蒼穹の天駆翔 ~Learning to Fly~   作:sho_greenhouse

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第18話 翻訳 4

翌日。

 

第三アリーナ。

 

机の上に、二機のドローンが並んでいた。

 

A。

 

B。

 

今日は飛ばない。

 

ドローンも飛ばない。

 

しょうも飛ばない。

 

「地味」

 

しょうが言う。

 

「始まる前から言わないで」

 

佐伯が返す。

 

「昨日より地味」

 

「今日はもっと地味だよ」

 

「もっと?」

 

「ランプ点けるだけ」

 

しょうが二機を見る。

 

それぞれの上部に、小さな白いランプ。

 

「スイッチ押すの?」

 

「押さない」

 

「じゃあ?」

 

「高瀬さんが点ける」

 

しょうが佐伯を見る。

 

「どうやって?」

 

「それを調べる」

 

「また分からないやつ」

 

「そう」

 

「最近多い」

 

「研究だからね」

 

***

 

最初は普通にやる。

 

しょうの手元に二つのボタン。

 

A。

 

B。

 

「A」

 

しょうがAのボタンを押す。

 

Aのランプが点灯。

 

「B」

 

B。

 

点灯。

 

「両方」

 

二つ。

 

点灯。

 

「消して」

 

消灯。

 

「簡単」

 

「これはね」

 

佐伯は記録する。

 

入力。

 

ボタン。

 

対象指定。

 

点灯命令。

 

正常。

 

「次」

 

ボタンを外す。

 

しょうが見る。

 

「なくなった」

 

「ここから本番」

 

***

 

しょうは訓練機を装着する。

 

翻訳試験系。

 

起動。

 

まず。

 

機体からしょうへ。

 

A。

 

右。

 

B。

 

左。

 

「Aは?」

 

『右』

 

「B」

 

『左』

 

二機を入れ替える。

 

「A」

 

『左』

 

「B」

 

『右』

 

識別。

 

問題なし。

 

佐伯は一度、試験系を止める。

 

「ここまで昨日と同じ」

 

『はい』

 

「今度は逆をやる」

 

しょうが少し黙る。

 

『逆?』

 

「今までは、ISから高瀬さんへ教えてた」

 

『Aがどこにいるか』

 

「そう」

 

「今度は高瀬さんからISへ伝える」

 

『何を?』

 

佐伯は少し間を置く。

 

「Aを光らせたい、って」

 

しょうがドローンを見る。

 

『どうやって?』

 

「分からない」

 

『佐伯先生も?』

 

「分からない」

 

『じゃあ私もっと分からない』

 

「そうだよね」

 

技術者が横で笑う。

 

佐伯も笑う。

 

「だから最初は普通に考えていい」

 

『普通に?』

 

「A」

 

しょうが右を見る。

 

「光ってほしい」

 

『それだけ?』

 

「それだけ」

 

***

 

試験開始。

 

A。

 

右。

 

B。

 

左。

 

翻訳試験系。

 

受信側。

 

有効。

 

出力側。

 

試験接続。

 

ただし。

 

点灯回路だけ。

 

移動系。

 

切断。

 

推進系。

 

切断。

 

その他の外部出力。

 

すべて切断。

 

ランプ。

 

それだけ。

 

「準備いい?」

 

『はい』

 

「じゃあ」

 

少し間。

 

「Aを光らせて」

 

しょうがAを見る。

 

『……』

 

何も起きない。

 

五秒。

 

十秒。

 

『光れ』

 

何も起きない。

 

しょうが少し困る。

 

『光らない』

 

「うん」

 

『失敗?』

 

「まだ一回」

 

「もう一度」

 

しょうがAを見る。

 

『光って』

 

何も起きない。

 

三回。

 

四回。

 

五回。

 

点かない。

 

***

 

休憩。

 

しょうが訓練機を解除する。

 

「難しい」

 

「何してた?」

 

佐伯が聞く。

 

「Aに光れって」

 

「言ってた?」

 

「頭で」

 

「どんな感じ?」

 

