蒼穹の天駆翔 ~Learning to Fly~   作:sho_greenhouse

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第10話 模擬戦 3

開始。

 

青い光が散った。

 

一夏は上へ飛ぶ。

 

直後、左から射撃。

 

白式を傾ける。

 

避ける。

 

右。

 

二発目。

 

高度を落とす。

 

「速っ……!」

 

ブルー・ティアーズ本体はまだ遠い。

 

撃っているのはビット。

 

一夏が目で追う。

 

一基。

 

二基。

 

さらに別方向。

 

「追うな!」

 

通信に千冬の声。

 

一夏は前を見る。

 

セシリア。

 

距離はまだある。

 

「分かってる!」

 

分かっている。

 

全部見る必要はない。

 

相手はセシリア。

 

ビットではない。

 

一夏は白式を加速させる。

 

正面。

 

セシリアが射撃。

 

一夏がずれる。

 

大きく避けない。

 

肩幅一つ。

 

弾が横を通る。

 

「っ!」

 

二発目。

 

今度はもう少し大きく。

 

白式の進路がずれる。

 

そこへビット。

 

「うわ!」

 

急減速。

 

射線が交差する。

 

一夏は下へ逃げる。

 

見学席でしょうが目を追う。

 

「囲まれてますね」

 

「オルコットの得意な距離だ」

 

箒が答える。

 

「一夏は近づきたい」

 

「近づけない」

 

「今のところはな」

 

***

 

セシリアは一夏を見ていた。

 

初心者。

 

それは間違いない。

 

飛行もまだ粗い。

 

加速が大きい。

 

減速も遅い。

 

旋回も読みやすい。

 

だが。

 

「昨日よりは、ましですわね」

 

一夏が再び来る。

 

直線。

 

単純。

 

だから撃つ。

 

一発。

 

避ける。

 

二発目。

 

避ける。

 

三発目。

 

少し遅れる。

 

シールド。

 

命中。

 

一夏のエネルギーが減る。

 

「っ!」

 

それでも進む。

 

「織斑さん」

 

セシリアが通信を開く。

 

「そのまま来ますの?」

 

「近づかないと何もできないんだよ!」

 

「でしたら、近づけばよろしいでしょう」

 

「やってる!」

 

セシリアは笑う。

 

ビットを展開。

 

四方向。

 

正面から一夏。

 

上下左右から射線。

 

逃げ道を限定する。

 

白式が止まった。

 

「止まった?」

 

見学席。

 

しょう。

 

箒が少し身を乗り出す。

 

一夏は前へ出ない。

 

後ろにも下がらない。

 

ビット。

 

セシリア。

 

射線。

 

場外。

 

全部を見る。

 

「……あれ」

 

しょうが言う。

 

「どうした」

 

「織斑君、飛ばないですね」

 

「止まっているな」

 

「違う」

 

しょうは目を細める。

 

「待ってる」

 

***

 

一夏は動かなかった。

 

セシリアも撃たない。

 

撃てば動く。

 

動けば射線を作れる。

 

互いに待つ。

 

「織斑さん?」

 

「ん?」

 

「戦わないのですか?」

 

「戦ってるよ」

 

「どこが?」

 

「今」

 

セシリアの眉が少し動く。

 

一夏は白式の表示を見る。

 

エネルギー。

 

さっき被弾。

 

減った。

 

飛行。

 

待っていても少しずつ減る。

 

でも、セシリアも同じ。

 

ブルー・ティアーズ。

 

ビット。

 

浮遊。

 

全部使っている。

 

「財布」

 

一夏が呟く。

 

「何ですの?」

 

「なんでもない」

 

先に高い買い物をした方が苦しくなる。

 

千冬は教えてくれなかった。

 

佐伯の話を思い出しただけ。

 

何に使うか。

 

どこで払うか。

 

「……じゃあ」

 

一夏が動く。

 

今度は正面ではない。

 

横。

 

場外方向。

 

セシリアが追う。

 

ビットが動く。

 

