蒼穹の天駆翔 ~Learning to Fly~ 作:sho_greenhouse
これで読者が増えたらいいな~なんて
翌朝。
一夏が教室へ入ると、何人かがこちらを見た。
昨日までにもあった視線。
ただ、少し種類が違う。
「織斑君」
「ん?」
「昨日すごかったね」
「ありがとう」
「オルコットさんに勝つなんて」
「あー」
一夏は鞄を机へ置く。
「でも、強かったのはオルコットだぞ」
「でも勝ったじゃん」
「勝ったけど」
どう説明すればいいのか分からない。
場外。
ルール上は自分の勝ち。
それは間違いない。
でも。
「もう一回やったら?」
聞かれる。
一夏は即答した。
「分からん」
「えー」
「昨日のやり方、もう知ってるし」
そこへ箒が来る。
「その程度は分かっているようだな」
「俺を何だと思ってるんだ」
「昨日までなら、もう一度同じことをやりそうだった」
「そこまでじゃないだろ!」
しょうも来る。
「おはようございます」
「おはよう」
席へ座る。
一夏が聞く。
「高瀬なら、もう一回やったらどっち勝つと思う?」
「また聞くんですか」
「今度は昨日見たから分かるかなって」
しょうは少し考える。
「分かりません」
「やっぱり?」
「だって」
教室の前方を見る。
セシリアの席。
まだ本人はいない。
「オルコットさんも、次は違うことするんじゃないですか?」
一夏が止まる。
「……だよな」
箒もセシリアの席を見る。
昨日負けた。
だから今日も昨日と同じ。
そんな理由はない。
***
セシリアは教室ではなく、アリーナにいた。
早朝。
ブルー・ティアーズを展開。
標的が四つ。
いつもなら四基。
今日は二基。
「開始してくださいな」
管制から返答。
『二基でよろしいんですか?』
「ええ」
『了解』
開始。
一基目。
右。
二基目。
左。
セシリア本体は中央。
標的が動く。
一基目。
射撃。
二基目。
射撃。
次。
本体。
射撃。
動く。
昨日までより忙しくない。
当然だった。
見るものが減っている。
考えるものも減っている。
「……楽ですわね」
『何か?』
「独り言ですわ」
次。
二基で挟む。
射撃。
標的が逃げる。
追う。
二基。
射撃。
外れる。
別方向へ標的。
本体が対応。
遅れる。
「終了」
セシリアが止まる。
記録。
命中率。
悪くない。
本体回避。
昨日より僅かに良い。
エネルギー消費。
減っている。
その代わり。
「逃がしていますわね」
『四基使用時より進路制限率が落ちています』
「当然でしょう」
セシリアは画面を見る。
二基では足りない。
違う。
二基だから足りないのではない。
使い方。
「もう一度」
『二基で?』
セシリアは少し考える。
「三基」
***
一基増える。
開始。
今度は三基とも撃たない。
一基。
正面。
二基。
左右。
標的が動く。
右へ。
右側のビットは撃たない。
そこにいるだけ。
左から射撃。
標的が右へ逃げようとする。
ビット。
進路変更。
中央。
セシリア本体。
射撃。
命中。
「……」
次。
同じ。
今度は失敗。
標的が上へ抜ける。
「もう一度」
繰り返す。
三回。
四回。
五回。
記録が溜まる。
「終了してください」
着地。
ブルー・ティアーズ解除。
セシリアは画面を見る。
三基。
射撃数は四基使用時より少ない。
命中率。
僅かに上。
エネルギー。
余裕あり。
「なるほど」
誰かが後ろから言った。
「昨日より弾数減ってるね」
セシリアが振り返る。
佐伯がいた。
「いつから?」
「最後の二回くらい」
「盗み見は趣味が悪くてよ」
「学園の訓練記録なので」
「それもそうですわね」
佐伯が画面を見る。
「節約?」
「違います」
セシリアは即答した。
「必要がありませんでしたの」
佐伯が見る。
セシリアは記録を指す。
「ここ」
一基のビット。
射撃ゼロ。
「撃ってない」
「ええ」
「何してたの?」
「そこにいましたわ」
佐伯が少し笑う。
「それだけ?」
「それだけです」
標的はその方向へ逃げなかった。
撃たなくても。
「なるほど」
佐伯はそれ以上言わない。
「何ですの」
「いや」
「何かおっしゃりたいのでしょう?」
「別に」
佐伯は時計を見る。
「授業遅れないようにね」
「分かっていますわ」
立ち去る。
セシリアは画面へ戻る。
四基ある。
だから四基使う。
昨日まで、それを疑っていなかった。
今日。
三基使った。
一基は格納したまま。
そして展開した三基のうち、一基は撃たなかった。
使える。
でも使わない。
セシリアは昨日の一夏を思い出す。
零落白夜。
使えるのに使わなかった。
当てられないから。
「……気に入りませんわね」
小さく呟く。
だが記録は保存した。
***
技術棟。
しょう用素体の要求仕様会議。
佐伯が戻ると、既に数人が集まっていた。
「遅いですよ」
「ちょっと面白いもの見てた」
「何です?」
「別件」
席につく。
画面。
昨日までの要求仕様。
飛行系。
応答。
安全管理。
拡張余裕。
そして空白。
