蒼穹の天駆翔 ~Learning to Fly~   作:sho_greenhouse

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今日は一挙6話投稿です
こんなこともあります笑


第15話 翻訳 1

数日後。

 

第三アリーナ。

 

しょうは訓練機を装着していた。

 

飛ばない。

 

目の前には、小さな訓練用ドローンが一機。

 

「今日はこれだけ」

 

佐伯の声。

 

『これ?』

 

「これ」

 

『飛ばすの?』

 

「飛ばさない」

 

『また?』

 

「そんな残念そうにしないで」

 

『してない』

 

「してるよ」

 

管制室で技術者が笑う。

 

佐伯は画面を見る。

 

いつもの訓練機。

 

ただし。

 

一か所だけ違う。

 

操縦者。

 

機体。

 

その間。

 

実験用中間処理。

 

『翻訳試験系・01』

 

大げさな名前。

 

やることは小さい。

 

「高瀬さん」

 

『はい』

 

「ドローンの位置、分かる?」

 

しょうの正面。

 

『前』

 

「それは見えてるね」

 

『はい』

 

「じゃあ目を閉じて」

 

しょうが閉じる。

 

ドローンを移動。

 

右。

 

「どこ?」

 

『分かりません』

 

「了解」

 

次。

 

左。

 

『分かりません』

 

後ろ。

 

『分かりません』

 

佐伯が頷く。

 

「普通ですね」

 

技術者。

 

「普通だね」

 

「じゃあ入れます」

 

翻訳試験系。

 

起動。

 

***

 

何も起きない。

 

しょうが目を閉じたまま聞く。

 

『何かした?』

 

「した」

 

『分からない』

 

「それでいい」

 

ドローン。

 

右。

 

「どこ?」

 

少し間。

 

『右?』

 

当たり。

 

左。

 

『左』

 

後ろ。

 

しょうが迷う。

 

『……後ろ?』

 

当たり。

 

「もう一回」

 

右後方。

 

『右……後ろ』

 

「距離は?」

 

『分からない』

 

ドローンを近づける。

 

『近くなった』

 

遠ざける。

 

『遠くなった』

 

技術者が佐伯を見る。

 

「通ってます」

 

「まだ」

 

「でも」

 

「偶然を消す」

 

試行。

 

十回。

 

二十回。

 

方向。

 

正答率。

 

上昇。

 

距離。

 

粗い。

 

高さ。

 

ほぼ分からない。

 

「止める」

 

翻訳試験系。

 

停止。

 

ドローン。

 

右。

 

「どこ?」

 

しょうが黙る。

 

『……分からない』

 

左。

 

『分からない』

 

再起動。

 

右。

 

『右』

 

停止。

 

『分からない』

 

起動。

 

『左』

 

佐伯が腕を組む。

 

「再現した」

 

***

 

しょうが目を開ける。

 

『何したの?』

 

「ちょっと翻訳した」

 

『何を?』

 

「ドローンの位置」

 

『しゃべってないよ』

 

「言葉じゃないからね」

 

『じゃあ何?』

 

佐伯が困る。

 

「それを今調べてる」

 

しょうはドローンを見る。

 

『変な感じ』

 

「どんな?」

 

『分からない』

 

「嫌?」

 

少し考える。

 

『嫌ではない』

 

「気持ち悪い?」

 

『それもない』

 

「疲れる?」

 

『今は』

 

「頭痛」

 

『ない』

 

「目眩」

 

『ない』

 

「吐き気」

 

『ない』

 

「分かった」

 

佐伯は記録する。

 

「今日はここまで」

 

『もう?』

 

「もう」

 

『飛んでない』

 

「今日は飛ばない日」

 

『最近多い』

 

「そのうち飛ばす」

 

『いつ?』

 

「安全が確認できたら」

 

しょうは少し黙る。

 

『分かりました』

 

***

 

解除後。

 

しょうは管制室へ来た。

 

画面に結果。

 

「これ私?」

 

「そう」

 

「何点?」

 

「テストじゃない」

 

「でも丸とバツある」

 

「正解率を見るため」

 

しょうが見る。

 

翻訳系停止時。

 

低い。

 

起動時。

 

高い。

 

「カンが良くなった?」

 

「それも違うと思う」

 

「じゃあ?」

 

佐伯は少し考える。

 

「ISが知ってることを、高瀬さんにも少しだけ分かる形にした」

 

