ほどいて、また   作:たかやまたろう

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BLEACHはかなりにわかな知識で書いています。
設定や時系列など、できる限り確認しながら進めていますが、解釈違いや間違いがあるかもしれません。

また、本文の構成や執筆にはAIを利用しています。

そのあたりも含めて、ゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。
よければお付き合いください。



第二話 一組

 翌朝。

 

 久世伊織は、昨日より少しだけ真央霊術院に詳しくなっていた。

 

 寮の場所。

 

 食堂の場所。

 

 教室の場所。

 

 そして。

 

 食堂では、頼めばちゃんとおかわりができる。

 

 昨日。

 

『伊織ちゃん、まだ食べるの?』

 

『うん』

 

『それ三杯目だよ?』

 

『食べていいんでしょ?』

 

『いいけど……』

 

 隣で桃が驚いていた。

 

 食べ終わった時には。

 

 ここへ来てよかったかもしれないと。

 

 少しだけ思った。

 

「久世さん?」

 

「ん?」

 

 声に顔を上げる。

 

 吉良がこちらを見ていた。

 

「何を考えてたんですか?」

 

「昨日のご飯」

 

「朝からですか?」

 

「大事だよ」

 

「そうですか……」

 

 教室。

 

 一組。

 

 まだ席も。

 

 人の顔も。

 

 何となくしか分からない。

 

「伊織ちゃん、おはよう!」

 

「おはよう、桃」

 

「おう」

 

「おはよう、恋次」

 

 赤い髪。

 

 昨日からよく目立つ。

 

 阿散井恋次。

 

 名前で呼ぶようになったのは。

 

 昨日、ルキアが何度もそう呼んでいたからだった。

 

「……お前、もう恋次なんだな」

 

「嫌?」

 

「別にいいけどよ」

 

「じゃあ恋次」

 

「分かったっつの」

 

 恋次が伊織を見る。

 

「じゃあ俺も伊織でいいか?」

 

「いいよ」

 

「久世じゃねえんだ」

 

 吉良が言う。

 

「吉良くんは吉良くん」

 

「基準は?」

 

「なんとなく」

 

「そうですか」

 

「イヅルって呼ばれたい?」

 

「今のままでお願いします」

 

「分かった」

 

 桃が笑う。

 

「じゃあ私は?」

 

「桃」

 

「え、もう名前で呼んでくれるの?」

 

「嫌だった?」

 

「全然! 嬉しい!」

 

「じゃあ桃」

 

「うん!」

 

「朝からうるせえな、お前ら」

 

 恋次が言う。

 

「恋次が一番声大きいよ」

 

「俺かよ!」

 

 その時。

 

 教室の前の戸が開いた。

 

「席につけ」

 

 一瞬で静かになる。

 

「ほら恋次」

 

「お前も喋ってただろ!」

 

「阿散井」

 

「はい!」

 

「久世」

 

「はい」

 

「続けるなら廊下でやれ」

 

「すみません」

 

「お前だけ素直なの腹立つな」

 

「阿散井」

 

「すみません!」

 

     ◇

 

 一組。

 

 霊術院へ入学した者の中でも、霊力や試験成績が比較的高かった者が集められている。

 

 だからといって。

 

 何でもできるわけではない。

 

 それを。

 

 伊織は初日の授業で知った。

 

「もう一度」

 

「はい」

 

 目の前。

 

 掌ほどの大きさの霊力測定器。

 

「一定量を流せ。強くする必要はない」

 

「はい」

 

 伊織が手を置く。

 

 霊力を流す。

 

 光。

 

 強い。

 

「強すぎる」

 

「はい」

 

「もう一度」

 

 今度は抑える。

 

 光。

 

 弱い。

 

「今度は弱い」

 

「難しい」

 

「だから授業をしている」

 

「なるほど」

 

「納得してないで続けろ」

 

「はい」

 

 もう一度。

 

 少し強く。

 

「まだ弱い」

 

「はい」

 

「もう少し」

 

 調整する。

 

 光が安定した。

 

「そこだ」

 

