蒼穹の天駆翔 ~Learning to Fly~   作:sho_greenhouse

14 / 23
あらすじを書き換えました
これで読者が増えたらいいな~なんて


第11話 ことばの違い 1

翌朝。

 

一夏が教室へ入ると、何人かがこちらを見た。

 

昨日までにもあった視線。

 

ただ、少し種類が違う。

 

「織斑君」

 

「ん?」

 

「昨日すごかったね」

 

「ありがとう」

 

「オルコットさんに勝つなんて」

 

「あー」

 

一夏は鞄を机へ置く。

 

「でも、強かったのはオルコットだぞ」

 

「でも勝ったじゃん」

 

「勝ったけど」

 

どう説明すればいいのか分からない。

 

場外。

 

ルール上は自分の勝ち。

 

それは間違いない。

 

でも。

 

「もう一回やったら?」

 

聞かれる。

 

一夏は即答した。

 

「分からん」

 

「えー」

 

「昨日のやり方、もう知ってるし」

 

そこへ箒が来る。

 

「その程度は分かっているようだな」

 

「俺を何だと思ってるんだ」

 

「昨日までなら、もう一度同じことをやりそうだった」

 

「そこまでじゃないだろ!」

 

しょうも来る。

 

「おはようございます」

 

「おはよう」

 

席へ座る。

 

一夏が聞く。

 

「高瀬なら、もう一回やったらどっち勝つと思う?」

 

「また聞くんですか」

 

「今度は昨日見たから分かるかなって」

 

しょうは少し考える。

 

「分かりません」

 

「やっぱり?」

 

「だって」

 

教室の前方を見る。

 

セシリアの席。

 

まだ本人はいない。

 

「オルコットさんも、次は違うことするんじゃないですか?」

 

一夏が止まる。

 

「……だよな」

 

箒もセシリアの席を見る。

 

昨日負けた。

 

だから今日も昨日と同じ。

 

そんな理由はない。

 

***

 

セシリアは教室ではなく、アリーナにいた。

 

早朝。

 

ブルー・ティアーズを展開。

 

標的が四つ。

 

いつもなら四基。

 

今日は二基。

 

「開始してくださいな」

 

管制から返答。

 

『二基でよろしいんですか?』

 

「ええ」

 

『了解』

 

開始。

 

一基目。

 

右。

 

二基目。

 

左。

 

セシリア本体は中央。

 

標的が動く。

 

一基目。

 

射撃。

 

二基目。

 

射撃。

 

次。

 

本体。

 

射撃。

 

動く。

 

昨日までより忙しくない。

 

当然だった。

 

見るものが減っている。

 

考えるものも減っている。

 

「……楽ですわね」

 

『何か?』

 

「独り言ですわ」

 

次。

 

二基で挟む。

 

射撃。

 

標的が逃げる。

 

追う。

 

二基。

 

射撃。

 

外れる。

 

別方向へ標的。

 

本体が対応。

 

遅れる。

 

「終了」

 

セシリアが止まる。

 

記録。

 

命中率。

 

悪くない。

 

本体回避。

 

昨日より僅かに良い。

 

エネルギー消費。

 

減っている。

 

その代わり。

 

「逃がしていますわね」

 

『四基使用時より進路制限率が落ちています』

 

「当然でしょう」

 

セシリアは画面を見る。

 

二基では足りない。

 

違う。

 

二基だから足りないのではない。

 

使い方。

 

「もう一度」

 

『二基で?』

 

セシリアは少し考える。

 

「三基」

 

***

 

一基増える。

 

開始。

 

今度は三基とも撃たない。

 

一基。

 

正面。

 

二基。

 

左右。

 

標的が動く。

 

右へ。

 

右側のビットは撃たない。

 

そこにいるだけ。

 

左から射撃。

 

標的が右へ逃げようとする。

 

ビット。

 

進路変更。

 

中央。

 

セシリア本体。

 

射撃。

 

命中。

 

「……」

 

次。

 

同じ。

 

今度は失敗。

 

標的が上へ抜ける。

 

「もう一度」

 

繰り返す。

 

三回。

 

四回。

 

五回。

 

記録が溜まる。

 

「終了してください」

 

着地。

 

ブルー・ティアーズ解除。

 

セシリアは画面を見る。

 

三基。

 

射撃数は四基使用時より少ない。

 