「それが翻訳?」

 

「今のところは」

 

しょうが画面を見る。

 

「便利ですね」

 

「便利?」

 

「後ろ見なくていい」

 

「そこなんだ」

 

「飛ぶ時に便利」

 

佐伯は少し笑う。

 

「飛びたいんだね」

 

「飛びたい」

 

即答。

 

佐伯は記録にそれを書かなかった。

 

***

 

同じ時間。

 

第一アリーナ。

 

「二人一組!」

 

千冬の声が響く。

 

一夏が箒を見る。

 

「組む?」

 

「構わん」

 

セシリアが横から言う。

 

「待ちなさい」

 

二人が見る。

 

「何?」

 

「今日は追跡訓練でしょう?」

 

「そうだけど」

 

「織斑さん。わたくしと組みなさい」

 

一夏が箒を見る。

 

箒もセシリアを見る。

 

「なぜだ」

 

「昨日の再戦ではありませんわ」

 

「まだ何も言ってない」

 

「顔に書いてあります」

 

箒が一夏を見る。

 

「行け」

 

「いいの?」

 

「私は別を探す」

 

「悪い」

 

セシリアが先に歩く。

 

「早くなさい」

 

「はいはい」

 

***

 

訓練開始。

 

セシリア先行。

 

一夏追跡。

 

ブルー・ティアーズ。

 

ただし。

 

ビットは二基。

 

一夏が気づく。

 

「二つ?」

 

『よそ見しない』

 

「はい!」

 

セシリアが加速。

 

一夏が追う。

 

右。

 

左。

 

上。

 

一夏は以前より飛べる。

 

それでもセシリアの方が滑らか。

 

「待て!」

 

『待つ訓練ではありませんわ』

 

旋回。

 

一夏が膨らむ。

 

距離が開く。

 

追う。

 

ビット一基。

 

一夏の右。

 

撃たない。

 

「……邪魔だな」

 

『何か?』

 

「いや」

 

左へ逃げる。

 

セシリアも左。

 

もう一基。

 

前。

 

撃たない。

 

「これ!」

 

進路が狭い。

 

セシリア自身を追いたい。

 

でもビットがいる。

 

攻撃されていない。

 

なのに。

 

動ける場所が減る。

 

「オルコット!」

 

『何ですの』

 

「撃たないの?」

 

『必要ありませんもの』

 

一夏が笑う。

 

「それか!」

 

『何がですの』

 

「いや、分かった!」

 

『何も分かっていませんわよ』

 

セシリアが急旋回。

 

一夏が遅れる。

 

距離。

 

規定値を超える。

 

終了。

 

***

 

着地。

 

一夏が白式を解除する。

 

「負けた」

 

「勝負ではありませんわ」

 

「でも追いつけなかった」

 

「当然です」

 

「言うなあ」

 

セシリアも解除。

 

一夏がビットを見る。

 

「二つしか使わなかったな」

 

「二つで足りましたから」

 

「四つ使ったらもっと楽じゃない?」

 

「いいえ」

 

セシリアは即答する。

 

「四基使えば、四基分考える必要があります」

 

「でも強い」

 

「必要なら」

 

一夏が少し止まる。

 

セシリアは続ける。

 

「必要になるまで、使いません」

 

一夏は昨日の自分を思い出す。

 

零落白夜。

 

使える。

 

でも使わなかった。

 

「似てきたな」

 

「誰に?」

 

「俺」

 

セシリアの眉が動く。

 

「撤回なさい」

 

「なんで!?」

 

***

 

授業終了後。

 

箒が一夏へ近づく。

 

「どうだった」

 

「全然追いつけない」

 

「見れば分かる」

 

「でも面白かった」

 

「何が」

 

「オルコットのビット」

 

箒も見ていた。

 

「以前と違うな」

 

「撃たないんだよ」

 

「見れば分かる」

 

「さっきからそればっかりだな」

 

箒は少し考える。

 

「置いているだけで邪魔になる」

 

「そう」

 

「剣と同じか」

 

一夏が見る。

 

「剣?」

 

「抜かなくても、持っていれば相手は警戒する」

 

「なるほど」

 

「必ず振る必要はない」

 

一夏が少し笑う。

 

「箒も財布の話してる?」

 

「していない!」

 

***

 

放課後。

 

技術棟。

 

しょうの試験結果が会議画面に表示されていた。

 

翻訳試験系・01。

 

できること。

 

