遅れましたことをお詫びして、私干噛カカセ、この腹かっ開かせていただきます。
前略、シグが家に住みついた。住む家がないと言うならまあ……
いやいやよく考えたらやっぱりマズい。実にマズい。少なくとも、これがバレたらきっと世間からは非難轟々通報じゃんじゃかだろう。なにせ未成年の教え子と屋根の下二人きり、しかも恥じらいの無いタイプの裸族ときた。隠すことを知らないどころか自分から見せてくるのは反則ではないだろうか。
そんなことを思っていたら本人が―――
「はーええ湯やったわぁ、脚伸ばせへん以外は最高。」
「だからそのタオルで隠せ、シグ。これで3回目だ。」
「えー? 前に言ったやんけ、『巻くタオルがゴワゴワやから柔軟剤変えや』って。変えてへんやろ、シロウズ。」
「使い切ってないのに変えられるか。」
ちぇっ、と拗ねてはぽんぽんと身体へタオルを当てていく。そういう所はだいぶ気にするのに、デリカシーの欠如が全てをマイナスにしているんだぞ。
「あとあからさまに私から目逸らすんどないこと? ちとショックやわ、そない背中向けられるんは。」
「裸だからな、それも今年で16のウマ娘の。」
「見られたとて何も減るもんでもあらへんで、んな身体なんてシロウズやて見たことぐらいあるやろ、携帯で。」
「っ……ある、けどさぁ!」
二次元のそれと三次元のそれは違う。フィクションだからいいわけで、背後に居るシグは本物の未成年なのだ。
「ともかく、居候するってんなら服を着てくれ服を。大事なところぐらい隠せ。」
「無いもんは着られへんのやけどなぁ、シロウズ。」
……無い?
「じゃあさっき出した服とかは……」
ボストンバッグから出していたのは何だろうか。
「あれ上っ張りだけやし、外行きかトレーニング用のんばっか。寝間着やとかあらへんし、下着もそんな数無かったやろ?」
言われればそうだ。男性として知る限りでの下着と呼べるものは上下1セット、そしてシグがその時着ていたのも含めたとしても2セットだけ。その両方とも、俺が注文したもの。裸で寝るのをやめてほしいから買ったとも言えるが。
「事件で私やられてもた後にそういうのほぼほぼ中央で処分されてもたしなぁ。制服とか高かったんやぞ、もう。まあ園田は安いしそもそもジャージも制服も、体操服まで貸与やからありがたいねんけど。」
あいも変わらずさらっと口にする割には重いことを言っていると気付けないのだろうか。
「ということは私服とかも無いのか?」
「無い。なーんにも。アイツら、私が教会で買ってもろたおべべなんて一度も使うことあらへんまんまにほかしやがったとか勿体ないの。せっかく気に入っとったんやけどなぁ……。」
「だからって、俺がその分を買うのか……後で経費として落とさないと。」
「その必要はあらんからへーきへーき。あのレースで勝った分の賞金が振り込まれとるはずやで、通知来てへんか? トゥインクルシリーズと仕組みがちゃうくてトレーナーに直渡しなるんやったんやない?」
あ、と思ってスマホを開いては口座のアプリへ。一応、URAになったので作っておいた仕事用のまっさらな屋号付きの口座……だった、が。
「……なに、これ。」
ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むぅ……なな。
「そういや賞金とかそないなのは私知らんねんけど、どない感じ? 固まっとるけど。」
いや。あの。えっと。
「……なんや、口パクパクして。声出せてへんぞ。どれど……は?」
1,077,480。
7桁が一括で振り込まれていた。
「ひ……ひゃ……。」
「あ……っらまぁ……こない貰ってええの……?」
新人トレーナー手当だとか、ナイター出走手当だとかが給料として出るのは把握している。そして賞金はシグが言ったように指定した口座へ飛んでくるらしいが、勝ったのはジュニア級のB2相当のはず、ここまでの賞金が貰えるというのだろうか。流石に聞いていない。
「あ、これやこれや、レープロ見てみぃシロウズ!」
目線だけをスマホから、シグの持っているB3用紙へ。毎開催で配られるレーシングプログラム。
「9レースの、ジュニア級の……あっホントだ。」
賞金、1,200,000円。
「すっっごいわぁ、ほんま。アイツらがこぞってレース界を貪るわけや。」
「たしかに中央G1とかだと億を超えるし、負けたとしても数百万って聞いたけど……やっぱり実物を見ると100万でも凄いな。」
「数字だけやのにずっしりとしとるなぁ……。」
なるほどスマホの画面が重い。金の重みとは言われるが、ここまでとは。
「税金とか……大丈夫なのかこれ。非課税なら確定申告でありがたいんだけど。」
「ふつーに課税対象やぞシロウズ。既にいくらか引かれとるけどちゃんと確定申告せぇよ。」
やめてくれシグ。バイトを掛け持ちしていた大学生時代でもだいぶ難しかったんだぞ、あれは。
「ま、こないあれば服の一枚二枚買えるやろ。ちょっとポチってや。」
「わかったわかった。んじゃサイズは?」
「フリー。肌に優しいんを。」
フリー。夕飯を『なんでもいい』で済ませるような、そんな言葉を雑に投げてきた。
「そう言われても……」
「着られて肌保護できるんならそれでええよ。流石に裸で外は寒いやろ?」
「それはそうだけどさ。おしゃれとかしないのか?」
シグも年頃の女の子。親ではなくとも気になってしまう。
「んー、要らんかな、って。」
「要らない?」
「そらそないなボコされたウマ娘がおしゃれすんのもアレやろ。やったとて中身はコレやで?」
「見せなくていい!」
目を伏せて、また傷を見せつけてくる四肢を受け流す。『ウマ娘の力に対しては抵抗せず、流す。』トレーナー試験の模試に出た項目だった気がする。昔はこれで襲われたトレーナーが怪我をしたこともあったらしいが今の時期にそうなるのは御免被りたい。
「ともかく、服とか買いに行こうか。梅田……だっけか。そこで揃うだろ。電車で行けるし。」
「……なんや、やっぱそないな趣味?本物でやらんでも女の子の着せ替え人形とかでええんとちゃう?」
「要らない要らない。それよりジャージでいいから着なさい。帰りにスーパーで煮干とモツ買ってやるから。」
「ホンマか!?」
一撃。怠惰なウマ娘を釣ってやるにはこれが正解だった。
「じゃ、行くぞ。ほら夕飯のこと考えながらヘラヘラしないの。まず服着てからだ。」
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