命中率。

 

僅かに上。

 

エネルギー。

 

余裕あり。

 

「なるほど」

 

誰かが後ろから言った。

 

「昨日より弾数減ってるね」

 

セシリアが振り返る。

 

佐伯がいた。

 

「いつから?」

 

「最後の二回くらい」

 

「盗み見は趣味が悪くてよ」

 

「学園の訓練記録なので」

 

「それもそうですわね」

 

佐伯が画面を見る。

 

「節約?」

 

「違います」

 

セシリアは即答した。

 

「必要がありませんでしたの」

 

佐伯が見る。

 

セシリアは記録を指す。

 

「ここ」

 

一基のビット。

 

射撃ゼロ。

 

「撃ってない」

 

「ええ」

 

「何してたの?」

 

「そこにいましたわ」

 

佐伯が少し笑う。

 

「それだけ?」

 

「それだけです」

 

標的はその方向へ逃げなかった。

 

撃たなくても。

 

「なるほど」

 

佐伯はそれ以上言わない。

 

「何ですの」

 

「いや」

 

「何かおっしゃりたいのでしょう?」

 

「別に」

 

佐伯は時計を見る。

 

「授業遅れないようにね」

 

「分かっていますわ」

 

立ち去る。

 

セシリアは画面へ戻る。

 

四基ある。

 

だから四基使う。

 

昨日まで、それを疑っていなかった。

 

今日。

 

三基使った。

 

一基は格納したまま。

 

そして展開した三基のうち、一基は撃たなかった。

 

使える。

 

でも使わない。

 

セシリアは昨日の一夏を思い出す。

 

零落白夜。

 

使えるのに使わなかった。

 

当てられないから。

 

「……気に入りませんわね」

 

小さく呟く。

 

だが記録は保存した。

 

***

 

技術棟。

 

しょう用素体の要求仕様会議。

 

佐伯が戻ると、既に数人が集まっていた。

 

「遅いですよ」

 

「ちょっと面白いもの見てた」

 

「何です?」

 

「別件」

 

席につく。

 

画面。

 

昨日までの要求仕様。

 

飛行系。

 

応答。

 

安全管理。

 

拡張余裕。

 

そして空白。

 

武装。

 

「そろそろ決めません?」

 

技術者の一人が言う。

 

「何を」

 

「最低限の武装」

 

「いらない」

 

「でも専用機ですよ」

 

「専用機だから武器が必要なの?」

 

「普通は」

 

佐伯が画面を見る。

 

「普通の話してないでしょう」

 

相手が黙る。

 

別の技術者。

 

「シールドだけ?」

 

「標準防御はいる」

 

「近接武装一本くらい」

 

「何に使うの?」

 

「実戦訓練」

 

「高瀬さん、まだそこまで行ってない」

 

「いずれ行きます」

 

「いずれ必要になったら考える」

 

「後付けすると大変ですよ」

 

「だから後付けできるように作る」

 

画面に項目。

 

拡張性。

 

外部武装接続。

 

追加装備対応。

 

「載せる余白は作る」

 

佐伯が言う。

 

「でも今は載せない」

 

「空っぽですね」

 

「空っぽじゃない」

 

飛行。

 

応答。

 

安全。

 

操縦者監視。

 

調整幅。

 

「これだけある」

 

技術者が画面を見る。

 

「戦えませんよ」

 

「戦うために作ってないからね」

 

その言葉で一度、話が止まった。

 

佐伯は続ける。

 

「この機体の最初の仕事は、高瀬さんを安全に飛ばすこと」

 

「でも将来的には?」

 

「知らない」

 

「知らない?」

 

「本人が何をするようになるか、まだ分からない」

 

佐伯はしょうのデータを表示する。

 

初心者。

 

入学直後。

 

飛行経験。

 

僅か。

 

「今ここで武装を決めたら、機体に合わせて本人の使い方まで決めることになる」

 

「……なるほど」

 

「だから余白を残す」

 

画面。

 

武装欄。

 

『初期搭載なし』

 

確定。

 

その下。

 

『拡張領域確保』

 

「これで」

 

保存。

 

***

 

昼休み。

 

一夏は食堂でしょうと箒と一緒にいた。

 

少し遅れてセシリアが来る。

 

トレーを持ったまま止まる。

 

空席。

 

