蒼穹の天駆翔 ~Learning to Fly~   作:sho_greenhouse

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第19話 翻訳 5

翌日。

 

第三アリーナ。

 

ドローンが二機。

 

A。

 

B。

 

それぞれに小さなランプ。

 

しょうは訓練機を装着したまま、二機を見ていた。

 

『今日は二つ?』

 

「二つ」

 

『両方光らせる?』

 

「最終的には」

 

『最終的には?』

 

「まず一個」

 

しょうが少し考える。

 

『昨日も一個だった』

 

「今日はもう一個いる」

 

『いるだけ?』

 

「いるだけでも違うんだよ」

 

『地味』

 

「最近それ気に入ってる?」

 

『事実です』

 

管制室で技術者が笑った。

 

佐伯は試験系を確認する。

 

推進系。

 

切断。

 

移動制御。

 

切断。

 

外部出力。

 

ランプのみ。

 

A。

 

B。

 

個別接続。

 

「始めるよ」

 

『はい』

 

***

 

最初は受信。

 

翻訳試験系。

 

起動。

 

A。

 

右。

 

B。

 

左。

 

「A」

 

『右』

 

「B」

 

『左』

 

入れ替える。

 

「A」

 

『左』

 

「B」

 

『右』

 

次。

 

状態情報。

 

A。

 

消灯。

 

B。

 

点灯。

 

「A」

 

『消えてる』

 

「B」

 

『点いてる』

 

問題なし。

 

佐伯が頷く。

 

「じゃあ返す方」

 

Bを消灯。

 

二機とも消える。

 

「Aだけ点けて」

 

『はい』

 

しょうがAを見る。

 

少し間。

 

『……』

 

A。

 

点灯。

 

「停止」

 

ログ。

 

対象指定。

 

A。

 

点灯。

 

B。

 

出力なし。

 

「もう一度」

 

消灯。

 

AとBを入れ替える。

 

「Aだけ」

 

しょうが少し考える。

 

A。

 

点灯。

 

「B」

 

A消灯。

 

「今度はBだけ」

 

B。

 

点灯。

 

技術者が画面を見る。

 

「通ってます」

 

「まだ続ける」

 

***

 

十回。

 

対象を入れ替える。

 

点灯。

 

消灯。

 

A。

 

B。

 

ランダム。

 

八回目。

 

「Bだけ」

 

しょうが見る。

 

A。

 

一瞬だけ点灯。

 

すぐ消える。

 

その後。

 

B。

 

点灯。

 

「あ」

 

しょうが声を出す。

 

佐伯は止める。

 

「今、何した?」

 

『間違えた』

 

「何を?」

 

『Aが点いた』

 

「それは見てた」

 

『違う』

 

「何が違った?」

 

しょうが黙る。

 

『……先にAを見た』

 

「目で?」

 

『違う』

 

「じゃあ?」

 

『なんか』

 

少し考える。

 

『Aじゃないって思った』

 

佐伯が記録を見る。

 

対象指定。

 

最初。

 

A。

 

直後に解除。

 

次。

 

B。

 

「もう一回同じ条件」

 

『はい』

 

A。

 

左。

 

B。

 

右。

 

「Bだけ」

 

しょうが黙る。

 

B。

 

点灯。

 

正常。

 

「今は?」

 

『B』

 

「さっきと何が違った?」

 

『最初からBだった』

 

「……なるほど」

 

***

 

休憩。

 

しょうが訓練機を解除する。

 

机。

 

AとBの模型。

 

佐伯が並べる。

 

「さっき」

 

Aを指す。

 

「Bを点けようとして、Aが一瞬点いた」

 

「はい」

 

「機械側の誤作動ではなかった」

 

「私?」

 

「たぶん」

 

しょうが少し困った顔をする。

 

「ごめんなさい」

 

「謝るところじゃない」

 

「でも間違えた」

 

「だからいいんだよ」

 

「いいの?」

 

「間違えた時の方が分かることもある」

 

しょうは模型を見る。

 

佐伯が聞く。

 

「Bって言われた時、どうした?」

 

「Bを」

 

止まる。

 

「探した?」

 

「たぶん」

 

「その前に?」

 

「Aがいた」

 

「うん」

 

「Aじゃない」

 

しょうはBを見る。

 

「こっち」

 

佐伯が頷く。

 

「それで一瞬Aへ出力が行った」

 

「じゃあAを考えたら駄目?」

 

「分からない」

 

「でも間違えた」

 

「一回ね」

 

「また一回」

 

「そう」

 

