聖剣に選ばれた孤児の少女は、10歳で騎士団長になる ―少女と精霊の聖剣十年戦記― 作:美風慶伍
練兵場へ ――少女団長と、セリアス卿――
ソフィアとミリアを伴ってカリナは騎士団の敷地の中の練兵場へと駆け出した。
するとそこにはカリナが率いる騎士団――
――魔法剣士騎士団アルカナヴァンガード――
その彼らが2000人規模でそれぞれに早朝練習を始めていたのである。
その彼らの前に勇者であるカリナが姿を現した。一斉に視線が一つに集まり、畏敬の念が向けられる。
「おお、団長だ!」
「巫女様だ!」
「おはようございます」
「おはようございます、聖剣の巫女様!」
団員たちはカリナを好き好きに呼ぶ。団長と呼ぶものもいれば、聖剣保持者であることを意味する聖剣の巫女様と呼ぶものも居る。
カリナは機を逃さず彼らに向けて声をかけた。
「皆さん、おはようございます!」
それは凛々しく勢いに満ちていた。何よりとても優しかった。
「おはようございます」
揃った声が一斉に帰ってくる。乱れがないということはそれだけ彼らの心が1つにまとまっているということでもあるのだ。
カリナは彼らの勢いを殺さぬようにさらに言葉を重ねた。
「皆さん、本日は諸王国の幹部の方々がお見えになられて我々の普段の訓練の成果をご覧になられる〝歓待式〟です。普段の訓練の成果を存分に発揮してください!」
「はっ!」
まさに遅刻したことが帳消しになるような勢いに満ちた言葉の掛け合いだったのである。
§
とはいえ遅刻は遅刻である。
そのことを咎める人物はやはりいたのだ。
「カリナ!」
そう力強い言葉で叱責しながら歩み寄ってくる金髪の人物がいる。
青く輝く全身鎧姿の騎士――、アルカナヴァンガードの戦士長を務めるカリナの右腕と言える人物、エルリック・ファイヤーブレードである。
カリナよりもはるかに背の高い身長を持つ彼は、見下ろすようにカリナに視線を向けていた。
「こういう大事な儀式で時間の遅れは感心しない。全体の規範を示す君がそのようなことでどうする」
カリナもさすがにエルリックに叱られるということは特別な意味を持っている。
「申し訳ありません……」
エルリックは戦士としてはベテランの域に達している人物だ。歳の離れ方から見てカリナとは父と子のような雰囲気がある。それだけにカリナとしても彼の言葉は無視することができないのだ。
するとエルリックの傍らから姿を現した人物がいた。
白銀色に輝く全身鎧を身につけた格上の騎士のような人物。
戦場での戦歴を幾重にも重ねた迫力に満ちた人物。
「カリナ卿」
「セリアス様――」
ルミナリア国軍、王立騎士団団長セリアス・ダースブレイズである。ルミナリア王国の軍隊は国民兵からなる歩兵陸軍と、騎士階級からなる騎士団軍とに分かれる。セリアスはその騎士団軍のトップに立つ人物である。ルミナリアにカリナが保護されてから、そして、アルカナヴァンガードが組織される以前からカリナの後ろ盾となっていた人物だ。
「いつもの君なら時間に遅れるということまずないはずだ」
穏やかな気配を維持しつつセリアスは語りかけた。
「何か事情があったのだろう?」
エルリックは責任があるものとして遅刻したことそのことを叱責し、セリアスは時間に遅れたことの裏側にある事情を確かめようとしていた。それぞれの人柄がにじみ出ていた。
カリナは答えた。
「ルミナリア王家の護衛総括の軍令担当部から、カロリーナ嬢の誘拐について報告があり夕刻から深夜にかけて探索していたのです」
「令嬢誘拐――、あぁ、あの件か」
「はい」
冷静に淡々と答えるカリナ、エルリックもそれは当然に知っていた。
「確かに――、あれは夜遅くまでかかったからな」
「はい、現地ですべてが終わったのは深夜2時過ぎ、そこから兵営に帰還してようやく休めたので」
そしてそこにソフィアがかばうように言葉を添えた。
「戦闘でずっと気を張って居られたので――」
さらにミリアも苦笑交じりに言葉を添えた。
「ベッドに入ったのは深夜4時――、ほぼほぼ朝です」
彼らのやり取りの言葉をセリアスはじっと聞き入っていた。大きく頷いて答える。
「カロリーナ嬢誘拐の件は、王族親衛隊からの報告も受けている。アルカナヴァンガードの協力を得たとの一文もあったがそう言うことだったのか――」
セリアスはそこで溜息を吐いた。
「それでは協力ではなく、実質アルカナヴァンガードとカリナ卿が解決したのだな。報告に違和感があったのだがようやく合点がいった」
ソフィアも苦虫を潰したようにぼやく。
「親衛隊の連中も、自分たちは何もできませんでした――とは言えないわよねぇ」
「彼らにも立場も矜持も有るからな」
「厄介ですけど」
事実が曲がって伝えられていたのだ。報告書の微妙な言い回しゆえの齟齬である。だがセリアスは腑に落ちた。
「なるほど、よかろう特別な事情があったと認識しよう」
「ありがとうございますセリアス卿」
セリアスはエルリックも諭していた。
「エルリック卿、まだ他の王国の重鎮たちは来てはおらぬし、私が特別早めに着いたというだけだ。特別な事情があったようだし、このあたりで許してやってくれ」
「セリアス様がそうおっしゃられるのであれば」
エルリックはそう言いつつカリナをたしなめる。
「時間的にきつかったのは分かるが、礼儀と言うのもある。そこは忘れるなよ」
「はい――、以後気をつけます」
エルリックの忠告に、カリナは素直に答えた。他者に対して変に食い下がらず指摘を素直に受け入れる。カリナの人柄の一面が現れていた。
それを耳にしてセリアスは力強く答えた。
「カリナ卿、君は正しい」
「ありがとうございます」
事実を認めてもらえた――ということに心からの満足が沸き起こってくる。
「ただ、無理は体に溜めないようにな」
「はい、以後気をつけます」
10歳の子供であるカリナにも、対等に会話をしてくれるセリアスからの評価の言葉が嬉しいカリナだったのだ。
その時、伝令の兵士が1人、駆けつける姿が見えてきたのである。
( 'ω'o[ 読者さまへ ]o
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