射撃。

 

一夏は避ける。

 

さらに外側。

 

「逃げますの?」

 

「どうだろうな!」

 

セシリアが距離を詰める。

 

追えば近づく。

 

一夏は気づいている。

 

自分がセシリアへ近づけないなら。

 

セシリアを来させればいい。

 

「そこ!」

 

急旋回。

 

一夏がセシリアへ向く。

 

距離。

 

さっきまでより近い。

 

雪片弐型。

 

振る。

 

セシリアが後退。

 

届かない。

 

「惜しい!」

 

「甘いですわ!」

 

射撃。

 

一夏は避ける。

 

だが。

 

一度。

 

届く距離まで来た。

 

それで十分だった。

 

***

 

管制席。

 

佐伯はデータを見る。

 

「学習早いですね」

 

千冬は答えない。

 

一夏。

 

開始直後は最短距離で接近。

 

被弾。

 

次。

 

回避を小さく。

 

次。

 

待機。

 

次。

 

誘導。

 

まだ粗い。

 

だが、同じ失敗を繰り返してはいない。

 

「零落白夜、まだ使いませんね」

 

「当てる自信がないんだろう」

 

「正しいですね」

 

「今のところは」

 

千冬が画面を見る。

 

セシリアの方も変わっている。

 

射線。

 

ビット配置。

 

一夏の動きに合わせて少しずつ変化。

 

当然。

 

代表候補生。

 

初心者が学習するなら、相手も学習する。

 

「ここからだ」

 

千冬が言った。

 

***

 

一夏が上昇。

 

セシリアが追う。

 

ブルー・ティアーズ。

 

射撃。

 

白式。

 

回避。

 

一夏はもう、全てを避けようとはしていない。

 

一発。

 

シールド。

 

被弾。

 

「っ!」

 

通す。

 

そのまま進む。

 

「織斑さん?」

 

セシリアが少し驚く。

 

一夏は雪片を構える。

 

「一発くらいなら!」

 

「何を――」

 

接近。

 

セシリアが射撃。

 

一夏は避けない。

 

シールド。

 

減る。

 

でも距離も減る。

 

「これ!」

 

雪片弐型が振られる。

 

セシリアが回避。

 

紙一重。

 

「まだ!」

 

一夏が追う。

 

二撃目。

 

大振り。

 

避けられる。

 

セシリアが離れる。

 

一夏は追わない。

 

「……追いませんの?」

 

「今ので分かった」

 

「何が?」

 

一夏は息を整える。

 

「当てられない」

 

「威張って言うことではありませんわ」

 

「だから次考える!」

 

「次?」

 

セシリアは少し笑う。

 

「まだあるおつもりで?」

 

ビットが再展開。

 

一夏は白式の残量を見る。

 

減っている。

 

零落白夜。

 

まだ使っていない。

 

一撃。

 

当たれば大きい。

 

でも。

 

当たらない。

 

高い買い物。

 

「じゃあ」

 

一夏は雪片を下げる。

 

「もう一回、近づく」

 

「同じことですわ」

 

「違うよ」

 

白式が加速。

 

今度はセシリアを見ていない。

 

場外ライン。

 

セシリアが一瞬だけ気づく。

 

「まさか」

 

一夏が外側へ。

 

セシリアが追う。

 

射撃。

 

一夏はぎりぎりで回避。

 

場外ラインが近い。

 

自分も近い。

 

セシリアも。

 

「織斑さん!」

 

「来た!」

 

一夏が急反転。

 

雪片。

 

セシリアは下へ回避。

 

その瞬間。

 

一夏は斬らない。

 

白式の肩をぶつける。

 

「なっ――」

 

接触。

 

ブルー・ティアーズの姿勢が崩れる。

 

セシリアが制御。

 

戻す。

 

しかし。

 

一歩分。

 

外。

 

警告音。

 

『ブルー・ティアーズ、場外』

 

アリーナが静かになった。

 

一夏自身も止まる。

 

「……え?」

 

千冬の声。

 