「あ」

 

「その感覚を覚えろ」

 

「はい」

 

 手を離す。

 

 隣で見ていた恋次が笑う。

 

「意外と下手だな」

 

「恋次できるの?」

 

「見とけ」

 

 交代。

 

 恋次が手を置く。

 

 光。

 

 眩しい。

 

「阿散井」

 

「はい」

 

「強すぎる」

 

「……はい」

 

 伊織が恋次を見る。

 

「意外と下手だね」

 

「うるせえ!」

 

「今のは言われても仕方ないよ」

 

 桃が笑う。

 

「雛森まで!」

 

「次、雛森」

 

「はい!」

 

 桃。

 

 光。

 

 少し揺れる。

 

 でも。

 

 恋次や伊織より安定していた。

 

「もう少し抑えろ」

 

「はい」

 

 光が小さくなる。

 

「そこだ」

 

「できた!」

 

「桃うまいね」

 

「本当?」

 

「うん」

 

「次、吉良」

 

「はい」

 

 吉良が手を置く。

 

 最初。

 

 少し弱い。

 

 調整。

 

 もう少し。

 

 ぴたりと光が止まった。

 

「……そこだ」

 

「はい」

 

「おお」

 

 伊織が言う。

 

「何ですか?」

 

「吉良くん、うまい」

 

「ありがとうございます」

 

「何でお前だけ普通にできんだよ」

 

 恋次が言う。

 

「阿散井君が強く流しすぎなんですよ」

 

「分かってる!」

 

「恋次、力入れればいいと思ってそう」

 

「思ってねえよ!」

 

「ちょっと思ってたでしょ」

 

「伊織、お前後で覚えてろよ」

 

「何を?」

 

「そういうとこだよ!」

 

     ◇

 

 午前の後半。

 

 今度は演習場へ移動した。

 

 持たされたのは木刀。

 

「まずは基本の踏み込みと回避からだ」

 

 教官が前に立つ。

 

「二人一組。攻撃側は正面から踏み込む。受ける側は攻撃線から外れろ」

 

 実演。

 

 正面から一歩。

 

 木刀。

 

 受ける側が横へ。

 

「受け止めようとするな。まず避けろ」

 

 教官が言う。

 

「慣れたら攻撃側は入り方を変えていい。受ける側は相手を見ろ」

 

 組み分け。

 

「伊織」

 

「なに?」

 

「俺とやろうぜ」

 

 恋次。

 

「いいよ」

 

 隣では。

 

 桃と吉良が組んだ。

 

「じゃあ私から?」

 

「来い」

 

 恋次が木刀を構える。

 

「本気でいい?」

 

「本気で来いよ」

 

「分かった」

 

 伊織は木刀を構えた。

 

 正面。

 

 踏み込む。

 

 振る。

 

 恋次が右へ避ける。

 

「遅え!」

 

「初めてなんだけど」

 

「関係ねえ!」

 

「じゃあ次恋次」

 

「おう!」

 

 交代。

 

 恋次が構える。

 

 踏み込み。

 

 速い。

 

「っ」

 

 伊織は左へ避ける。

 

 木刀が横を抜ける。

 

「避けた」

 

「そりゃ避けるだろ!」

 

「恋次、分かりやすいね」

 

「あ?」

 

「真っ直ぐ来たから」

 

「今は正面からって言われてんだろ!」

 

「そうだった」

 

「お前なあ!」

 

「次」

 

「今度は変えるぞ」

 

「うん」

 

 一度距離を取る。

 

 恋次が構えた。

 

 さっきと同じ。

 

 正面。

 

 踏み込む。

 

 そう見えた。

 

 直前。

 

 右足。

 

 角度が変わる。

 

「あ」

 

 伊織が反応する。

 

 避ける。

 

 でも。

 

 遅れた。

 

 木刀が肩へ軽く当たる。

 

「一本!」

 

 恋次が笑う。

 

「今、途中で変えた」

 

「変えていいって言われただろ」

 

「そうだけど」

 

「相手見ろって話だ」

 

「なるほど」

 

