聖剣に選ばれた孤児の少女は、10歳で騎士団長になる ―少女と精霊の聖剣十年戦記― 作:美風慶伍
王族親衛隊の彼らをよそに、カリナたちは順調に令嬢の拉致犯たちを追い詰めようとしていた。
その一方で、カリナはつぶやくように言った。
「ご令嬢が攫われた状況を考えると、ただの人間の盗賊の犯行だとは到底思えなくてさ、王族親衛隊の人たちと協力しようとおもったんだけどなー」
不満げなカリナをたしなめるようにエリオットが語りかける。
「拘っても仕方ないさ。相手が信じてくれないなら、そのやり方は初めからないのと同じだからな」
「そうだね、私たちだけでさっさと済ませよう」
「あぁ」
その方らでソフィアはある魔法を詠唱し実行していた。
「誘拐犯たちの足跡は捕捉できたわよ。カリナ」
「ありがとうソフィア」
ソフィアは振り上げた人差し指の先から魔力の光を放つと1つの道を指し示した。
「問題の令嬢の霊体の波動を捉えたわ。魔法のマーカーで確実に追えるわ」
「ありがとうソフィア! これで探索の手間を省けるわ」
さらに道を追えば、カリナはたちは山への道の中をより深いところへ到達していた。
ソフィアは追跡魔法を駆使しており、変化を感じたようだ。
「もう少しと言うところなんだけどね」
するとエリュシオが問いかけてきた。
『詳細な位置が掴めないのですか?』
「えぇ、強い力に阻害されているようなの」
するとカリナもなにか気づいたようだ。
「魔族の妨害かしら?」
「あり得るわね」とミリアも同意する。
そこにエリュシオが提案をした。
『カリナ、ここは聖剣の力を借りて〝遠隔視〟で行きましょう』
「そうね、力を貸してエリュシオ!」
『承知しました。では、遠隔視の技の体勢をお願いします』
カリナは左腰に下げている黄金色の聖剣の剣先を地面に突き立て、その柄に自らの額を当てて目を閉じた。
『遠隔視能力、発動します』
この技は厳密には聖剣レギオンブレイドの力と言うよりは、それに宿る精霊のエリュシオの力でもある。聖剣に宿っている精霊だからこそ、聖剣から離れることができない。その不利を補う意味で〝見る力〟をどこまでも飛ばせると言う能力だった。これを聖剣を介することでカリナも遠隔視を出来るのである。
カリナは、何か瞑想に耽っていた。随行しているエルリックたちもじっと見守っている。そして、カリナは目を閉じたまま何かをつぶやき始めた。
「見えた……人数は5人、うち1人が気を失っているカロリーナ嬢を肩に担いでいる……ここから迂回して先回りできる……」
カリナは、目を開いて剣から額を離して静かに立ち上がった。そこにソフィアが問いかける。
「何か分かった?」
「はい、ここから先、しばらく緩やかなカーブを描いた下り道が続きます。安全なのはこのまま山道を降りていく方法です。ですが、森の木の間を抜けることで先回りして迂回することが可能です」
「夜の森の木の間を――それができるのは――」
カリナの視線の先にはミリアの姿があった。彼女は元来、山岳作戦に強い斥候兵だ。
「ミリアは先回りしてください。ソフィアはミリアと視覚共有を行って魔法で敵の進路遮断を。エルリックは私と犯人制圧をお願いします」
「心得た!」
「了解です」
3人にそれぞれの能力に見合った任務を割り振る。そこにエリュシオがカリナたちに問いかけてくる。
『お気をつけを、拉致犯に嫌な予感がするのです』
「いつもの〝予感〟?」
『はい、拉致襲撃者たちに切り札となる人物が居るようが気がするので』
これも精霊エリュシオのもつ力の一つだ、優れた素質を持つ者が手にすることで、聖剣レギオンブレイドとその精霊であるエリュシオは様々な力を発揮できるのである。
そこにソフィアが言う。
「カリナ、あなたの指揮官としての采配も板についてきたんじゃない?」
「いいえまだまだです。それに今回はさらわれたご令嬢を救ってこそ、任務が成功したと言えるのですから」
「それもそうね」
そして全員は頷き合う。
「それでは各自行動開始よ!」
「はい!」
そして4人はそれぞれに行動を開始したのだった。
§
そこから先、ミリアたちはカリナの下した采配の通りに、正確かつ緻密に、それぞれの役割をこなした。
まずミリアはほとんど真っ暗闇と言っていいほどの夜の森の中を、わずかな明かりと、周囲の気配だけで通り道を見極め、誘拐犯たちが歩く道の先へと先回りしたのだ。
