蒼穹の天駆翔 ~Learning to Fly~   作:sho_greenhouse

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ISって素材はよかったと感じる今日このごろ
なお、リブートとか求めませんよ


第8話 模擬戦 1

一夏とセシリアの模擬戦の日程が決まった。

 

三日後。

 

放課後の第一アリーナ。

 

授業ではなく、学園管理下で行われる実戦形式の測定。

 

その知らせを受けた一夏が最初にしたことは、

 

「三日しかないの?」

 

だった。

 

「三日もある」

 

千冬は答えた。

 

「いや、俺まだ雪片も使ってないんだけど」

 

「今日使う」

 

一夏が止まる。

 

「今日?」

 

「ああ」

 

「もっとこう、溜めとかないの?」

 

「何をだ」

 

「いや……専用武器初使用ってもっと特別な感じが」

 

「授業だぞ」

 

「はい」

 

白式を展開する。

 

千冬が格納区画へ合図を送った。

 

一夏の手元へ一本の刀が転送される。

 

握る。

 

訓練刀とは違う。

 

「これが雪片?」

 

「雪片弐型だ」

 

一夏は刀身を見る。

 

「弐型?」

 

「説明は後だ。まず振れ」

 

「また素振り?」

 

「嫌なら返せ」

 

「振ります」

 

構える。

 

昨日まで繰り返した動作。

 

振る。

 

戻す。

 

訓練刀より感覚が違う。

 

もう一度。

 

「重さは?」

 

千冬。

 

「そんなに変わらない。でも……」

 

一夏は振る。

 

「なんか違う」

 

「何がだ」

 

「分からない」

 

「なら続けろ」

 

十回。

 

二十回。

 

少しずつ馴染む。

 

三十回。

 

一夏は止まった。

 

「これ、普通の刀じゃないんだろ?」

 

「IS用武装だ。当然だ」

 

「そうじゃなくて」

 

一夏は雪片弐型を見る。

 

「なんかあるんだろ?」

 

千冬は少し黙った。

 

「ある」

 

「何?」

 

「零落白夜」

 

一夏が聞き返す。

 

「れいらくびゃくや?」

 

「対象のエネルギー防御を無効化し、本体へ直接攻撃を通す」

 

一夏の表情が変わる。

 

「……強くない?」

 

「強い」

 

「それだけ?」

 

「何が聞きたい」

 

「弱点」

 

千冬が一夏を見る。

 

「なぜあると思った」

 

「最近ずっと財布の話されてるから」

 

千冬は小さく息を吐いた。

 

「成長したな」

 

「褒められた気がしない」

 

「零落白夜は白式のエネルギーを大量に消費する」

 

「やっぱり」

 

「一撃で決められなければ、お前自身の首を絞める」

 

一夏は雪片弐型を見る。

 

強い。

 

当たれば。

 

その前提がつく。

 

昨日まで千冬へ一本も入れられなかったことを思い出す。

 

「……高い買い物だな」

 

「そういうことだ」

 

「模擬戦で使う?」

 

「お前が決めろ」

 

「俺が?」

 

「お前の武器だ」

 

千冬は一夏の正面へ立つ。

 

「ただし今日は使わん」

 

「え」

 

「通常状態の雪片弐型だけで私に当てろ」

 

「またそれ?」

 

「嫌か?」

 

一夏は構える。

 

「今日は当てる」

 

「来い」

 

踏み込んだ。

 

***

 

昼休み。

 

一組の教室。

 

箒はクラス代表用の予定表を見ていた。

 

来月以降の行事。

 

代表者会議。

 

実技予定。

 

提出物。

 

「思ったより多いな」

 

一夏が横から覗く。

 

「だからお前は他人事ではないと言っている」

 

「俺にできることある?」

 

「邪魔をしない」

 

「もうちょっとない?」

 

「では模擬戦で無茶をするな」

 

「それ代表の仕事?」

 

「クラスの人間が怪我をすれば困る」

 

一夏が少し笑う。

 

「分かった」

 

少し離れた席では、しょうが弁当を食べている。

 

一夏がそちらを見る。

 

「高瀬、模擬戦見に来る?」

 

しょうが顔を上げる。

 

「見ていいんですか?」

 

「たぶん」

 

「一般見学区画は開放されるはずだ」

 

箒が答える。

 

「じゃあ行きます」

 

