蒼穹の天駆翔 ~Learning to Fly~ 作:sho_greenhouse
開始。
青い光が散った。
一夏は上へ飛ぶ。
直後、左から射撃。
白式を傾ける。
避ける。
右。
二発目。
高度を落とす。
「速っ……!」
ブルー・ティアーズ本体はまだ遠い。
撃っているのはビット。
一夏が目で追う。
一基。
二基。
さらに別方向。
「追うな!」
通信に千冬の声。
一夏は前を見る。
セシリア。
距離はまだある。
「分かってる!」
分かっている。
全部見る必要はない。
相手はセシリア。
ビットではない。
一夏は白式を加速させる。
正面。
セシリアが射撃。
一夏がずれる。
大きく避けない。
肩幅一つ。
弾が横を通る。
「っ!」
二発目。
今度はもう少し大きく。
白式の進路がずれる。
そこへビット。
「うわ!」
急減速。
射線が交差する。
一夏は下へ逃げる。
見学席でしょうが目を追う。
「囲まれてますね」
「オルコットの得意な距離だ」
箒が答える。
「一夏は近づきたい」
「近づけない」
「今のところはな」
***
セシリアは一夏を見ていた。
初心者。
それは間違いない。
飛行もまだ粗い。
加速が大きい。
減速も遅い。
旋回も読みやすい。
だが。
「昨日よりは、ましですわね」
一夏が再び来る。
直線。
単純。
だから撃つ。
一発。
避ける。
二発目。
避ける。
三発目。
少し遅れる。
シールド。
命中。
一夏のエネルギーが減る。
「っ!」
それでも進む。
「織斑さん」
セシリアが通信を開く。
「そのまま来ますの?」
「近づかないと何もできないんだよ!」
「でしたら、近づけばよろしいでしょう」
「やってる!」
セシリアは笑う。
ビットを展開。
四方向。
正面から一夏。
上下左右から射線。
逃げ道を限定する。
白式が止まった。
「止まった?」
見学席。
しょう。
箒が少し身を乗り出す。
一夏は前へ出ない。
後ろにも下がらない。
ビット。
セシリア。
射線。
場外。
全部を見る。
「……あれ」
しょうが言う。
「どうした」
「織斑君、飛ばないですね」
「止まっているな」
「違う」
しょうは目を細める。
「待ってる」
***
一夏は動かなかった。
セシリアも撃たない。
撃てば動く。
動けば射線を作れる。
互いに待つ。
「織斑さん?」
「ん?」
「戦わないのですか?」
「戦ってるよ」
「どこが?」
「今」
セシリアの眉が少し動く。
一夏は白式の表示を見る。
エネルギー。
さっき被弾。
減った。
飛行。
待っていても少しずつ減る。
でも、セシリアも同じ。
ブルー・ティアーズ。
ビット。
浮遊。
全部使っている。
「財布」
一夏が呟く。
「何ですの?」
「なんでもない」
先に高い買い物をした方が苦しくなる。
千冬は教えてくれなかった。
佐伯の話を思い出しただけ。
何に使うか。
どこで払うか。
「……じゃあ」
一夏が動く。
今度は正面ではない。
横。
場外方向。
セシリアが追う。
ビットが動く。
射撃。
一夏は避ける。
さらに外側。
「逃げますの?」
「どうだろうな!」
セシリアが距離を詰める。
追えば近づく。
一夏は気づいている。
自分がセシリアへ近づけないなら。
セシリアを来させればいい。
「そこ!」
急旋回。
一夏がセシリアへ向く。
距離。
さっきまでより近い。
雪片弐型。
振る。
セシリアが後退。
届かない。
「惜しい!」
「甘いですわ!」
射撃。
一夏は避ける。
だが。
一度。
届く距離まで来た。
それで十分だった。
***
管制席。
佐伯はデータを見る。
「学習早いですね」
千冬は答えない。
一夏。
開始直後は最短距離で接近。
被弾。
次。
回避を小さく。
次。
待機。
次。
誘導。
まだ粗い。
だが、同じ失敗を繰り返してはいない。
「零落白夜、まだ使いませんね」
「当てる自信がないんだろう」
「正しいですね」
「今のところは」
千冬が画面を見る。
セシリアの方も変わっている。
射線。
ビット配置。
一夏の動きに合わせて少しずつ変化。
当然。
