転生する度に「ここは俺に任せて先に行け」を繰り返したせいで色々な人の脳を焼くことになった『彼』。

ある世界では偽勇者として魔王軍の魔族から本物の勇者たちを守り、
またある中華風の世界では双子の姉を女帝として即位させるためにあらゆる手段を取り、
またある世界では銀河の危機である邪教の野望を阻止するために特攻し、
またある世界では権力者の陰陽師から人々を守るために立ち上がり、

その度にここは俺に任せて先に行けと言って人々を逃がし、脳を焼いてきた。

今は山崎 恵理子と名付けられ、平和に日常生活を謳歌し「平和万歳!」と能天気に叫んでいる彼女は知らない。

――脳を焼かれた者達が、激重感情と共に転生先まで探しに来てる事を。

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妄想を形にしました。
好評そうなら続きを書くかもしれません。





ここは俺に任せて先に行けを繰り返し人々の脳を焼いた転生者の末路

 

 

 

 使い慣れた勉強机に向かい合う。

 文明の利器である電気スタンドのスイッチを入れる。

 

 自分が誰だったのか忘れないために、日記を書くのが最(・)初(・)に(・)転(・)生(・)し(・)た(・)時(・)か(・)ら(・)の(・)習(・)慣(・)だ(・)。(・)

 

 日記を開き、一ページから見直す。

 

 さて、皆さんは転生というものは知ってるだろうか?

 魂が輪廻転生して別世界に渡り、そこで冒険するという異世界転生と呼ばれる類の作品も人気である。

 

 私(・)、(・)い(・)や(・)、(・)俺(・)もそんな経験をした人間の一人だ。

 

 最初に転生する前の人生は普通の学生で、死んだ理由は車にひかれそうだった幼児を突き飛ばしての事だったような気がするし、もっとどうでもいい事で死んだ気がする。

 

 五(・)回(・)も(・)人(・)生(・)を(・)繰(・)り(・)返(・)し(・)て(・)た(・)ら(・)記(・)憶(・)が(・)曖(・)昧(・)に(・)な(・)る(・)な(・)。(・)

 

 

 

 転生先は、剣と魔法が存在するファンタジーの世界。

 悪の魔王が率いる魔族によって世界は蹂躙され、人々の命がゴミのように消費されるような地獄の世界。

 

 俺は戦う才能には恵まれたが両親にはそれは無かったらしく、魔王軍の奴らに殺された、村でよくしてくれた人達もだ。

 勇者伝説というのがその世界にはあって、聖剣を抜いた者によって魔王が打ち破られるというものだった。

 

 あの当時の俺は病んでいたのだろう、そこら辺に落ちていた剣を聖剣だと言い張って魔王軍の連中と戦い続けた。

 十五歳で偽勇者になってから二十年戦い続けたから三十五歳ぐらいまで。

 

 そんな俺の前に現れたのは本物の聖剣を握った少女。

 俺の事を勇者だと尊敬してたようだが、その実は違う。勇者の名を騙って戦っていただけに過ぎない。

 彼女が本物の勇者であるという俺の見立ては正しかったらしく、彼女はどんどん力を付けていって俺以上の実力者になった。師匠である俺も鼻が高いよ……。

 後方師匠面してもいいだろう、魔族との戦い方を教えたのは俺だし。

 

 度重なる死闘。

 魔王四天王と、個人的な因縁のある四天王最強の武闘派魔族との戦い。

 

 激戦の末、女勇者と気弱な宮廷魔術師、女好きの神官とエルフの神官戦士と共についに魔王の本拠地、魔王城へと乗り込むことになった。

 

 だが流石は魔王城、魔王の玉座に至るまでに凄まじい数の魔族が俺達の前に立ちふさがる。

 それでも進み続けて、あと一歩の所まで到達した。

 だが、ケルベロスを筆頭とした化け物に道を阻まれた。

 五百歩も歩けば魔王の首に辿り着けるというのに、だ。

 そこで俺は愛用の剣を掲げて「俺に任せて先に行けっ」と叫んで、迫りくる敵の群れへと飛び込んだ。

 

 格好は付けられた。

 俺の命と引き換えに、魔王軍の連中を足止めした。

 でも、死の間際に見た、勇者の顔と声は忘れられない。

 何度人生を繰り返しても、あの全てに絶望しきったような表情と、年相応の少女のような悲鳴。

 

 死の間際、命を犠牲にして放った大技のお陰で魔王城の天井は崩落し、時間は大幅に稼げただろう。

 その先の事?

