設定や時系列など、できる限り確認しながら進めていますが、解釈違いや間違いがあるかもしれません。
また、本文の構成や執筆にはAIを利用しています。
そのあたりも含めて、ゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。
よければお付き合いください。
翌朝。
久世伊織は、昨日より少しだけ真央霊術院に詳しくなっていた。
寮の場所。
食堂の場所。
教室の場所。
そして。
食堂では、頼めばちゃんとおかわりができる。
昨日。
『伊織ちゃん、まだ食べるの?』
『うん』
『それ三杯目だよ?』
『食べていいんでしょ?』
『いいけど……』
隣で桃が驚いていた。
食べ終わった時には。
ここへ来てよかったかもしれないと。
少しだけ思った。
「久世さん?」
「ん?」
声に顔を上げる。
吉良がこちらを見ていた。
「何を考えてたんですか?」
「昨日のご飯」
「朝からですか?」
「大事だよ」
「そうですか……」
教室。
一組。
まだ席も。
人の顔も。
何となくしか分からない。
「伊織ちゃん、おはよう!」
「おはよう、桃」
「おう」
「おはよう、恋次」
赤い髪。
昨日からよく目立つ。
阿散井恋次。
名前で呼ぶようになったのは。
昨日、ルキアが何度もそう呼んでいたからだった。
「……お前、もう恋次なんだな」
「嫌?」
「別にいいけどよ」
「じゃあ恋次」
「分かったっつの」
恋次が伊織を見る。
「じゃあ俺も伊織でいいか?」
「いいよ」
「久世じゃねえんだ」
吉良が言う。
「吉良くんは吉良くん」
「基準は?」
「なんとなく」
「そうですか」
「イヅルって呼ばれたい?」
「今のままでお願いします」
「分かった」
桃が笑う。
「じゃあ私は?」
「桃」
「え、もう名前で呼んでくれるの?」
「嫌だった?」
「全然! 嬉しい!」
「じゃあ桃」
「うん!」
「朝からうるせえな、お前ら」
恋次が言う。
「恋次が一番声大きいよ」
「俺かよ!」
その時。
教室の前の戸が開いた。
「席につけ」
一瞬で静かになる。
「ほら恋次」
「お前も喋ってただろ!」
「阿散井」
「はい!」
「久世」
「はい」
「続けるなら廊下でやれ」
「すみません」
「お前だけ素直なの腹立つな」
「阿散井」
「すみません!」
◇
一組。
霊術院へ入学した者の中でも、霊力や試験成績が比較的高かった者が集められている。
だからといって。
何でもできるわけではない。
それを。
伊織は初日の授業で知った。
「もう一度」
「はい」
目の前。
掌ほどの大きさの霊力測定器。
「一定量を流せ。強くする必要はない」
「はい」
伊織が手を置く。
霊力を流す。
光。
強い。
「強すぎる」
「はい」
「もう一度」
今度は抑える。
光。
弱い。
「今度は弱い」
「難しい」
「だから授業をしている」
「なるほど」
「納得してないで続けろ」
「はい」
もう一度。
少し強く。
「まだ弱い」
「はい」
「もう少し」
調整する。
光が安定した。
「そこだ」
「あ」
「その感覚を覚えろ」
「はい」
手を離す。
隣で見ていた恋次が笑う。
「意外と下手だな」
「恋次できるの?」
「見とけ」
交代。
恋次が手を置く。
光。
眩しい。
「阿散井」
「はい」
「強すぎる」
「……はい」
伊織が恋次を見る。
「意外と下手だね」
「うるせえ!」
「今のは言われても仕方ないよ」
桃が笑う。
「雛森まで!」
「次、雛森」
「はい!」
桃。
光。
少し揺れる。
でも。
恋次や伊織より安定していた。
「もう少し抑えろ」
「はい」
光が小さくなる。
「そこだ」
「できた!」
「桃うまいね」
「本当?」
「うん」
「次、吉良」
「はい」
吉良が手を置く。
最初。
少し弱い。
調整。
もう少し。
ぴたりと光が止まった。
「……そこだ」
「はい」
「おお」
伊織が言う。