代表候補生。
初心者が学習するなら、相手も学習する。
「ここからだ」
千冬が言った。
***
一夏が上昇。
セシリアが追う。
ブルー・ティアーズ。
射撃。
白式。
回避。
一夏はもう、全てを避けようとはしていない。
一発。
シールド。
被弾。
「っ!」
通す。
そのまま進む。
「織斑さん?」
セシリアが少し驚く。
一夏は雪片を構える。
「一発くらいなら!」
「何を――」
接近。
セシリアが射撃。
一夏は避けない。
シールド。
減る。
でも距離も減る。
「これ!」
雪片弐型が振られる。
セシリアが回避。
紙一重。
「まだ!」
一夏が追う。
二撃目。
大振り。
避けられる。
セシリアが離れる。
一夏は追わない。
「……追いませんの?」
「今ので分かった」
「何が?」
一夏は息を整える。
「当てられない」
「威張って言うことではありませんわ」
「だから次考える!」
「次?」
セシリアは少し笑う。
「まだあるおつもりで?」
ビットが再展開。
一夏は白式の残量を見る。
減っている。
零落白夜。
まだ使っていない。
一撃。
当たれば大きい。
でも。
当たらない。
高い買い物。
「じゃあ」
一夏は雪片を下げる。
「もう一回、近づく」
「同じことですわ」
「違うよ」
白式が加速。
今度はセシリアを見ていない。
場外ライン。
セシリアが一瞬だけ気づく。
「まさか」
一夏が外側へ。
セシリアが追う。
射撃。
一夏はぎりぎりで回避。
場外ラインが近い。
自分も近い。
セシリアも。
「織斑さん!」
「来た!」
一夏が急反転。
雪片。
セシリアは下へ回避。
その瞬間。
一夏は斬らない。
白式の肩をぶつける。
「なっ――」
接触。
ブルー・ティアーズの姿勢が崩れる。
セシリアが制御。
戻す。
しかし。
一歩分。
外。
警告音。
『ブルー・ティアーズ、場外』
アリーナが静かになった。
一夏自身も止まる。
「……え?」
千冬の声。
『試合終了』
一夏は場外ラインを見る。
セシリアを見る。
もう一度ライン。
「勝った?」
『規定上はな』
「マジ?」
見学席からざわめき。
箒が少し目を見開いている。
しょうはラインを見る。
「押した」
「押したな」
箒。
「斬ってない」
「見れば分かる」
「勝ち方って一つじゃないですね」
箒は答えなかった。
少しして。
「そうだな」
***
セシリアは場外で止まっていた。
警告表示。
試合終了。
シールド残量。
十分。
ブルー・ティアーズ。
無傷。
一夏の白式。
被弾多数。
エネルギーも自分より減っている。
技量。
自分が上。
射撃。
自分が上。
飛行。
自分が上。
それでも負けた。
「……」
一夏が近づいてくる。
「オルコット」
セシリアが見る。
「大丈夫?」
「大丈夫に決まっていますでしょう!」
「あ、うん」
「この程度で!」
「ごめん」
「なぜ謝りますの!」
「どっち!?」
セシリアは息を吐く。
自分でも分からない。
「……わたくしの方が上でしたわ」
「うん」
即答。
「そこは否定なさい!」
「いや、上だっただろ」
「ではなぜ!」
セシリアが止まる。
一夏も。
なぜ負けた。
一夏が少し考える。
「ルール?」
セシリアの眉が動く。
「ルール」
「場外でも勝ちなんだろ?」
「そうですわ」
「じゃあ、そうした」
セシリアは言葉を失う。
単純。
あまりにも単純。
「零落白夜は?」
「使ってない」
「なぜですの」
「当てられないから」
また即答。
セシリアは一夏を見る。
「……あなた」
「ん?」
「思っていたより」
一夏が待つ。
「腹が立ちますわね」
「なんで!?」
セシリアは先にアリーナを出た。
一夏はその背中を見る。
「勝ったのに怒られた」
千冬の声。
『さっさと降りろ』
「はい」
***
試合後。
管制室。
一夏、セシリア、千冬、佐伯。
画面には試合データ。
「まず」
千冬が言う。
「技量差は明白だった」
一夏が頷く。
「はい」
セシリアも。
「ええ」
「オルコット」
「はい」
「序盤から終盤まで、お前が上だ」
「はい」