 死んだんだから分かる訳ねぇだろ。

 

 ページをめくり、次のページに移る。

 

 

 

 死んだ筈の俺が次、目を覚ました時は中華風の衣装を着けた男が俺の首を絞め殺そうとしている場面だった。

 後から知ったが、俺は皇帝の庶子として生まれたそうだ。

 

 幸いな事に、殺される前に近衛兵の邪魔が入って生きながらえたが、双子の姉ともども市民として暮らすことになった。

 姉上はまぁ、悪政を敷いていた父上と違って、皇帝の才覚に満ち溢れた人だった。

 

 姉上と喧嘩したり、仲直りしたりしながら暮らしてたが、宮廷内の派閥争いで両派閥共倒れになった事で適当な神輿として俺達は宮廷に戻された。

 

 で、本当なら俺が帝位を継ぐ予定だったんだが、興味も無かったし、何より自分の才能の無さを自覚してた。

 だから姉上を帝位に就かせるために色々な手段を取ったとも。

 敵対派閥の周りの人間を買収したり、有能な人間に根回ししたり。

 後は姉上の良さを市民に対して宣伝したり。

 

 姉上も才覚に満ち溢れていた人間なだけあって、病に倒れた父上(凡愚)から権力を簒奪し、無事に次期皇帝に任命されることになった。

 男性しか帝位を継げないのに女性を帝位に就かせるためにあった苦労や、宦官勢力とのあれこれ、後宮とかの諸問題については日記に記すにはあまりにも長すぎるから割愛する。

 

 父上(凡愚)が亡くなった後はすんなりと皇帝に就任するはずだった、が!

 

 ここでどっかのバカがワンチャンスを狙って反乱を起こしやがった!

 しかも皇帝に就任するという神聖なる儀式の最中に!

 

 先帝(凡愚)の棺の前で心にもない哀悼の意を示そうとしていた場に、あいつらは兵隊を率いて押し寄せてきた。

 近衛兵の一部もグルだったらしく、俺と姉上は取り囲まれる事になった。

 

 まぁこの時も結局格好を付けてることになった。

 帯剣を許されていた俺は剣を引き抜いて姉上を逃がすために敵陣へと飛び込んだ。

 

 俺ってタチ悪いよなぁ……姉上を皇帝にするために権謀術数を身に着けた癖に真面目に武の鍛錬も怠らなかった。

 殿もいけるしなっ。

 

 多勢に無勢で二十人ぐらい斬り倒した後に引き倒されてリンチ食らったのは覚えてる。

 しかし俺の死は無駄では無かったぞ、何とか姉上が死地から逃れてこちら側の近衛兵に保護されるのを見たしな。

 

 ただ、今まで泣いたことが無かった姉上が泣いてる姿を見るのはかなりきつかった。

 あの人は強い人だから、きっと大丈夫だろう 多分。

 

 

 

 そして三度目の人生! 宇宙船の中で俺は目覚めることになった!

 

 この世界では並行世界を知覚し、渡るための技術さえも研究されてるほどの凄まじい技術力を持っていたし、生活環境は今までの人生の中で一番よかった!

 身の回りの世話をしてくれるメイドアンドロイドに、俺の事を育ててくれたバウンティーハンターの母ちゃん。

 

 が、そんな母は銀河内に存在するカルトの賞金首を追ってる途中で亡くなってしまう。

 カルトの賞金首との一騎打ち、早撃ち対決に負けての、宇宙の戦士らしい勇敢な最期だった。

 

 俺は母の後を継いでバウンティーハンターとなって、メイドアンドロイドや女ガンマン、サイボーグ忍者と共に銀河中を冒険!

 古代文明の遺産やら、クローン発生装置やら、天国のような環境の惑星やら……色々な所を冒険した。

 激戦の末に、判明した敵の本拠地に乗り込んだ。今回は正面切って突入するんじゃなくて潜入だ。

 

 結論から言えば仇を討ち取る事には成功した!

 でもあいつらは宇宙戦艦を何隻も用意するほどの想像以上の勢力で、潜入して得た情報によってこの艦隊は首都星系に向けられる事を俺達は知った。

 

 しかも、間が悪すぎることに出撃は翌日なのだという。

 

 無視してさっさと脱出すればよかったんだろう。

 

 俺達の知った事じゃあないと、見て見ぬフリをすれば楽だったんだろう。

 

 結局、俺は仲間たちの制止を振り切って爆弾を背負い、敵の本拠地のリアクターに向かう事になった。

 幼少期から俺の面倒を見てくれたメイドアンドロイドには死ぬほど小言を言われたが、結局彼女は付いてきてくれた。

 

 カルトの拠点に居たのがアンドロイドばかりだったのが幸いした、お陰で俺は大量殺戮者にならずに済んだからな。

 

 リアクターに時限爆弾を設置して後は脱出するって時に敵がやってきて、ブラスターで応戦して何体か倒せたが多勢に無勢!

