聖剣に選ばれた孤児の少女は、10歳で騎士団長になる ―少女と精霊の聖剣十年戦記― 作:美風慶伍
その村ではひと月ほど、老夫婦と一緒に暮らすことができたが、魔王軍の領域先行侵略部隊の魔の手は迫っていた。
夜中に突如、村の北側にある林から炎が燃え上がったのである。
「起きろー!!」
「早く避難しろ!」
「魔王軍だ!」
人間の居住地を破壊するため、領地をじわじわと削り取るために、魔王軍は様々な形で侵略作戦を広げていく。
人間の居住している村や街をじわじわと圧迫するような攻撃も、人間への圧力という意味では、とても有効なのである。
おばあさんと一緒のベッドに寝ていたが、慌てて飛び起きる。なんとか着替え終え、おじいさんとおばあさんと一緒に、再びまた馬車に乗る。
「おじいさん、ここを避難したら次はどこに行けばいいか」
「わからん、誰かが助けてくれると信じるしかない」
次の避難先が見つかる前の緊急避難だったからだ。
そして、カリナを乗せて、老夫婦のあの馬車はやりきれない気持ちを乗せて、その避難村を後にした。
その時、カリナは悟った。
――もうおじいさんとおばあさんに迷惑はかけられない――
避難村からさらに3日、街道筋を他の避難民たちと一緒に馬車を走らせていた時だ。
街道を少し離れて、山へ行った方。そこに三角屋根の建物が見えた。
誰かが言った。
「教会だ」
「違うよ、孤児院だ」
――孤児院――
その言葉がカリナの胸に刺さった。その三角屋根を見ていたがカリナは即決断した。
「おじいさん、馬車を止めて」
「どうしたんだ?」
カリナはほんの少しだけ迷ったが、勇気を持って告げた。
「私、あそこに行く」
複数の馬車の列が静かに止まった。そして誰もが沈黙をしたままだった。行きなさいとは言わない、でも、ダメだとも言われない。
元々の村の連中とは縁もゆかりもない、流れのみなしごだ。状況に余裕があったから、一緒にいられただけなのだ。
計画的に避難をしたはずだった。しかしそこに追い打ちがかかった。次にどこに行けるか? そもそも生活が営めるか? その希望すらない。難民扱いされたら食うや食わずの厳しい毎日が待ってるだろう。
行くなとは言えなかった。でも、好きにしろとも言えなかった。おばあさんが、カリナを抱きしめた。
「ごめんね――」
「ううん」
それが精一杯だったのだ。馬車の荷台から、自分から降りるカリナ。おばあさんも降りてきて、カリナの襟元に自分が巻いていたスカーフを巻いてあげた。
「体に気をつけるんだよ」
「おばあさんもおじいさんも元気でね」
おじいさんも馬車から降りてきてカリナの手をしっかりと握ってくれた。
「達者でな」
「うん」
それでも、その老夫婦に会う前は裸足だったが、今ではお下がりとはいえ、立派な革靴がはかされていた。
別の馬車に乗っていた若い夫婦が擦り切れた古い毛布をカリナの肩にかけてあげた。
「孤児院の中には、寝る物も足りないところがあるという。苦労するかもしれないけど、挫けずに頑張れよ」
「ありがとう」
そして立ち去る馬車の群れをカリナは小さく手を振って見送った。そして、脇道の彼方にある孤児院に群れて歩き出す。
「あそこなら、暮らしていけるかな」
そこが安住の地になればとわずかな希望を胸に抱いていたのである。
( 'ω'o[ 読者さまへ ]o
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