少女と精霊の聖剣十年戦記 ~ひとりの少女が勇者になるまで~   作:美風慶伍

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特別幕:敵、増援、阻止行動

 ミリア率いる第二陣の別動隊は、兵員輸送馬車に分乗して、カリナ達の援軍に向かった。

 だが、ミリア立ちに同行する7王国の諸将の1人であるレイモンド将軍が声を上げた。

 

「新たな情報が入った! 敵増援部隊が王都の西方から迫ってきているそうだ」

「え? 増援ですか?」

 

 さすがのミリアも驚いていた。

 

「このルミナリアの国内で?」

「規模は数百人、消して無視できない数だ」

 

 だがそこにルミナリアのセリアスが訝しげに尋ねた。

 

「レイモンド卿、ここはルミナリア国内ですぞ?」

 

 つまり自分の母国ではないのになぜそういう情報を手に入れているかが疑問だったのだ。

 それをモントクラウドのヘレナがそっと諭した。

 

「この人の情報網の厚さは尋常じゃありませんから」

「知り合いの物流業者がいてな、そこから早馬の伝令が来ていた」

「そのような方法が――」

「滅多に使う手段じゃないが、状況が状況だからな」

「分かった」

 

 セリアスもこれ以上このことを騒いでも得るものがないと気づいてそれ以上問わなかった。

 かたやミリアは第二陣に対して号令をかける。

 

「それよりルミナリア王都、西側領域へ向かう! 敵増援を確認した! これの敵本隊への合流を阻止する!」

「了解!」

 

 一斉に声が上がって兵員輸送馬車の馬列は西へと向かったのである。

 

 

§

 

 

 そして敵増援が王都に突入する前に、アルカナヴァンガードの第二陣部隊は西方街道に到達することができた。

 

「間に合ったな」

 

 レイモンドの言葉にミリアは頷いた。

 

「ええ、カリナ様の本隊の行動を支援するためにもは何としても敵を殲滅します」

 

 すると殲滅という言葉に即座に反応したのはアルトゥールとローランだった。

 

「ならば遠慮なくやって構わんよな?」とローランが言えば

 

「敵が敗北して逃走したとなれば、生き延びるために野盗化するのは目に見えている」とアルトゥールが戦いの後のこと憂いていた。

 

「ならば潰しましょう。徹底的に」とシルヴィアが満面の笑みを浮かべていた。

 

 するとそこにオーシアがレイモンドに尋ねた。

 

「レイモンド卿、策はありますかな?」

「無論あるが――、好きにやっていいか?」

 

 レイモンドはミリアに視線を向けた。

 

「時間的余裕がありません。即効性のあるものと、こちらの損失を可能な限り減らす形で行けるのであれば」

「よし分かった! 諸将も指示に従ってくれ! 兵員輸送の馬車をそのまま移動させる! 街道上に阻止地点を構築しつつ敵を包囲する!」

 

 これをセリアスが同意した。

 

「我が国に深く食い込んでくる、ダニのような連中だ。1人残らず片付ける!」

 

 そしてミリアが号令をかけた。

 

「レイモンド卿の策に従い、各員配置につけ!」

「了解!」

 

 こうして王都西側での戦いは始まったのである。

 

 

§

 

 

 敵増援部隊への包囲戦滅作戦はまさに電光石火のごとく一気に進行した。

 

 アクアリスのオーシア将軍が、アルカナヴァンガードの砲兵部隊を率いた。持ち出せた野戦用の小型砲は4基と決して多くなかったが、敵の進軍を止めるという意味においては必要十分である。

 

「よし! 野戦砲を展開しろ! 設置次第連続発射で鶴瓶打ちだ!」

「了解!」

 

 アルカナヴァンガードの砲兵たちは普段の訓練の成果をいかんなく発揮した。

 次々と砲弾が打ち込まれれば、敵はその進軍を止めざるを得なかった。どんなに優れた魔導を行使しても、届かなければ意味がないのである。

 

 次に動いたのがモントクラウドのヘレナが率いる小銃部隊と、ミリアが率いる弓兵部隊だ。砲兵部隊の砲弾を避けて迂回しようとする連中を狙い澄ましたように弓と弾丸で仕留めていく。

 

 ヘレナが叫んだ。

 

「撃て! 迂回を許すな!」

 

 ミリアも叫ぶ。

 

「大量の矢と弾幕で敵を左右に逃さない壁を作るのだ! 遠慮せず打ち込め!」

 

 さらにはアルカナヴァンガードが使用する鏃や弾丸は、予め、対魔族用の抗魔術式が組み込まれている。その扱いに習熟している兵たちなので、魔族兵の数を削り取るのはお手の物だ。