 

 内心またかよと思いながら、俺の姉弟同然に育ったメイドアンドロイドに、ここは俺に任せて先に行けって言って迫りくる敵の殺人機械の群れに飛び込むことになった。

 

 天丼ネタも繰り返せば味がしなくなると言われるが、誰がこんな事好き好んでやるか。

 

 因みに迫りくる殺人機械の群れを全滅させて、敵の秘密基地が爆発四散する前に仲間と合流してそのまま逃げたぞ。

 

 まぁ、深手を負ったせいで宇宙船内で死ぬことになったが。

 流石に内臓の一部が欠損するぐらいの重傷はどうにもならん!

 

 死の間際に感情の無い筈の、俺の事を母親が死んでからは姉として面倒を見てくれてたメイドアンドロイドの目から涙が流れたような気がする。俺が初めて見る、彼女の涙だった。

 

 

 

 次の転生先は今まで一番荒れた場所だった。

 霊力と呼ばれる力があって、妖獣が街中を闊歩するような和風ファンタジー? 的な世界。

 

 妖獣と戦うための力を持つ陰陽師たちは霊力を笠に着て増長し、荘園という形で農奴を囲い込んで私腹を肥やす特権階級になった。

 で、その上で自分たちの特権を脅かしかねない、霊力を持つ庶民にも奴らは牙を剥くようになった。

 

 この世界の俺は孤児で、生きるために寺に入って坊さんになったが、子どもまで容赦なく殺す賊となったあいつ等を見過ごすことはできなかった。

 朝廷も陰陽師から分け前を貰っていたから頼りにならなかったしな。

 

 今まで転生を繰り返してきたことで身に着けたスキルはこの世界では存分に役に立った。

 組織を作るための根回しのスキルや権謀術数、後はシンプルに戦闘能力に潜入能力。

 

 奴らと対抗するための組織を作り、その組織はだんだん大きくなった。

 最初は虐げられていた人達の為の相互扶助組織だった。

 

 だが、奴らはそんな俺達にも度々攻撃を仕掛けてきて、その度に迎撃していたらついには朝廷まで動いて陰陽師だけではなく武士まで動員してきやがった。

 

 俺ってタチ悪いよなぁ……権謀術数や戦闘能力だけじゃなくて兵法もいけるしなっ!

 

 敵の攻撃を組織の人間を指揮して迎撃する度に、敵の戦力は強大になっていって、名のある陰陽師とも何度も交戦することになった。

 その度に、周りの人間からは俺の事を神の化身やらと崇められたが、別にそんな事は無い、俺に出来る事をしてるだけだった。

 

 特に熱心に俺の事を神の化身だと崇めていた、孤児だったところを拾った女の子もいたが、結局その誤解を解くことはできなかった。

 

 伝説的な陰陽師との死闘の末、俺は民を扇動する邪妖として討ち取られることになったしな。

 

 いや本当に強かった。

 俺も霊力は持ってたし、【秘術】も使えたんだが、相手の強い事強い事。

 こちらの打つ手は全てお見通しで、ほぼ一方的な戦いになり完封負けを食らう事になった。

 でもまぁ、そいつを釘付けにして組織の人間を逃がす事には成功したんだし、組織の長としての役割は十分果たした、と思いたい。

 

 最後の戦いの前に、俺は孤児の女の子に組織を託すことにした。負ける気はしなかったが、死ぬ可能性も高かったから。

 孤児の女の子は優秀な子で、俺が教えた事は何でも吸収したし、不老の【秘術】も持っていた。俺の跡を託すには彼女しか居ない。

 あの子に組織を託してこれからは皆を導くんだぞと言ったら子どものように泣かれたが、何とか説得して、最後の戦い前に非戦闘員と負傷者を任せた。

 その際に、口癖のようにここは俺に任せて先に行けって言ったらあの子は泣き崩れて私も一緒に戦わせてくださいってお願いされたなぁ。

 

 ……それが後の禍根となるとはなぁ。

 

 

 

「なーんて、こんな日記見せても誰にも信じて貰えないでしょ」

 

 パタン、と日記を閉じる。

 今の俺、もとい私はちょっと特(・)別(・)な(・)力(・)が(・)あ(・)る(・)だ(・)け(・)の(・)女(・)子(・)高(・)生(・)。(・)

 

 四度目に転生した世界の、そのまま千年後に転生した。

 妖獣も悪の陰陽師も居るけど、概ね平和!

