蒼穹の天駆翔 ~Learning to Fly~ 作:sho_greenhouse
翌日。
第三アリーナ。
机の上に、二機のドローンが並んでいた。
A。
B。
今日は飛ばない。
ドローンも飛ばない。
しょうも飛ばない。
「地味」
しょうが言う。
「始まる前から言わないで」
佐伯が返す。
「昨日より地味」
「今日はもっと地味だよ」
「もっと?」
「ランプ点けるだけ」
しょうが二機を見る。
それぞれの上部に、小さな白いランプ。
「スイッチ押すの?」
「押さない」
「じゃあ?」
「高瀬さんが点ける」
しょうが佐伯を見る。
「どうやって?」
「それを調べる」
「また分からないやつ」
「そう」
「最近多い」
「研究だからね」
***
最初は普通にやる。
しょうの手元に二つのボタン。
A。
B。
「A」
しょうがAのボタンを押す。
Aのランプが点灯。
「B」
B。
点灯。
「両方」
二つ。
点灯。
「消して」
消灯。
「簡単」
「これはね」
佐伯は記録する。
入力。
ボタン。
対象指定。
点灯命令。
正常。
「次」
ボタンを外す。
しょうが見る。
「なくなった」
「ここから本番」
***
しょうは訓練機を装着する。
翻訳試験系。
起動。
まず。
機体からしょうへ。
A。
右。
B。
左。
「Aは?」
『右』
「B」
『左』
二機を入れ替える。
「A」
『左』
「B」
『右』
識別。
問題なし。
佐伯は一度、試験系を止める。
「ここまで昨日と同じ」
『はい』
「今度は逆をやる」
しょうが少し黙る。
『逆?』
「今までは、ISから高瀬さんへ教えてた」
『Aがどこにいるか』
「そう」
「今度は高瀬さんからISへ伝える」
『何を?』
佐伯は少し間を置く。
「Aを光らせたい、って」
しょうがドローンを見る。
『どうやって?』
「分からない」
『佐伯先生も?』
「分からない」
『じゃあ私もっと分からない』
「そうだよね」
技術者が横で笑う。
佐伯も笑う。
「だから最初は普通に考えていい」
『普通に?』
「A」
しょうが右を見る。
「光ってほしい」
『それだけ?』
「それだけ」
***
試験開始。
A。
右。
B。
左。
翻訳試験系。
受信側。
有効。
出力側。
試験接続。
ただし。
点灯回路だけ。
移動系。
切断。
推進系。
切断。
その他の外部出力。
すべて切断。
ランプ。
それだけ。
「準備いい?」
『はい』
「じゃあ」
少し間。
「Aを光らせて」
しょうがAを見る。
『……』
何も起きない。
五秒。
十秒。
『光れ』
何も起きない。
しょうが少し困る。
『光らない』
「うん」
『失敗?』
「まだ一回」
「もう一度」
しょうがAを見る。
『光って』
何も起きない。
三回。
四回。
五回。
点かない。
***
休憩。
しょうが訓練機を解除する。
「難しい」
「何してた?」
佐伯が聞く。
「Aに光れって」
「言ってた?」
「頭で」
「どんな感じ?」
「光れ」
「それだけ?」
「うん」
佐伯は記録を見る。
出力。
なし。
入力候補。
いくつか変化はある。
だが。
意図と呼べるほど明確ではない。
「やっぱり入力側は簡単じゃないですね」
技術者。
「うん」
しょうが聞く。
「私、IS動かせるのに?」
佐伯が見る。
「そうなんだよね」
「右に行ける」
「うん」
「上にも」
「うん」
「止まれる」
「うん」
「でも光れない」
「今はね」
しょうは少し考える。
「何が違うの?」
佐伯も考える。
「高瀬さんにとって」
「うん」
「IS本体は?」
しょうが見る。
「IS」
「ドローンは?」
「ドローン」
「それかも」
「何が?」
佐伯はまだ答えない。
***
午後。
試験再開。
今度はランプを一つだけにする。
Bを撤去。
Aのみ。
「一個なら?」
『分かりやすい』
「じゃあ同じこと」
A。
正面。
「光らせて」
しょうが見る。
『光れ』
点かない。
「高瀬さん」
『はい』
「右手上げて」
『え?』
