蒼穹の天駆翔 ~Learning to Fly~   作:sho_greenhouse

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第9話 模擬戦 2

その日の放課後。

 

一夏は第一アリーナで白式を展開していた。

 

模擬戦まで、あと一日。

 

「今日は何する?」

 

「通し」

 

千冬が答える。

 

「通し?」

 

「開始から終了まで。お前が何を選ぶかを見る」

 

一夏は雪片弐型を握る。

 

「相手は?」

 

「私」

 

「やっぱり」

 

「不満か」

 

「いや、もう慣れた」

 

「慣れるほどやっていない」

 

「精神的にはかなりやった気がする」

 

千冬は答えない。

 

「ルールは?」

 

「模擬戦と同じ。規定エネルギー内。危険行為は禁止。場外あり」

 

「場外?」

 

「競技なんだから当然だろう」

 

一夏は少しだけ考える。

 

「倒さなくてもいいってこと?」

 

千冬の目が一瞬だけ動く。

 

「そうだ」

 

「なるほど」

 

開始位置へ移動する。

 

一夏は白式の表示を見る。

 

エネルギー。

 

雪片。

 

飛行。

 

全部同じ財布。

 

「零落白夜は?」

 

「使ってもいい」

 

「本当に?」

 

「明日も同じだ」

 

一夏は少し迷う。

 

使える。

 

でも使えば減る。

 

しかも千冬に当たる保証はない。

 

「始めるぞ」

 

開始。

 

千冬が動く。

 

今までみたいに待ってくれない。

 

一夏も上がる。

 

距離。

 

近づく。

 

千冬が離れる。

 

一夏は追う。

 

追いすぎない。

 

速度。

 

距離。

 

再加速。

 

千冬が急停止。

 

一夏が前へ出る。

 

「うわっ」

 

横から一撃。

 

シールド。

 

減る。

 

「痛くないけど財布が痛い!」

 

「喋るな」

 

一夏は距離を取る。

 

今の被弾。

 

絶対防御ではない。

 

シールドで受けた。

 

それでも減る。

 

「次」

 

千冬が来る。

 

一夏は避ける。

 

大きく逃げない。

 

必要な分だけ。

 

「少しは覚えたな」

 

「褒められた?」

 

「まだだ」

 

一夏は雪片を構える。

 

斬る。

 

避けられる。

 

もう一度。

 

今度は追撃しない。

 

千冬が少し距離を取る。

 

一夏は考える。

 

当てる。

 

それだけなら零落白夜が強い。

 

でも当たらない。

 

なら先に当てる場所を作る。

 

「……どうやって」

 

「敵に聞くな」

 

「独り言!」

 

一夏は飛ぶ。

 

千冬を追う。

 

正面から。

 

途中で高度を下げる。

 

千冬が対応する。

 

一夏はさらに下。

 

床が近い。

 

「織斑」

 

千冬の声。

 

「分かってる!」

 

地面すれすれ。

 

前。

 

千冬が下がる。

 

場外ラインが一瞬視界に入る。

 

一夏が気づく。

 

相手を倒さなくてもいい。

 

押し出せば終わる。

 

でも。

 

「今じゃない」

 

一夏は旋回する。

 

千冬が僅かに目を細める。

 

訓練は続いた。

 

***

 

同じ頃。

 

技術棟。

 

しょうの専用運用素体について、最初の要求仕様案が作られていた。

 

佐伯の前には白紙に近い設計画面。

 

名前。

 

未定。

 

武装。

 

未定。

 

外装。

 

未定。

 

必要なのはもっと手前だった。

 

「高瀬さんに合わせる」

 

一人の技術者が言う。

 

「それだけだと何でも入りますね」

 

「だから切る」

 

佐伯が答える。

 

画面に項目を出す。

 

第一。

 

長時間運用時でも追従補正が過剰に増えないこと。

 

第二。

 

操縦者本人の疲労と機体側の負荷を独立して監視できること。

 

第三。

 

必要に応じて機体側から運用制限をかけられること。

 

第四。

 

今後の習熟に合わせて調整幅を確保すること。

 

「武装は?」

 

「なし」

 

「本当にゼロ?」

 

「今の目的に必要ない」

 

「シールドは?」

 

「標準」

 

「飛行能力」

 

佐伯の手が止まる。

 

「そこは重要」

 

「高瀬さん、飛行が中心ですからね」

 

「中心というより」

 

佐伯はデータを見る。

 

「今のところ、飛行している時に一番特徴が出る」

 

「高機動型にします?」

 

「まだそういう名前をつけない」

 

「またそれですか」

 

「名前をつけると、その方向に設計が寄る」

 

佐伯はしょうの入学前測定を流す。

 

跳ぶ。

 

浮く。

 

進む。

 

「この子、最初から高機動型になろうとして飛んだわけじゃない」

 

「まあ、そうですね」

 

「だからまず、本人の邪魔をしない」

 

画面に新しい項目。

 

飛行系統。

 

『高応答・広可変域・余裕度重視』

 

