聖剣に選ばれた孤児の少女は、10歳で騎士団長になる ―少女と精霊の聖剣十年戦記― 作:美風慶伍
とはいえ、孤児院での暮らしは過酷の一言だった。基本的には、わずかな農場の収穫と併設されている教会への寄付で営まれていたからだ。
だから食料は基本的に不足しがちだ。わずかな食料をみんなで分け合い、融通しながら暮らしていくこととなる。
寝るところもそうだ。ベッドは二十脚、それに対して、子供たちは28人もいた。
狭いベッドに、二人で一緒に寝るなどよくある話だった。それでも――
「一人で生きていくよりは、ずっといい」
カリナは心の底からそう思っていた。
例えば、孤児院では友達もできた。
一人は年上の女の子で十二歳になるマーガレット。
「はじめまして、よろしくね。わからないことがあれば、何でも聞いてね」
「はい、よろしくお願いします」
マーガレットは育ちが良いのか、理知的な話し方をする子で、同じように丁寧な話し方をするカリナとは、すごく馬があった。マーガレットは姉のように振る舞い、カリナもそれを慕った。夜寝る時も、同じベッドで寝るほどだったのである。
ある日のこと――
寂しさが募って、涙が止まらなかった時のことだ。
「カリナ、また泣いてたのね」
「うん……」
「お父さん、お母さんが恋しい?」
「もう会えないのはわかってる、でも」
するとマーガレットは、カリナを優しく抱きしめてくれた。
「ないものねだりは、もうやめよう、今ここにあるもので。 頑張って生きていくの。私も手伝うから」
「うん」
父と母はもういない、でも、その代わり、今はマーガレットやシスター達がいる。
「お姉ちゃん、もう大丈夫だよ」
カリナは涙を拭って笑顔を取り戻した。
「よかった」
二人は本当の姉妹のように、絆を深めていったのである。
マーガレットのような、品行方正なお姉さんタイプもいれば、一歩間違えれば孤児院を台無しにしかねないようなイタズラをする悪童もいた。
カリナより2つ年上のジェイクという少年で、女の子に虫を投げつけたり、服の裾をまくったりという、他愛のないいたずらを繰り返すような少年だった。
カリナも孤児院に入院した数日後に、その洗礼を受けたが。やられた初日のうちに、ジェイクの頬を思いきり右手でひっぱたいたのがカリナだった。
「いてえな、何すんだよ!」
「先にやってきたの、あなたでしょ」
「なんだと?!」
「女の子だからって、やられてもうつむいて泣いてるばかりだと思ったら、大間違いよ!」
本気で殴りかかってきそうなその剣幕にジェイクは圧倒された。カリナは、やられたからといって、メソメソと泣いているような女の子ではないのだ。
「わ、悪かったよ」
この時は、カリナがジェイクを圧倒して勝利を得た。それ以来、ジェイクはカリナにはいたずらを全くしなくなった。その代わり、ジェイクは、カリナを遊びに連れ出すようになった。
建物の外で、追いかけっこをしたり、
大きな木で木登りをしたり、
食料が足りなくて、お腹が空いた時は裏山に木の実や果物や、食べられるものを探しにも行った。
時には、うさぎや大きなカエルを捕まえて、ナイフで捌いて。 焚き火で焼いてくれたりもした。
「こういうの食えるか?」
「うん、ありがとう、食べれるよ」
「生き物を殺すと、シスター達に怒られるから内緒だぞ」
「わかってる、内緒だね」
「おう」
山登りも、山の中で火を起こすのも、ジェイクはとても得意だった。生きていた頃の父から教わったのだという。
「死んだ親父が軍人だったんだ」
「兵隊さんだったの?」
「ああ、亡くなる前は、軍曹だかなんだか」
そこから、より詳しく話を聞いたら、母親は今でも生きているのだという。しかし、父が戦死した時に、軍から出された報奨金を持ち逃げして、ジェイクを一人残して姿を消した。
「お母さんに会いたくなったりしないの?」
「……優しくない母さんなんて、いないのと同じだよ」
「そうなんだ、ごめんね、余計なこと聞いて」
「気にすんなよ、もうないものはないんだからさ」
ジェイクのその、過去を引きずらない前向きな性格を、カリナは立派だと思った。
「一緒に頑張ろうぜ! いつかここを出て、ちゃんとした仕事について楽しく暮らすんだ」
「その時、一緒についてっていい?」
「もちろんだよ、一緒だぞ!」
「うん」
マーガレットが姉なら。 ジェイクは間違いなく兄だった。それも一度深く信頼したなら、絶対に見捨てないタイプの兄だった。
カリナが孤児院での暮らしで、くじけずにいられたのは。 この二人の影響がとても大きかったのである。
なお、余談だが――
裏山で動物を調理した件、口元に食べかすがついてたり、匂いがしたり、食べ残しの骨が見つかったりしてわりと頻繁にバレて怒られていたのは日常である。
「ジェイク、また裏山に行ったのね? 動物を殺してはダメって言ったでしょ!」
「仕方ねーだろ、お腹すいて我慢できなかったんだから」
バレたきっかけがカリナだったので、ジェイクは終始自分が前に出てシスターに釈明をしていた。
ここまで堂々と。カリナをかばって、自分が悪いと、開き直られるとシスター達は何も言えなかった。
「動物の魂の供養に神様の前でお祈りをなさい。それと、罰として、薪拾いです。いいですね」
「わかった」
二人で一緒に神様の前でお祈りをし、寒い裏山で、薪拾いをする。でもこの時、ジェイクはカリナには薪拾いは絶対させなかった。
「お前はそこで座って休んでろ」
「あたしもやるよ」
「いいんだ。動物を食べるって言い出したの俺なんだからな。だから俺がやる」
罰を与えられた時は、カリナの分も、ジェイクは一人でこなした。責任からは逃げない男――それがジェイクだった。
「ありがとう」
「おう」
こうして、辛く苦しい孤児院生活をカリナは少しずつ乗り越えていったのである。
( 'ω'o[ 読者さまへ ]o
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