叛逆の殉教者   作:干噛カカセ

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初執筆初投稿となります。対戦よろしくお願いします。



消失、過失、瑕疵の歴史


社会には様々な「消失」がある。避けられない運命で命を落とす者、誰かに殺められる者、自らの不手際で道を間違えてしまう者、単に忘れられた者など、少しでも「消える」という範囲にあるものは多いの何の。

 

その中でも予後が悪いものは誰にとってもとことん胸糞が悪い。それは何だろうか?

休日に通り魔に無差別に殺される?

自爆テロリストが電車の隣の席に居た?

ルンルンで散歩していたら稲妻に穿たれた?

スーパーの3割引のフグの毒にでも当たった?

どれもこれもあながち間違ってはいない悲惨なものではあるが、この哀れな哀れなウマ娘としてはどれも不正解。

 

彼女は、生きていた世界に消された。忌み嫌われ、丁寧に凝った真っ黒なレッテルと共に消えた。

つまり、この物語の主人公は存在しない。だが過去から始まる訳ではないし、そもそも彼女は死んでいない。ゾンビ物でも無いため、ホラーが苦手な読者は手を止める必要はないと助言させてもらう。言ってしまえば死んでいないが死んだ、なんて言い回しは一見矛盾に聞こえるが、そうでなくてはこの物語は始められないのだから。

 

彼女たちは走り続ける。失われたゴールを目指して。

 

その日、トレセン学園はどこか堅苦しい空気にあった。スーツ姿の役員は小走りで行ったり来たり、手帳と録音機を持ったメディア関係者はがやついて、いつもならニンジン!(ニンジン!)だのステーキ!(ステーキ!)と叫びながら周りを走るウマ娘たちの姿は一人も見えない。叫ぶのは交通整備の警備員ぐらいである。

 

微かにクーラーの効いている空気とチェック模様にロゴの入ったバックボードぐらいしか色彩のない記者会見場で、眼鏡を掛けた小肥りの男性が口を開く。だがざわつく会場でまともに声は届かないために、いくらかの記者は聴こえないぞと不満を漏らす。

それはそれは何せ途切れ途切れに聞こえるだけであるのだ、このように鉤括弧ですら以下のように見にくくなってしまったことをこの場を借りてお詫び申し上げる。

 

「……回行われました模擬レースにおいて、不正が……」

 

「……めて悪質な進路の妨害により多数のウマ娘らの進路を塞ぎ……」

 

「……のため、UCACはウマ娘らの公平な能力の発揮する機会を妨害されたものとし……」

 

詰めかけた記者が愚痴を溢さなければ聞こえるというのに、誰も彼も質疑応答のタイミングを守れない。当然、予定された時刻を3時間オーバーしてお開きとなった。

しかし、後日の記事からして確かに全員この文言を耳に捉えたのは間違いない。ほぼ全ての紙面とニュースに、このように。

 

「……以上の行為により、当該生徒、■■■■■につきましてはURA、NARでのレース出走権を剥奪。学園からも永久除名、退学の措置とします。」

 

嘘である。

進路妨害も、斜行も、何も。不正は何一つ無かった。

もちろん模擬レースは確かにあった。トレーナーが新入生達をスカウトするための春の恒例行事にして慣例。ここでウマ娘とトレーナーは出会い、退学などアクシデントが無ければ卒業まで少なくとも三年を学園生活を共にする。よい成績を残せば引く手数多だが、強さを見せられなければよほどの運命か物好きな者でない限りスカウトはない。辛うじて何回かチャンスはあるにせよ、全て外せば待つのは出走の遅れか退学である。これはウマ娘にとっての実質的な第0レースであるのだ。行われないことはまずあり得ない。

だが、そこで起こったことは彼女の妨害でも不正でも何でもない。

その模擬レースは一から造られたものだった。

一着という輝かしいデビューと共にエリートのトレーナーがそのウマ娘、マールィドクトゥスに就くはずだった。プロモーションは大々的に行われ、ニュースもマールィドクトゥスとその取り巻き、UCAC所属のウマ娘で持ちきりになる……はずだった。

陣営は油断しきっていた。出走者には根回しを済ませ、反対する陣営も居たが()()()()腱を痛めたりしてしまった。口封じを破れば当然、ウマ娘として走ることはまず不可能。

広告、雑誌、CM、新聞、作られた口コミ。億を超える将来への堅実な投資なのだから、失敗やボロは出してはならない。

華々しいスター。それは未来永劫語り継がれる勝者、その右腕とそれを献身的に支える拠り所、友人、そして裏付ける戦績。

多少の犠牲は仕方がないのだが、何せ英雄が生まれるのだからその足跡に載るかもしれないだけでも名誉というもの。

 

彼女は、■■■■■はそれを破った。逃げていただけではあったが、破ってしまった。逃げるは逃げるでも世界を背負った運命からでも、明日提出の加点にもならない宿題からでもない。単に模擬レースで悠々自適に走っていたら勝っていただけ。

根回しがあったことは忘れていた。そもそも昼飯を食べている時に呼ばれ、負けて欲しいと頼まれて戻ってきた頃に伸びていた豚骨ラーメンのこともあるのだ、鶏の如く三歩歩いて何を言われたか忘れて役員らの愚痴を言いながらチャーシューを口に放り込んでいたぐらいである。

そもそも彼女の脚質からして手を抜くこと自体難しいものであるために、彼女は一位になった。()()()()()()()。地方レースからのぽっと出のウマ娘が有名な一族の跡継ぎ(マールィドクトゥス)に背中を見せた。それだけ。

 

その後、前述の会見の後に彼女は失踪した。学内は数日ほどざわついていたが、上層部からの一声で話題はすぐに下火となった。

「……一昨日に廃工場にて起こった火災の現場にて、本学園生徒■■■■■のものと思われる遺留品が確認された。現状生存を確認できておらず、UCACは現在、当該生徒の捜索を行っている。」

当然これも嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘。確かにそこに■■■■■は居た。しかしそれ以外は本当なんて言っていない。もちろん事故ではなく、第三者によって起こされた、彼女を狙った意図的なもの。探される?本当な訳がない。そこに流れる費用は■■■■■ではなくパーティー会場を探すためになるだろう。

 

こうして、世界に求められた英雄のためにまた一人のウマ娘が闇へ葬られる。きっと、あっちでも孤独に過ごす、なんてことはないだろう。何せ彼女は一人目ではない。こうして誰かを犠牲にして、英雄と世界はゆっくりと回る。

 

はずだった。

 

―――彼女が、そこから逃げ切ったから。

 

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