「光れ」

 

「それだけ?」

 

「うん」

 

佐伯は記録を見る。

 

出力。

 

なし。

 

入力候補。

 

いくつか変化はある。

 

だが。

 

意図と呼べるほど明確ではない。

 

「やっぱり入力側は簡単じゃないですね」

 

技術者。

 

「うん」

 

しょうが聞く。

 

「私、IS動かせるのに?」

 

佐伯が見る。

 

「そうなんだよね」

 

「右に行ける」

 

「うん」

 

「上にも」

 

「うん」

 

「止まれる」

 

「うん」

 

「でも光れない」

 

「今はね」

 

しょうは少し考える。

 

「何が違うの?」

 

佐伯も考える。

 

「高瀬さんにとって」

 

「うん」

 

「IS本体は?」

 

しょうが見る。

 

「IS」

 

「ドローンは?」

 

「ドローン」

 

「それかも」

 

「何が?」

 

佐伯はまだ答えない。

 

***

 

午後。

 

試験再開。

 

今度はランプを一つだけにする。

 

Bを撤去。

 

Aのみ。

 

「一個なら?」

 

『分かりやすい』

 

「じゃあ同じこと」

 

A。

 

正面。

 

「光らせて」

 

しょうが見る。

 

『光れ』

 

点かない。

 

「高瀬さん」

 

『はい』

 

「右手上げて」

 

『え?』

 

「いいから」

 

しょうが右手を上げる。

 

「今、何て考えた?」

 

『右手上げる』

 

「本当に?」

 

しょうが少し考える。

 

『……考えてない』

 

「だよね」

 

『上げただけ』

 

「ISで右へ飛ぶ時は?」

 

『右へ行く』

 

「その時、右スラスターとか考えない」

 

『考えない』

 

「じゃあ」

 

佐伯はAを見る。

 

「光れ、って命令するのやめよう」

 

しょうが見る。

 

『じゃあどうするの?』

 

「Aのランプ」

 

「それが」

 

少し考える。

 

「高瀬さんのものだったら?」

 

『私の?』

 

「例えば」

 

佐伯が自分の手を上げる。

 

「右手みたいに」

 

しょうはAを見る。

 

『手じゃないよ』

 

「もちろん」

 

「でも昨日」

 

A。

 

移動。

 

「Aはどこへ行ってもAだった」

 

『うん』

 

「じゃあ今日は」

 

ランプ。

 

「Aの光るところまで、Aとして分かるか試す」

 

しょうが少し首を傾げる。

 

『分かるかな』

 

「分からなかったら終わり」

 

『はい』

 

***

 

翻訳試験系。

 

機体からしょうへ。

 

情報を一つ追加。

 

A。

 

識別。

 

位置。

 

その内部状態。

 

ただし。

 

ランプ状態のみ。

 

消灯。

 

「A」

 

『いる』

 

「ランプ」

 

長い沈黙。

 

『消えてる』

 

技術者が顔を上げる。

 

佐伯は手で止める。

 

もう一度。

 

管制側でランプ点灯。

 

「今は?」

 

『点いてる』

 

消灯。

 

『消えた』

 

点灯。

 

『点いた』

 

再現。

 

佐伯が記録する。

 

「よし」

 

『何が?』

 

「今日はここまででもいいくらい」

 

『まだ光らせてない』

 

「そうだった」

 

***

 

休憩。

 

しょうは訓練機のまま。

 

「今」

 

佐伯が聞く。

 

「Aのランプが点いてるか、消えてるか分かった」

 

『はい』

 

「どうやって?」

 

『Aがそうなってるから』

 

「またそれか」

 

『だめ?』

 

「いや」

 

佐伯は少し笑う。

 

「たぶん、それが大事」

 

「じゃあ次」

 

ランプ。

 

消灯。

 

「点けようとしないで」

 

『?』

 

「Aが点いてるところを」

 

少し考える。

 

「作ってみて」

 

『作る?』

 

「言い方難しいな」

 

しょうがAを見る。

 

佐伯はそれ以上説明しない。

 

