少女と精霊の聖剣十年戦記 ~ひとりの少女が勇者になるまで~ 作:美風慶伍
『体重が軽いんだ。君はまだ10歳の子供だ、体の重さと腕力で敵を切り捨てるほどの力がないんだ』
「そんな――」
だがその時、ブレイズはかつての勇者としての戦いの記憶から助言を導き出そうとしていた。
『力と重さで斬れないなら素早さで斬ればいい』
「――!!」
その言葉にカリナはハッとなった。
「ブレイズさん、エアリスさん、今以上の速度を導き出す方法はありますか?」
するとエアリスは明確に答えた。
『ある! ポリマライズという上級魔法だ。君の体に僕たちの魂を完全に重ねるという方法だ。現在は君の体に僕たちが寄り添っているという形になっている。だが完全に魂を重ねることでよりダイレクトに僕たちの力を発揮させることが可能になる』
「では――!」
希望を見いだして気色ばむカリナだったが、ブレイズは押しとどめた。
『待て! 彼女は体はまだ未完成だ、成長途中の子供の体だ! 無理をすれば彼女の体を持たんぞ?!』
当然の心配だった。だがエアリスはあることを見抜いていた。
『大丈夫だ。彼女の体は想像以上に魔導耐性がある。魔導士となるべく英才教育を受けてきたようにね』
そしてさらにエアリスは訪ねた。
『確かにブレイズが言うように普通の子供ならポリマライズの高負担には耐えられないだろう。だが君の体はそうした高い負担に耐えられるような訓練がされている。どこかで訓練を受けていたね?』
カリナは頷いた。
「私は6歳である軍事国家に拉致されて、10歳で救い出されるまで魔道に関する強制訓練を受けてました。今私があるのは皮肉にもその時の経験があるからです」
エアリスは頷いた。
『やはりそうだったか。ならば話は早い――、やるかい?』
明快極まるエアリスの問いかけにカリナは即断する。
「お願いします! 時間がないんです」
そのカリナの言葉は明快で迷いは一切なかった。
『分かった! やるぞ!』
エアリスが冷静に覚悟を決めれば、ブレイズは軽く舌打ちしてカリナの頭をそっと撫でた
『ちっ! しゃあねな。最後まで付き合うか。エアリス!』
『ああ! ブレイズ』
そしてカリナの左右に改めて並び立ち、聖句を詠唱した。
『偉大なる勇者の肉体に、我らの魂を1つに重ねる――
すると3人が光り輝き彼らの肉体にブレイズとエアリスの霊体が完全に重なって1つとなった。体の中ですさまじいマナが一気に動き出す。しかし当然負担は大きい。カリナはその顔を一瞬しかめたが、すぐに視線を正して前を向いた。
「くっ! このまま一気に決めます!」
『よし行け! 君ならできる!』
カリナの言葉にエアリスが言えばブレイズはさらに発破をかけた。
『俺たちの全力を使いこなしてみろ! 現世勇者! カリナ・ウイングス!』
「はいっ! 行きます!」
そしてカリナはそれまでとは全く違う凄まじい速さでその場で空中で一回転の宙返りをするとさらに速度を増した。
そしてそのまま大鐘楼塔のトップにしぶとく居座る、ワイバーンとそれを操る魔導士や魔族の兵士たちがその視界にとらえられた。
「見えた!」
まさにターゲットを捉えたのだ。
「断ち筋見えました!」
そしてさらに加速、聖剣レギオンブレイドの刀身に風魔法を精一杯詰め込むと、最大レベルの空波斬撃を繰り出した。
「くらえ! 我らの風の刃! やぁああああああッ!」
大鐘楼塔の構造物とすれ違いに横薙ぎに剣を振るって斬撃を繰り出す。
――ザッ! ズバァアアアアアッ!――
魔力を伴った強力な風な刃が猛烈な勢いで吹き出してそに居座っていた魔族とワイバーンを建物ごと水平に両断したのである。
そしてさらに急反転して再び建物に戻ってくると今度から上から斜め下へと抜ける軌道で魔法陣の存在を真っ二つに両断した。
――ガコォオオンッ!――
――ジッ! ジジジッ!――
破壊された魔法陣から火花が散り、蓄積されていたマナが爆発的に噴き出した。そして魔法陣もろとも大鐘楼塔は一気に砕けた。まさに魔導爆発をしたのである。
――ゴッバァアアアアン!――
爆発の爆風とともにワイバーンの死骸や大鐘楼塔の建物の破片があたり一面に吹き出していた。
その光景を眺めながらカリナは荒い息をしていた。
「はぁはぁ……はぁ……」
ポリマライズを解除したブレイズとエアリス、その状態のまま空中でカリナを支えている。
『敵魔法陣反応なし』
『沈黙確認、もう何もないだろ』
2人は攻撃の成功を明確に確信した。
「では――」
『ああ、大成功だよ』とエアリス
『さあ地上に帰ろう』とブレイズ
こうしてカリナは、市民の命を大量に奪おうとした魔族の悪しき企みを、その聖剣と自らの力で完膚なきまでうち倒したのである。
そしてカリナは人々が見守るその前で、先ほどの大規模魔法の余波として、その体は光り輝かせながらと舞い戻ったのだ。
こうして、王都大量殺戮計画は阻止された。そしてこれが勇者カリナに最も信頼されることとなった英霊であるエアリス・レオンハートとの最初の召喚だったのである。