働きたくない天才怪盗、盗んだ令嬢に見初められ念願の窓際部署へ 〜サボっているつもりが、なぜか手柄だけ増えていく〜 作:カレーとスコップ
「えっと、カツカレーと味噌ラーメンとミートソースとおでんをください!」
「──マジか」
アンヌの豪快な頼みっぷりに思わず声が漏れた。申し訳なさそうに眉をへの字にしながらアンヌが振り返った。
「やっぱり頼みすぎだよね?」
「食べられるなら気にしなくていいよ──残したらお仕置きだけどね」
おごるのは問題ないけど、僕も元は貧乏男爵家。食べ物のお残しは絶対に見過ごすことはできない。
アンヌはおごってもらうのに遠慮なく注文したことを咎めているのだと思っていたらしく、僕の言葉にサムズアップしながら片目を閉じた。
「それならダイジョーブ! あたし、ここで一日分食べるつもりだから!」
「だったら好きなだけ注文するといい、遠慮はいらないよ」
まるで昔の僕を見ているようだった。節約のために、おごってもらう機会を最大限に活用しようという姿勢は好感が持てる──僕だけだろうけどね。
チラリとアイリスの方を見るとアンヌを冷めた目で見ているけど、別に敵視したりはしていないようだ。むしろ、これは面接官のような眼差し……。
「それはそうと、この塾について教えてもらえますか?」
「先に食べた方がいいんじゃ──」
「んじゃ、食べながら話すね!」
そう言って、物凄い勢いで食べ始めた。それと同時に塾のことについて話し出す。
食べるか喋るかどっちかにしろ、とよく言われるけど、アンヌには関係ないらしい。理屈はわからないけど、器用なことだ。
「まずは──気付いているみたいだけど、この塾の授業はお遊びなんだよね」
「お遊びって──」
「だってそうでしょ。授業で使ってる杖はほとんど魔道具みたいなものだし。蛇口をひねるようなもんでしょ?」
アイリスから説明を聞いた今なら、アンヌの言っていることも理解できる。だけど腑に落ちないのは、お遊びと知りながら塾に通い続けていること。授業料も安くはないのに……。
「そこまで知っていて、何で通ってるの? 何のメリットもなくない?」
「チッチッチ、それがあるんだよね。ホワイト先生から貰える修了証が目当てなのだ」
「修了証?」
「ホワイト先生って、偉いところの先生やってるらしいじゃん? そんな人が認めたという証が貰えるなら役に立つっしょ。卒業生の中にはいいところに就職したという人もいるし、そこそこの成績をキープしていれば、将来安泰ってね」
なるほど、アンヌはアンヌで将来のことをちゃんと考えているようだ。だが、僕の記憶が正しければ、アンヌの魔力は僕よりも遥かに高く、ピエールの次くらいだったはずだ。
「アンヌはアストルムを目指そうとはしないの?」
「そうね、努力次第では私は無理でもピエールとやらは超えられるはずよ」
「えっ、魔力って増やせるの?!」
「私だって昔は今の半分くらいでした。努力を重ねて、ここまで上げたのです」
「ふえぇー、知らなかったぁ。でも、アストルムにはなりたくないし、別にいいかな?」
その言葉が妙に引っ掛かった。「なりたくない」という、明らかにアストルムになることを拒絶するような言い方に聞こえたからだ。
「ピエールはなりたがっていたけど……アンヌは違うの?」
「あー、アイツはプライドが高いだけのアホだから──ほとんどの生徒はアストルムにはなりたくないと思ってるはずだよ」
よくよく思い返せば、アイリスに噛みついてきた生徒はピエールだけだった。もしかしたら、アストルムとは不名誉なものなのか?
「ああ、別に見下しているわけじゃないよ。みんな神隠しのことを知っているからね」
「神隠し?」
「そうそう、アストルムになった子が次々と行方不明になってるんだよ。アタシの友達は魔力高くないから心配いらないけどね」
神隠し──先ほどまでアイリスと話していたホワイトの目的とも合致する現象に、思わずアイリスの方を見る。どうやら同じことを考えていたらしく、コクリとうなずくとアイリスは慎重に口を開く。
「良かったら、神隠しについて詳しく教えてもらえますか?」
「もちろん。アイたんは当事者だしね!」
「アイたん……」
「気に入らなかった? いいと思ったんだけどなぁ」
「いえ、別に構いません」
思いっきり不満そうな顔をしながら、アイリスは首を横に振った。本音では嫌だと言いたいところだけど、ホワイトを追い込むための鍵になると感じたのだろう。
確執がないと言いながらも、完全に割り切れていないようだ。
「ほら、ピエールが次は自分がアストルムになる番だって言ってたっしょ。つい先日、前のアストルムが神隠しに遭ったんだよね」
「でも、誰も話題にしていなかったけど……」
「そりゃまあ、しょっちゅう神隠しが起きてるからね。今さらって感じだよ」
魔法塾の中では大して気にも留めないのかもしれない。だが、神隠しに遭った人に友人や親兄弟がいないとは考えられない。
「ああ、その顔は友達とかいないのかって言いたげだね」
「なんで顔見ただけでわかるんだよ」
「モリぴ、顔に出やすいじゃん?」
実は怪盗ダークネスシャドウである僕としては完璧なポーカーフェイスをマスターしているつもりだ。アイリスもフイッと目を逸らす──それが事実を物語っていた。
「普段はダメでも、肝心の時にちゃんとしていればいいのですよ」
「あんまり慰めになってないけど」
「モリぴ、話を逸らさないで! 友達とかは色々と訴えたりしているらしいんだけど、どこかで握りつぶされてるらしいんだよね。下手したら脅されているんじゃないかって噂もあるし……」
なるほど……メリア男爵令嬢を中心とした取り巻き軍団のコネを使ったか。第一王子もいるから、かなり無理が利くのだろう。
「厄介だな」
「それに、以前はそこまで頻繁じゃなかったしね」
「そうなの?」
「半月ほど前からなんだよね。神隠しがしょっちゅう起こるようになったのって──」
ホワイトに神隠しを頻繁に起こさなければならない事情ができたということだろうか。だけど、半月ほど前と言えば、アイリスが追放されたくらいの時期だ。
むしろ、ホワイトとしては予定通りに事が運んだ時期でもある。
「実はホワイト先生が『くそっ、隣国に売ったアレを掠め取るはずだったのに』とか『アレさえあれば、計画は今頃』みたいなことを言ってたんだよね。意味は分からないけど……」
アンヌはそう言いながら首を傾げた。おそらく、ホワイトの所業について知らないアンヌには分からないのだろう。だけど僕とアイリスには、ホワイトが何かを企んでいて魔力の高い人間が必要だということがはっきりした。