「何ですか?」
「吉良くん、うまい」
「ありがとうございます」
「何でお前だけ普通にできんだよ」
恋次が言う。
「阿散井君が強く流しすぎなんですよ」
「分かってる!」
「恋次、力入れればいいと思ってそう」
「思ってねえよ!」
「ちょっと思ってたでしょ」
「伊織、お前後で覚えてろよ」
「何を?」
「そういうとこだよ!」
◇
午前の後半。
今度は演習場へ移動した。
持たされたのは木刀。
「まずは基本の踏み込みと回避からだ」
教官が前に立つ。
「二人一組。攻撃側は正面から踏み込む。受ける側は攻撃線から外れろ」
実演。
正面から一歩。
木刀。
受ける側が横へ。
「受け止めようとするな。まず避けろ」
教官が言う。
「慣れたら攻撃側は入り方を変えていい。受ける側は相手を見ろ」
組み分け。
「伊織」
「なに?」
「俺とやろうぜ」
恋次。
「いいよ」
隣では。
桃と吉良が組んだ。
「じゃあ私から?」
「来い」
恋次が木刀を構える。
「本気でいい?」
「本気で来いよ」
「分かった」
伊織は木刀を構えた。
正面。
踏み込む。
振る。
恋次が右へ避ける。
「遅え!」
「初めてなんだけど」
「関係ねえ!」
「じゃあ次恋次」
「おう!」
交代。
恋次が構える。
踏み込み。
速い。
「っ」
伊織は左へ避ける。
木刀が横を抜ける。
「避けた」
「そりゃ避けるだろ!」
「恋次、分かりやすいね」
「あ?」
「真っ直ぐ来たから」
「今は正面からって言われてんだろ!」
「そうだった」
「お前なあ!」
「次」
「今度は変えるぞ」
「うん」
一度距離を取る。
恋次が構えた。
さっきと同じ。
正面。
踏み込む。
そう見えた。
直前。
右足。
角度が変わる。
「あ」
伊織が反応する。
避ける。
でも。
遅れた。
木刀が肩へ軽く当たる。
「一本!」
恋次が笑う。
「今、途中で変えた」
「変えていいって言われただろ」
「そうだけど」
「相手見ろって話だ」
「なるほど」
「どうだ!」
「嬉しそう」
「勝ったからな!」
「まだ一回だけだよ」
「一回は一回だろ!」
◇
隣。
桃と吉良。
「行くよ、吉良くん!」
「はい」
桃が踏み込む。
吉良が避ける。
次。
吉良。
桃が下がる。
「もう一度お願いします」
吉良が言った。
「うん!」
桃が構える。
踏み込む。
吉良は。
今度は、動き出すのが少し早かった。
桃の木刀が空を切る。
「吉良くん、分かったの?」
「少しだけ」
「何が?」
「雛森さん、踏み込む前に左肩が動くので」
「えっ」
桃が自分の肩を見る。
「動いてた?」
「少し」
「全然気づかなかった」
「僕も今気づきました」
伊織はそちらを見る。
「吉良くん、よく見てるね」
「久世さん」
「なに?」
「次、来てます」
「え?」
「伊織!」
振り返る。
恋次。
木刀。
「わ」
避ける。
ぎりぎり。
「危な」
「よそ見すんな!」
「ごめん」
「吉良も教えんなよ!」
「見えてしまったので」
「そういう問題か!?」
「助かった」
「どういたしまして」
「お前ら!」
教官の声。
「演習中だぞ!」
「はい!」
四人揃って返事をした。
◇
休憩。
伊織は演習場の端へ座った。
「疲れた」
「まだ午前だぞ」
恋次が隣へ座る。
「知ってる」
「昼からもっとあるぞ」
「ご飯あるから大丈夫」
「基準そこなのかよ」
「大事」
桃と吉良もやってくる。
「伊織ちゃん、お水いる?」
「いる」
「はい」
「ありがとう」
受け取る。
「一組って、もっとすごい人ばっかりなのかと思ってた」
伊織が言う。
恋次が眉を寄せた。
「何だよそれ」
「何でもできる人」
「そんなわけないでしょ」
桃が言う。
「私、斬術全然だったし」
「俺、霊力のやつ全然だったぞ」
「知ってる」
「伊織もだろ!」
「私は二回目弱かった」
「同じようなもんだ!」
吉良が少し笑う。
「得意なものが違うんでしょうね」
