聖剣に選ばれた孤児の少女は、10歳で騎士団長になる ―少女と精霊の聖剣十年戦記― 作:美風慶伍
孤児院への道のりをカリナは1人とぼとぼと歩いた。
でも、父と母から死に別れて、一人寂しく歩いていたときと比べれば、足も体もまだ暖かかった。
寒さは希望を奪う。
だが、暖かさは希望を与える。カリナが歩く先には孤児院と言う目的地がある。まだ、カリナの心は折れていなかった。
冬の寒さが遠くに見える秋、枯れ葉の舞い散る中を歩いてカリナは、夕暮れ前には孤児院へとたどり着いた。
「ここが、孤児院――」
カリナの前には古びた協会が建っていた。協会の小さな聖堂の脇には寝泊まりするための建物がある。作りはしっかりしているが、決して裕福そうな作りではない。
中で静かにしているのか建物の外に人影はなかった。
どうすればいいかと途方に暮れていると、聖堂の入口の扉が静かに開いた。中から現れたのは頭に純白の頭巾をかぶったシスターだ。数人居るらしく、その中でもまだ一番若い20代なかばくらいのシスターがカリナを見つけた。
「あなた――どうしたの?」
どう話していいか途方に暮れる。両肩に羽織った毛布をぎゅっと両手で握りしめると視線を地面に落とす。だが、勇気を奮って顔を上げて一言告げた。
「お父さん、お母さんが天に召されました。行く場所がありません」
「それでここに来たの?」
「はい」
カリナは力強く〝はい〟と答えた。返事ははっきりと――と教えたのは亡き父だった。
「ちょっとまってて」
そう一言残すと若シスターは聖堂の中へと戻っていく。すぐに初老のシスターが現れる。膝を折ってカリナと同じ目線に降りると両手を握りしめながら問いかけてきた。
「あなた、どこから来たの?」
「ここから北のヴェンデリン村、そこから逃げて他の村の避難民の人と一緒に居たけどそこも――」
中堅のシスターたちが耳打ちする。
「ここから馬車で4日ほど行ったところです」
「たしか魔王軍の大規模侵攻があったと」
それを耳にして老シスターは表情をこわばらせた。
「行く場所がもう無いのね?」
カリナは疲れ果てた顔で頷く。
「親切な人たちに助けてもらいました。でも、その人たちも避難村が襲われて行き場をなくしました。それで――」
「迷惑をかけられないと思ったのね?」
「はい」
その言葉に老シスターはカリナをそっと抱きしめる。
「大丈夫よ。ここならばもう安心よ。神のお導きのもと、静かに暮らしましょう」
「ありがとうございます」
そう答えると、老シスターはカリナの背中をそっと叩いたのだった。
中堅の30歳位のシスターがつぶやく。
「言葉づかいの丁寧な子ですね」
「――それだけ亡くなられたご両親が立派な方だったのよ」
カリナは、泣きわめかず、うろたえず、静かにシスターが気づいてくれるのを待っていた。普通の子は、親と死に別れて孤児院にたどり着くと絶望に言葉もないか、取り乱して泣きじゃくるか、そのどちらかだ。だが、カリナは泣きわめかず、うろたえず、シスターたちと向き合っている。他の子と違う、何かを持っていたのである。
「心の強い子だわ」
「そうですね」
そして、カリナの目を見て改めて尋ねる。
「お歳はいくつ? 名前は?」
「カリナ・ウィングス――5歳です」
5歳という年齢にしては驚くような落ち着き方だった。老シスターは立ち上がると、カリナに告げた。
「じゃあ、カリナ――、イーラス孤児院にようこそ。あなたを歓迎するわ」
するとカリナは自ら質問をしてきた。
「ここでは神様の教えをまもらないといけないのですか?」
その言葉にシスターの誰もが驚いた。両親を亡くした、親に見捨てられた、そう言う状況の子は、生きること、そして、食べること、それだけで精一杯だ。だが、カリナは、この孤児院での神様との約束事について問いかけてきたのだ。
「大丈夫よ。まずは毎日の神様へのお祈りをすればいいから」
「はい」
ここでもカリナは力強くはっきりと〝はい〟と答えた。それがシスターたちを満足させたのだろう。優しく手を握りしめてくれた。
こうして、カリナはこの孤児院にて暮らすこととなったのである。
( 'ω'o[ 読者さまへ ]o
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