聖剣に選ばれた孤児の少女は、10歳で騎士団長になる ―少女と精霊の聖剣十年戦記― 作:美風慶伍
導入第1話:10歳の美少女騎士団長は、王族親衛隊に信じてもらえなかった
「ミリアはご令嬢の護衛を所轄する王族親衛隊の人たちのところに〝挨拶〟に行ってください」
その指示を発したのは1人の少女だった。
白い素肌に金色に光る長い腰まで届く髪、琥珀色の瞳が神秘的な光をたたえている。
少女が身につけているのは足首までの丈のサーコート、騎士階級の戦士が身につける単衣の衣装だ。腰には皮帯を巻き、足にはロングブーツを履いている。胸には
歳の頃合いから言って10歳程度だろう。まだその体のシルエットは細く小さく、思春期にすら到達していない。
だがその左腰に下げているのは見事なサイズのバスタードソード。漆黒の革製の鞘に収まったそれは、握りも十字
時刻は夜。空には満月が登り、辺りを薄明かりで照らしていた。
その薄明かりの中に少女を含めて4人の人物が佇んでいる。その中の1人、ミリアという短髪の赤毛の鋭い印象の女性が返答する。
「承知しました」
彼女は軽装の革製鎧に短弓やナイフ類で武装している。斥候やスカウトと言った印象の女性だった。
ミリアは少女の指示を受けて、密偵のごとくに音もなく素早く姿を消した。
そして少女は残る2人の仲間にも指示を出す。
「エルリックとソフィアはこのまま私に同行してください。問題の令嬢を攫った誘拐犯の一団を追い詰めます」
エルリックと呼ばれたのは青鈍色に鈍く輝く全身鎧を身につけた戦士だ。腰にバスタードソードを下げ背中にはミドルサイズのシールドを背負っていた。
「心得た」
短く答えるエルリックの傍らに、魔道士風の装いの紫がかった髪の美しい女性がいた。
「誘拐犯たちの足跡は捕捉できたわよ。カリナ」
「ありがとうソフィア」
ソフィアは振り上げた人差し指の先から魔力の光を放つと1つの道を指し示した。
「問題の令嬢の霊体の波動を捉えたわ。魔法のマーカーで確実に追えるわ」
「ありがとうソフィア! これで探索の手間を省けるわ」
その口調は10歳の少女とは思えぬほどに力強かった。
「では参ろうか! カリナ」
「ええ! 行きましょう」
こうしてその少女――カリナは仲間たちを率いて夜の闇の中を走って行ったのである。
§
そこはとある王国の王都の郊外の土地だった。
広大な敷地を持った邸宅が立ち並び、日中であれば貴族たちの姿が見える場所だった。だが、空に満月が登っている状況では表通りを馬車が行き交う姿を見るのも難しい。
そうした邸宅群から少し離れた山あいの入り口の近い場所、そこに豪奢な飾り立てをした全身鎧姿の帯剣戦士の一団が一塊に集まっていた。そして険しい表情で、主要な人物たちが話し合いをしていた。
「拐われたカロリーナ公爵ご令嬢の行方は掴めたか?!」
「目撃証言を頼りにここまで来ましたが足跡は途切れております」
「この周辺の山々は古い道が入り組んでおり、夜間に足を踏み入れるのは自殺行為。追跡する我々が道に迷う恐れすらあります」
彼らは王族親衛隊。ルミナリア王国の王族やそれにつながる血縁の者たちを守るために組織された一団だ。彼らはかどわかされた1人の令嬢を探索しているのである。
「道迷いがなんだというのだ! 王族親衛隊の名誉にかけても確実に探し出せ! 追跡隊を複数に分けろ!」
「はっ!」
もはやなりふり構っていられない状況だった。だがその時だ、
「失礼いたします。ルミナリア王国王族親衛隊の皆様でいらっしゃいますね?」
それはカリナに命じられて使者としてやってきたミリアであった。音もなくかげろうのように静かにその姿を現した。気配を一切感じさせないその振る舞いに王族親衛隊の者たちは驚きを隠せなかった。
「何者だ?」
「魔法剣士騎士団アルカナヴァンガード技能士長ミリア・シルバーアイと申します」
「アルカナ――、新設されたばかりの寄せ集め部隊が何の用だ?!」
王族親衛隊の隊長の彼の言葉には明確な苛立ちがにじみ出ていた。
威圧的な親衛隊長の態度にもミリアは一切怯まず、落ち着き払って言い放った。
「われらアルカナヴァンガードのカリナ団長は、すでにご令嬢誘拐の犯人の足跡を捕捉して追跡を始めております」
その一言に王族親衛隊の彼らが騒然となった。