『試合終了』

 

一夏は場外ラインを見る。

 

セシリアを見る。

 

もう一度ライン。

 

「勝った?」

 

『規定上はな』

 

「マジ?」

 

見学席からざわめき。

 

箒が少し目を見開いている。

 

しょうはラインを見る。

 

「押した」

 

「押したな」

 

箒。

 

「斬ってない」

 

「見れば分かる」

 

「勝ち方って一つじゃないですね」

 

箒は答えなかった。

 

少しして。

 

「そうだな」

 

***

 

セシリアは場外で止まっていた。

 

警告表示。

 

試合終了。

 

シールド残量。

 

十分。

 

ブルー・ティアーズ。

 

無傷。

 

一夏の白式。

 

被弾多数。

 

エネルギーも自分より減っている。

 

技量。

 

自分が上。

 

射撃。

 

自分が上。

 

飛行。

 

自分が上。

 

それでも負けた。

 

「……」

 

一夏が近づいてくる。

 

「オルコット」

 

セシリアが見る。

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫に決まっていますでしょう!」

 

「あ、うん」

 

「この程度で!」

 

「ごめん」

 

「なぜ謝りますの!」

 

「どっち!?」

 

セシリアは息を吐く。

 

自分でも分からない。

 

「……わたくしの方が上でしたわ」

 

「うん」

 

即答。

 

「そこは否定なさい!」

 

「いや、上だっただろ」

 

「ではなぜ!」

 

セシリアが止まる。

 

一夏も。

 

なぜ負けた。

 

一夏が少し考える。

 

「ルール?」

 

セシリアの眉が動く。

 

「ルール」

 

「場外でも勝ちなんだろ?」

 

「そうですわ」

 

「じゃあ、そうした」

 

セシリアは言葉を失う。

 

単純。

 

あまりにも単純。

 

「零落白夜は?」

 

「使ってない」

 

「なぜですの」

 

「当てられないから」

 

また即答。

 

セシリアは一夏を見る。

 

「……あなた」

 

「ん?」

 

「思っていたより」

 

一夏が待つ。

 

「腹が立ちますわね」

 

「なんで!?」

 

セシリアは先にアリーナを出た。

 

一夏はその背中を見る。

 

「勝ったのに怒られた」

 

千冬の声。

 

『さっさと降りろ』

 

「はい」

 

***

 

試合後。

 

管制室。

 

一夏、セシリア、千冬、佐伯。

 

画面には試合データ。

 

「まず」

 

千冬が言う。

 

「技量差は明白だった」

 

一夏が頷く。

 

「はい」

 

セシリアも。

 

「ええ」

 

「オルコット」

 

「はい」

 

「序盤から終盤まで、お前が上だ」

 

「はい」

 

「だが場外管理を怠った」

 

セシリアの表情が固くなる。

 

「……はい」

 

「相手が近接一辺倒だと決めていたな」

 

少し間。

 

「はい」

 

千冬は一夏を見る。

 

「一夏」

 

「はい」

 

「被弾が多すぎる」

 

「はい」

 

「強引に距離を詰める癖も残っている」

 

「はい」

 

「最後の押し出し」

 

一夏が少し身構える。

 

「はい」

 

「悪くない」

 

顔を上げる。

 

「本当?」

 

「競技としてはな」

 

千冬は続ける。

 

「ただし、同じ手は次から通じん」

 

一夏がセシリアを見る。

 

セシリアは既にこちらを見ていた。

 

「絶対に」

 

「ですよね」

 

佐伯がデータを見ながら口を開く。

 

「零落白夜を使わなかったのも良かったと思います」

 

千冬が見る。

 

「理由は」

 

「本人が言った通り。当てられないから」

 

一夏が頷く。

 

「高い買い物なので」

 

セシリアが首を傾げる。

 

「高い買い物?」

 

千冬が額を押さえた。

 

「佐伯」

 

「はい?」

 

「説明しろ」

 

佐伯は少し嬉しそうだった。

 