一つ。

 

訓練機のレーダーが取得した対象の方向情報。

 

それを。

 

視覚表示ではなく。

 

音声でもなく。

 

しょうが認識できる形式へ変換する。

 

「何に変換してるんです?」

 

技術者の一人が聞く。

 

「まだ分からない」

 

佐伯。

 

「分からないものを作ったんですか」

 

「入力と出力は分かってる」

 

画面。

 

入力。

 

対象方位。

 

出力。

 

しょうの認識。

 

その間。

 

「ここだけ分からない」

 

『翻訳』

 

「ブラックボックスですね」

 

「今はね」

 

別の技術者。

 

「情報量増やします?」

 

「増やさない」

 

即答。

 

「方向だけで再現した」

 

「はい」

 

「次は同じ条件でもう一度」

 

「それから?」

 

「距離」

 

「速度は?」

 

「その後」

 

「複数対象」

 

「もっと後」

 

技術者が笑う。

 

「慎重ですね」

 

「本人の頭に入れる情報だよ」

 

佐伯が答える。

 

「慎重なくらいでいい」

 

***

 

別画面。

 

しょう用素体。

 

基礎設計。

 

制御系。

 

今まで点線だった場所。

 

『翻訳層実験用インターフェース』

 

正式に追加。

 

ただし。

 

翻訳層そのものではない。

 

後から接続できる。

 

切り離せる。

 

異常があれば即座に標準系へ戻せる。

 

「専用機に最初から翻訳を入れないんですか」

 

「入れない」

 

「今日成功したのに?」

 

「一個だけね」

 

佐伯は画面を見る。

 

「一個分かったからって、全部分かったことにしない」

 

保存。

 

***

 

翌朝。

 

一夏が教室でしょうを見つける。

 

「昨日どうだった?」

 

「翻訳した」

 

「また?」

 

「うん」

 

「今度は何を?」

 

しょうが少し考える。

 

「右と左」

 

一夏が止まる。

 

「英語じゃん」

 

「違う」

 

「rightとleft?」

 

「違う」

 

箒が来る。

 

「朝から何の話だ」

 

一夏が答える。

 

「高瀬が右と左を翻訳したらしい」

 

「意味が分からん」

 

「私も」

 

しょうが言う。

 

セシリアも来る。

 

「高瀬さん」

 

「はい」

 

「昨日の続きですの?」

 

「はい」

 

「何が分かるようになったんです?」

 

「見なくても、どっちにいるか分かる」

 

セシリアが止まる。

 

「何が?」

 

「ドローン」

 

一夏。

 

「え?」

 

箒。

 

「どういう意味だ」

 

しょうが困る。

 

「だから」

 

少し考える。

 

右手を上げる。

 

「こっちにいたら、こっち」

 

左手。

 

「こっちなら、こっち」

 

一夏が笑う。

 

「全然説明できてない」

 

「難しい」

 

セシリアだけは笑わなかった。

 

「……一機ですの?」

 

「一機」

 

「動きます?」

 

「昨日は止まってた」

 

「距離は?」

 

「近い遠いはちょっと」

 

「高さ」

 

「分からない」

 

「複数は?」

 

「やってない」

 

セシリアは考える。

 

しょうが聞く。

 

「どうしたの?」

 

「いえ」

 

セシリアは自分の席を見る。

 

そして。

 

ブルー・ティアーズを思い出す。

 

四基。

 

自分で動かす。

 

一基ずつ。

 

位置を把握する。

 

指示する。

 

撃つ。

 

戻す。

 

しょうの言葉。

 

自分の手みたいな感じ。

 

「……まだ一機ですわね」

 

「うん」

 

セシリアは席へ向かう。

 

「何だったんだ?」

 

一夏。

 

しょうは首を傾げる。

 

「分かりません」

 

***

 

技術棟。

 

同じ頃。

 

次回試験項目が決まる。

 

対象。

 

一機。

 

情報。

 

方向。

 

距離。

 

まだ増やさない。

 

その下。

 

将来検討。

 

速度。

 

高度。

 

複数対象。

 

移動対象。

 

外部端末。

 

最後の項目には。

 

まだ誰もチェックを入れない。

 

『複数端末への意図出力』

 

今は。

 

一機のドローンが。

 

右にいるか。

 

左にいるか。

 

それだけでよかった。

 

翻訳は。

 

まだ一語目を覚えたばかりだった。

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