 2人は自陣の右翼側と左翼側に分かれて完璧に敵の迂回行動を阻止したのである。

 そしてさらに歩兵を動かしたのがレイモンドである。

 

「季節は晩秋、周りは草地、そう多くの人家もなく畑もないとなれば多少のことはやっても後腐れはねえよな」

 

 同行した歩兵たちはレイモンドがニヤリと笑うのを見た。

 

「将軍閣下、何やらすごい悪そうな笑みを浮かべてますが?」

「決まってるだろ? 戦争の中で敵の意表をつくための奇策というのは、はまった時が最高に気持ちいいんだよ」

 

 まさに悪巧みが好きなタチの悪い親父そのものである。

 レイモンドはアルカナヴァンガードの歩兵200人を2つに分けた。そして右側と左側から草地に火をつけさせた。

 それは瞬く間に、野火となり、火柱を拭き上げ始める。

 

「このような炎が、魔族に対して効果があるのですか?」

 

 火をつけるという行為に、その意図が理解できない兵士が言う。レイモンドはそれに答えた。

 

「魔族だって所詮は生き物だ。耐火性能を持った特別な種族じゃなければ誰だって炎は近づきたくない。当然足を止める。それが狙い目だ」

 

 そして状況はレイモンドが推し量ったように魔族による偽装襲撃部隊の進軍を完全に足止めした。

 そこを狙ったように、ミリアとヘレナの弓部隊、銃器部隊が敵の数を削り取る。徹底した遠距離戦術である。そして、敵はいよいよ正面突破しか打つ手がなくなってきたのである。

 そしてこれに対して呼応するのが――

 

「よし! 重装歩兵部隊続け!」

「これでもなおこちらに迫ってくるようなものに対しては戦士として最大の礼儀をもって当たれ」

「ここで敵を自国に帰すのは恥だと思え!」

 

 重装歩兵部隊はセリアスが率い、

 白兵戦闘歩兵部隊をローランとアルトゥールがそれぞれに率いた。

 

「突撃!」

「おおお!」

 

 巨大なタワーシールドを有した重装歩兵部隊を中心に左右に火柱が吹き上がる草原の中をアルカナヴァンガードの精鋭たちが一気に突撃進軍した。

 見守るのは魔法の大家であるシルヴィアだ。

 

「突撃歩兵部隊に対魔族用の加護魔法、抜かり無くエンチャントしたわね?」

「はい、念のために二重に付与しました」

「それともう一つ、仕上げのために戦闘領域全体に抗魔抑制魔法陣を」

「すでに準備始めてます」

「よし、敵が撤退を始めたら一気に仕掛けるわよ」

「はい!」

 

 魔法までもが抜かり無く綿密に組み立てられていたのである。

 

 そして戦闘開始から一刻ほどの時間が経った時だ。

 敵は迂回も撤退もできず完全に膠着状態に陥っていた。

 撤退しようとするものには砲弾や銃弾や矢が遠慮なく打ち込まれていた。

 

 そしていよいよ最後の仕上げが始まる。

 

 アルカナヴァンガードの魔導師部隊がシルヴィアの指示で大規模魔法発動させた。

 

「野戦簡易設置魔法陣、構築完了しました」

「よし! 対魔族抑制大規模魔法陣発動!」

「対魔族抑制魔法陣発動いたします!」

 

 戦闘領域の大地に広範囲に敷設された簡易魔法陣、

 弓矢と護符を併用して地上に図案を描く魔法陣と同等の効果を生み出すものだ。

 

 そのシルヴィアたちが発動した簡易魔法陣が、魔族の息の根を止める魔導の力を一気に発動させる。

 

 最後まで抵抗を示していた魔族たちはここに来て一気に力を奪われた。

 

「よし敵兵は全員刈り取れ!」

「1人も生きて返すな!」

 

 魔力の行使できなくなった魔族など何の意味も持たない。まさに刈り取られる雑草が如しである。

 そして戦闘状況を観察していた斥候兵から報告が上がる。

 

「敵、偽装魔族軍完全沈黙しました!」

「生存者は?」

「20名ほど残っております」

 

 その事実にミリアは少しだけ思案するが即断する。

 

「捕虜にせず全員とどめをさして」

「はっ!」

 

 戦闘結果が明らかになり、レイモンドは1人呟いた。

 

「これでちったぁ、カリナの嬢ちゃんの助けになれたかな」

「ええ、十分な援軍になったと思います」

 

 レイモンドのつぶやきをミリアも聞いていた。2人はうなずき歩き出す。

 

「では戦闘の後片付けと、アルカナヴァンガード本隊への合流を急ぎましょう」

「ああ」

 

 こうしてミリアたちは戦いを終えてカリナたちに合流を開始したのである

 

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