「吉良くんは見るの得意?」
「どうでしょう」
「さっき桃の肩見つけた」
「たまたまです」
「でも見つけた」
「……そうですね」
「桃は霊力の調整」
「今日だけかもしれないよ?」
「今日できたなら今日得意」
「何それ」
「恋次は」
伊織が見る。
「斬る」
「雑すぎんだろ!」
「でも得意でしょ」
「まあ……そうだけどよ」
「私は」
考える。
何だろう。
食べる。
違う。
「まだ分かんない」
「そのうち分かるんじゃない?」
桃が言った。
「六年あるもん」
「長いね」
「昨日も言ってたな、それ」
恋次。
「長いものは長い」
「まあな」
◇
「恋次!」
昼休み。
食堂へ向かう途中。
声。
恋次が振り返る。
「ルキア」
別の組の学生たちと歩いていたルキアが、こちらへ寄ってくる。
「どうだった?」
「何がだよ」
「一組だ。随分威張っておるのではないかと思ってな」
「威張ってねえよ!」
「そうか?」
「何だその顔!」
ルキアが伊織たちを見る。
「伊織、吉良。それから……」
「雛森桃です」
桃が答える。
「雛森か。私はルキアだ」
「よろしくね、ルキアちゃん」
「……ちゃん?」
ルキアが一瞬止まる。
「嫌だった?」
「いや。構わぬ」
「よかった!」
伊織が言う。
「桃、みんなちゃんになるね」
「伊織ちゃんは伊織ちゃんだよ」
「ルキアちゃんも?」
「うん」
恋次が笑う。
「ルキアちゃんだってよ」
「何がおかしい、恋次」
「似合わねえ」
「貴様」
「痛っ!」
ルキアが恋次の脇腹を肘で突いた。
「すぐ手出すな!」
「お主が余計なことを言うからだ」
「やっぱ仲いいね」
「伊織まで言うな!」
吉良が小さく笑う。
「昨日からずっとですね」
「吉良!」
「僕もですか?」
桃が楽しそうに笑った。
◇
食堂。
五人。
昨日より一人増えた。
「伊織」
「なに?」
ルキアが伊織の膳を見る。
「それで足りるのか?」
「今からもう一個取る」
「もう食べたのか?」
「うん」
ルキアが少し驚く。
「よく食べるな」
「霊力あるとお腹減るって言われた」
「それにしてもだろ」
恋次が言う。
「恋次も食べてるじゃん」
「俺は動いてんだよ!」
「私も動いた」
「同じ演習だろ!」
「なら同じじゃん」
「そういう問題じゃねえ!」
「恋次」
ルキアが飯を食べながら言う。
「食事中くらい静かにせぬか」
「誰のせいだと思ってんだ!」
「お主自身だろう」
「違えよ!」
伊織は自分の膳を見る。
ご飯。
汁物。
野菜。
魚。
昨日と少し違う。
明日も。
たぶん違う。
「どうしたの、伊織ちゃん?」
桃が聞く。
「ご飯すごいなって」
「そこ?」
「毎日ある」
「あるね」
「明日も?」
「あると思うよ」
「すごい」
恋次が呆れる。
「お前、霊術院来て一番感動してんの飯じゃねえか」
「今のところ」
「死神の学校だぞ!」
「知ってる」
「何しに来たんだお前!」
「それをこれから知るんじゃない?」
伊織が言う。
恋次が止まった。
「……まあ」
吉良が少し笑う。
「昨日、受かってから考えると言っていた人ですから」
「吉良くん覚えてたんだ」
「聞こえてましたから」
「後ろで見てただけじゃなかったんだね」
「同じ場所にいたんですから、聞こえますよ」
「そっか」
「何だと思ってたんですか」
「分かんない」
「久世さん……」
桃が笑う。
ルキアは。
そんな四人を少し眺めてから。
「随分馴染んだな、恋次」
と言った。
「あ?」
「昨日会ったばかりだろう」
「お前も普通に混ざってんじゃねえか」
「私はよい」
「何でだよ!」
「私だからだ」
「意味分かんねえ!」
伊織は五人を見る。
昨日。
名前も知らなかった人たち。
今日。
一緒に飯を食べている。
六年。
まだ。
長い。
何ができるのかも。
何になるのかも。
分からない。
ただ。
一組での最初の日は。
思っていたより。
悪くなかった。