「高瀬ならどっち勝つと思う?」

 

「一夏」

 

箒が睨む。

 

「なんだよ」

 

「そういうことを聞くな」

 

「別にいいだろ」

 

しょうは少し考える。

 

「分かりません」

 

「まあそうだよな」

 

「でも」

 

しょうが続ける。

 

「オルコットさんの方が上手いですよね」

 

「うん」

 

「織斑君は?」

 

「下手」

 

「自分で言うな」

 

箒。

 

一夏は笑う。

 

「だから練習してんだよ」

 

しょうは箸を動かす。

 

「じゃあ三日後なら、今より上手いですね」

 

一夏が少し止まる。

 

「……そうだな」

 

「オルコットさんも練習するでしょうけど」

 

「そっちもか」

 

「当たり前だ」

 

箒が言う。

 

「相手だけ止まっていると思うな」

 

一夏は机へ突っ伏した。

 

「三日って短いなあ」

 

「さっき気づいたのか」

 

***

 

放課後。

 

第三アリーナ。

 

しょうは昨日とは別の訓練機を装着していた。

 

「今日は十五分」

 

佐伯の声。

 

『短いですね』

 

「短いよ」

 

『何する?』

 

「昨日と同じ航路」

 

『はい』

 

「ただし、少しだけ速度を変える。無理はしない」

 

『はい』

 

「違和感があったらすぐ言う」

 

『はい』

 

「疲れたら?」

 

『言う』

 

「まだ飛べても?」

 

少し間。

 

『言う』

 

「よし」

 

測定開始。

 

しょうが上がる。

 

一定速度。

 

一周。

 

管制室では複数の数字が動く。

 

昨日、補正値が跳ねた訓練機とは別機体。

 

二周。

 

「問題なし」

 

スタッフ。

 

佐伯は答えない。

 

三周。

 

速度を少し上げる。

 

しょうの軌道は安定している。

 

「高瀬さん、体調」

 

『大丈夫』

 

「疲労」

 

『まだ大丈夫』

 

「ゼロから十なら」

 

『二くらい』

 

佐伯が記録する。

 

四周。

 

応答。

 

正常。

 

五周。

 

スタッフの指が止まる。

 

「補正上がりました」

 

佐伯が見る。

 

僅か。

 

「まだ続ける」

 

六周。

 

さらに上がる。

 

「再現した」

 

誰かが呟いた。

 

佐伯は通信を入れる。

 

「高瀬さん、速度落として」

 

『はい』

 

しょうが減速する。

 

補正値。

 

下がらない。

 

「降りて」

 

『はい』

 

下降。

 

着地。

 

昨日と同じ。

 

着地直前。

 

数字が跳ねる。

 

「終了」

 

佐伯が言う。

 

しょうが訓練機を解除した。

 

***

 

「二機目」

 

管制室。

 

誰もすぐには話さなかった。

 

昨日とは別機体。

 

同じ傾向。

 

同じ条件ではない。

 

それでも再現した。

 

「機体側ですね」

 

スタッフが言う。

 

「少なくとも本人の疲労だけでは説明しにくい」

 

佐伯はデータを重ねる。

 

しょう自身の入力。

 

ほぼ変化なし。

 

応答速度。

 

維持。

 

訓練機側の追従補正。

 

増加。

 

「何が起きてるんです?」

 

「まだ名前をつけたくない」

 

佐伯は画面を見る。

 

「名前をつけると、それで分かった気になるから」

 

「でも訓練機で長時間は――」

 

「やめよう」

 

スタッフが佐伯を見る。

 

「測定を?」

 

「長時間運用を」

 

佐伯は即答した。

 

「ここから先を調べるために訓練機を使い続けるのは違う」

 

「専用機ですか」

 

「まだそこまで飛ばない」

 

佐伯は椅子から立つ。

 

「まず報告」

 

***

 

しょうは廊下のベンチで待っていた。

 

スポーツドリンクを飲んでいる。

 

佐伯が出てくる。

 

「お待たせ」

 

「何か分かった?」

 

「少し」

 

隣に座る。

 

「高瀬さん」

 

「はい」

 

「しばらく、授業以外で長くISに乗るのやめよう」

 

しょうの手が止まる。

 

「なんで?」

 

「訓練機の方に、ちょっと無理が出てる可能性がある」

 

