聖剣に選ばれた孤児の少女は、10歳で騎士団長になる ―少女と精霊の聖剣十年戦記― 作:美風慶伍
そこから先、ミリアたちはカリナの下した采配の通りに、正確かつ緻密に、それぞれの役割をこなした。
まずミリアはほとんど真っ暗闇と言っていいほどの夜の森の中を、わずかな明かりと、周囲の気配だけで通り道を見極め、誘拐犯たちが歩く道の先へと先回りしたのだ。
『敵、視認しました。総数五名、保護対象も確認』
その時ミリアが見えているものを、ソフィアは視覚共有魔法で、同時に見ていた。
『こちらも見えてるわよ、ミリア。崖際の道を明かりもつけずに歩いてる。向こうも発見されるのを恐れてるんだわ』
『ですが、こちらは悟られてません』
『なおさら、好都合よ。今の場所から動かないでね、もう少し先のポイントで崖崩れを起こすから』
『了解』
二人は念話魔法で会話も共有している。饒舌なソフィアと、シンプルな物言いのミリア。それぞれの性格がはっきり出ていた。ソフィアはミリアの視覚から得た光景を頼りに魔法を発動させる。
『地精系魔法――〝岩盤崩壊〟――』
詠唱が終わると魔法は即座に効果を発揮する。辺りは湾曲した谷間であり、地響きと共に小規模な崖崩れが起きて、誘拐犯たちは退路をたたれる形になった。
ソフィアは魔法を使った意思伝達でカリナに告げる。
『崖崩れ誘発、成功したわよ!』
「ご苦労様! 次は我々の番です!」
『頼んだわよ! 私もそっちへ向かうわ』
そしてカリナはエルリックに言い放った。
「さあ次は我々の番です! 不届き者を一気に制圧します」
「ああ、行こう!」
そして2人は誘拐犯のグループめかけて一気に駆け出したのである。
§
そこからのカリナたちの行動は素早かった。
カリナの目の前で誘拐犯たちはパニックに陥っていた。
「が、崖崩れ?」
「こんなところで? 地震も何もなかったぞ?!」
「道は? 他に道はないのか!」
賊の者たちは、逃げ場を探して混乱しているのがよくわかる。その彼らを視界に収めたカリナは冷静に言い放つ。
「エルリック! 警告として彼らを攻撃するわよ!」
「不殺か?」
「可能な限り」
「了解!」
2人は腰に下げていた剣を抜く。加えてエルリックは背中に背負っていたシールドも手にした。
そして混乱を極めている誘拐犯たちに一気に肉薄すると、攻撃したのはエルリックだった。
左手に持ったシールドで敵の顔面を強打、意識を失わせた状態で胴体を浅く袈裟斬りにする。
カリナは、エルリックの戦闘が目を引いている隙に、一番近くに立っていた男の懐に飛び込むと、刃物を持ったその手首に刃を走らせる。
派手に血しぶきが吹き上がり、手傷を負った2人が崩れ落ちる。突然の襲撃に誘拐犯たちは一気に恐慌に陥った。
「な、なんだ?!」
「何が起きた」
あたりは暗闇に包まれている、夜間の戦闘に慣れていない者なら、この状況で相手の顔を認識するのは難しいだろう。だが頭上には満月がある。木の枝や雲の隙間から、月明かりがこぼれてそれがカリナを照らし出した。
「こ、子供?」
「ガキじゃねえか?!」
「まさかこいつがやったのか?」
カリナは剣を一閃して血糊を振り払う。
――ビュッ!――
「大人しくその令嬢を返しなさい。その上で背後関係を白状すれば死一等を減じる猶予を与えます」
その言葉は恐ろしく理知的で落ち着き払っていた。
「王族への狼藉は刑死とされています。死にたくなければ投降しなさい!」
到底10歳の子供には思えない力ある言葉が朗々と響いた。
「人数はこっちの方が多い!」
誘拐犯の1人はそう言い放ち腰に下げていたフリントロックの拳銃を突きつける。だが――
――ヒュッ――
かすかな風切り音がしてスローイングナイフが飛んできた。そして男の拳銃を握る手に突き刺さり、拳銃は地面に落ちて暴発する。弾丸は明後日の方向へと飛んで行き無駄弾になった。
「無駄な抵抗はやめなさい」
冷酷な声でミリアが言った。鬱蒼とした森の木の間から流れる声が不気味に感じたのだろう。残る3人のうち2人の誘拐犯も両手を上げて観念をしたのだ。
「降伏の意思を確認しました。大人しく地面に伏せ――」
彼らがそう勧告しようとした時だ。
『やはりダメだナ、人間の賊とイウのワ』
気を失った令嬢を肩に担いだ残り1人が不気味に響く声でそう言い放ったのである。
§
残り1人の男は目深に頭にフードをかぶっていたため、顔は見えなかったが、その右手の指先を前方へと突き出すと、その指先から銀色に光る光弾を4発撃ち放った。
投降しようとしていた4人を背後から打ち抜き瞬殺したのである。
――ドサッ――
4人はほぼ同時に崩れ落ちた。それと同時に男はフードをゆっくりと後方へと降ろした。
「角に金目!」
頭部の角、金色の瞳、男の正体をミリアが言い放つ。カリナはあくまでも冷静に正体を現した男と向き合った。
「やはり魔族でしたか」
「分かっていたノカ?」
「半分は推測でしたが、残りは確信です。こんな明かりもない道を目が見えているようにさっさと歩けるなんて、よほどの訓練を受けているか特殊な目を持っているかのどちらかです」
カリナの推測に魔族の男はニヤリと笑った。
「その黄金の輝く剣、それを持っているということは小娘、貴様ただ者ではナイナ?」
だがカリナはわかっていた。穏やかそうに語りかけていながら、こちらの心理を乱すことが向こうの目的なのだと。魔族は油断のならない生き物なのだから。
相手のペースに応じず、相手の目的を見抜いて言い放つ。
「カロリーナ嬢を殺さなかったのはその生きた血が必要だからですね?」
会話に応じず、いきなり確信を突きつけてきたカリナに対して魔族は苛立ったように片目をしかめる。そしてさらにカリナは突きつける。
「カロリーナ嬢の誘拐を〝発注〟したのは、おそらく魔将軍クラスでしょう。高レベルの呪術を行うために王族クラスの高貴な血が必要になったのでは?
そのため大部隊を率いて押し寄せるよりも、現地の人間をたぶらかし巻き込んで誘拐事件を企てた方が効率がいいと踏んだのですね」
カリナは逆に言葉を駆使して相手のペースを乱そうとしていた。事実相手は、令嬢を殺さない理由を看破されて〝人質を殺すぞ〟と言う脅しが使えなくなっていた。
「その令嬢を殺せば、依頼人である魔将軍から怒りを買う。そうなればあなたの命は風前の灯」
――チャッ!――
カリナは言葉の韻と同時に剣を握り直して正眼に構えた。
「皆殺すシカないナ――」
対する魔族の男も武力行使しか道は残されていなかった。独特のイントネーションの声が重く響く。
10歳の少女剣士――、闇を行く魔族の密偵の男――、
戦いの口火が、今、切られようとしていた。
( 'ω'o[ 読者さまへ ]o
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