪の感覚がおかしい。
殺人の現場を見て放置するなんて……。
「本当はこちらでも色々と闇魔術については検証したかったのですが……とりあえずは、アレン先生、知っていることを話してください」
校長は魔術でアレンの右足を消し飛ばしながら、楽し気に近づいてきた。
◆ ◆ ◆
「クッ……なかなか、やるね」
クレアは逃げ出した一人の教師に苦戦していた。
あえて狭い通路を使って逃亡を図っており、自身のゾンビ軍団が活躍できない。
「闇魔術で私を傀儡にしようとしても届きませんよ。風魔術斬《ウインド・スラスト》」
クレアは
それどころか、ゾンビたちを貫通してクレア本人に攻撃が届いていた。
「痛っ……」
「いくら闇魔術が使えようとも、所詮は生徒……情けないものだ」
風魔術を纏った教師が近づいてくるが、クレアは笑った。
「待っていたよ……!」
近隣の建物の屋上から一人の人影が降り立つ。
クレアと敵教師の間に割り込み、敵に触れる。
「な、アレン・トンプソン!? どうしてここに?」
「生徒を守るのが、教師の務めだからだ」
アレンは自身の闇魔術
「な、なんだ!? からだが勝手に……!」
教師はその場に蹲った。
「な、なぜアレン先生がここにいる……! 一人でも我ら教師を逃がせばクーデターは失敗するのですぞ!」
こいつが言っていることは正しい。
アレンたちは五人、職員室から逃げ出した教師も五人。
普通に考えれば一人づつ追いかけないといけないが……。
「あなたに教えてもしょうがないので……クレア、頼む」
「分かったよ。
クレアから発生した人をゾンビ化して操る黒霧が無抵抗な教師を蝕む。
一瞬のうちのクレアの支配下に入る。
「思ったよりも上手くいったね、アレン先生」
「そうだね……クレア、他は?」
クレアはアレンの教え子たちにゾンビ化した動物を一匹ずつプレゼントしている。
それで状況を把握しているわけだ。
「手こずったのは私だけらしい……残念だ。慰めて欲しい、先生」
「クレアは能力が教員たちには割れててもおかしくないから……そんな落ち込まないでくれ」
しくしくと泣く様子を見せているが、どう考えても演技だ。
だけど、彼女の頬は緩んでいた。
「約束……守ってくれると信じていたよ」
「やれるだけやると言ったからな」
クレアには生き残らせようとした責任を取れと言われている。
その責任とは、彼女たちを守ること。
だから駆けつけたわけではないが、できることをやるつもりなのは変わらない。
「それじゃあ先生……本丸に急ごうか」
「そうだな。恐らくみんなも向かっているはず」
アレンはクレアに手を当てて、傷を治した。
それからクレアのゾンビたちに担がれて、移動するのだった。
◆ ◆ ◆
「……先生たちが負けるのは想像がつきましたけど、アレン先生が二人いるのは驚きですね。何をしたんです?」
訓練場に集まったのはアレンとその教え子たち。
だが、オリビアに痛めつけられたアレンと、今到着したアレン。
二人いるのだ。
「何って……少し工夫をしたんです」
無傷な方のアレンが口を開いた。
「工夫ですか……気になりますね」
「まずはクレアに適当なゾンビを用意してもらいます。そして俺の闇魔術で、その個体の魂から肉体を改造して自分とそっくりなゾンビを作り上げました」
校長は興味深そうに頷いていた。
「なるほど……だから死なないのですね。勉強になります。そして私は、アレン先生の策略に乗せられて時間を使わされたと」
「そういうことになります」
校長オリビア・アクトが強いのは分かっている。
元宮廷魔術師の経歴を持つ歴戦の猛者、一人で挑めばいくら闇魔術があろうと敗北する可能性があると踏んでいた。
だから、アレンは――教え子たちと挑むことにしたのだ。
「ここにいる四人は先生が闇魔術を使えるようにした生徒たちということですか……。いいでしょう、まとめてかかって来なさい」
校長は杖を構えた。
アレンと生徒たちも黒い魔力を湧き上がらせる。
「先生……私から行きます」
最初に飛び出したのはエラだった。
闇魔術を発動させながら、突進。
「光魔術巨砲《フォトン・キャノン》」
先ほどと同じようにもう見たときには合たっている攻撃がエラを貫いた。
だが――。
「やはり、すり抜けますか……いい能力です」
「貴女に褒めてもらっても嬉しくありません」
エラがそのまま攻撃をすり抜けながら近づくが。
老婆はヒョイと飛び上がった。
「飛行魔術《フライマジック》。こうすればエラさんの攻撃は届きませんね」
本来なら困るところではあるが。
アレンは魂から肉体を改造して、翼を生やして校長を追おうとする。だが。
「光魔術巨砲《フォトン・キャノン》。アレン先生……一手遅いですよ」
光線がアレンから生えた翼を撃ち抜いた。
「……そうですかね? シンシア!」
「
シンシアの空想上の友達であるジョンが一気に大量に出現。
訓練場の天井まで埋め尽くしてしまう。
「目くらまし……光魔術複数砲《フォトン・マルチ・キャノン》」
だが一体一体が弱い空想生物は瞬く間に塵にされてしまう。
だけど、その瞬間には――。
シャーロットが物凄い速さで校長に迫っていた。
「いいですね! 悪くはありませんが――」
校長は反応していた。
真っすぐ迫ってくるシャーロットに対して光球を放つ。
だがそれをシャーロットは、消えかけていたジョンを踏み台にして躱す。
「私の光魔術を躱すとは! しかし――全方位から攻撃は避けられないでしょう……」
シャーロットを包み込む光の雨。
だけど、彼女は何か小さい丸いものを投げた。
それは校長の頬を掠っていく。
「惜しいですね……もう少しと言った印象でしょうか」
「……そんなことはないと思いますよ」
急にアレンが校長の後ろに立っていたのだ。
「なるほど……肉体のサイズを小さな石ころ程度に変えたのですか」
「そうです。そして――終わりです。
アレンは校長オリビア・アクトの魂を弄り、自由な行動ができないようにした。
ただ口は動く。
「アレン先生……あなたに聞きたいことがあります」
「なんでしょう?」
「学院を支配してこれから――どうするのですか?」
校長は自由に動けないはずなのに、何の焦りも感じていないようだった。
「次は王国を乗っ取ります。生徒たちと共に」
「……良い目標です。私はこの学院の生徒たちが優秀な魔術師になることを、歓迎、し、ま――」
アレンはそこで校長の意識を奪った。
最後まで変わらない人だったと思う。
「エラ、クレア、シンシア、シャーロット……ありがとう。君たちのお陰で学院を制圧することができた」
「先生の言葉、身に沁みます」とエラが。
「これからが大変だね」とクレアが。
「王国のぐ、軍人、皆殺しにする」とシンシアが。
「世界を救うために」とシャーロットが。
生徒たちは変わらないようだ。
これだけのことを成し遂げたのに。
そしてモルガナは――。
『せんせ、ここが第一歩だね。世界を壊すための』
そう囁いてくるのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
第一部完という形ではありますが、本作はこれにて完結となります。
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