聖剣に選ばれた孤児の少女は、10歳で騎士団長になる ―少女と精霊の聖剣十年戦記― 作:美風慶伍
そんな風にイーラス孤児院での日々は、少しずつ動き始めていた。 他の子供たちやシスターたちと、ひっそりと暮らしていた。
基本的に貧しく、食料が不足することがしばしばあった。寝具やベッドも人数分には足らない。
それでも、貧しいなりにみんなで助け合って生きていた。
カリナは、孤児院での暮らしを辛いと思ったことは一度もなかったのである。
12月には星空の下で天星祭を祝い、1月には新年祝賀の祈りを捧げる。そして、3月には新緑の祈りが行われて春を迎える。
時々、近くの村や町から寄進が行われ子どもたちに菓子が施されることもあった。成長した子が、養子に引き取られることもあった。
毎日の暮らしは賑わいに満ちていたのである。
ちなみに1月の末、豪雪で身動きが取れず食糧危機に陥ったことがあったが、大雪の中をジェイクが大型の罠で巨大な雄鹿を仕留めるという事件があった。
普段は動物を捕まえることに口うるさいシスターたちも、背に腹は替えられないと悟り、丁寧に弔いを上げたうえで解体して鹿肉にしたそうである。
それから、冬を越してカリナは6歳になっていた。
そんな春の暖かいある日のこと。国境を越えて軍隊がやってきた。
カリナの生まれた国の名はルミナリア、そこと国境を接している軍政国家ネルガル、独裁制の強い国家で隣国ともたびたび問題を引き起こしているやっかいな国だ。
「何ですかあなたたちは!」
「ここはルミナリアです! ネルガルの軍隊が荒らしていい場所ではありません!」
「黙れ!」
孤児院のシスターの1人が強い口調で抵抗して、それに激昂した兵士が剣を抜いて問答無用で切り伏せた。
恐怖がその場を支配するなかで、ジェイクだけは、自ら前に進み出てネルガルの兵士たちを鋭く睨みつけていた。
「お前ら、何しに来たんだよ!」
他の子供達は、男の子も含めてすっかり怯えている中で、ジェイクだけは一切怯まず仲間達を守ろうとしていた。
兵士たちのまとめ役である、分隊長らしき男が剣を抜いたまま、ジェイクに近寄ってくる。 斬られるのではと、シスター達も不安げに見守っている。
「威勢がいいなぁ、小僧。これが怖くはないのか?」
ジェイクの鼻先に剣先が突きつけられる。剣の鉄の冷気が、ジェイクの鼻先に伝わってくる中で、それでも、一歩も下がろうとしなかった。
「怖くねえと言ったら嘘になる。でもこういう時に、何も言わないで後ろに下がっている方が恥ずかしい」
「ほう? 意外と気骨があるな、まあいい」
男は、剣を左腰の鞘に収めると大声で命令を発した。
「10歳以下の餓鬼たちを集めろ!」
「はっ!」
士官らしき分隊長の命令で兵卒たちが動く。まだ幼そうな子供たちを20人ほど強制的に集めた。その中にカリナとジェイクの姿もあった。マーガレットは10歳を超えていたので対象とはならなかった。
何が起きるのかと、誰もが不安を隠しきれていない中、兵士が頑丈な鉄製の箱を二人がかりで運んでくる。そして、箱の中に納められていた1本の剣を取り出す。
黄金色に輝く聖剣で十字唾の根本には大粒の輝くクリスタルがはめ込まれている。ジェイクに剣を突きつけた、あの分隊長が低い声で告げた。
「1人1人順番にこの剣を握れ」
怯えて動かない子供たちをネルガルの兵は恫喝する。
「急げ!」
「モタモタするな!」
槍や剣を手に威嚇してくる大人たちに子供達は抵抗できなかった。子供たちの親代わりであるシスターたちも盗賊以下の凶暴性をあらわにする兵隊たちになす術もなかった。
子供達は言われるままに1人1人順番に剣を握りしめていった。兵隊たちとは違う豪華なキャソック姿の魔導士が控えていて、彼は剣のクリスタルの反応をつぶさに観察していた。
「陰性、陰性、陰性、陽性、陰性――」
陰性と言われた子供達は返される。陽性とされた子供達は引き離された。さらにジェイクの番が来た。恐れず力強く剣を握る。
「陰性」
魔道士の声が聞こえた。ジェイクはホッとしつつも、返されない子どもたちが居ることに強い義憤を抱いて兵士たちを睨んでいた。
そして、最期――、いよいよカリナの番だ。
( 'ω'o[ 読者さまへ ]o
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