 

 何度も愛や平和とは無縁のような世界に転生を繰り返した結果! 待ち望んだ平和な世界(当社比)に私は転生することになったのだ!

 

「平和万歳!」

 

 日記帳を本棚にしまった後に、そのままお布団へダイブ!

 

 まぁー、今まで日記帳に書いた内容全部、私が脳内で考えた妄想でしかないかもしれないけどね~。

 というか妄想であってほしい! そっちの方が私が死んで悲しむ人少ないし~。

 

「冷静に考えたら私、色々な人悲しませてる気がするな~。

 ま、前世の話だから関係ないけどー」

 

 抱き枕のもっふー君を抱きしめる。

 ぷしゅーっ、と苦しそうな音が抱き枕から響いた。

 今の私は見目麗しい女子高生、そんな奴に抱き着かれてるんだからもっと喜んだらいいのに~。

 

 

 

「ちょっと!

 恵理子!!!

 そろそろ起きる時間よ!」

 

「うぇぇぇぇ!?

 お母さん、今何時!?」

 

「八時五分よ!!

 朝飯食べてる時間は無いわよ、さっさと行きなさい!

 遅刻しそうだからって【(・)秘(・)術(・)】(・)を使うのは無しよ!」

 

「はいはい、分かってるってば」

 

 タンスの中から制服を引っ張り出す。

 着た後に、髪を櫛で解いて整える。

 

 鏡を見る。

 もちっとしたほっぺに穏やかそうな目つき!

 どこの高校にも一人は居そうな美少女がそこに居た。

 

 美少女!!(強調)

 

「ちょーっと変な妄想癖があるのが玉に瑕だけどね!」

 

 そうそう、日記に書いてるあることはぜーんぶ私の妄想!

 

 私の前世の名を持つ鬼を退治する童話があったり!

 

 私が作った組織は今でもこの世界で悪の組織として現存してたりするけど!

 

 イタイ女子高校生が考えた妄想に過ぎない、そうそう、きっとね!

 テンプレのように食パンを咥えることはなく、空きっ腹は授業の合間の移動時間に購買で適当に何か買うと決めて、通学路を走る。

 

 顔見知りのおじさんに元気よく挨拶して、走る走る。

 

 後ろからおじさんの悲鳴が響く。

 

 空を見上げる。

 雲(・)間(・)か(・)ら(・)姿(・)を(・)現(・)し(・)た(・)見(・)覚(・)え(・)の(・)あ(・)る(・)宇(・)宙(・)船(・)、きっと見間違いに違いないんだから先を急ぐ。

 きっと私は疲れてたんだろう。

 

 昨日寝るの遅かったんだし。

 

 おじさんの悲鳴? 私の空耳でしょ。

 そう信じることにする、だってあの船は私の妄想の産物でしかないと信じ込もうとしてたものだったから。

 バ(・)ウ(・)ン(・)テ(・)ィ(・)ー(・)ハ(・)ン(・)タ(・)ー(・)の愛用船、シルバークルーザーだったんだから。

 

 急ぐ急ぐ、騒ぎが広がり始めた街の音から逃れるように。

 

 ふと、学校に向かう途中にある電気屋さんに飾られたテレビに視線が向かった。

 レポーターさんが東京のど真ん中に現れた巨大な門に視線を向け、レンズがズームされ、やじ馬が集まる門の周辺を映し出した。

 そしてレポーターさんがその門から現れた一団に向けて何かを叫んでいる。

 

『ご覧ください! 彼らは異世界からの探索者だと名乗っております!

 失礼、失礼! 通してください!』

 

 見覚えのある一団。

 そろそろイタイ妄想であると言い張るのが難しくなってきた気がする。

 

『あ、あのぉ……この世界にアローン王国から探索にやってきました、冒険者の一団です。

 名前はですけど……レイ・ブルースターと申します!』

 

『コスプレ……ではないですよね?

 え、本物ですか? その剣も!?』

 

『はい。

 この世界にやってきた理由は外交関係の樹立もあるんですが……

 と(・)あ(・)る(・)人(・)の(・)魂(・)がこの世界に流れ着いてるという神託がありました!

