少女と精霊の聖剣十年戦記 ~ひとりの少女が勇者になるまで~ 作:美風慶伍
08:魔王軍潜入部隊の急報
するとそこに、応接室の入り口の扉が、けたたましく開かれた。
「緊急の伝令です!」
カリナは即座に振り返り、伝令に声をかけた。
「話してください」
「はっ!!」
伝令役は記憶している情報を高らかに告げる。
「ただいま、ルミナリア王都にて潜入魔王軍によるテロ活動が勃発とのことです! 大至急、魔法剣士騎士団、アルカナヴァンガードに出動せよとの軍本部からの下命です」
それを耳にした瞬間にカリナの表情は一変していた。周囲の大人たちとの対話に安堵し、失態に顔を染める可愛らしい女児――
だったはずが、表情が急変し視線も鋭いものになる。
落ち着き払った声でカリナは伝令役に告げる。
「了解、直ちに急行すると伝えなさい」
「はっ!」
先ほどまで顔赤らめていたカリナの姿はどこやら。一斉に号令をかけ始めた。それも全体規模の作戦行動への判断を立て続けに口にする。
「エルリック! 全体を2班に構成して出動の陣容を編成して! 直行する第1陣と、敵の行動の変化に合わせて適時行動する第2陣です!」
「心得た! すぐに行動する」
「ソフィアは、対魔族戦闘用の魔法の準備を始めて。王都内部に潜入する程ならよほどの手練の魔道士が介在しているはずです」
「分かったわ! ただちに!」
「ミリアは、都市内での戦闘を考慮して、弓と小銃による部隊編成を始めて。それと第2陣の指揮を任せます!」
「了解ただちに始めます。第2陣の指揮権、拝領したします!」
「お願いね!」
カリナはとても10歳の少女とは思えぬ見識で、即座に指示を下した。戦術や部隊運用に対する知識はそれなりに身につけているようだ。
続けて、カリナは立ち上がると諸軍団の幹部たちに向けて告げた。
「申し訳ありませんが歓待式はこれにて終了とさせていただきます。同時に即座にルミナリア王都の方へと向かわせていただきます」
「当然だな」とレイモンド
「我々も可能な限り、支援しよう」とローラン、
「うむ、敵の総数がどれほどか見当がつかぬからな」とアルトゥール、
「恐縮です!」
残る4人もそれぞれに動き始めていた。
かたや魔法剣士の衣装を纏いながらカリナは毅然として立ち上がる。カリナを押しとどめるものはいなかった。
そんなカリナたちにセリアスは告げた。
「カリナ卿、武運長久をいのる」
「はっ! ありがとうございます! それでは失礼いたします」
挨拶もそこそこにマントをたなびかせながら歩き去っていく。
「行くわよ! エルリック! ソフィア! ミリア!」
3人を引き連れてカリナは先頭を切って走り出した。今まさに、彼女は魔法剣士騎士団の団長だったのである。
§
悠然と歩きさるカリナたち。その姿を七王国の曲者諸将は見守っていた。
その中で海の男であるオーシアはカリナのふるまいと変化を思い出していた。
「寝坊のことを指摘されて顔を赤らめてたのは年相応だと思ったが――」
ため息ではなく感嘆の声を漏らす。
「外敵襲来の報を耳にしたら別人になりおった」
武人であるアルトゥール、彼もまたカリナに驚きを抱いていた。
「彼女と出会ったのは4ヶ月前だが――、わずかの間にここまで成長するとはな」
ヘレナは逆に高く評価していた。
「いえ、これくらいの成長はしてもらわねば、勇者として生き残るのは無理です」
「手厳しいな、ヘレナさんよ」
レイモンドの問いかけにヘレナは言う。
「彼女はあの〝ネルガル〟の過酷な現場の生存者です。眼の前の困難からは絶対に目を背けないのですよ」
「だからこそ、心配になるんだがな」
レイモンドはカリナを案ずるようにため息を付いていた。そこにローランが言う。
「なればこそだ、 彼女に、これからの可能性を感じるのだよ」
そしてセリアスが言葉を締めた。
「ならば、我々はその可能性を見守り育てようではないか」
その言葉に誰もが頷いていた。レイモンドが飄々とした口調で言い放つ。
「それじゃ、カリナ嬢ちゃんのお手並み拝見と行こうか!」
「うむ!」
「参ろうか! みなの衆!」
そして、七王国の曲者諸将たちも、カリナが勇者として赴いた戦いの場へと動き出したのである。
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