聖剣に選ばれた孤児の少女は、10歳で騎士団長になる ―少女と精霊の聖剣十年戦記― 作:美風慶伍
その講師は帰路にバンクスと語らい合った。
「すまんな、スコット、こんな僻地に」
「かまわん、お前のたっての望みだったが、予想外に面白い逸材に会えたからな」
「カリナのことか?」
「あぁ、お前が逸材という理由がわかった。恐るべき才能だ。なにより情報を吸収する速度が化物だ。正規の軍学校なら士官学校どころか軍大学まで行けるだろう」
そして講師のスコットはバンクスの目を見ていった。
「あの様な子が、このような場所で使い潰されるのが不憫でならんよ」
彼はこの訓練場の意味を知っているのだ。
「――それはオレも残念だ。だからこそだ、すこしでも軍人としての底力を付けさせて、生き残る可能性を高めてやりたいんだ」
「それがお前の目的か?」
「――そうだ」
「そうか」
スコットは小さく溜息を吐いた。
「ならば、俺も軍外から、彼女が生き残れる道を探るとしよう。それと彼女の指導教材となるものを送ってやろう」
「感謝する」
「だが、過剰な期待はするなよ? ネルガルの軍本部は、この訓練場の存在が諸外国にバレることを恐れている。いつ口封じが始まるやわからん」
「ならば、拉致などするべきではないのだがな」
「そりゃ無理だ。今のネルガルの上層部はエゴイストの豚だらけだ」
そして、スコットは帰りの馬車へと歩き始める。
「でなきゃ、聖剣の適合者を使い捨てにする――などという愚行はやらかさんよ」
その言葉にバンクスは肯定も否定もしなかった。スコットはバンクスに言った。
「気をつけろよ? 彼女と引き離されんようにな」
「あぁ、気をつける」
そして、夕暮れの山道をスコットを乗せた馬車が去っていった。
その様子をカリナも宿舎の窓から見ていたのである。
¶
バンクスとのマンツーマンの授業と訓練が続いていた。そして、訓練場に連れてこられてから半年以上が経過し、カリナもこの訓練場での暮らしに慣れてきた頃だ。
めずらしく、外部からの軍士官がやってきた。雰囲気は厳しく、また冷酷そうだった。
カリナにバンクスがそっと耳打ちする。
「――余計なことは言うな。沈黙を守れ」
「はい」
何かある――、そう感じさせる情況だった。
「これより、監査を行う! 各少年兵は剣舞を問診を行え」
「はい!」
つまり少年兵として集められた彼らの育成状況を見に来たのである。
一人一人が、面接場となった教室によばれて問診される。名前、過去、そして、座学の成績個票、魔導訓練への適正も判断される。さらには別室で医学的身体検査も行われた。
その中でカリナは面接時に、やはりちょっとした騒動となった。
「カリナ・ウィングス――、6歳だと?」
「そのようですな、通常なら8歳程度を選ぶのですが、早すぎませんか?」
「だが――そうか、陽性の特別加算。なかなかの逸材というわけだな」
「これは――、座学はすごい成績ですな、6歳で連隊方面軍の規模の戦術論も学んでいる?」
「信じられん――」
「これを〝聖剣の巫女〟として使うのですか?」
「ううむ――」
カリナの成績個票を見ていてその軍幹部の二人は唸ってしまった。副官らしき者が言う。
「小官としては、一考する必要があると思います」
だが上司のほうが顔を左右に振った。
「だが、ここに来てしまった以上、上層部は――彼女を解放すまい」
「そんな――、もったいない」
「諦めろ、今のネルガル上層部は保身族だらけだ。下のことなど考えもせんよ」
軍幹部の男は吐き捨てるように言った。その軍幹部の男はさらにこう言った。
「バンクス〝副所長〟」
「はっ」
「彼女への特別待遇を黙認する。軍本部にバレぬようにな」
「はっ」
そして、その軍幹部はカリナに言った。
「カリナ訓練兵」
「はっ」
「私の方で、君が可能な限りここでの訓練を続けられるように配慮する。今のうちに吸収できる事を吸収しておけ、それが君の命を永らえさせることになるだろう」
カリナはその言葉に恐ろしいものを感じた。つまり、命を失う可能性があると言うことなのだ。
「ご配慮いただき、誠にありがとうございます」
「うむ」
恐ろしいと思った監査の幹部だが、話してみると人間味がまだまだ有る人だった。
「言葉遣いが丁寧だな。教官に教わったか?」
「はい、ですが、亡き父が軍人だったので幼い頃から言葉遣いは厳しく育てられました」
「そうか――、ではその亡き父に報いるためにも精進したまえ」
「はい、ありがとうございます」
身体検査の後に剣舞も披露したが、正直、他の上級生と比較すると、やはり剣に振り回されている印象は否めない。だが、監査の軍幹部は言う。
「カリナ訓練兵」
「はっ」
「年齢ゆえの体格の不利もある。剣の鍛錬は辛いであろうが、それを苦にせず食らいつく姿は見事だ。君ならより〝実践的な剣〟を身につけられるであろう」
――え? 実践的な剣?――
それすなわち、訓練場での剣の練習が実践では使い物にならないと言っているに等しかった。
「これからも精進したまえ」
幹部の男はそう言ったあとでバンクスに視線を投げた。バンクスもその視線の意味を理解したようだ。
とあれ、軍幹部との面談はそれで終わったのである。
しかし、その先にはさらに絶望的な現実がカリナたちを待っていたのである。
( 'ω'o[ 読者さまへ ]o
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