***

 

十分後。

 

セシリアは腕を組んでいた。

 

「つまり、エネルギーを財布に例えていると」

 

「はい」

 

佐伯。

 

「……随分庶民的ですのね」

 

一夏が笑う。

 

「分かりやすいだろ?」

 

「否定はいたしません」

 

セシリアは試合データを見る。

 

自分も使った。

 

飛行。

 

ビット。

 

射撃。

 

全て同じ財布。

 

「ブルー・ティアーズも?」

 

「当然」

 

佐伯が答える。

 

「ビットを動かすのも無料じゃない」

 

セシリアの視線が止まる。

 

「四基全てを常に展開する必要は?」

 

「ありません」

 

即答。

 

セシリアが佐伯を見る。

 

「……そう」

 

それだけ。

 

だが。

 

何かが引っ掛かった。

 

***

 

放課後。

 

しょうはアリーナの外で一夏を待っていた。

 

箒もいる。

 

一夏が出てくる。

 

「勝った!」

 

「見ていた」

 

箒。

 

「おめでとうございます」

 

しょう。

 

「ありがとう」

 

一夏は笑う。

 

「でも千冬姉……じゃなくて織斑先生にめちゃくちゃ直された」

 

「当然だ」

 

箒。

 

「オルコットさん、強かったですね」

 

しょうが言う。

 

「強かった」

 

一夏も即答。

 

「俺、普通にやったら全然勝てない」

 

「普通じゃなくやった」

 

「そう」

 

「場外」

 

「そう」

 

箒が一夏を見る。

 

「お前、剣で勝つつもりではなかったのか」

 

「途中までは」

 

「途中から?」

 

「当たんないからやめた」

 

箒は少し黙る。

 

「……そうか」

 

一夏はしょうを見る。

 

「高瀬が朝言ってたの、役に立ったぞ」

 

「何?」

 

「勝ち方は一つじゃないって」

 

しょうが少し考える。

 

「私、そんなこと言いました?」

 

「言った」

 

「そうでしたっけ」

 

「覚えてないの!?」

 

しょうは笑う。

 

箒も少しだけ笑った。

 

***

 

夜。

 

セシリアはブルー・ティアーズの記録を開いていた。

 

今日の模擬戦。

 

敗北。

 

場外。

 

画面を戻す。

 

一夏の接近。

 

射撃。

 

ビット。

 

移動。

 

自分。

 

もう一度。

 

今度はエネルギー消費表示を重ねる。

 

四基展開。

 

射撃。

 

回避。

 

消費。

 

「……」

 

佐伯の言葉。

 

ビットを動かすのも無料じゃない。

 

セシリアは一基だけ非表示にする。

 

仮想計算。

 

次。

 

二基。

 

消費が変わる。

 

その代わり射線が減る。

 

「当然ですわね」

 

当たり前。

 

そんなことは知っていた。

 

だが。

 

知っていることと。

 

使い方を考えることは。

 

同じではない。

 

セシリアは今日の敗北記録を閉じなかった。

 

***

 

別の技術棟。

 

佐伯はしょう用素体の要求仕様案を開いていた。

 

今日の模擬戦データも端にある。

 

白式。

 

ブルー・ティアーズ。

 

専用機。

 

どちらも操縦者に合わせた機体。

 

どちらも強い。

 

どちらも万能ではない。

 

しょう用素体。

 

武装欄。

 

空白。

 

佐伯はその空白を見た。

 

消さない。

 

まだ必要ない。

 

次に飛行系統。

 

余裕度。

 

応答。

 

安全。

 

こちらは埋まっている。

 

「まずは飛べればいいか」

 

誰に聞かせるでもなく言う。

 

保存。

 

画面を閉じる。

 

その機体が、何をするための機体になるのか。

 

今はまだ。

 

誰も決めていなかった。




二次創作界隈でも珍しいだろう場外勝ち
ぶっちゃけ、作者も想定外でした
自分も読者として楽しめるのはAI執筆のメリットです笑
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