しょうが少し笑う。

 

***

 

午後。

 

条件を変える。

 

AとB。

 

位置は固定。

 

佐伯が言う。

 

「今度は急がなくていい」

 

『はい』

 

「Bを点けて」

 

しょうが見る。

 

何も起きない。

 

三秒。

 

B。

 

点灯。

 

「今、何考えた?」

 

『B』

 

「Aは?」

 

『考えないようにした』

 

「それ、難しい?」

 

『ちょっと』

 

「じゃあ次」

 

消灯。

 

「A」

 

A。

 

点灯。

 

反応。

 

速い。

 

「B」

 

B。

 

点灯。

 

少し遅い。

 

「もう一回A」

 

A。

 

速い。

 

「B」

 

遅い。

 

技術者が見る。

 

「差ありますね」

 

「うん」

 

しょうにも聞く。

 

「AとB、どっちが楽?」

 

『A』

 

「なんで?」

 

『昨日からAばっかりやってたから?』

 

佐伯が止まる。

 

技術者も。

 

「……あり得るな」

 

「学習?」

 

「まだ言わない」

 

しょうが通信越しに言う。

 

『また一回?』

 

「今回は何回かある」

 

『じゃあ言っていい?』

 

「まだ」

 

『厳しい』

 

***

 

別の試験。

 

今度は。

 

A。

 

B。

 

ではなく。

 

しょうに選ばせる。

 

「どっちでもいい」

 

『何が?』

 

「先に点ける方」

 

しょうが二機を見る。

 

『A』

 

「じゃあA」

 

点灯。

 

「次」

 

『B』

 

点灯。

 

「今度は僕が言わない」

 

『自分で?』

 

「うん」

 

「どっちか一つを点けて」

 

少し間。

 

A。

 

点灯。

 

「もう一回」

 

消灯。

 

B。

 

点灯。

 

「もう一回」

 

A。

 

点灯。

 

反応時間。

 

明らかに短い。

 

技術者が顔を上げる。

 

「指示された時より速い」

 

佐伯も見ている。

 

「そうだね」

 

「対象選択の処理?」

 

「かもしれない」

 

通信。

 

「高瀬さん」

 

『はい』

 

「今、自分で選んだ時は何考えてた?」

 

『どっち点けようかなって』

 

「決めた後は?」

 

『点けた』

 

「『点けろ』じゃなくて?」

 

『うん』

 

「Aを探した?」

 

『見つけてたから』

 

「Bは?」

 

『Bもいる』

 

「でも混ざらなかった」

 

『うん』

 

佐伯は記録する。

 

しょうが聞く。

 

『上手くなった?』

 

その質問に。

 

佐伯は少し止まった。

 

「……たぶん」

 

『たぶん?』

 

「今日は言っていいと思う」

 

しょうが少し笑う。

 

『やった』

 

***

 

管制室。

 

休憩。

 

今日の記録が並ぶ。

 

指示あり。

 

対象選択。

 

出力。

 

自主選択。

 

対象選択。

 

出力。

 

反応時間。

 

誤出力。

 

「面白いですね」

 

技術者が言う。

 

「何が?」

 

「翻訳系そのものだけじゃない」

 

「うん」

 

「本人も変わってる」

 

佐伯は画面を見る。

 

初日。

 

A一機。

 

「光れ」

 

失敗。

 

次。

 

Aの状態を認識。

 

点灯成功。

 

今日。

 

AとB。

 

最初は誤選択。

 

その後。

 

対象を先に認識することで改善。

 

さらに。

 

自主選択では反応時間短縮。

 

「高瀬さん側も学習してる」

 

「そう見える」

 

「機械が高瀬さんを翻訳するだけじゃない」

 

佐伯が頷く。

 

「高瀬さんも」

 

少し考える。

 

「機械に伝わる話し方を覚えてる」

 

***

 

放課後。

 

しょうは結果説明を受けていた。

 

「話し方?」

 

「比喩だけどね」

 

佐伯が言う。

 

「声で話してるわけじゃない」

 

「うん」

 

「最初、高瀬さんはAに『光れ』って命令した」

 

「点かなかった」

 

「そう」

 

「次は」

 

しょうが思い出す。

 

「点いてるAにした」

 

「それで点いた」

 

「今日は?」

 

「AとB」

 

佐伯は二つの模型を置く。

 

「最初、Bを選ぶ時に一度Aを経由した」

 

「間違えた」

 

「でも次から」

 

B。

 

「先にBをちゃんと決めた」

 

「うん」

 

「そしたら間違えなくなった」

 

