聖剣に選ばれた孤児の少女は、10歳で騎士団長になる ―少女と精霊の聖剣十年戦記―   作:美風慶伍

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カリナ、戦術を学ぶ ―バンクスとの一対一の教え―

 それから濃密な授業と訓練とが続いた。

 座学の授業は読み書きの鍛錬から、上級生も学ぶ、戦術学、戦略思想、魔導基礎理論、魔王軍詳細、魔族生態系、サバイバル技術訓練、基礎医療知識と言った基本カリキュラムにも及んだ。しかし、カリナが他の児童たちと違ったのは、バンクスによる、より実践的な知識を厳選して教えられたということである。

 たとえば、戦術学では教本をただ読むだけでなく、将棋の駒と盤面を使い、実際の戦史の実例と絡めて、理論的に教えていく。なにしろマンツーマンなのだ、時間は豊富にあった。

 

「包囲戦術の場合、完全に囲むことはしない。あえて逃げ道を作るんだ」

「退路を与えるんですか? 倒すべき敵に?」

 

 すると、バンクスは盤面に白を攻める自軍、黒を追い詰められた敵軍に見立てて並べた。

 

「今から14年前の〝ディベル高原〟の戦い、当時のルミナリア国軍は魔王軍の一師団を高原の一地域に追い詰めた。包囲して猛攻撃を加えれば殲滅できるはずだった。その時の指揮官である将軍ヴィルヘルムはあえてその地域の一角を包囲を弱めた」

 

 そう言いながら包囲する白いコマを一つ下げた。

 

「逃げられちゃいますよ?」

「敵もそれを思う。だから敵は逃げたいやつと戦いたいやつとで意思統一が〝割れる〟」

「あっ! 戦いたくない人はそこから逃げようとする!」

「そうだ、そうなれば立てこもりを企てるやつの抵抗も弱くなるだろう。事実、ディベル高原の戦いはわずか3日で終わった。抵抗戦への意思がそろわず魔王軍の戦線は崩壊、逃げ切れなかった魔王軍はことごとく討ち取られ、逃げた軍勢も責任を問われて処罰されたそうだ。対して、ルミナリア軍側は損失を最小限に抑えてディベル高原を奪還した」

 

 そして、バンクスは教える。

 

「良いか? 指揮官たる者、敵を倒すことよりも、自軍の損失を最小限に抑えることも、将たるものの役目だ」

「はい――、あでも――」

 

 カリナは不思議そうに言う。

 

「私が指揮官になる時って有るんでしょうか?」

「有るさ――、お前が聖剣に〝本当の意味で〟選ばれて勇者に慣れたならな」

 

 本当の意味で――その言葉の意味はその時はまだわからなかったカリナだった。

 

 

 バンクスの授業はさらなる上級にも及んだ。軍事組織の運営学、高度な魔導理論の概論、兵士の育成過程、戦術より上位の〝戦略知識〟、国家間の駆け引きとなる政治学、時には外部からカリナのためだけに極秘に講師を招いたこともあった。カリナはそれらを湯水のように吸い取って理解していった。

 

 バンクスがネルガル軍に関与する軍学の講師を特別に招いたときだった。カリナに特別にと言う事で半日だけ、マンツーマンで指導した。

 

「バンクスが君なら、ここまでの規模で理解できると言うのでね」

 

 彼が持ってきたのは机いっぱいの大きな盤面を持つ、上級士官学校で使われる、軍事シュミレーションのプレイヤーボードである。

 そこに多種多様な兵科ごとのコマを並べて、一つの戦場全体の複数の部隊の動きを再現できるのだ。

 今、講師の眼の前に居るのは6歳代中頃の女児だ。背丈は小さく、本来なら軍学校でも幼年部で文字の読み書きで終わっている年代だ。だが――

 

「開戦時の戦況はどのように設定なさいますか? 講師殿」

 

 その語り口は女児のような甘ったるさはなかった。しかもきちんと、講師殿と尊称を口にできていた。バンクスの指導の賜物である。

 

――これは、子供だとあなどったら恥をかく――

 

 講師はそう直感し、カリナに対する考えを一段あらためた。

 

――ならば、本気で胸を貸してやるか――

 

 子供ではなく大人の新兵と同じに扱う覚悟を決めたのである。

 




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