働きたくない天才怪盗、盗んだ令嬢に見初められ念願の窓際部署へ 〜サボっているつもりが、なぜか手柄だけ増えていく〜 作:カレーとスコップ
「大魔導士に僕はなる!」
バルトスの街を堪能して王都に帰ってきてから数日、僕は王都で手に入れた一枚のチラシを手にタウンハウスに用意された第六空鴉の部屋──いわゆるアジトに駆け込んだ。
「いきなり何の話ですか?」
「これだよこれ。アイリスって魔法使えるでしょ?」
「当然です。公爵令嬢としての嗜みですから」
「ふふん、あれを見て僕も魔法を使いたくなってしまったんだよね」
「魔法は簡単に使えるものではありませんが──」
「ところが、このチラシを見てよ!」
僕はチラシをアイリスに突きつけた。
そのチラシは『超魔法塾』という塾が発行しているもので、『魔法を使いたい貴方! 三日で魔法が使えるようになります!』という宣伝文句が大きく書かれていた。
「なんと半年で大魔導士になった人もいるみたいだよ」
「はっきり言って胡散臭いのですが──」
「そりゃあ、美味しい話には裏があるというけど──せっかくだし魔法も使えるようになりたいんだよ」
「気持ちはわかりますが、魔法ってきっちり術式を作らないといけないんですよ」
そう言ってアイリスはホワイトボードに巨大な魔法陣を描き、注釈のつもりなのか意味不明な数式を書き殴っていく。
「こういったわけで、魔法陣というのは非常に繊細な作りになっているんです。この魔法陣をイメージで構築しないと発動させられないんですよ」
「それっぽく描いたんじゃダメなの?」
「ダメですね。正確さというよりも、ルールを守っているかが大事になりますので、そもそものルールを把握しないとダメです」
アイリスの説明する魔法は頭が痛くなるほど窮屈なものだった。僕としてはそれっぽく呪文を唱えたら、ポンと火の玉が出て敵に襲い掛かっていくものだと思っていた。
だが、実際の魔法は炎とは何か、燃焼とは何か、炎の形態を固定する方法は何か、敵を特定するものは何か──などなど、様々な定義を決めないと使えない代物らしい。
「こんなの三日で使えるようになるはずないでしょ」
「それはほら、ここに小さく『達成度合いには個人差があります』って書いてありますよ」
「完全に詐欺なんだけど!」
詐欺という事実に腹が立って、その時は「誰が行くか!」と言っていた。だけど数日後、僕の頭の中から都合の悪い事実は抜け落ちて、都合のいい事実だけが残っていた。
「やっぱり超魔法塾に行ってみないか?」
「少し前に、こんな詐欺に誰が引っ掛かるか、って豪語してましたよね?」
「いや、よく考えたら個人差があるって書いてあるけど、実は僕が才能のある側かもしれないでしょ?」
「……」
無言になったアイリスが呆れている。それは僕でも痛いほどよくわかるけど、やる前からあきらめるのは良くない。それに──万に一つの奇跡があるかもしれないじゃないか。
「なるほど、わかりました──では行きましょう」
「えっ、アイリスも行くの?」
「もちろんです。そんな中二病の巣窟にモリス様という本物がいたら、女子が誘惑してくるでしょう」
アイリスも中二病を知っていたんだ。それはともかくとして、アイリスも行くことになった。僕としては心強いんだけど、魔法をすでに使えるアイリスが行く意味は無いような気がする。
なぜか魔法塾で僕がモテるとアイリスは思っているようだけど、たいていの女子は妹と同じ「中二病乙」といって貶すような人ばかりなんだが……。
ともかく二人分の願書を取り寄せ、出願してから数日後、僕たちの合格通知がポストに届けられていた。
「合格したみたいだよ!」
「合格って──そもそも試験してませんが」
たしかに試験はしていない。だが、合格は合格。これで僕も大魔導士の道を一歩踏み出したことになる。
「ふふふ、この大魔導士ダークネスシャドウの極大魔法を受けてみよ!」
「やはり、モリス様はそこら辺の有象無象とは格が違いますわ!」
合格通知を片手にダークネスシャドウのコスチュームに着替えた僕は、完全に大魔導士になりきっていた。もちろん、今は極大魔法なんて使えないけど、アイリスはうっとりとした表情で僕を見つめている。
やはり僕の才能は、分かっている人には分かってしまうのだろうか。まったく恐ろしい話だ。
合格通知を受け取った僕は、一週間後の編入に向けてカッコよく魔法を使えるようにするための特訓を行っていた。
「フッ、タイダルウェイブ! なかなかやるな、グラヴィティ! トドメだ、メテオストライク!」
「モリス様のキレが一段と冴えわたっておりますわ」
「それじゃあ、そろそろ行く準備をしようか」
「ええ、やはり一緒に行くことにして正解でした」
アイリスの正解が何を意味しているのかはわからない。だけど、特訓のおかげで魔法塾でも頭角を現すのは時間の問題だろう。
超魔法塾は意外にも王都の郊外にあった。
郊外にあるにも関わらず、王立魔法学園ほどではないにせよ非常に立派な建物である。
「どのようなご用件でしょうか?」
「えっと今日から塾に編入するモリスとアイリスです」
「あ、はい。それではこちら塾生証になりますので、失くさないように気を付けてください。実力テストはこちらです」
合格通知と交換で塾生証を受け取り、実力テストとやらを受けるためにアイリスと一緒に奥へと進む。しばらく歩くと突き当りに扉があり、中に入るとそこそこ大きい水晶球の傍らに立っていた女性が僕たちに微笑みかけてくる。
「編入生の皆さま、ようこそいらっしゃいました。こちらで実力テストを行いますので、一人ずつ水晶球に手を乗せてください」
「これって魔力計測器ではありませんか?」
「ご存知でしたか。どこかで使ったことが?」
「前に王立魔法学園に通ってましたので……」
アイリスの言葉を聞いて、女性は訳知り顔でうなずいた。
「なるほど……王立魔法学園のカリキュラムについていけなかった学生でも、この超魔法塾で学べば魔法を使えるようになりますのでご安心ください」
「はあ……」
「それではさっそく、まずはモリス君からどうぞ」
僕は水晶球の前に立ち、呼吸を整える。僕の中に蠢く闇を孕んだ影から無限の力を引き出すため、精神を集中する。
「はあああああああ!」
僕が手を乗せると、水晶球に『10』という数字が浮かび上がった。おそらく10段階評価の10ということだろう。僕の秘められた才能が恐ろしい。
「はい、魔力10──大変残念な結果ですが、気にする必要はありません」
「えっ、10段階評価じゃないの?」
「残念ながら──では次は、アイリスさん、どうぞ」
アイリスは自然体で──気合を入れることも、呼吸を整えることも、精神を集中することも、何もせずに手を水晶球の上に乗せた。水晶球には『8792』という数値が浮かび上がった。
「嘘、だろ?」
「えっ?!」
僕が信じられない数値に驚くのと同時に、なぜか女性まで信じられないといった目で水晶球の数字とアイリスの顔を交互に見つめていた。