「どうだ!」

 

「嬉しそう」

 

「勝ったからな!」

 

「まだ一回だけだよ」

 

「一回は一回だろ!」

 

     ◇

 

 隣。

 

 桃と吉良。

 

「行くよ、吉良くん!」

 

「はい」

 

 桃が踏み込む。

 

 吉良が避ける。

 

 次。

 

 吉良。

 

 桃が下がる。

 

「もう一度お願いします」

 

 吉良が言った。

 

「うん!」

 

 桃が構える。

 

 踏み込む。

 

 吉良は。

 

 今度は、動き出すのが少し早かった。

 

 桃の木刀が空を切る。

 

「吉良くん、分かったの?」

 

「少しだけ」

 

「何が?」

 

「雛森さん、踏み込む前に左肩が動くので」

 

「えっ」

 

 桃が自分の肩を見る。

 

「動いてた?」

 

「少し」

 

「全然気づかなかった」

 

「僕も今気づきました」

 

 伊織はそちらを見る。

 

「吉良くん、よく見てるね」

 

「久世さん」

 

「なに?」

 

「次、来てます」

 

「え?」

 

「伊織!」

 

 振り返る。

 

 恋次。

 

 木刀。

 

「わ」

 

 避ける。

 

 ぎりぎり。

 

「危な」

 

「よそ見すんな!」

 

「ごめん」

 

「吉良も教えんなよ!」

 

「見えてしまったので」

 

「そういう問題か!?」

 

「助かった」

 

「どういたしまして」

 

「お前ら!」

 

 教官の声。

 

「演習中だぞ!」

 

「はい!」

 

 四人揃って返事をした。

 

     ◇

 

 休憩。

 

 伊織は演習場の端へ座った。

 

「疲れた」

 

「まだ午前だぞ」

 

 恋次が隣へ座る。

 

「知ってる」

 

「昼からもっとあるぞ」

 

「ご飯あるから大丈夫」

 

「基準そこなのかよ」

 

「大事」

 

 桃と吉良もやってくる。

 

「伊織ちゃん、お水いる?」

 

「いる」

 

「はい」

 

「ありがとう」

 

 受け取る。

 

「一組って、もっとすごい人ばっかりなのかと思ってた」

 

 伊織が言う。

 

 恋次が眉を寄せた。

 

「何だよそれ」

 

「何でもできる人」

 

「そんなわけないでしょ」

 

 桃が言う。

 

「私、斬術全然だったし」

 

「俺、霊力のやつ全然だったぞ」

 

「知ってる」

 

「伊織もだろ!」

 

「私は二回目弱かった」

 

「同じようなもんだ!」

 

 吉良が少し笑う。

 

「得意なものが違うんでしょうね」

 

「吉良くんは見るの得意?」

 

「どうでしょう」

 

「さっき桃の肩見つけた」

 

「たまたまです」

 

「でも見つけた」

 

「……そうですね」

 

「桃は霊力の調整」

 

「今日だけかもしれないよ?」

 

「今日できたなら今日得意」

 

「何それ」

 

「恋次は」

 

 伊織が見る。

 

「斬る」

 

「雑すぎんだろ!」

 

「でも得意でしょ」

 

「まあ……そうだけどよ」

 

「私は」

 

 考える。

 

 何だろう。

 

 食べる。

 

 違う。

 

「まだ分かんない」

 

「そのうち分かるんじゃない?」

 

 桃が言った。

 

「六年あるもん」

 

「長いね」

 

「昨日も言ってたな、それ」

 

 恋次。

 

「長いものは長い」

 

「まあな」

 

     ◇

 

「恋次!」

 

 昼休み。

 

 食堂へ向かう途中。

 

 声。

 

 恋次が振り返る。

 

「ルキア」

 

 別の組の学生たちと歩いていたルキアが、こちらへ寄ってくる。

 

「どうだった?」

 

「何がだよ」

 

「一組だ。随分威張っておるのではないかと思ってな」

 

「威張ってねえよ!」

 

「そうか?」

 

「何だその顔!」

 

