聖剣に選ばれた孤児の少女は、10歳で騎士団長になる ―少女と精霊の聖剣十年戦記― 作:美風慶伍
武器を使う訓練、特に剣技は徹底的に仕込まれた。重い鉄剣を血豆が出るまで素振りさせられた。大人を相手に手合わせをした事もある。座学もある、軍事知識、魔法技術、徹底した冷酷極まりない英才教育だ。休みはほとんど無く毎日特訓が続く。
「また減りましたね」
「そうだね」
耐えられない子は一人、また一人と姿を消す。でもその頃にはカリナの心の中にも覚悟のような物が芽生えていた。共に暮らすリルケの助言や励ましも大きかった。
「頑張ろうね」
「はい」
カリナは必死に食い下がった。傷だらけになりながら。泥まみれになりながら。そんなある日、指導役の上等兵がカリナに尋ねてきた。
「お前は意外と根性があるな。泣いてばかりいたからすぐに消えると思ったんだがな」
厳格で厳しい指導をする人だったが、年端の行かない子供でもしっかりと向き合ってくれる人だった。だからこそカリナは思いを打ち明けた。
「死にたくないから。だって、お父さんとお母さんが自分の命を懸けて魔族から助けてくれた命だから」
「――そうか」
その人はそれっきり何も話さなかった。しかし戦闘訓練の時はカリナに徹底的に必要な事を叩き込んでくれた。厳しさの中に真剣さが伝わってきた。
「生き残りたければ強くなれ。理不尽だとは思うが、今の俺にはそうとしか言ってやることができない」
「はい」
彼の言葉に嘘偽りは無い。カリナはその教官をいつしか尊敬していた。
訓練に真剣に向き合い、少しづつだが確実に強くなっていく。辛いだけだった日々の中に喜びも見えてくる。それでも、どうしても聞きたいことがあった。
「教官」
「なんだ?」
「私たちはなぜ強くならないといけないんですか?」
「それはだな」
言葉が途絶える。迷っているのが解る。周囲に人目がないことを確かめて彼はそっと打ち明けてくれた。
「〝魔族〟と戦うためだ」
「え?」
一瞬、心が蒼白になる。
「まだ子供の私たちが?」
「そうだ」
それ以上は教えてくれなかった。尋ねてもいけないような気がした。これからの自分に何が降りかかるのか? 不安と恐怖しか感じられないのだった。
まんじりともしない気分の中、ベッドに潜り込むと、体に溜まった披露からすぐに眠りに落ちる。夜ふかしなどする余力もなかった。
そして、カリナは夢を見ていた。懐かしい記憶、辛い記憶。
カリナは昔の夢を見ていたのだった。
――――…………
「カリナ、ジェシカ! ここは村の連中と一緒に俺が食い止める! お前たちだけでも逃げろ!」
「お父さん!」
「強く生きろ! カリナ!」
村を襲った魔獣の群れ。魔王軍の影響下にある凶悪な一団がカリナの故郷を襲った。大軍の突然の襲来に村の人間たちはなすすべを知らなかった。男たちが中心となり子供や女性たちを逃がす逃がす事となった。カリナの父はその時に犠牲となったのだ。
カリナが4歳の時だった。
「元気に生きてねカリナ」
「お母さん! やだ! 一緒にいる!」
「さよならカリナ」
「お母さん!」
それから1年後、母親も魔王軍の兵士により惨殺された。カリナを守るために自ら囮になってのことだった。
――――…………
その後、天涯孤独となったカリナは、老夫婦に保護された後、それから孤児院に身を寄せた。
貧しい暮らしではあったが優しいシスターと友人たちに恵まれそれなりに幸せな日々を送っていた。
だが、今のカリナは訳も分からず隣国の軍隊に攫われて軍事教練を受けさせられていた。
「あ――」
格子戸の窓から差し込む光でカリナは目を覚ました。
「もう朝だ」
そしてまたあの辛い日々が続く。カリナが目を覚ますとリルケも目を覚ます。
「おはよう」
「おはようございます」
「よく眠れた?」
「うん……、でも夢を見た」
「どんな夢?」
「……お父さんとお母さんと分かれる夢」
リルケはカリナの心情を察したのかすこし沈黙した。でも、自らのベッドから出るとカリナのベッドに入ってくる。そして、そっと優しく抱きしめる。
「良かったね――、お父さんとお母さんと夢で逢えたんだ」
「うん」
でも、それは分かれの夢だ。それをリルケはあえて、こう言ってきたのだ。
「たとえどんな夢でも、その人が夢の中に〝来てくれた〟なら、それはきっと天の世界からカリナを見守ってくれてるんだよ」
その言葉にカリナの目に涙が滲んだ。
「うん――」
「だから、頑張って生き延びよう」
リルケはどこまでも、カリナを励まし続けたのである。
( 'ω'o[ 読者さまへ ]o
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