「いいから」
しょうが右手を上げる。
「今、何て考えた?」
『右手上げる』
「本当に?」
しょうが少し考える。
『……考えてない』
「だよね」
『上げただけ』
「ISで右へ飛ぶ時は?」
『右へ行く』
「その時、右スラスターとか考えない」
『考えない』
「じゃあ」
佐伯はAを見る。
「光れ、って命令するのやめよう」
しょうが見る。
『じゃあどうするの?』
「Aのランプ」
「それが」
少し考える。
「高瀬さんのものだったら?」
『私の?』
「例えば」
佐伯が自分の手を上げる。
「右手みたいに」
しょうはAを見る。
『手じゃないよ』
「もちろん」
「でも昨日」
A。
移動。
「Aはどこへ行ってもAだった」
『うん』
「じゃあ今日は」
ランプ。
「Aの光るところまで、Aとして分かるか試す」
しょうが少し首を傾げる。
『分かるかな』
「分からなかったら終わり」
『はい』
***
翻訳試験系。
機体からしょうへ。
情報を一つ追加。
A。
識別。
位置。
その内部状態。
ただし。
ランプ状態のみ。
消灯。
「A」
『いる』
「ランプ」
長い沈黙。
『消えてる』
技術者が顔を上げる。
佐伯は手で止める。
もう一度。
管制側でランプ点灯。
「今は?」
『点いてる』
消灯。
『消えた』
点灯。
『点いた』
再現。
佐伯が記録する。
「よし」
『何が?』
「今日はここまででもいいくらい」
『まだ光らせてない』
「そうだった」
***
休憩。
しょうは訓練機のまま。
「今」
佐伯が聞く。
「Aのランプが点いてるか、消えてるか分かった」
『はい』
「どうやって?」
『Aがそうなってるから』
「またそれか」
『だめ?』
「いや」
佐伯は少し笑う。
「たぶん、それが大事」
「じゃあ次」
ランプ。
消灯。
「点けようとしないで」
『?』
「Aが点いてるところを」
少し考える。
「作ってみて」
『作る?』
「言い方難しいな」
しょうがAを見る。
佐伯はそれ以上説明しない。
待つ。
しょうも待つ。
A。
消灯。
しょう。
訓練機。
翻訳試験系。
入力側。
機体側。
出力側。
ランプ。
十秒。
何も起きない。
十五秒。
『……こう?』
小さな変化。
技術者が画面を見る。
「入力」
佐伯も見る。
まだ。
「待って」
しょうはAを見ている。
『これが』
少し間。
『点く』
ランプ。
一瞬。
白。
消える。
誰も喋らない。
しょうが目を瞬く。
『今、点いた?』
佐伯が記録を見る。
外部入力なし。
管制操作なし。
点灯命令。
翻訳試験系。
出力。
一回。
「点いた」
『私?』
佐伯はすぐには答えない。
ログを確認。
技術者も確認。
経路。
翻訳試験系。
対象。
A。
命令。
点灯。
「……高瀬さんから」
しょうがAを見る。
ランプはもう消えている。
『もう一回?』
「待って」
『はい』
「休憩」
『え』
「今の一回確認する」
『一回だけなのに?』
「一回だから」
***
管制室。
しょうは訓練機を解除して座っている。
佐伯たちはログを見ている。
しょうも画面を見る。
分からない。
「点いたね」
「点きましたね」
「管制入力」
「なし」
「物理スイッチ」
「なし」
「誤作動」
「ログ上は正規点灯命令です」
「発信元」
技術者が止まる。
表示。
翻訳試験系。
佐伯は椅子へ座る。
「一回」
「一回ですね」
「成功って書かない」
「じゃあ?」
「成立可能性」
入力。
『操縦者意図に基づく対象指定出力 一例確認。再現性未確認』
しょうが聞く。
「成功じゃないの?」
佐伯が振り返る。
「成功かもしれない」
「かもしれない」
「一回だから」
「じゃあ次も点いたら?」
「二回になる」
しょうが少し笑う。
「ずっとそれ?」
「研究ってそういうもの」
***
翌日。
再試験。
A。
一機。
ランプ。
消灯。
翻訳試験系。
起動。
「昨日と同じ」
『はい』
「Aを光らせて」
しょうが見る。
『光れ』
点かない。
佐伯は何も言わない。