「壊した?」

 

「壊してない」

 

佐伯はすぐ答えた。

 

「高瀬さんが悪いわけでもない」

 

「でも私が乗ると?」

 

「今のところ、長く乗ると機体側の補正が増える」

 

しょうはスポーツドリンクを見る。

 

「それって危ない?」

 

「今すぐ危険という数字じゃない」

 

「じゃあ、なんでやめるの?」

 

「危険になるまで試す必要がないから」

 

しょうは黙る。

 

佐伯は続けない。

 

少しして、しょうが聞いた。

 

「授業は乗っていい?」

 

「いい。ただし時間は見る」

 

「飛ぶのも?」

 

「いい」

 

「分かりました」

 

しょうは頷いた。

 

「残念?」

 

佐伯が聞く。

 

「少し」

 

「飛ぶの好き?」

 

しょうは考える。

 

「好きなのかも」

 

佐伯はそれを記録しなかった。

 

「じゃあ、ちゃんと飛べる方法を考えよう」

 

「訓練機じゃなくて?」

 

「それも含めて」

 

「専用機?」

 

佐伯が止まる。

 

しょうが見る。

 

「織斑君みたいな」

 

「まだ決まってない」

 

「そうですか」

 

「期待した?」

 

「ちょっと」

 

佐伯は笑った。

 

「そういうところは一夏君と同じだね」

 

「専用機は嬉しいと思います」

 

「まあ、そうだよね」

 

佐伯は立つ。

 

「でも、作るなら理由がいる」

 

「理由?」

 

「高いから」

 

しょうが少し笑う。

 

「財布」

 

「そう。学園の財布」

 

***

 

その日の夕方。

 

会議室。

 

昨日より参加者が増えていた。

 

技術部門。

 

教員。

 

安全管理。

 

学園運営。

 

千冬。

 

佐伯。

 

画面には二日分の記録。

 

「再現しました」

 

佐伯が説明する。

 

「別個体の訓練機でも、一定時間経過後に追従補正の増加が確認されています」

 

「故障では」

 

「ありません」

 

「高瀬本人の操作が荒い?」

 

「むしろ一定です」

 

「なら訓練機の仕様上の問題か」

 

「そう考えています」

 

佐伯は標準訓練機の設計思想を表示する。

 

「訓練機は幅広い操縦者へ対応するため、かなり余裕を持った制御になっています」

 

「それでも足りない?」

 

「足りない、というより」

 

佐伯は言葉を選ぶ。

 

「高瀬さんの応答特性に合わせ続けることを想定していない」

 

千冬が聞く。

 

「短時間なら」

 

「問題なし」

 

「授業程度なら」

 

「今のところ」

 

「長時間では」

 

「機体側の補正が増える」

 

会議室が静かになる。

 

一人が聞く。

 

「では、訓練機を高瀬用に調整する案は?」

 

「可能です」

 

佐伯が答える。

 

「ただし、その時点で標準訓練機ではなくなります」

 

「専有機になる」

 

「実質的には」

 

「改修費は?」

 

数字が出る。

 

何人かが見る。

 

「安くはないな」

 

「でも専用機よりは安い」

 

別の声。

 

佐伯は頷く。

 

「その通りです」

 

「なら改修でいいのでは?」

 

「測定だけなら」

 

千冬が佐伯を見る。

 

「続きがあるな」

 

「あります」

 

佐伯は別の資料を開く。

 

「高瀬さんはまだ初心者です」

 

「それが?」

 

「今後、上達します」

 

誰も答えない。

 

「飛行速度も上がる。操作も増える。実戦訓練も始まる。稼働時間も伸びる可能性がある」

 

今までのデータ。

 

そして予測領域。

 

「今の高瀬さんに合わせて訓練機を改修して、それが半年後にも足りる保証がない」

 

「なら余裕を持たせる」

 

「どこまで?」

 

佐伯が聞き返す。

 

「基準がありません」

 

沈黙。

 

「つまり」

 

学園側の担当者が言う。

 

「高瀬しょうという操縦者の上限が分からない」

 

「はい」

 

「だから訓練機をどこまで改修すればいいかも分からない」

 

「そうです」

 

「では専用機なら分かるのか?」

 

佐伯は首を振る。

 

「分かりません」

 

何人かが苦笑する。

 

「分からないことばかりだな」

 

