働きたくない天才怪盗、盗んだ令嬢に見初められ念願の窓際部署へ 〜サボっているつもりが、なぜか手柄だけ増えていく〜 作:カレーとスコップ
「今日は実際に魔法を使った演習を行います」
翌日、さっそく魔法演習の授業が行われた。演習場に移動した後、生徒一人一人に杖を渡された。これを使って、火球の魔法を的に当てる練習をするということらしい。
初めての魔法演習に僕の期待は自然と高まっていく。だけど、隣に立っているアイリスは訝しむような目で杖をにらんでいた。
「どうかしたの?」
「もしかして、これは──」
「はい、それでは実習を始めますよ!」
アイリスが言い終わるより早く、ホワイトが実習の開始を宣言した。結局アイリスが何を言いたかったのか気になるけど、今は授業に集中すべきだろう。
相手はアイリスを断罪した連中の一人だけど、授業くらいは真面目にするだろうと期待していた。
だがアイリスの表情を見ると、あまり期待できないかもしれないな。
「では、皆さんにお配りした杖で実際に魔法を使ってみましょう。杖に魔力を集中させて炎の球をイメージしてください」
指示された通り、杖を目の前に持ってきて魔力──はよくわからないので、何やらうにょうにょしたものが杖に集まるようにして、それが炎の球に変わるようなイメージをしてみる。
「うぬぬぬ……」
しかし何も起こらなかった。
何かが足りない──そう思った僕の頭の中にひらめきが走った。
「そうか、詠唱が足りないんだ」
原因が分かれば対処は容易い。幸いにもダークネスシャドウのおかげで詠唱(っぽいセリフ)には慣れている。
「遥かなる古より伝承されし偉大なる力、数多の災厄を調伏せし冥府の炎、我が前に顕現し、灼熱の炎となって、愚かなるものどもを討ち滅ぼせ!」
詠唱の完了と共に、ポンという音がして目の前に小さいながらも高密度の火球が生まれた。
「おおっ、成功だ!」
「──おめでとうございます、モリス様」
「なにそれ、ちっさ」
アイリスは微妙な表情を浮かべながら、僕の初めての魔法を祝福してくれた。だが、僕の偉業を隣にいたピエールが嘲笑う。
「しょせん魔力10だな。その程度の火球しか出せないなんてな」
そう言ったピエールの前には僕の火球よりも遥かに大きな火球が浮かんでいた。僕がピンポン玉サイズなら、ピエールはバスケットボールサイズである。
「密度が違うんだよ」
「ハッ、馬鹿か? 同じ火球で密度が違うわけねえだろ!」
「……貴様、私のモリス様を侮辱するんですか?」
僕が強気に言い返すも、ピエールはそれを嘲笑う。だけど、その行為が虎の尾を踏んでいることには気付いたのは、完全に手遅れになってからだった。
アイリスは手に持った杖を地面に叩きつけると、両腕にはめた腕輪を外して地面に落とす。
「ああ、杖が! なんてことをするんです!」
「そんなもの、くだらない玩具じゃない。私が本物の魔法を見せて差し上げます」
アイリスが右手を前に突き出すと、目の前に巨大な炎の球が現れた。その大きさはピエールの作ったものですら遠く及ばない。人一人を丸々呑み込んでもなお、お釣りがくるほどの大きさだった。
「ひぃっ!」
「アイリス君、止めなさい!」
「モリス様を侮辱した罪、その身で贖いなさい!」
あまりに巨大な火球というだけでなく、それが自分を狙っているという事実に、ピエールは腰を抜かしていた。何とか逃げようとして這いずるように後ずさっているけれども、そんなことで逃げるどころか距離を取ることすらできるはずがない。
ホワイトもアイリスを何とか止めようとしているが、その声を聴く耳すら持つ気配がない。それならばと抑え込もうとするも、アイリスは同時に結界を張っているらしく、近づくことも難しくなっていた。
「ちょっと待って、そんなの撃ったら僕も黒焦げだよ!」
「あっ!」
なぜか僕の言葉だけは効果てきめんだったようで、アイリスの作り出した巨大な火球は誰一人傷つけることなく霧散した。
「すみません、モリス様が侮辱されたのが悔しくてつい……」
「まあ、失敗は誰にでもあるよ」
「モリス様──」
「悪いが、授業の妨害をした罰だ。あとで生徒指導室に来なさい」
「そんなこと言うけど──」
居丈高にアイリスに命令するホワイトの言葉に、今度は僕が反論する。アイリスは僕のために怒ってくれただけで、アイリスだけを悪者にしようとする彼の態度に正直言って腹が立った。
「僕を侮辱したピエールが元を辿れば悪いんじゃないか。それを止めなかった先生も同罪だけどね」
「なっ、君たちでも魔法を使えるように授業をやってあげているというのに──何ですか、その態度は!」
「こんな授業──茶番ですよ」
逆ギレしてきたホワイトに対し、今度はアイリスが先ほど叩きつけた杖を拾いながら反論する。手に持った杖に魔力を集め──集まり過ぎた魔力によって杖にヒビが入り、そのまま砕け散った。
「ああっ、何ということを!」
「ほら、この程度で壊れるような玩具で魔法が使えたところで何の意味もありませんよ」
砕け散った杖の破片を呆然と見ながら、抗議の声を上げるホワイトを、アイリスはパンパンと手を叩きながら嘲笑う。
「くっ、生徒の分際で生意気なことを……」
煽られたホワイトが額に青筋を浮かべながら怒りの表情を浮かべるも、アイリスは無視して教室へと戻っていった。
僕はアイリスのことが心配ですぐに後を追いかけ、詳しい話を聞くことにした。
授業の続きが心配だったが、機嫌を損ねたホワイトが杖を全て回収して授業をボイコットしたため、自習となったらしい。