「だが場外管理を怠った」
セシリアの表情が固くなる。
「……はい」
「相手が近接一辺倒だと決めていたな」
少し間。
「はい」
千冬は一夏を見る。
「一夏」
「はい」
「被弾が多すぎる」
「はい」
「強引に距離を詰める癖も残っている」
「はい」
「最後の押し出し」
一夏が少し身構える。
「はい」
「悪くない」
顔を上げる。
「本当?」
「競技としてはな」
千冬は続ける。
「ただし、同じ手は次から通じん」
一夏がセシリアを見る。
セシリアは既にこちらを見ていた。
「絶対に」
「ですよね」
佐伯がデータを見ながら口を開く。
「零落白夜を使わなかったのも良かったと思います」
千冬が見る。
「理由は」
「本人が言った通り。当てられないから」
一夏が頷く。
「高い買い物なので」
セシリアが首を傾げる。
「高い買い物?」
千冬が額を押さえた。
「佐伯」
「はい?」
「説明しろ」
佐伯は少し嬉しそうだった。
***
十分後。
セシリアは腕を組んでいた。
「つまり、エネルギーを財布に例えていると」
「はい」
佐伯。
「……随分庶民的ですのね」
一夏が笑う。
「分かりやすいだろ?」
「否定はいたしません」
セシリアは試合データを見る。
自分も使った。
飛行。
ビット。
射撃。
全て同じ財布。
「ブルー・ティアーズも?」
「当然」
佐伯が答える。
「ビットを動かすのも無料じゃない」
セシリアの視線が止まる。
「四基全てを常に展開する必要は?」
「ありません」
即答。
セシリアが佐伯を見る。
「……そう」
それだけ。
だが。
何かが引っ掛かった。
***
放課後。
しょうはアリーナの外で一夏を待っていた。
箒もいる。
一夏が出てくる。
「勝った!」
「見ていた」
箒。
「おめでとうございます」
しょう。
「ありがとう」
一夏は笑う。
「でも千冬姉……じゃなくて織斑先生にめちゃくちゃ直された」
「当然だ」
箒。
「オルコットさん、強かったですね」
しょうが言う。
「強かった」
一夏も即答。
「俺、普通にやったら全然勝てない」
「普通じゃなくやった」
「そう」
「場外」
「そう」
箒が一夏を見る。
「お前、剣で勝つつもりではなかったのか」
「途中までは」
「途中から?」
「当たんないからやめた」
箒は少し黙る。
「……そうか」
一夏はしょうを見る。
「高瀬が朝言ってたの、役に立ったぞ」
「何?」
「勝ち方は一つじゃないって」
しょうが少し考える。
「私、そんなこと言いました?」
「言った」
「そうでしたっけ」
「覚えてないの!?」
しょうは笑う。
箒も少しだけ笑った。
***
夜。
セシリアはブルー・ティアーズの記録を開いていた。
今日の模擬戦。
敗北。
場外。
画面を戻す。
一夏の接近。
射撃。
ビット。
移動。
自分。
もう一度。
今度はエネルギー消費表示を重ねる。
四基展開。
射撃。
回避。
消費。
「……」
佐伯の言葉。
ビットを動かすのも無料じゃない。
セシリアは一基だけ非表示にする。
仮想計算。
次。
二基。
消費が変わる。
その代わり射線が減る。
「当然ですわね」
当たり前。
そんなことは知っていた。
だが。
知っていることと。
使い方を考えることは。
同じではない。
セシリアは今日の敗北記録を閉じなかった。
***
別の技術棟。
佐伯はしょう用素体の要求仕様案を開いていた。
今日の模擬戦データも端にある。
白式。
ブルー・ティアーズ。
専用機。
どちらも操縦者に合わせた機体。
どちらも強い。
どちらも万能ではない。
しょう用素体。
武装欄。
空白。
佐伯はその空白を見た。
消さない。
まだ必要ない。
次に飛行系統。
余裕度。
応答。
安全。
こちらは埋まっている。
「まずは飛べればいいか」
誰に聞かせるでもなく言う。
保存。
画面を閉じる。
その機体が、何をするための機体になるのか。
今はまだ。
誰も決めていなかった。
二次創作界隈でも珍しいだろう場外勝ち
ぶっちゃけ、作者も想定外でした
自分も読者として楽しめるのはAI執筆のメリットです笑