設定や時系列など、できる限り確認しながら進めていますが、解釈違いや間違いがあるかもしれません。
また、本文の構成や執筆にはAIを利用しています。
そのあたりも含めて、ゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。
よければお付き合いください。
入学してしばらく。
授業にも。
寮にも。
食堂にも。
少しずつ慣れてきた。
分からないことは、まだ多い。
けれど。
「向いてない」
久世伊織は木刀を見た。
「何が?」
隣にいた桃が聞く。
「これ」
「斬術?」
「うん」
「さっき当ててたじゃん」
「外したのもある」
「そりゃあるよ」
「じゃあ普通?」
「普通じゃない?」
「そっか」
「それで納得するんだ」
桃が笑う。
少し離れたところから声が飛んできた。
「伊織!」
「なに?」
「次、俺とやろうぜ!」
恋次が木刀を振っている。
「嫌」
「何でだよ!」
「恋次、痛いから」
「木刀だぞ!」
「木刀でも痛いよ」
「当てなきゃいいだろ!」
「それ私が勝つってこと?」
「何でそうなる!」
「阿散井!」
教官の声が飛ぶ。
「騒ぐな!」
「はい!」
恋次がすぐに姿勢を正した。
伊織は桃を見る。
「怒られた」
「伊織ちゃんも原因だと思う」
「私?」
「うん」
「そっか」
◇
午前は斬術。
午後は鬼道。
その次は歩法。
死神になるために必要だと言われるものを、一つずつ習っていく。
「破道の一、衝!」
桃の放った術が、正面の的へ当たった。
「おお」
伊織が言う。
「今の綺麗だった」
「本当?」
「うん」
桃が嬉しそうに笑う。
「久世、次!」
「はい」
伊織が前へ出る。
構える。
「破道の一、衝」
霊力を流す。
放つ。
的には当たった。
ただ。
少し中心から外れている。
「もう一度」
「はい」
二回目。
今度は中心に当たる。
「そこだ。術式を崩すな」
「はい」
「お前は霊力を出す量にばらつきがある。まず一定にすることを覚えろ」
「分かりました」
戻る。
「ちゃんと当たってたね」
桃が言う。
「二回目は」
「最初から全部できる人なんていないよ」
「そう?」
「たぶん」
「桃も分かんないんだ」
「私だって一回生だもん」
「それもそうか」
「次、吉良!」
「はい」
吉良が前へ出る。
詠唱。
放つ。
的へ当たる。
少し位置を修正するように、二度目。
今度は中心だった。
「吉良くん、うまいね」
戻ってきた吉良に伊織が言う。
「久世さんとそんなに変わりませんよ」
「そう?」
「そうです」
「でも二回とも近かった」
「たまたまかもしれません」
「じゃあ次も見よう」
「確認されるんですか?」
「うん」
「妙なところ真面目ですね」
◇
歩法。
走る。
止まる。
方向を変える。
また走る。
「恋次速い」
「当たり前だ!」
「なんで?」
「俺だからだ!」
「ルキアみたい」
「一緒にすんな!」
恋次が振り返る。
「阿散井! 前!」
「うおっ!」
正面から来た学生とぶつかりかける。
ぎりぎりで止まった。
教官が額を押さえる。
「お前は走っている時くらい前を見ろ」
「……はい」
伊織は少し笑った。
「何笑ってんだ」
「別に」
「絶対何かあるだろ!」
恋次は速い。
斬術も上手い。
桃は鬼道が得意そうだ。
吉良は何をやっても大きく崩れない。
それに、よく見ている。
伊織は自分の手を見る。
「私、何だろ」
「何がです?」
隣にいた吉良が聞いた。
「向いてること」
吉良が少し考える。
「まだ分からなくても普通じゃないですか?」
「そう?」
「入ったばかりですし」
「じゃあ、そのうち分かるかな」
「たぶん」
伊織は吉良を見る。
「吉良くんは?」
「僕もまだ分かりませんよ」
「でも何でもできる」
「何でもはできません」
「そうなの?」
「そうですよ」
「そっか」
少しだけ安心した。
◇
昼休み。
食堂。
伊織たち四人が席について、しばらくした頃。
「伊織ちゃん、今日何杯目?」
「二杯目」
「まだ普通」
「まだって何」
「昨日四杯食べてたから」
「お腹空いてた」
「毎日だろ、それ」
恋次が言う。
「恋次も二杯目じゃん」
「俺は身体動かしてんだよ」
「私も動いた」
「またそれか!」
「恋次」
声に、恋次が振り返った。
盆を持ったルキアが立っている。
「ルキア」
「ここ、よいか?」
「もちろん!」
桃が隣へ詰めた。
「すまぬ」
ルキアが腰を下ろす。
「そっちの組、どうだった?」
恋次が聞いた。
「何がだ?」
「授業」
「ああ。こちらも斬術と鬼道だったぞ」
「ルキアはできた?」
伊織が聞く。
「何が?」
「斬術」
「まだ始まったばかりだ。できたともできぬとも言えぬな」
「そっか」
「お主はどうだった?」