 それを確認するためですね』

 

『と、とある人ですか……。

 ちなみにどんな人なんですか?』

 

『――私の大切な人です。

 師匠で、父のような人でした。

 だから、この世界に魂がやってきてるとするなら、どんな形でも良いので一目だけでも会いたいです。

 その後、もうどこにも行かないように私が全てを管理します』

 

 まだレポーターが何かインタビューしていたが、それ以上は見ずに次のテレビに視線を向けた。

 

 別のテレビ局は、異世界からやってきた外交官についての報道を行っている。

 

『たった今入った速報によれば、【霊亀】と名乗る国家からの外交集団が外務省を訪れたという報告が入りました! 現地の賀川さん、状況はどうなっていますか?』

 

 霞が関の外務省庁舎の入り口前に巨大な空飛ぶ木船が浮いていて、そこから官服を身に着けた官僚が次々と降下し、皇帝からの勅命を読み上げている。

 

『天を奉じ、運を承ける皇帝、詔して曰く。

 天が万物を育むように、皇帝の仁徳は世界の隅々にまで及ぶ。

 天が万物を覆い、地が万物を載せるように、皇帝の仁徳は霊亀国内だけでなく、【外の】世界にまで及ぶものである。世界のあらゆる人々が安らかに暮らせるようにするのが――』

 

 仙術を使って風を操り、声を外務省の職員にまで拡声して聞かせていた外交官僚はこほん、と一つ咳払いした。

 

『――儀礼的な長口上の読み上げはここまでにしておきましょうか。

 単刀直入に言いましょう、我らが皇帝はこの国と正式に国交を結びたいとの事です。

 ああ、それと、国交を結んだ暁にはとある人を探すために力を貸してほしいらしいですよ?

 詳細な話についてはこれから詰めたいですので、担当者を呼んで欲しいのですが』

 

 

 

 蜂の巣を突いたかのような大騒ぎになり始めた外務省の様子を映したモニターから目を逸らし、そのまま私は学校の方へと駆け出すことにした。

 

 知らなーい!

 姉上の懐刀だった頃にこちらの派閥にって声をかけた官僚の一人だった気がするけど知らなーい!

 

 一刻も早くここに居たくなくて【秘術】を使って転移する。後でお母さんに怒られるかもしれないけど誤差だよ誤差!

 

「わっ!? 恵理子!? いつの間に!?」

 

「私は神出鬼没だからね~」

 

 同級生の友達に後ろから抱き着く。

 よし、【秘術】を使って転移した事はバレてない。

 

 冷や汗がダラダラと流れる。

 

 えっ、私の事探しに来たの? 

 世界さえも超えて?

 こわ……。

 

 私は死んだんだ。人間が生きていくうえで当然の別離を彼らは経験した。

 だというのに、それを受け入れずに世界まで超えて探そうとする。

 

 お、お前ら皆変なアヘンキメてるのか……。

 

「世界を超えてやってきたストーカー相手にはどうすればいいと思う?」

 

「前々からおかしいと思ってたけど恵理子、完全に頭おかしくなったの?」

 

「ククク……酷い言いようだね。

 とりあえず私の事一発グーで殴ってみて」

 

「しゃあ!」

 

 想像以上の全力パンチが私の顔面に突き刺さる。なにっ。

 

「いったーい!?

 何も全力で殴る事無いでしょ?」

 

「いや、殴ってって言ったのアンタじゃん」

 

 うん、これは夢じゃなさそうだわ。

 鼻が痛い、乙女の顔になんてことするんだ。

 

 冷静に考えたら姿も、声も、何なら性別さえも変わってるんだから私の正体を見抜くことはできるはずがない。

 この世界にやってきた子たちには悪いけど、前世の私という死人に口なし。

 外交関係だけ結んで元の世界に帰って貰おう、そうして貰おう。

 

 本気で殴った同級生の友人のくるくるカールを引っ張ってさっきのお返しをしてると、がしゃん、と音を立ててクラスのドアが乱暴に開かれた。

 

 そこに立っていたのは高身長で女の私でも見惚れてしまいそうになる見目麗しい、メイド服を着た女性。

 

「見つけましたよ!

 ――私の主!」

 

「あ、それ多分人違いです」

 

 人違い作戦で乗り切ろうとしたけど結局乗り切れなかったのは内緒。

 この日、私のそこそこ刺激があって穏やかな日常生活は音を立てて砕け散った!

