聖剣に選ばれた孤児の少女は、10歳で騎士団長になる ―少女と精霊の聖剣十年戦記―   作:美風慶伍

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バンクスの過去、カリナの過去、そして、師弟の絆

 カリナは思う。今までの毎日の中で、こんなに真剣に何かを教えようとしてくれたのは――

 

「教官って誰かに似ていると思ってました。教官って、私の亡くなったお父さんに似てるんです」

 

 そうだ。今は亡き父親だった。

 

「私の父は元軍人です。戦場で膝を壊して、傷痍軍人として引退したんです。そして田舎で母と出会って農夫になりました。教え方は厳しかったけど、間違ったことは言わない人でした」

「軍属だったのか――、魔王軍の襲来で逃げずに戦ったと聞いて、農夫の男がなぜ? と思ったが、そう言うことだったのか」

 

 魔王軍が攻めてきた時、大抵の市民は逃げる。戦ってもまず勝てないからだ。一刻も早く逃げる。時には逃げるための隠れ村を事前に作る農村すらある。カリナを保護してくれた老夫婦の村がそうだった。だが、例外がある。

 

「元軍人、元冒険者、そう言う戦闘職だった男たちは、魔王軍が攻めてきても、逃げずに戦う。勝てないとわかっていても、家族や村人が逃げるための時間稼ぎをする。〝殿(しんがり)〟とよばれるやり方を知ってるからな」

「しんがり――」

「そうだ。軍隊では撤退戦となった時に、軍の主力を生かすためにあえて犠牲となる者たちだ。そうした考えを軍を辞めても持っていたとは、お前の父は立派な軍人だったのだな」

 

 バンクスのそのねぎらいと畏敬の言葉はカリナの心に響いた。

 

「お父さん――」

 

 礼儀作法にうるさかった父、言葉遣いに厳しかった父、なにがあっても一人娘だったカリナを邪険にせず、笑って話してくれた父。不思議に思ったことは何でも教えてくれた父――、その姿が脳裏に克明に浮かび、カリナはたまらず目に涙を浮かべた。そんなカリナをバンクスは抱きしめた。

 

「すまんな、辛いことを思い出させて」

 

 バンクスはさらに意外なことを打ち明けた。

 

「お前は、死んだ俺の娘に似てるんだ」

 

 それはバンクスの過去だった。誰にも言わない秘密の過去だ。

 

「俺は軍人だ。家族と離れて戦場を点々とする。子どもと1年も会えないことも有る。久しぶりに家族の顔を見に帰省したら、流行病であっけなく死んだと教えられた。娘の小さな墓の前で何度も詫びた。死の間際に一緒に居れなかったことを心から悔やんだ。その直後だ、ここの副官として配属されたのは」

 

 バンクスは溜息を吐いた。

 

「軍人は将棋のコマだ。戦場という盤面の上で、指揮官(プレイヤー)の手で好き勝手に動かされる。ここに行けと言われたら、拒否はできない。そう言う生き物だ。そんな俺が子供たちを使い潰すような地獄に放り込まれた。これは子供を守れなかった俺に対する罰なんだとずっと思っていた。だがそれは違った――」

 

 そして、バンクスはカリナを抱きしめた。

 

「俺がここに来たのは、カリナ――〝お前を育てる〟ためだ。お前という才能を、お前という未来を、育てろと神が言っている。それが俺の使命だ」

 

 その言葉の響きに迷いは一切無かった。

 

「俺の持っている知識をすべて与える。オレの持っている剣技をすべて教える。お前もいつか。戦場に放り込まれるだろう。そうなっても生き残れるように、お前を強くする。ただし、生ぬるいことはやらない。他の者たちが寝静まった後に、剣の訓練も行う。血を吐くほど、厳しい毎日になるだろう。それでも――ついてこれるか?」

 

 その言葉に嘘偽りは無かった。だからこそ、カリナはバンクスの顔を見上げて笑顔でこう答えたのだ。

 

「お願いします! 教官!」

「よし! やるぞ、カリナ!」

「はい!」

 

 こうして二人は名実ともに〝師弟〟の間柄となったのである。

 




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