働きたくない天才怪盗、盗んだ令嬢に見初められ念願の窓際部署へ 〜サボっているつもりが、なぜか手柄だけ増えていく〜 作:カレーとスコップ
教室へと向かうアイリスに追いついた僕は、先ほどのことについて聞いてみることにした。
「アイリス、いったいどうした? やっぱり、ホワイトとは──」
「たしかにあの男は私を断罪したうちの一人。何とも思っていないと言えば噓になります。ですが──」
そう言って、アイリスは躊躇いがちに僕の目をのぞき込んだ。そして、軽くうなずいて僕に背を向ける。
魔法に関するものということもあって、僕が状況をあまり理解していない。そう判断したアイリスは僕でもわかるように説明すべきだと判断したらしい。
「モリス様は、あの杖は何だと思いますか?」
「魔法の発動具と言っていたけど──よく魔導士って杖を持ってるでしょ?」
「そうですね。でも、魔法を使うには何も持つ必要はないんですよ」
たしかに魔導士が杖を持っているイメージはあるけど、アイリスは先ほど何も持たずに魔法を使っていた。
「でも、補助するために必要なんじゃないかな?」
「ええ、そうです。ですが、あの杖はもっとひどい代物ですよ」
ひどい、か……。たしかにアイリスは玩具だと言っていた。それと関係するのだろうか?
「前に話したと思いますが、魔法というのは魔法陣とそれを構成する数式によって発動させるものなんです。あの杖は、杖自体に火球の魔法陣と数式を直接埋め込んでいます」
「それって、魔道具と同じものなんじゃ……」
「そうですね。誰でも使える魔道具との違いは稼働するためのエネルギーとして魔石ではなく持ち主の魔力を使う点でしょうか」
ふと気づいた。その杖を使っても火球の魔法しか使えないんじゃないかと。
「モリス様の考えている通りですよ。あの杖を使っても火球しか使えません。魔導士が持つ杖は数式の補助をするものなので、魔法陣は自分で構築するので、杖は一本あれば事足りるんです」
なるほど、魔道具と同じであれば魔力さえあれば魔法が使える──誰でも魔法が使えるというキャッチコピーに嘘はないわけだ。だけど──。
「これって詐欺っぽいんだけど」
「魔法が使える人からしたら完全に詐欺です。何より魔法陣まで埋め込まれているせいで、先ほどのように魔力を込めすぎると壊れてしまいますので、私にとっては役に立たない代物です」
そこまで教えられて、ようやく魔法塾のからくりを理解できた。たしかに魔法は使えたけど、魔道具を使うのと大して変わらない。
「大魔導士になれないのは残念だけど、でも、何でホワイトは塾をやってるんだろう」
「あの男の考えることなんてわかりません。ただ優秀な生徒であるアストルムを単に魔力の大きさという指標だけで決めるのも、おそらくは何かしらの理由があるはずです」
結局、アイリスとの話では、魔力の大きさが関係しているということがわかっただけで、結局ホワイトが何をしようとしているのかはわからないままだ。
「そもそも、あの男はいまだに王立魔法学園の講師をしていることを考えると、あまり大っぴらにできない理由とも考えられますが……」
名門の講師がわざわざ私塾を開く必要なんて本来ありえない。しかも、こんな詐欺まがいのことに労力を費やす理由などないはずだ。
ああでもない、こうでもないと考えていると、授業終わりのチャイムが鳴った。
「考えてもしかたないから飯でも食べて気分転換するのはどうかな?」
「そうですね。この塾のことをあまりに知らなすぎ──」
「お二人さん! 難しい顔をしてどうしたんだい?」
一旦考えるのと止めて学食に向かおうとしたところで、教室の方から一人の女生徒が駆け寄ってきた。
「サボりか……」
「ヒドイ! ちゃんと自習してチャイムと同時にダッシュして来ただけだよ! それより何の話をしていたん?」
「えっと、私たち入ったばかりで塾のことをほとんど知らないなと……」
「なーるほど、それならアタシに任せて! ランチで手を打っちゃう!」
どうやら、色々教える代わりに飯をおごれということらしい。僕もアイリスも別におごることは問題ない。問題は信用できるかどうか──。
「行こうか」
「そんな待ってよ、モリぴ!」
「僕の名前はモリスだ」
「愛称だよ。可愛いじゃん、モリぴ! それより、ご飯おごってよぉ。金欠なんだよぉ」
金欠という割に、彼女の身なりは良さそうに見えるんだけど──胡散臭いな。
「その割にはずいぶん洒落た服を着てるじゃないか」
「これ、全部古着をリメイクしたんだよぉ。平民だけど塾でバカにされないように身なりだけはちゃんとしてるんだよぉ」
言われてみれば、ところどころアレンジされている部分は縫い方が素人っぽい。それに、モノは良いようだけど少しくたびれた感じがあるな。
これなら信じてもいいんじゃないかと思い、アイリスに目配せするとコクリとうなずいた。どうやら僕と同じ結論に至ったようだ。
「いいよ。僕たちが塾にいる間は毎日おごってあげる」
「おぉぉぉ、神だ。モリぴ神が降臨した!」
その女生徒は膝をついて手を伸ばしたまま礼拝を始めてしまった。ここは他の生徒も通る廊下のど真ん中。同級生にそんなことを強要していると思われたのか、鋭い視線が僕に突き刺さるんだけど。
「ちょっ、ランチおごるだけだから! 廊下でそれは止めて!」
「わかりました! 結構食べるけど問題なし?」
「もちろん、貴族だからお金の方は心配いらないよ。僕が求めているのは信用できる人間かどうかだから」
女生徒は花が咲いたような笑顔を浮かべ、胸をドンと叩いた。
「それなら、このアンヌにおまかせください! 私は神を裏切るような真似は決していたしません!」
「それじゃあ、学食に行こうか」
僕とアイリスが歩き出すと、アンヌもスキップをしながら付いてきた。少し軽薄な雰囲気はあるけど、僕の見立てではアンヌのような人間は信用できる。
彼女からどんな情報が飛び出すのか、少し期待しながら学食へと向かった。