 

 

 

 そんな光景を、学校から少し離れたビルの上から見てる少女が一人と、化(・)け(・)物(・)が何匹か。

 

「うーん、凄く頑張った私の事も褒めて欲しいな~」

 

 彼女の周辺には、醜悪な人に仇を成す妖獣達。

 

「組織を維持するために、なんでもしたよ?

 貴女との繋がりはもう、組織しか無くなっちゃったから。

 でも~そんな私の苦労なんて知らずに、貴女は能天気に暮らしてる」

 

 全長五メートルはあるだろう猛虎へとよじ登り、くすくす、と少女は笑みを浮かべた。

 

「千年も私の事を待たせたんですよ?

 再会も最高の場所で、ね。

 またお会いしましょう。

 ――私の教主様」

 

 一陣の風が吹く。

 風が収まる頃には、もうそこには少女は居なかった。

 

 

 




NTR漫画風登場人物解説

山崎 恵理子
細々と続いている陰陽師の家系に生まれた転生者。
家伝の【秘術】転移を持つ。
普通の日常生活を謳歌したい。

富良野 桜子
恵理子の同級生で友達。
恵理子の事をよくない目で見ている。
それ以外は普通の人。

レイ・ブルースター
一回目に転生した世界で勇者を務めていた少女。
偽勇者であるアンスバッハ(主人公のこの世界の名前)を尊敬し、自分のものにしたいと思っていた。
束縛型ヤンデレの気がある危険人物。
魔王討伐後は、魔王が所有していた異世界へと通じている門の先へと冒険者たちを引き連れて探索へと乗り出す。
神託に予言された、彼の魂の行方を捜すために、そして自分の物にするために、彼女は門の先へと一歩踏み出した。

恵理子の正体に気が付いたら勇者としての地位も投げ捨ててでも手に入れようとする。

李 秀民(表向きの名 本名は凛)
二回目に転生した先で姉だった人。【霊亀】の八代皇帝。
生まれて早々、双子の弟と共に市民として暮らすことになったが、その生活が一番幸せだったかもしれない人。
皇帝就任の為に性別を偽ったが、皇帝の庶子である事と弟の公文書偽装と真実を知る政敵を暗殺者を使って始末していったためそれを知る者はごく僅か。
弟にしか心を開けない人物。
死んだ魚のような目で国を動かすための歯車として働いてた彼女だったが、ある日夢の中で神託を受ける。ここではない別の世界で弟の魂は存在してると。
その弟が自らを守るために死んでからは、狂ったように研究者を集めて異世界へと飛ぶことができる船を作らせた。
権力を使ってあらゆる手段を取るタイプの愛が重い人。

恵理子の正体に気が付いたらあらゆる手段を使う。

D-56型メイドアンドロイド【型番:1597】
三回目に転生した先で姉代わりだったアンドロイド。
長年、人に仕えてきたこともあって高性能な人工知能に自我と愛が芽生えた。
弟のことを本気で愛していたし、バウンティーハンターを続けている弟には危険な事はやめてほしいと願っていた。
結果として彼女の最後の家族は死ぬことになり、破壊されることを望んだが、そんな彼女の元に一通の手紙が届く。
それは、別世界で楽しそうに遊んでいる女子高生の姿。
そして手紙には彼女が、弟の次の転生先であるという。
質の悪いジョークのような手紙、しかしながらも、文明レベルがこの銀河よりも大幅に低い写真は妙な信憑性があった。
後日、並行世界の転移技術を試すための装置のテストに仲間たちと共に応募し、地球へと訪れることになる。
相手の全てを把握したいと考えている根っからのストーカー気質のヤバい奴。

恵理子の身柄を得るのは当然の権利だと思っている。

蓮華
千年続く悪の陰陽師たちの秘密結社【利剣】の代表。
不死の者。
払子僧都(主人公の当時の名前)に孤児だった彼女は拾われ、払子僧都から権謀術数や組織の保ち方、そして霊力の使い方を教わった。
実の父以上に深い絆があったと彼女は語っている。
必ず、自らの育ての親が転生すると信じて千年間組織を保ちながら、表の勢力と戦い続けてきた頑張り屋さん。
頑張りすぎた結果、組織の当初の理念は捻じ曲がって悪の組織となった。
恵理子の事を愛しているが、自分たちを見捨てて一人幸せになろうとしている恵理子も憎んでいる。
崇拝しつつも攻撃型である危険人物。

ただ、どのような手段を使ってか、異世界にある程度介入することはできるようだが……?

恵理子の全てを狙っている。

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