しょうが考える。

 

「伝え方?」

 

「僕はそう思ってる」

 

「ISに?」

 

「うん」

 

しょうは模型を見る。

 

「ISも私のこと分かるようになる?」

 

佐伯が止まる。

 

「どうだろう」

 

「私だけ?」

 

「いや」

 

佐伯は少し考える。

 

「翻訳系も調整してるから」

 

「じゃあ両方?」

 

「たぶん」

 

しょう。

 

翻訳層。

 

機体。

 

「お互い?」

 

佐伯が笑う。

 

「そういう言い方もできるね」

 

しょうは少しだけ納得したようだった。

 

「じゃあ、いっぱいやった方がいい?」

 

「休みながらね」

 

「飛びながらできる?」

 

「まだ飛ばない」

 

「……はい」

 

***

 

その日の夕方。

 

第一アリーナ。

 

セシリアは三基のビットを展開していた。

 

一基目。

 

前。

 

二基目。

 

右。

 

三基目。

 

後ろ。

 

標的。

 

移動。

 

一基目。

 

射撃。

 

標的が逃げる。

 

二基目。

 

進路を塞ぐ。

 

三基目。

 

待機。

 

必要ない。

 

動かさない。

 

一連の操作。

 

速い。

 

迷いがない。

 

何百回。

 

何千回。

 

繰り返してきた。

 

セシリアにとって。

 

一基目は一基目。

 

射撃させる時。

 

いちいち。

 

「一基目を選択し、射撃命令を入力する」

 

などとは考えない。

 

撃たせる。

 

それだけ。

 

「……同じですわね」

 

小さく呟く。

 

だが。

 

すぐに首を振る。

 

「いいえ」

 

違う。

 

自分は。

 

覚えた。

 

練習した。

 

失敗した。

 

四基を扱えるようになるまで。

 

何度も。

 

しょうも今。

 

同じように。

 

覚え始めている。

 

ただ。

 

覚えている言葉が違う。

 

***

 

翌日。

 

セシリアは佐伯を捕まえた。

 

「高瀬さん、昨日は?」

 

「なんで毎日聞きに来るの」

 

「気になるからです」

 

「素直だ」

 

「結果は?」

 

佐伯は簡単に説明する。

 

A。

 

B。

 

個別点灯。

 

一度誤選択。

 

その後改善。

 

自主選択時に反応短縮。

 

セシリアは記録を見る。

 

「練習すれば上達する」

 

「今のところ、そう見える」

 

「当然ですわね」

 

「またそれ?」

 

「だって」

 

セシリアは自分を指す。

 

「わたくしもそうですもの」

 

佐伯が見る。

 

「比較してみる?」

 

「何を?」

 

「しょうさんとセシリアさん」

 

セシリアの表情が少し変わる。

 

「競争ですの?」

 

「違う」

 

「では?」

 

佐伯は画面に二つの系統を書く。

 

セシリア。

 

ブルー・ティアーズ。

 

しょう。

 

翻訳試験系。

 

「同じ課題を」

 

二本の線。

 

「違うやり方で処理してもらう」

 

セシリアが見る。

 

「何が分かりますの?」

 

「まだ分からない」

 

「また?」

 

「だから測る」

 

セシリアは少し考える。

 

「構いませんわ」

 

「いいの?」

 

「ただし」

 

佐伯を見る。

 

「高瀬さんより優れている、劣っている、という評価には使わないでくださいな」

 

佐伯が少し目を見開く。

 

セシリアは続ける。

 

「そもそも」

 

ブルー・ティアーズ。

 

翻訳。

 

「同じ方法ではありませんもの」

 

「……うん」

 

「比べるなら」

 

少し考える。

 

「違いを比べてください」

 

佐伯は頷いた。

 

「そのつもり」

 

***

 

その日の設計記録。

 

翻訳試験系。

 

新しい項目。

 

『操縦者学習』

 

その下。

 

『同一課題反復により、対象選択精度および意図出力応答に改善傾向』

 

まだ。

 

能力とは書かない。

 

才能とも。

 

特性とも。

 

そして次回試験案。

 

比較対象。

 

セシリア・オルコット。

 

目的。

 

優劣判定。

 

――削除。

 

佐伯が書き直す。

 

『既存複数端末制御と翻訳系制御における、操縦者情報処理構造の差異観測』

 

保存。

 

しょうは。

 

ISへ伝える方法を覚え始めた。

 

次は。

 

既に別の言葉でISと話すことを覚えている人と。

 

同じものを動かしてみる。

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