叛逆の殉教者   作:干噛カカセ

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浄化、石鹸、宣誓と

オラコシグニフェリとしては初めての、■■■■■としては数日……下手したら数ヶ月ぶりの風呂。それも壁面に細かな泡がこびりつくほどの皆が羨む一番風呂。私からしたら、雨水だの側溝などのヘドロ水よりも澄んどって、しかしカルキ臭いような清潔感まみれの百数Lの湯と、ステンレスの浴槽。絶妙な39度という掛け湯の温さがやけに身体に染みる。

 

右脚、左脚から胴体を順に、焼け爛れ固まった皮膚を少し熱いめの湯船が飲み込んでいく感覚を、「お”お”お”ぉ”ぉ”~……」と年頃の娘が出したらあかんような声で表現してまう。どこぞで言っていた風呂は命の洗濯、などはあながち間違いとちゃう。

 

あー、何もかも溶けそう。浮力が同じ年代にしては心許ないぐらいの胸元を押し上げるが沈み行くお尻とどうもどっこいどっこい。浴槽を漂う身体から垢や何かしらのカスが剥がれていくのが感覚として伝わってくる。しばらく外の段ボールとトタン屋根一枚の下で過ごさせて貰っとった汚れが溶け落ちる。

ふと、火照りゆく頭で考えた。あの時、もし負けとったら?マールィのやつが「予定通り」勝っとったら?せやったらきっとこないして槍玉に上げられることもなかったはず。こんなに傷を負うことも夢のまた夢やった。

 

―――けど、それは私の性やない。誰が相手やろうとも、一着を求めて走るんが私の本能。あれは私の勝ち。模擬やろうと何やろうと、消えない私の栄光。記録は消えてもうたらしいけど、この記憶でははっきりとした勝利のレコード。次にその面見る時は、雁首揃えてアイツらには利息の一つ二つ揃えて返してもらったる。そして―――

 

「ゴボガホォっ!?」沈んでいた。何せ久々の湯船だったもので、今や頭は鼻先が船の如く浮かんでいるまでに身体に引っ張られていたのだ。「うごっふぇ!」と入り込んだ湯を吐き、呼吸器まで入りかけた異物を排水口へ出しきる。流石にまた事故は……それも自分のせいなんは勘弁。しかし微かに濁った吐瀉物と相反して思考はクリア。ゼエゼエとたまに咳き込みながら、

 

「アイツにまた勝つ。勝って、ツケを返す。あんな贋作の神話、潰すにはもってこいや。」

 

洗い場の鏡の私へ宣誓する。よだれみたいなお湯はまあ少し不細工だけど、これも一つのケジメ。手を出すとか何かしらの証拠出してどっかの雑誌に流すとかの汚い手を使うんも考えたは考えたものの、これでも一応ウマ娘。やっぱこの脚で、走りで正面から叩き潰したってこそ心からスカッとできる。鬱憤を晴らせる。そして、慰霊碑ん中の私へ花を手向けたれる。

終わったらお参りぐらいしたろうかな。まあ証拠も確認も何もそもそもあらへん、入っとるのは名前だけやけど。線香は何の香りが好きなんやろなぁ、ジャスミンとか? あとサイダーでも供えたろっかな。あとは……勝ったレースの花束でええやろ、きっと華やかやろうし、きっとばっちし似合うはずや。

 

冗談めかしてぼやきながら身体を洗う。これからは園田の借り部屋でなくてもええんやと思えばだいぶ気が楽になる。あのスプリングが飛び出したマットレスも、ずーっとガタガタ言い続けるちゃぶ台もオサラバ。こんなのしか無くてごめんな、って譲ってくれたおっちゃんらにも今度コーヒー買ったろ、一人1リットルぐらい。

こないして匿ってもろたこっちのお偉いさんらにも大感謝なもんや。錦の一つ二つ持って帰ったらどうなるやろな、きっと笑って泣いて大はしゃぎで喜ぶはず。それこそ垂れ幕とかノボリとか……本とかも作ってもらえるんやろかなぁ、エエなぁ……デヘヘへへ。

そもそも中央とはなんやかんや仲の悪い兵庫トレセン。しかもその相手は大スター。一泡吹かせたれば今後十数年は名前残せるやろ。

 

……うっわスースーするこのシャンプー。火傷痕には響かんことはないけど、気持ちエエことには変わり無い。どれどれ……リンスも同じメーカーさんやったらこれもきっと涼しくなるんやろなぁ。タングステンワイヤーのこの髪の毛もこれでオサラバ、ヤッター!……なんてな、よし、私の分も頼むとしよか。

 

「シャンプーこれしかあれへんの? いやちゃうちゃう、スースーするん好きやからこれ私の分もおねがいな!」

 

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