「余裕度?」

 

「今の訓練機みたいに、本人へ合わせるために無理させない」

 

「出力を上げる?」

 

「単純には上げない」

 

「じゃあ?」

 

「動きたい時に動ける。止まりたい時に止まれる。その間を機体側が潰さない」

 

技術者が考える。

 

「難しいですね」

 

「難しい」

 

「予算」

 

「もっと難しい」

 

二人とも画面を見る。

 

空白が多い。

 

だからこそ、今は余白が必要だった。

 

***

 

翌朝。

 

一組の教室。

 

模擬戦当日。

 

一夏は教科書を開いている。

 

目線だけが同じ行を何度も往復していた。

 

しょうが前から振り返る。

 

「緊張してます?」

 

「ちょっと」

 

「読んでないですよね」

 

「読んでる」

 

「さっきから同じページです」

 

一夏は本を閉じる。

 

「見てたの?」

 

「前の席なので」

 

箒が横から来る。

 

「午後だろう」

 

「だから午前が長いんだよ」

 

「授業を受けろ」

 

「受けてるって」

 

「頭に入っているか?」

 

一夏は答えない。

 

箒がため息。

 

「負けるのが怖いのか」

 

「いや」

 

一夏は少し考える。

 

「何も出来ないまま終わるのが嫌」

 

箒の表情が変わる。

 

「相手は代表候補生だ」

 

「分かってる」

 

「経験差もある」

 

「分かってる」

 

「なら」

 

「だからって、最初から何も出来ないって決めたくない」

 

箒は黙る。

 

しょうが聞く。

 

「何したら、何かしたことになるんですか?」

 

一夏が止まる。

 

「え?」

 

「勝つ?」

 

「それが一番だけど」

 

「一回当てる?」

 

「それでもいい」

 

「逃げ切る?」

 

一夏が少し笑う。

 

「それは戦ってないだろ」

 

「千冬先生との測定で私はそれやりました」

 

「そうだった」

 

箒が言う。

 

「高瀬は参考にするな」

 

「でも」

 

しょうは少しだけ首を傾ける。

 

「勝ち方って一つじゃないですよね」

 

一夏は昨日の場外ラインを思い出す。

 

「……そうだな」

 

チャイム。

 

千冬が入ってくる。

 

「席につけ」

 

三人が戻る。

 

一夏は教科書を開き直した。

 

今度は少しだけ文字が頭に入った。

 

***

 

昼休み。

 

セシリアは一人でアリーナへ行っていた。

 

ブルー・ティアーズを展開する。

 

最後の確認。

 

ビット。

 

通信。

 

射撃。

 

移動。

 

全て問題なし。

 

「終了」

 

管制から声。

 

セシリアは着地する。

 

「調整は?」

 

『正常です』

 

「分かりましたわ」

 

解除。

 

整備員が近づく。

 

「緊張します?」

 

「わたくしが?」

 

「相手、世界初ですし」

 

セシリアは少し考える。

 

「世界初であることと、今日の相手としてどうかは別でしょう」

 

「それもそうですね」

 

「ただ」

 

整備員が見る。

 

「ただ?」

 

セシリアはブルー・ティアーズを見る。

 

「昨日より今日の方が、彼は上手いでしょうね」

 

「三日で?」

 

「初心者ですもの」

 

「伸び幅が大きい?」

 

「ええ」

 

セシリアは少し笑う。

 

「だから油断はしませんわ」

 

***

 

午後。

 

第一アリーナ。

 

見学区画には一組の生徒たち。

 

一般見学席にも何人かいる。

 

箒は前の方。

 

しょうも隣。

 

「人多いですね」

 

しょうが言う。

 

「一夏だからな」

 

「世界初」

 

「それもある」

 

「オルコットさんも代表候補生」

 

「それもだ」

 

「じゃあ両方」

 

「そういうことだ」

 

アリーナ内。

 

白式。

 

ブルー・ティアーズ。

 

一夏は開始位置で深呼吸する。

 

通信。

 

千冬の声。

 

『最終確認。危険行為は禁止。シールド規定値到達、場外、降参で終了』

 

一夏が聞く。

 

「零落白夜は?」

 

『使用可。ただし安全設定をかける』

 

セシリアから通信。

 

『遠慮なさらなくて結構ですわ』

 

「遠慮というか、当てられるかが問題なんだけど」

 

『そこからですの?』

 

「そこから」

 

一瞬。

 

セシリアが笑った気がした。

 

千冬。

 

『開始十秒前』

 

一夏は雪片弐型を握る。

 

エネルギーを見る。

 

全部同じ財布。

 

使える。

 

でも全部使う必要はない。

 

『五』

 

ブルー・ティアーズのビットが展開。

 

四基。

 

『四』

 

一夏は高度を見る。

 

距離。

 

場外。

 

『三』

 

セシリアが構える。

 

『二』

 

一夏も構える。

 

『一』

 

開始。

 

青い光が散る。

 

一夏は上へ飛んだ。

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