聖剣に選ばれた孤児の少女は、10歳で騎士団長になる ―少女と精霊の聖剣十年戦記― 作:美風慶伍
さらには戦闘訓練も当然にあった。
最も多かったのは、刃止めされた訓練用の剣を使った基礎剣術訓練だった。剣の持ち方、振り回し方、刀剣戦闘における受けと攻めのやり取り、そして教官や上級生を相手に、模擬戦闘を行うこともある。
小柄で軽いカリナは、そうした模擬戦闘では、相手の本気の技の繰り出しに吹っ飛ばされることはしょっちゅうだった。技を受けて吹っ飛ばされて転んでいると、戦闘教官が蹴ってくることもある。
「いつまで寝ている! 戦場ではその間に刺し殺されるぞ!」
「申し訳ありません!」
「さあかかってこい!」
「はい!」
確かにカリナは体は小さく筋力もない。剣を振るというより剣に振り回されている状況だった。でもどんなに吹き飛ばされても、叩きのめされても、カリナは諦めるということを知らなかった。
「もう一度お願いします!」
剣を構えて教官に立ち向かっていく。
「よしかかってこい」
「はい!」
そしてかかって行ってまた吹き飛ばされるのだ。
そんなカリナをからかう上官はいても、バカにするものは不思議といなかった。
「あいつ毎回転がされてばっかりいるじゃねえか」
「さすがに年齢低すぎたか?」
「でも泣き出したり、へそを曲げたりしねえんだよ。また剣を構えるんだ」
「そうか、ならちょいと俺が揉んでやるか」
教官同士の会話の中から興味を持つものが現れて、色々な教官が入れ替わり立ち代わりにカリナに訓練を与えたのである。
「よしいいぞ! カリナ! かかってこい!」
「はいっ!」
「そうだ! そこで腰をグッと構えて剣に力を乗せろ! よし! もう一度」
「お願いします!」
どんなに乱暴な訓練をされても、どんなに理不尽に吹き飛ばされても、カリナは絶対に諦めないのだ。その負けん気の強さと、諦めの悪さは、教官たちからすると訓練のやりがいのある子供だったに違いない。
「あいつ、意外と根性あるぞ」
「ああ、鍛え甲斐がある」
「変に怯えたり、萎縮したりしないから、こっちも本当で相手したくなるぜ」
「あいつ意外と化けるかもしれないな」
その意味では、カリナは教官らに可愛がられたと言えるだろう。
中には意地の悪い上級生がウザがらみしてくることもある。
戦闘訓練の相手をしてやると言って、教官たちの真似をしてカリナの相手をしてやるのである。当然ふざけているからまともな訓練にはならない。
「どうしカリナ、ほらほら」
体格差があることをいいことに、離れた間合いからわざと剣を繰り出してくる。カリナが反撃すると、さっと離れて間合いの外に出る。
「へへっ、届かないでやんの!」
「ちくしょう!」
「ほらほら! 悔しかったら切りつけてみろ!」
過酷な訓練の日々の鬱憤ばらしのいじめである。
そんなカリナたちのやり取りを離れた位置から冷静に見ていたのが、あのバンクスだった。
上級生によるいじめの行為を見ていたバンクスだったが、ある時意図的にカリナの視界の中で、踏み込みによる遠距離からの飛び込み剣技をやって見せた。
――ダンッ!――
利き足を前に反対の足を前へと繰り出す。それと同時に上段からの強い踏み込み。大人の背丈、3人分の距離を一気に飛び込んで詰めてみせる。
何が起きたのかと一斉に周りの視線が集まる中、カリナはバンクスの見せたその技をしっかりとその目で捉えていた。
「そうか――」
そう呟いたのも気づかぬまま、上級生はいじめとからかいをまだ続けていた。しかしカリナはしたたかだった。バンクスの見せた技の動きを模倣する。そして、初めこそぎこちなかったが、徐々に踏み込み攻撃のコツを覚えていく。
20回ほど繰り返したその先でカリナの剣先はうざい上級生に届き始めていた。
「うわやべえ。なんだこいつ。急に俺に届きやがった? 何が起きたんだ」
上級生は分かっていないようだった。バンクスが技を見せたのは上級生の背後方向からだったからだ。
そしてとうとう――
――キィイイイン!――
金属の鋭い音が響いて、上級生の剣は空中で弧を描くいた。
「ま、まいった……」
とうとう意地の悪い上級生を打ち負かしたのである。カリナの視界の片隅で、バンクスは満足げに頷いていたのであった。
( 'ω'o[ 読者さまへ ]o
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