しょうが少し考える。
『違った』
「何が?」
『昨日、光れってやってない』
「うん」
しょうがAを見る。
消灯。
『今は消えてる』
「うん」
少し間。
『じゃあ』
ランプ。
点灯。
しょうが笑う。
『点いた』
「点いたね」
消灯。
「もう一回」
しょうが見る。
点灯。
反応時間。
昨日より短い。
「もう一回」
点灯。
「停止」
翻訳試験系。
切断。
「高瀬さん」
『はい』
「同じことやって」
しょうがAを見る。
何も起きない。
『点かない』
「了解」
再接続。
点灯。
「止めよう」
***
技術棟。
会議室。
記録。
一日目。
一回。
二日目。
三回。
翻訳系停止。
ゼロ。
「再現しましたね」
技術者が言う。
佐伯は頷く。
「限定条件で」
ホワイトボード。
機体。
矢印。
しょう。
昨日までの経路。
その下。
しょう。
矢印。
機体。
新しい経路。
「これで」
技術者が言う。
「双方向」
佐伯は少し考える。
「最小構成では」
「慎重ですね」
「点いたのランプ一個だよ」
「でも返った」
「うん」
佐伯はそこだけ否定しなかった。
返った。
機体からしょうへ。
Aがいる。
Aは消えている。
しょうから機体へ。
Aは点く。
それだけ。
***
昼休み。
一夏が聞く。
「昨日は?」
「光らせた」
「何を?」
「ランプ」
「スイッチで?」
「違う」
「じゃあどうやって」
しょうが考える。
「翻訳」
一夏が止まる。
「……翻訳でランプが点くの?」
「点いた」
箒が見る。
「意味が分からん」
「私も最初分からなかった」
セシリアが食事の手を止める。
「高瀬さん」
「はい」
「どのランプを?」
「A」
「Bは?」
「昨日はAだけ」
「Aを選んで?」
「うん」
セシリアは少し黙る。
「どう命令しましたの?」
しょうが考える。
「命令してない」
「では?」
「点いてるAにした」
一夏が首を傾げる。
「同じじゃないの?」
「違う」
しょうは即答した。
「光れってやった時は点かなかった」
「じゃあ?」
「消えてるのが分かって」
右手を少し動かす。
「こう」
一夏。
「分からん」
箒。
「分からんな」
しょう。
「私も説明できない」
セシリアだけが少し考えていた。
「……手」
しょうが見る。
「え?」
「以前あなたが言ったでしょう」
自分の手みたいな感じ。
しょうも思い出す。
「ああ」
セシリアは自分の右手を見る。
「右手に『上がりなさい』と命令するのではない」
そのまま上げる。
「上げる」
一夏も自分の手を上げる。
「確かに」
箒が見る。
「何をしている」
「確認」
「食事中だ」
***
放課後。
セシリアはブルー・ティアーズを展開していた。
一基。
右。
二基目。
左。
セシリアは一基目を前へ。
二基目を後方へ。
自分で。
指示する。
位置を把握。
経路を決める。
必要なら射撃。
戻す。
二基。
まだ余裕。
三基目。
増える。
考えることも増える。
セシリアは動きを止める。
しょうは。
まだ一機。
ランプ一つ。
比較するには早すぎる。
それでも。
「点いているAにする」
小さく呟く。
自分なら。
一基目を右へ動かす。
そう考える。
命令。
実行。
しょうなら。
いつか。
「右にいる一基目にする」
そうなるのだろうか。
分からない。
セシリアは首を振る。
「まだ一個ですわ」
自分で言う。
一基目。
射撃。
標的。
命中。
今は自分の訓練へ戻る。
***
技術棟。
しょう用素体。
制御系。
『双方向翻訳層実験用インターフェース』
その項目から。
『実験用』
の文字は、まだ消えない。
武装。
なし。
外部端末。
なし。
翻訳層。
未完成。
それでも。
試験記録には初めて。
二本の矢印が並んだ。
機体から。
しょうへ。
しょうから。
機体へ。
その間にあるものを。
まだ誰も正確には説明できない。
ただ。
一つだけ確かなことが増えた。
翻訳は。
聞くだけではなかった。
返事もできた。