「何を馬鹿な?! 我らとてこの山岳地帯に逃げ込んだという事実を掴むのがやっとだったのだぞ?」
それに彼らにはカリナが率いるアルカナヴァンガードという新設の部隊を認め難い理由があったのだ。
「聞けば新造の魔法剣士騎士団の指揮官は、わずか10歳の子供だというではないか! 子供ごときに、王族警備の一端を任せられるものか!」
ルミナリア王国の王族の身を守る彼らのプライドはズバ抜けて高かった。故に彼らはミリアの言葉を歯牙にもかけずに一蹴した。
だがミリアは平然と言葉を返す。
「おっしゃる通り、我らがアルカナヴァンガードの隊長は10歳になられたばかりです」
ミリアのその言葉に、親衛隊の彼らは冷笑を浮かべる。だが反論の言葉を遮るようにミリアは言い放つ。
「ですが、カリナ団長は、ただの10歳の少女ではありません」
「なんだと?」
「あえて申し上げますが我らが団長は、歴代の勇者の中でも、最強の聖剣の巫女様であられます。そして我らがアルカナヴァンガードは、聖剣の精霊の導きにより集まった勇気ある者たちです」
ミリアは王族親衛隊の者たちから目を離さず真っ向から言い放った。
「夜迷い事を――」
ミリアの強い言葉を彼らは信じなかった。もっともミリアから見ても、相手がこちらの言葉を聞き入れないと言うならこれ以上相手する必要はなかった。
「では、我々は独自に行動させていただきます。あと数刻も経たぬ間に姫君を取り戻すでしょう」
穏やかな口調だったが明瞭な言葉で相手の胸に残るようにはっきりと言い放つ。
「それでは」
そう言い残すとミリアはまた音もなく立ち去っていた。
後には憮然とした表情の王族親衛隊の者たちが残されただけだったのである。
§
その頃カリナは山への道の中をより深いところへ到達していた。
そして左腰に下げている黄金色の聖剣の剣先を地面に突き立て、その柄に自らの額を当てて目を閉じて何か瞑想に耽っていた。
随行しているエルリックもソフィアもじっと見守っている。
カリナは目を閉じたまま何かをつぶやき始めた。
「見えた……人数は5人、うち1人が気を失っているカロリーナ嬢を肩に担いでいる……ここから迂回して先回りできる……」
カリナが行っているのは、聖剣の力を使った〝遠隔視〟の技である。
目を開いて剣から額を離してカリナは静かに立ち上がった。そこにソフィアが問いかける。
「何か分かった?」
「はい、ここから先、しばらく緩やかなカーブを描いた下り道が続きます。安全なのはこのまま山道を降りていく方法です。ですが、森の木の間を抜けることで先回りして迂回することが可能です」
「夜の森の木の間を――それができるのは――」
するとそこに飛ぶような勢いで駆けつけたミリアの姿があった。彼女は山岳作戦に強い斥候兵だ。
「お待たせしました。王族親衛隊の方々にご挨拶してまいりました」
「ご苦労様ミリア。親衛隊の方々は何か言ってましたか?」
戻ってきたミリアをカリナは笑顔で出迎える。するとミリアは苦笑交じりに言う。
「王族親衛隊の方々は、10歳の女の子が団長だという事実が理解できていないようです」
エルリックが渋い顔をする。
「またそれか……」
おそらくは似たような事案が他でもあるだろう。カリナもそこはわきまえているようだ。
「そこはこだわっても仕方がありません。それより――、ここで敵を一気に制圧します」
制圧――という言葉を使う時、カリナはひときわ強く言葉を吐いた。それがその場の空気を一気に引き締めた。
全員がカリナを見つめる。
「ミリアは先回りしてください。ソフィアはミリアと視覚共有を行って魔法で敵の進路遮断を。エルリックは私と犯人制圧をお願いします」
「心得た!」
「了解です」
3人にそれぞれの能力に見合った任務を割り振る。するとソフィアが言う。
「カリナ、あなたの指揮官としての采配も板についてきたんじゃない?」
「いいえまだまだです。それに今回はさらわれたご令嬢を救ってこそ、任務が成功したと言えるのですから」
「そうね――」
そして全員は頷き合う。
「それでは各自行動開始」
「はい!」
そして4人はそれぞれに行動を開始したのだった。
( 'ω'o[ 読者さまへ ]o
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