武装。
「そろそろ決めません?」
技術者の一人が言う。
「何を」
「最低限の武装」
「いらない」
「でも専用機ですよ」
「専用機だから武器が必要なの?」
「普通は」
佐伯が画面を見る。
「普通の話してないでしょう」
相手が黙る。
別の技術者。
「シールドだけ?」
「標準防御はいる」
「近接武装一本くらい」
「何に使うの?」
「実戦訓練」
「高瀬さん、まだそこまで行ってない」
「いずれ行きます」
「いずれ必要になったら考える」
「後付けすると大変ですよ」
「だから後付けできるように作る」
画面に項目。
拡張性。
外部武装接続。
追加装備対応。
「載せる余白は作る」
佐伯が言う。
「でも今は載せない」
「空っぽですね」
「空っぽじゃない」
飛行。
応答。
安全。
操縦者監視。
調整幅。
「これだけある」
技術者が画面を見る。
「戦えませんよ」
「戦うために作ってないからね」
その言葉で一度、話が止まった。
佐伯は続ける。
「この機体の最初の仕事は、高瀬さんを安全に飛ばすこと」
「でも将来的には?」
「知らない」
「知らない?」
「本人が何をするようになるか、まだ分からない」
佐伯はしょうのデータを表示する。
初心者。
入学直後。
飛行経験。
僅か。
「今ここで武装を決めたら、機体に合わせて本人の使い方まで決めることになる」
「……なるほど」
「だから余白を残す」
画面。
武装欄。
『初期搭載なし』
確定。
その下。
『拡張領域確保』
「これで」
保存。
***
昼休み。
一夏は食堂でしょうと箒と一緒にいた。
少し遅れてセシリアが来る。
トレーを持ったまま止まる。
空席。
一夏の隣。
「ここ、いい?」
一夏が聞く。
「なぜあなたが許可を出しますの」
「いや、空いてるから」
セシリアは少し迷って座った。
箒が見る。
「珍しいな」
「何がですの」
「お前がこちらへ来るのが」
「空いていたからです」
一夏が箒を見る。
「同じこと言ってるじゃん」
「黙って食べなさい」
食事。
少し沈黙。
一夏が耐えられなくなる。
「今日、朝練してた?」
セシリアの手が止まる。
「なぜ知っていますの」
「友達がアリーナの方で見たって」
「しましたわ」
「何やった?」
「なぜ教える必要がありますの」
「気になる」
「次に戦う時の情報を、相手へ渡せと?」
一夏が止まる。
「あ」
箒が呆れる。
「馬鹿か」
「聞くだけならただだろ」
しょうが言う。
「財布減らないですね」
一夏が笑う。
セシリアがしょうを見る。
「あなたまでそれを使いますの?」
「便利なので」
「流行らせるな」
箒。
セシリアは少しだけ口元を緩める。
「ビットですわ」
一夏が見る。
「教えてくれるの?」
「全ては教えません」
「はい」
「数を変えていましたの」
「四つじゃなくて?」
「ええ」
一夏が少し考える。
「減らした?」
セシリアの目が変わる。
「違います」
一夏が止まる。
「使わなかったんですの」
しょうがセシリアを見る。
箒も。
「同じでは?」
一夏。
「違いますわ」
「どう違う?」
「四基あることは変わりません」
セシリアは箸を置く。
「必要なら四基使います。必要がなければ三基。二基。一基」
「ゼロも?」
しょうが聞く。
セシリアは少し考える。
「必要がなければ」
「なるほど」
しょうは食事へ戻る。
一夏がまだ考えている。
「武器なのに?」
「あなた」
セシリアが一夏を見る。
「昨日、零落白夜を使いませんでしたわね」
「ああ」
「武器なのに?」
一夏が止まる。
「……そういうことか」
「そういうことです」
箒が二人を見る。
「お前たち、昨日戦ったばかりだろう」
「だからですわ」
セシリアは普通に答えた。
一夏も頷く。
「戦ったから分かったことあるし」
箒は少し黙る。
「……そうか」
食事が続く。
しょうがふと聞く。
「ビットって難しい?」
セシリアが見る。
「難しいですわ」
「四つ全部、自分で?」
「当然です」
「大変ですね」
「慣れます」
「勝手に動いたら楽なのに」
セシリアの箸が止まる。
一夏も。
箒も。
しょうは食べている。
「……高瀬さん」
「はい?」
「それが出来れば苦労しませんわ」
「そうなんですか」
「そうです」
話はそこで終わった。
誰も、その言葉を特別なものとして扱わなかった。
***
午後。
技術棟。
佐伯の端末に新しい通知。
しょう用素体。
要求仕様案、一次承認。
次工程。
基礎設計検討。
佐伯が開く。
機体名称。
未定。
武装。
初期搭載なし。
飛行系。
優先。
応答。
優先。
安全管理。
優先。
拡張性。
確保。
そして。
制御系。
まだ空白が多い。
佐伯は昼休みのことを知らない。
しょうが何気なく言った言葉も知らない。
勝手に動いたら楽なのに。
今の設計には、そんな機能はない。
必要もない。
まだ。
素体はただ。
しょうが動こうとした時。
遅れず。
無理をせず。
必要なら止めて。
安全に飛べる。
それだけを目指していた。
それ以外は。
まだ全部、余白だった。