少女と精霊の聖剣十年戦記 ~ひとりの少女が勇者になるまで~ 作:美風慶伍
カリナたちは大聖堂の中に一気に流れ込んだ。
そしてその中では、魔王軍の魔導士たちが大聖堂の内部空間いっぱいの魔法陣を構築してすでに発動させている様子だった。
「仕留めろ! 魔法陣の発動作業を阻止しろ!」
「はっ!」
アルカナヴァンガードの兵士たちが魔道師たちに襲いかかり、さらには、ヴァンガードの魔導士たちが、敵の魔法発動を抑制する妨害魔法を発動させていた。
「大人しくしろ!」
「もはや抵抗は無駄だ!」
「魔法陣を停止させろ!」
魔族兵の魔導士たちが次々に拘束されていく。カリナはその中の1人に剣を抜いたまま歩み寄り声をかけた。
「この魔法陣はどうやれば止る?」
レギオンブレイドの剣先を魔族への喉元に突きつける。だが敵はニヤニヤ笑ってこちらを挑発してくるだけだ。
「止められるものなら止めてみるがいい」
「なんだと?」
「今回の作戦、そんな簡単に妨害できるような代物ではない」
その魔導士の男は喉の中でクックックッと、含み笑いをしながら見上げるような視線でカリナを睨みつけた。
「この大聖堂の床に敷設した魔法陣は、この周辺に存在する人間たちの魔導魔素でである〝マナ〟を誘引するためのものだ。作戦に必要なマナは9割ほど貯まった。残り1割はあと少しだ! 今更この魔法陣を破壊しても無駄だぞ!」
カリナの周囲が一斉にざわめき出す。
「何? すでに魔法陣発動のための力が集まっているだと?」
「魔法陣を壊せ!」
「くそっ! 床に刻みつけられている!」
「こんなものどうやって止めれば――」
焦りの声をあげる隊員たちを前にして、カリナは表情一つ変えず大きく一括した。
「魔法陣は内部理論術式部分と外周リング部分とに別れます! 今やるべきは基本動力駆動部分である外周リング部分の魔法陣を破壊して、魔法陣の魔導動力駆動を停止させることです」
カリナの理論的な言葉に隊員たちは一斉に冷静さを取り戻した。そしてカリナの言葉の続きを待っていた。
「剣でも、槍でも、何でも構いません! とにかく魔法陣の破壊を開始してください!」
カリナは決して諦めない。どんな極限状態でも次の一手を必ず絞り出すのだ。
「私はこのまま大聖堂の大鐘楼塔の最上部へと向かいます」
大聖堂の建物の構造物の中で一番高いのが大鐘楼塔だ。その頂上部分で何かが行われているのは先ほど確認したばかりだ。
だが隊員の1人が叫んだ。
「ダメです塔の上層部に向かう階段通路が塞がれています!」
「バリケードか!」
「はい! 大聖堂の中の椅子や机をかき集めて通路内部に詰め込んで石化魔法を強力に仕掛けてます!」
「運び出すことは極めて困難です」
さすがのソフィアも忌々しげに吐き捨てた。
「一つ一つは地味だけど手間と時間がかかる妨害方法ばかりね」
つまり内部からは登っていくことはできない。カリナは既に頭の中を切り替えていた。踵を返して大聖堂の外へと戻る。
「作戦を立て直します! こちらでの魔法陣破壊は継続! 内部での伏兵があることを考えて1/3はこちらで残留してください!」
するとソフィアが問いかけてきた。
「カリナ何をする気?」
「外です」
彼らは明確に力強く言った。
「空を飛んで大鐘楼塔の外部から攻撃を仕掛けます!」
それは驚くような作戦だった。まさに荒唐無稽という他はない。だがカリナの持つ力と、聖剣レギオンブレイドの持つ力を合わせれば決して不可能とは言えない。そんな可能性が見えてくるのだ。
「あなたが言うと、ありえないとは言えないわね」
そうだ、カリナの言葉には希望がある。絶望はない。だからこそわずか10歳の少女に人々はついていくのである。
「やりなさいカリナ! あなたがそう信じるのであれば」
「ありがとうソフィア!」
信頼し合う2人は言葉を交わした。そして同行する仲間たちに彼らは告げる。
「絶望するにはまだ早い! やるべき手段はいくらでも考えられる! 不可能を可能に! それが私たちアルカナヴァンガードです!」
「はっ!」
カリナのその叫びが仲間たちの心を引き締めた。ソフィアが語る。
「こちらの魔法陣は私に任せて!」
エルリックが答えた。
「私は外側からカリナを支援する」
そして彼らは覚悟を決めて歩き出す。
「では塔の外部から敵の作戦を阻止します!」
彼らは最後の試みへと手をかけたのである。