少女と精霊の聖剣十年戦記 ~ひとりの少女が勇者になるまで~ 作:美風慶伍
三々五々にそれぞれに宿舎へと散っていく。カリナもエルリックたちとともに駐屯基地の本営建物にある幹部向けの休息施設に戻っていく。
ちなみにカリナの生活スペースが有るのもここである。そこへと至る通路を歩いていると佇んでいる人影があった。
血汗を流して戦ったカリナたちを出迎えてくれたのは、あの老師匠のアレクサンドリアであった。かなりの高齢で老境の人物故に、戦いに出ることはない。だが、カリナに剣技を授け、兵士たちの精神的柱として、彼は関わってくれているのだ。
「ご苦労さんだったな、カリナ、お前たち――、すでに出来上がっていた敵の攻撃魔法陣、想像以上の大量の伏兵――、気の抜けない事案だったが王都の平和をよくぞ奪還した! 見事だったぜ!」
「師匠! ありがとうございます!」
カリナは笑顔で駆け出すとアレクサンドリアに抱きつくように見上げた。
「よく頑張ったな、カリナ――、英霊を召喚しての空中戦闘――、始めてのことも多かったと思うが、王都の市民の命の危機をよくぞ守り抜いた!」
「無我夢中でした、でも、恐ろしい戦闘用の魔法陣が設置されている事を知った時、勝たなければ人々の命が失われる。それだけは絶対に避けたいと思いました」
「それをお前は成し遂げた。見事だ。だが慢心すること無く、これからも精進するこったな」
「はい!」
そして、アレクサンドリアはカリナを抱き上げた。祖父が孫をそうするように。それを見てソフィアが言う。
「ほんとにおじいちゃんと孫ね」
エルリックも否定しなかった。
「まぁな、だがカリナの心のためにもそれでいいのさ」
そこにミリアが突っ込んだ。
「アレクサンドリア様がおじいちゃんなら、エルリックがお父さん――、ソフィアが――お母さん?」
「はぁああ?」
ソフィアが奇声をあげた。一番の急所に突っ込んだようだ。
「なんでそうなるのよ!」
「でも、毎朝起こすところとか、身の回りのこと世話する姿とか、まんまそうですし」
するとカリナが不安げな顔でソフィアに言った。
「お母さんと思っちゃだめなの?」
わずか10歳の少女のすがるような目線――ソフィアもこれには勝てない。
「だ、だめじゃないわよ。うん――」
認めるしか無いソフィアだった。だが、その理由はだれもが解っていた。母親と思われることが嫌なのではない。理由はもう一つある。
「しかたあるまい。歳の開きがそれぐらいの離れがあるからな」
よりによって地雷をまんま踏み抜いたエルリックだった。ミリアは二十代だが、ソフィアとエルリックは三十代前半である。
「エルリック――ちょっとお話しようか?」
「む? お、おう――」
ソフィアはエルリックを睨みつつ、カリナに声をかけた。
「カリナ! あとでお風呂の準備するわよ。寝室で待ってて」
「はい!」
ソフィアはエルリックの手を掴んで引っ張っていく。その姿を苦笑交じりに見送るカリナたちだった。
「それじゃ行こうか」
「はい」
カリナを抱いたままアレクサンドリアも歩き出す。そして、ミリアもついてくる。その時だった。
「……すぅ……すぅ」
アレクサンドリアに抱かれてその胸の中で寝息を立てていた。あどけないその表情がなによりも可愛らしかった。
「寝ちまったか」
「しかたありません。それだけ激しい戦いでしたから」
「そうだな、まだ10歳なんだよな」
「戦いの道に引き込まれたのは6歳――、これでもすでに4年の戦歴をもってる立派な戦士です」
「普通の子はそんな道は歩かねえ。だからこそだ。俺達がこの子の〝心〟をまもって育ててやらなきゃならねえのさ」
「おっしゃるとおりです」
ミリアも寝息を立てるカリナを頭をそっと撫でたのだった。