待つ。

 

しょうも待つ。

 

A。

 

消灯。

 

しょう。

 

訓練機。

 

翻訳試験系。

 

入力側。

 

機体側。

 

出力側。

 

ランプ。

 

十秒。

 

何も起きない。

 

十五秒。

 

『……こう?』

 

小さな変化。

 

技術者が画面を見る。

 

「入力」

 

佐伯も見る。

 

まだ。

 

「待って」

 

しょうはAを見ている。

 

『これが』

 

少し間。

 

『点く』

 

ランプ。

 

一瞬。

 

白。

 

消える。

 

誰も喋らない。

 

しょうが目を瞬く。

 

『今、点いた?』

 

佐伯が記録を見る。

 

外部入力なし。

 

管制操作なし。

 

点灯命令。

 

翻訳試験系。

 

出力。

 

一回。

 

「点いた」

 

『私?』

 

佐伯はすぐには答えない。

 

ログを確認。

 

技術者も確認。

 

経路。

 

翻訳試験系。

 

対象。

 

A。

 

命令。

 

点灯。

 

「……高瀬さんから」

 

しょうがAを見る。

 

ランプはもう消えている。

 

『もう一回?』

 

「待って」

 

『はい』

 

「休憩」

 

『え』

 

「今の一回確認する」

 

『一回だけなのに?』

 

「一回だから」

 

***

 

管制室。

 

しょうは訓練機を解除して座っている。

 

佐伯たちはログを見ている。

 

しょうも画面を見る。

 

分からない。

 

「点いたね」

 

「点きましたね」

 

「管制入力」

 

「なし」

 

「物理スイッチ」

 

「なし」

 

「誤作動」

 

「ログ上は正規点灯命令です」

 

「発信元」

 

技術者が止まる。

 

表示。

 

翻訳試験系。

 

佐伯は椅子へ座る。

 

「一回」

 

「一回ですね」

 

「成功って書かない」

 

「じゃあ?」

 

「成立可能性」

 

入力。

 

『操縦者意図に基づく対象指定出力 一例確認。再現性未確認』

 

しょうが聞く。

 

「成功じゃないの?」

 

佐伯が振り返る。

 

「成功かもしれない」

 

「かもしれない」

 

「一回だから」

 

「じゃあ次も点いたら?」

 

「二回になる」

 

しょうが少し笑う。

 

「ずっとそれ?」

 

「研究ってそういうもの」

 

***

 

翌日。

 

再試験。

 

A。

 

一機。

 

ランプ。

 

消灯。

 

翻訳試験系。

 

起動。

 

「昨日と同じ」

 

『はい』

 

「Aを光らせて」

 

しょうが見る。

 

『光れ』

 

点かない。

 

佐伯は何も言わない。

 

しょうが少し考える。

 

『違った』

 

「何が?」

 

『昨日、光れってやってない』

 

「うん」

 

しょうがAを見る。

 

消灯。

 

『今は消えてる』

 

「うん」

 

少し間。

 

『じゃあ』

 

ランプ。

 

点灯。

 

しょうが笑う。

 

『点いた』

 

「点いたね」

 

消灯。

 

「もう一回」

 

しょうが見る。

 

点灯。

 

反応時間。

 

昨日より短い。

 

「もう一回」

 

点灯。

 

「停止」

 

翻訳試験系。

 

切断。

 

「高瀬さん」

 

『はい』

 

「同じことやって」

 

しょうがAを見る。

 

何も起きない。

 

『点かない』

 

「了解」

 

再接続。

 

点灯。

 

「止めよう」

 

***

 

技術棟。

 

会議室。

 

記録。

 

一日目。

 

一回。

 

二日目。

 

三回。

 

翻訳系停止。

 

ゼロ。

 

「再現しましたね」

 

技術者が言う。

 

佐伯は頷く。

 

「限定条件で」

 

ホワイトボード。

 

機体。

 

矢印。

 

しょう。

 

昨日までの経路。

 

その下。

 

しょう。

 

矢印。

 