「そういう仕事なので」

 

佐伯は気にしない。

 

「ただ、専用機なら最初から本人を基準にできます」

 

画面が変わる。

 

機体素体。

 

まだ具体的な設計ではない。

 

「武装はいりません」

 

一人が聞き返す。

 

「武装なし?」

 

「今必要なのは戦わせる機体じゃない」

 

佐伯はしょうのデータを表示する。

 

「高瀬さんが安全に動けて、機体側が本人についていけて、その状態を長期的に観測できる環境です」

 

「研究機か」

 

「兼、本人用の訓練環境」

 

千冬が腕を組む。

 

「本人保護も必要だ」

 

「はい」

 

「稼働時間の管理」

 

「機体側から制限できるようにしたい」

 

「本人がまだ飛べると言っても?」

 

「止められるように」

 

佐伯は資料へ項目を加える。

 

操縦者保護。

 

稼働時間管理。

 

応答特性追従。

 

長期データ取得。

 

「費用は?」

 

聞かれる。

 

佐伯が概算を出す。

 

会議室が少し静かになった。

 

「高いな」

 

「専用機なので」

 

「財布だ」

 

千冬。

 

佐伯が笑いそうになる。

 

「浸透しましたね」

 

「お前のせいだ」

 

学園側の担当者が資料を見る。

 

「一夏の白式とは事情が違う」

 

「はい」

 

「世界初の男性操縦者という研究価値もない」

 

「はい」

 

「代表候補生でもない」

 

「はい」

 

「それでも必要だと?」

 

佐伯は少し考えた。

 

「今すぐ完成機が必要だとは言いません」

 

画面に訓練機の記録を出す。

 

「でも、訓練機を高瀬さんに合わせて改修し続けるなら、その費用も積み上がる」

 

次。

 

「そのたびに別の機体を用意する」

 

次。

 

「本人の上達に合わせてまた改修する」

 

次。

 

「しかも、どこかで訓練機の設計限界に当たる可能性がある」

 

佐伯は全てを並べる。

 

「だったら最初から、本人を基準にした素体を一機作った方が、長期的には安いかもしれない」

 

誰かが言った。

 

「財布か」

 

佐伯が頷く。

 

「財布です」

 

少しだけ笑いが起きた。

 

その後。

 

正式な議題へ戻る。

 

『高瀬しょう専用運用素体・開発可否』

 

まだ機体名はない。

 

武装計画もない。

 

戦闘能力の要求もない。

 

必要なのは一つ。

 

標準訓練機では、いずれ追いつかなくなるかもしれない生徒を、安全に乗せ続けられること。

 

会議の最後。

 

開発検討の開始が承認された。

 

専用機の完成ではない。

 

設計の開始ですらない。

 

まず、要求仕様を作る。

 

そのための人員を集める。

 

佐伯は資料を閉じた。

 

ここから先は、技術者だけの仕事ではない。

 

***

 

翌朝。

 

一夏は教室で参考書を読んでいた。

 

しょうが来る。

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

席へ座る。

 

一夏が本から顔を上げた。

 

「昨日測定だった?」

 

「はい」

 

「どうだった?」

 

「長く乗るの禁止になりました」

 

「え」

 

一夏の表情が変わる。

 

「大丈夫なの?」

 

「私は大丈夫」

 

「機体?」

 

「そっちがちょっと無理してるかもって」

 

一夏はしばらくしょうを見る。

 

「……高瀬が機体壊しかけたの?」

 

「壊してない」

 

「強いな」

 

「そういう話じゃないと思います」

 

箒が来る。

 

「何の話だ」

 

「高瀬が訓練機に勝った」

 

「勝ってない」

 

しょうが否定する。

 

「どういう意味だ」

 

箒が聞く。

 

しょうは少し考える。

 

「長く飛ぶと、訓練機が疲れるらしいです」

 

「機体が?」

 

「たぶん」

 

一夏が言う。

 

「機体にも財布があるんだな」

 

しょうが頷く。

 

「あるみたいです」

 

箒は二人を見る。

 

「お前たちは何でも財布にするのをやめろ」

 

チャイムが鳴った。

 

三人が席へ戻る。

 

誰も知らない。

 

昨日の会議で、しょうのためだけの機体について話が始まったことを。

 

そして、その機体にはまだ。

 

武器どころか、名前すらなかった。

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