『敵、視認しました。総数五名、保護対象も確認』
その時ミリアが見えているものを、ソフィアは視覚共有魔法で、同時に見ていた。
『こちらも見えてるわよ、ミリア。崖際の道を明かりもつけずに歩いてる。向こうも発見されるのを恐れてるんだわ』
『ですが、こちらは悟られてません』
『なおさら、好都合よ。今の場所から動かないでね、もう少し先のポイントで崖崩れを起こすから』
『了解』
二人は念話魔法で会話も共有している。饒舌なソフィアと、シンプルな物言いのミリア。それぞれの性格がはっきり出ていた。ソフィアはミリアの視覚から得た光景を頼りに魔法を発動させる。
『地精系魔法――〝岩盤崩壊〟――』
詠唱が終わると魔法は即座に効果を発揮する。辺りは湾曲した谷間であり、地響きと共に小規模な崖崩れが起きて、誘拐犯たちは退路をたたれる形になった。
ソフィアは魔法を使った意思伝達でカリナに告げる。
『崖崩れ誘発、成功したわよ!』
「ご苦労様! 次は我々の番です!」
『頼んだわよ! 私もそっちへ向かうわ』
そしてカリナはエルリックに言い放った。
「さあ次は我々の番です! 不届き者を一気に制圧します」
「ああ、行こう!」
そして2人は誘拐犯のグループめかけて一気に駆け出したのである。
§
そこからのカリナたちの行動は素早かった。かたや、カリナの目の前で誘拐犯たちはパニックに陥っていた。
「が、崖崩れ?」
「こんなところで? 地震も何もなかったぞ?!」
「道は? 他に道はないのか!」
賊の者たちは、逃げ場を探して混乱しているのがよくわかる。その彼らを視界に収めたカリナは冷静に言い放つ。
「エルリック! 警告として彼らを攻撃するわよ!」
「不殺か?」
「可能な限り」
「了解!」
2人は腰に下げていた剣を抜く。加えてエルリックは背中に背負っていたシールドも手にした。
そして混乱を極めている誘拐犯たちに一気に肉薄すると、攻撃したのはエルリックだった。
左手に持ったシールドで敵の顔面を強打、意識を失わせた状態で胴体を浅く袈裟斬りにする。
カリナは、エルリックの戦闘が目を引いている隙に、一番近くに立っていた男の懐に飛び込むと、刃物を持ったその手首に刃を走らせる。
派手に血しぶきが吹き上がり、手傷を負った2人が崩れ落ちる。突然の襲撃に誘拐犯たちは一気に恐慌に陥った。
「な、なんだ?!」
「何が起きた」
あたりは暗闇に包まれている、夜間の戦闘に慣れていない者なら、この状況で相手の顔を認識するのは難しいだろう。だが頭上には満月がある。木の枝や雲の隙間から、月明かりがこぼれてそれがカリナを照らし出した。
「こ、子供?」
「ガキじゃねえか?!」
「まさかこいつがやったのか?」
カリナは剣を一閃して血糊を振り払う。
――ビュッ!――
「大人しく、その令嬢を返しなさい。その上で背後関係を白状すれば死一等を減じる猶予を与えます!」
その言葉は恐ろしく理知的で落ち着き払っていた。
「王族への狼藉は刑死とされています。死にたくなければ投降しなさい!」
到底10歳の子供には思えない力ある言葉が朗々と響いた。
「うるせえぇ、人数はこっちの方が多いんだ!」
誘拐犯の1人はそう言い放ち腰に下げていたフリントロックの拳銃を突きつける。だが――
――ヒュッ――
かすかな風切り音がしてスローイングナイフが飛んできた。そして男の拳銃を握る手に突き刺さり、拳銃は地面に落ちて暴発する。弾丸がカリナの方に偶然に飛んできたのだが、カリナのまわりに薄く光る魔法結界が瞬時に張り巡らされ、弾丸は結界で弾かれた。
『カリナ、お怪我はありませんか?』
「ありがとうエリュシオ! 大丈夫!」
結界魔法を張ったのは他ならぬエリュシオだったのである。
一方で、冷酷な声でミリアが言った。
「無駄な抵抗はやめなさい」
鬱蒼とした森の木の間から流れる声が不気味に感じたのだろう。残る3人のうち2人の誘拐犯も両手を上げて観念をした。
「降伏の意思を確認しました。大人しく地面に伏せ――」
カリナたちがそう勧告しようとした時だ。
『やはりダメだナ、人間の賊とイウのワ』
気を失った令嬢を肩に担いだ残り1人が不気味に響く声でそう言い放ったのである。
( 'ω'o[ 読者さまへ ]o
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