機体。

 

新しい経路。

 

「これで」

 

技術者が言う。

 

「双方向」

 

佐伯は少し考える。

 

「最小構成では」

 

「慎重ですね」

 

「点いたのランプ一個だよ」

 

「でも返った」

 

「うん」

 

佐伯はそこだけ否定しなかった。

 

返った。

 

機体からしょうへ。

 

Aがいる。

 

Aは消えている。

 

しょうから機体へ。

 

Aは点く。

 

それだけ。

 

***

 

昼休み。

 

一夏が聞く。

 

「昨日は?」

 

「光らせた」

 

「何を?」

 

「ランプ」

 

「スイッチで?」

 

「違う」

 

「じゃあどうやって」

 

しょうが考える。

 

「翻訳」

 

一夏が止まる。

 

「……翻訳でランプが点くの?」

 

「点いた」

 

箒が見る。

 

「意味が分からん」

 

「私も最初分からなかった」

 

セシリアが食事の手を止める。

 

「高瀬さん」

 

「はい」

 

「どのランプを?」

 

「A」

 

「Bは?」

 

「昨日はAだけ」

 

「Aを選んで?」

 

「うん」

 

セシリアは少し黙る。

 

「どう命令しましたの?」

 

しょうが考える。

 

「命令してない」

 

「では?」

 

「点いてるAにした」

 

一夏が首を傾げる。

 

「同じじゃないの?」

 

「違う」

 

しょうは即答した。

 

「光れってやった時は点かなかった」

 

「じゃあ?」

 

「消えてるのが分かって」

 

右手を少し動かす。

 

「こう」

 

一夏。

 

「分からん」

 

箒。

 

「分からんな」

 

しょう。

 

「私も説明できない」

 

セシリアだけが少し考えていた。

 

「……手」

 

しょうが見る。

 

「え?」

 

「以前あなたが言ったでしょう」

 

自分の手みたいな感じ。

 

しょうも思い出す。

 

「ああ」

 

セシリアは自分の右手を見る。

 

「右手に『上がりなさい』と命令するのではない」

 

そのまま上げる。

 

「上げる」

 

一夏も自分の手を上げる。

 

「確かに」

 

箒が見る。

 

「何をしている」

 

「確認」

 

「食事中だ」

 

***

 

放課後。

 

セシリアはブルー・ティアーズを展開していた。

 

一基。

 

右。

 

二基目。

 

左。

 

セシリアは一基目を前へ。

 

二基目を後方へ。

 

自分で。

 

指示する。

 

位置を把握。

 

経路を決める。

 

必要なら射撃。

 

戻す。

 

二基。

 

まだ余裕。

 

三基目。

 

増える。

 

考えることも増える。

 

セシリアは動きを止める。

 

しょうは。

 

まだ一機。

 

ランプ一つ。

 

比較するには早すぎる。

 

それでも。

 

「点いているAにする」

 

小さく呟く。

 

自分なら。

 

一基目を右へ動かす。

 

そう考える。

 

命令。

 

実行。

 

しょうなら。

 

いつか。

 

「右にいる一基目にする」

 

そうなるのだろうか。

 

分からない。

 

セシリアは首を振る。

 

「まだ一個ですわ」

 

自分で言う。

 

一基目。

 

射撃。

 

標的。

 

命中。

 

今は自分の訓練へ戻る。

 

***

 

技術棟。

 

しょう用素体。

 

制御系。

 

『双方向翻訳層実験用インターフェース』

 

その項目から。

 

『実験用』

 

の文字は、まだ消えない。

 

武装。

 

なし。

 

外部端末。

 

なし。

 

翻訳層。

 

未完成。

 

それでも。

 

試験記録には初めて。

 

二本の矢印が並んだ。

 

機体から。

 

しょうへ。

 

しょうから。

 

機体へ。

 

その間にあるものを。

 

まだ誰も正確には説明できない。

 

ただ。

 

一つだけ確かなことが増えた。

 

翻訳は。

 

聞くだけではなかった。

 

返事もできた。

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