聖剣に選ばれた孤児の少女は、10歳で騎士団長になる ―少女と精霊の聖剣十年戦記―   作:美風慶伍

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第7章:イーラス孤児院にて
裸足のカリナ ―心ある老夫婦の馬車―


 少女は裸足だった。

 泥にまみれた木綿のワンピースの衣装のまま、あてもなく歩いていた。

 少女の背丈はまだ低く、年の頃は五歳か六歳。 本来ならば、まだ親と一緒に暮らしているべき年頃である。

 

 空は曇り、今にも雨が降りそうだ。

 

 でも、少女には雨を遮る傘はない。寒さを遮る十分な服もない。

 季節は秋、それも晩秋、寒さに震えながら、唇を青くして、よろよろと歩いている。

 もちろん、行くあてもなかった。

 その時だーー

 

ーーガラガラガラガラーー

 

 道を、石を、踏みしだきながら、一台の農業用の馬車が走ってくる。そこに乗っているのは老夫婦だった。 簡素な身なりから農夫であろうことはわかった。

 

 その少女の隣で馬車は止まった。 手綱を握っていたおじいさんの方が少女に声をかける。

 

「お嬢ちゃん、一人で歩いてどうしたんだ」

 

 おばあさんの方も、少女の身なりが気になったようだ。

 

「裸足で歩いてどうしたんだい?」

 

 少女は立ち止まり二人を見上げると、ボソボソと喋り始めた。

 

「逃げてきた」

「どこからだ?」

「魔王軍ーー」

「お父さんとお母さんは?」

「死んじゃった……」

 

 すると、老夫婦は顔を見合わせた。

 

「おじいさん、もしやこの子の親御さん、この子を生かすために」

「だろうなぁ。まあ、今のご時世、そんなのはよくある話だけど」

「どうします?」

「そうだな」

 

 おじいさんが馬車から降りてきて、少女に手を差し出す。

 

「一緒に来い、とりあえず、どうするかはそこからだ」

 

 少女はようやく笑顔を取り戻して、顔を振り上げた。

 

「うん」

 

 そして、おじいさんはさらに尋ねた。

 

「お嬢ちゃん、名前は?」

「カリナ」

 

 それが彼女の名前だった。そして、その老夫婦はカリナをその馬車に乗せ、おばあさんが少女に毛布をかぶせてあげた。

 

「寒かったでしょ?」

「ありがとう」

 

 少女は、屈託のない笑顔を浮かべた。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

 そして馬車は走り出す、行くあてのない孤独な少女を乗せて。

 この日から、カリナという少女の孤独な旅路は始まったのである。

 

 

§

 

 

 カリナは一時的に老夫婦と一緒にさらに南西の方にある仮設の村に避難した。親切な老夫婦で、カリナをことのほか可愛がってくれた。

 よそからのおさがりとはいえ、木綿のワンピースを用意してくれて、使い古しだったが丈夫な革靴も用意してくれた。避難村の人々もカリナのことを分け隔てなく大切に接してくれたのである。

 

「このまま、おじいさんとおばあさんと一緒にいれたらいいな」

「ああ、そうだな」

 

 それは願望であると同時に、懇願でもあった。二人に見放されたら、もう行く場所はないかもしれない――

 そんな不安を幼いながらに、胸の奥で感じていたのだ。

 

 おじいさんやおばあさんの生活のための作業を手伝いながら、避難村で密かに暮らす。そこでは、他の大人たちの深刻な会話が嫌でも聞こえてくる。

 

 農作業場の傍らに丸太を積み上げた場所がある。そこに腰を下ろして、タバコを吸っている男達がいた。ごみ捨てで、たまたま通りかかった時に、カリナは彼らの話を聞いてしまった。

 

「魔王軍のやつら、国境を越えて、えらい深く進軍してくるな」

「隣のネルガルが、まともな国境線防衛を、できてねーんだよ」

「本当かよ」

 

 カリナが暮らしている国はルミナリアという。その西側に位置しているのがネルガルという国である。魔王軍との戦いはここ数十年、本来はこのネルガルで行われてきていたのだ。

 

「あぁ。ネルガルは、国土が広いんだが。 なまじ広すぎて国を守りきれてないんだ」

「ネルガルを通り過ぎて、俺たちのルミナリアまで食い込んできてるってわけか」

「その通りだ、だから、魔族の支配領域と国が直接に接していないからって安全だとは限んないんだとよ」

「勘弁してほしいぜ」

「まったくだ」

 

 カリナはそういうことなのかと、ようやく理解した。

 今の世の中、どこに行ったとしても、安全だとは限らないのである。

 頭の中をつい悪い予感がよぎってしまうカリナだったが、頭を左右に振って、悪い予感を振り切るとゴミを捨ててきてしまおうと、足早に駆け出すカリナだった。

 

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