 ルキアが伊織たちを見る。

 

「伊織、吉良。それから……」

 

「雛森桃です」

 

 桃が答える。

 

「雛森か。私はルキアだ」

 

「よろしくね、ルキアちゃん」

 

「……ちゃん?」

 

 ルキアが一瞬止まる。

 

「嫌だった?」

 

「いや。構わぬ」

 

「よかった!」

 

 伊織が言う。

 

「桃、みんなちゃんになるね」

 

「伊織ちゃんは伊織ちゃんだよ」

 

「ルキアちゃんも?」

 

「うん」

 

 恋次が笑う。

 

「ルキアちゃんだってよ」

 

「何がおかしい、恋次」

 

「似合わねえ」

 

「貴様」

 

「痛っ!」

 

 ルキアが恋次の脇腹を肘で突いた。

 

「すぐ手出すな!」

 

「お主が余計なことを言うからだ」

 

「やっぱ仲いいね」

 

「伊織まで言うな!」

 

 吉良が小さく笑う。

 

「昨日からずっとですね」

 

「吉良!」

 

「僕もですか?」

 

 桃が楽しそうに笑った。

 

     ◇

 

 食堂。

 

 五人。

 

 昨日より一人増えた。

 

「伊織」

 

「なに?」

 

 ルキアが伊織の膳を見る。

 

「それで足りるのか?」

 

「今からもう一個取る」

 

「もう食べたのか?」

 

「うん」

 

 ルキアが少し驚く。

 

「よく食べるな」

 

「霊力あるとお腹減るって言われた」

 

「それにしてもだろ」

 

 恋次が言う。

 

「恋次も食べてるじゃん」

 

「俺は動いてんだよ!」

 

「私も動いた」

 

「同じ演習だろ!」

 

「なら同じじゃん」

 

「そういう問題じゃねえ!」

 

「恋次」

 

 ルキアが飯を食べながら言う。

 

「食事中くらい静かにせぬか」

 

「誰のせいだと思ってんだ!」

 

「お主自身だろう」

 

「違えよ!」

 

 伊織は自分の膳を見る。

 

 ご飯。

 

 汁物。

 

 野菜。

 

 魚。

 

 昨日と少し違う。

 

 明日も。

 

 たぶん違う。

 

「どうしたの、伊織ちゃん?」

 

 桃が聞く。

 

「ご飯すごいなって」

 

「そこ?」

 

「毎日ある」

 

「あるね」

 

「明日も?」

 

「あると思うよ」

 

「すごい」

 

 恋次が呆れる。

 

「お前、霊術院来て一番感動してんの飯じゃねえか」

 

「今のところ」

 

「死神の学校だぞ!」

 

「知ってる」

 

「何しに来たんだお前!」

 

「それをこれから知るんじゃない?」

 

 伊織が言う。

 

 恋次が止まった。

 

「……まあ」

 

 吉良が少し笑う。

 

「昨日、受かってから考えると言っていた人ですから」

 

「吉良くん覚えてたんだ」

 

「聞こえてましたから」

 

「後ろで見てただけじゃなかったんだね」

 

「同じ場所にいたんですから、聞こえますよ」

 

「そっか」

 

「何だと思ってたんですか」

 

「分かんない」

 

「久世さん……」

 

 桃が笑う。

 

 ルキアは。

 

 そんな四人を少し眺めてから。

 

「随分馴染んだな、恋次」

 

 と言った。

 

「あ?」

 

「昨日会ったばかりだろう」

 

「お前も普通に混ざってんじゃねえか」

 

「私はよい」

 

「何でだよ!」

 

「私だからだ」

 

「意味分かんねえ!」

 

 伊織は五人を見る。

 

 昨日。

 

 名前も知らなかった人たち。

 

 今日。

 

 一緒に飯を食べている。

 

 六年。

 

 まだ。

 

 長い。

 

 何ができるのかも。

 

 何になるのかも。

 

 分からない。

 

 ただ。

 

 一組での最初の日は。

 

 思っていたより。

 

 悪くなかった。

 

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