一夏の隣。

 

「ここ、いい?」

 

一夏が聞く。

 

「なぜあなたが許可を出しますの」

 

「いや、空いてるから」

 

セシリアは少し迷って座った。

 

箒が見る。

 

「珍しいな」

 

「何がですの」

 

「お前がこちらへ来るのが」

 

「空いていたからです」

 

一夏が箒を見る。

 

「同じこと言ってるじゃん」

 

「黙って食べなさい」

 

食事。

 

少し沈黙。

 

一夏が耐えられなくなる。

 

「今日、朝練してた?」

 

セシリアの手が止まる。

 

「なぜ知っていますの」

 

「友達がアリーナの方で見たって」

 

「しましたわ」

 

「何やった?」

 

「なぜ教える必要がありますの」

 

「気になる」

 

「次に戦う時の情報を、相手へ渡せと?」

 

一夏が止まる。

 

「あ」

 

箒が呆れる。

 

「馬鹿か」

 

「聞くだけならただだろ」

 

しょうが言う。

 

「財布減らないですね」

 

一夏が笑う。

 

セシリアがしょうを見る。

 

「あなたまでそれを使いますの?」

 

「便利なので」

 

「流行らせるな」

 

箒。

 

セシリアは少しだけ口元を緩める。

 

「ビットですわ」

 

一夏が見る。

 

「教えてくれるの?」

 

「全ては教えません」

 

「はい」

 

「数を変えていましたの」

 

「四つじゃなくて?」

 

「ええ」

 

一夏が少し考える。

 

「減らした?」

 

セシリアの目が変わる。

 

「違います」

 

一夏が止まる。

 

「使わなかったんですの」

 

しょうがセシリアを見る。

 

箒も。

 

「同じでは?」

 

一夏。

 

「違いますわ」

 

「どう違う?」

 

「四基あることは変わりません」

 

セシリアは箸を置く。

 

「必要なら四基使います。必要がなければ三基。二基。一基」

 

「ゼロも?」

 

しょうが聞く。

 

セシリアは少し考える。

 

「必要がなければ」

 

「なるほど」

 

しょうは食事へ戻る。

 

一夏がまだ考えている。

 

「武器なのに?」

 

「あなた」

 

セシリアが一夏を見る。

 

「昨日、零落白夜を使いませんでしたわね」

 

「ああ」

 

「武器なのに?」

 

一夏が止まる。

 

「……そういうことか」

 

「そういうことです」

 

箒が二人を見る。

 

「お前たち、昨日戦ったばかりだろう」

 

「だからですわ」

 

セシリアは普通に答えた。

 

一夏も頷く。

 

「戦ったから分かったことあるし」

 

箒は少し黙る。

 

「……そうか」

 

食事が続く。

 

しょうがふと聞く。

 

「ビットって難しい?」

 

セシリアが見る。

 

「難しいですわ」

 

「四つ全部、自分で?」

 

「当然です」

 

「大変ですね」

 

「慣れます」

 

「勝手に動いたら楽なのに」

 

セシリアの箸が止まる。

 

一夏も。

 

箒も。

 

しょうは食べている。

 

「……高瀬さん」

 

「はい?」

 

「それが出来れば苦労しませんわ」

 

「そうなんですか」

 

「そうです」

 

話はそこで終わった。

 

誰も、その言葉を特別なものとして扱わなかった。

 

***

 

午後。

 

技術棟。

 

佐伯の端末に新しい通知。

 

しょう用素体。

 

要求仕様案、一次承認。

 

次工程。

 

基礎設計検討。

 

佐伯が開く。

 

機体名称。

 

未定。

 

武装。

 

初期搭載なし。

 

飛行系。

 

優先。

 

応答。

 

優先。

 

安全管理。

 

優先。

 

拡張性。

 

確保。

 

そして。

 

制御系。

 

まだ空白が多い。

 

佐伯は昼休みのことを知らない。

 

しょうが何気なく言った言葉も知らない。

 

勝手に動いたら楽なのに。

 

今の設計には、そんな機能はない。

 

必要もない。

 

まだ。

 

素体はただ。

 

しょうが動こうとした時。

 

遅れず。

 

無理をせず。

 

必要なら止めて。

 

安全に飛べる。

 

それだけを目指していた。

 

それ以外は。

 

まだ全部、余白だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。