「分かんない」
「何がだ?」
「何が向いてるか」
ルキアが少し首を傾げた。
「それがそんなに気になるのか?」
「ちょっと」
「まだ色々始めたばかりだろう」
「桃と吉良くんにも似たようなこと言われた」
「なら、皆そう思ったのだな」
「そうみたい」
「続けておれば、そのうち分かる時が来るかもしれぬな」
「そっか」
恋次が口を挟む。
「斬術なら俺だな」
「誰も聞いておらぬぞ」
「何でだよ!」
「お主が勝手に入ってきただけだろう」
「俺も話してたんだからいいだろ!」
「恋次、声大きい」
「伊織まで言うな!」
桃が笑った。
◇
午後。
組み手の演習。
相手は同じ一組の学生。
打つ。
避ける。
受ける。
交代する。
「そこまで!」
教官の声。
伊織は木刀を下ろした。
「次!」
別の二人が前へ出る。
数合。
その時。
「っ!」
鈍い音がした。
一人が倒れる。
「止め!」
教官がすぐに駆け寄った。
伊織も見る。
倒れた学生が、足を押さえている。
「動くな」
教官がしゃがむ。
「痛むか?」
「はい……」
「誰か救護を呼んでこい!」
「はい!」
一人が走る。
伊織はその場に立ったままだった。
足。
痛そうなのは分かる。
けれど。
何をすればいいのか。
分からない。
「久世」
「はい」
「下がっていろ」
「……はい」
言われた通り下がる。
少しして、救護担当の死神が来た。
足を見る。
触れる場所を確かめる。
固定する。
担架へ乗せる。
運んでいく。
伊織は、その一連の動きをずっと見ていた。
◇
授業が終わった後。
「伊織ちゃん」
「なに?」
「さっきから静かだね」
桃が隣に来た。
恋次と吉良もいる。
「怪我した奴のことか?」
恋次が聞く。
「うん」
「教官、そんな重くねえって言ってたぞ」
「それは聞いた」
「じゃあどうした?」
伊織は少し考えた。
「何もできなかったなって」
桃が見る。
「伊織ちゃんが?」
「うん」
「でも、教官に下がってろって言われたでしょ?」
「そうなんだけど」
少し間を置く。
「何したらいいのかも分かんなかった」
吉良が口を開く。
「救護のことを知らないからですか?」
「たぶん」
「俺も知らねえぞ」
恋次が言う。
「私も知らないよ」
桃も続ける。
「うん」
伊織は頷いた。
「だから知りたい」
「救護を?」
「うん」
恋次が少し考える。
「それ、向いてることとは別じゃねえの?」
「たぶん別」
「じゃあ何で?」
「分かんないけど」
伊織はさっきまで使っていた演習場を見る。
「知らないままは嫌かも」
桃が少し考える。
「じゃあ、習ってみる?」
「どこで?」
「四番隊じゃない?」
吉良が答えた。
「治療や救護を担当している隊です」
「四番隊」
「知らなかったんですか?」
「うん」
「今知りましたね」
「うん」
「行くの?」
桃が聞く。
「行ってみたい」
「今から?」
「行けるなら」
恋次が伊織を見る。
「場所知ってんのか?」
「知らない」
「だと思ったよ」
「恋次知ってる?」
「知らねえ」
「じゃあ同じじゃん」
「そういう話じゃねえ!」
◇
放課後。
四番隊舎へ向かう道。
伊織。
恋次。
桃。
吉良。
そして。
授業を終えたルキアも途中で合流した。
「それで」
ルキアが言う。
「なぜ皆で四番隊へ向かっておるのだ?」
「伊織が救護を教わりたいんだと」
恋次が答える。
「救護?」
「今日、演習で怪我した人がいて」
伊織が言う。
「私は何したらいいか分かんなかったから」
ルキアが伊織を見る。
「それで知りたくなったのか」
「うん」
「なるほどな」
「ルキアも来る?」
「もう来ておるではないか」
「そうだった」
「今気づいたのか?」
「一応聞いただけ」
ルキアが少し呆れた顔をする。
「向いてるかは、まだ分かんないけど」
「まだそれを気にしておるのか」
「ちょっとだけ」
「なら、まずやってみればよいではないか」
「うん」
伊織は頷いた。
「そうする」
◇
「何の用だ?」
四番隊舎。
入口で、一人の隊士に止められた。
「学生か?」
「はい」
「怪我人?」
「違います」
「なら何だ?」
伊織が一歩前へ出る。
「救護って、一回生でも習えますか?」
隊士が瞬きをした。
「……何?」
「今日、演習で怪我した人がいたんです」
「ああ」
「その時、何したらいいのか分からなかったので」
「それで?」
「少し教えてほしいです」
隊士が伊織を見る。
その後ろ。
恋次。
桃。
吉良。
ルキア。
「全員か?」
「私は付き添いです」
桃が言う。
「僕もです」
吉良。
「俺も」
恋次。
「私は途中からついてきただけだ」
ルキア。
「結局全員付き添いじゃねえか」
隊士が呆れた。
「名前は?」
「久世伊織です」
「久世。回道はまだ習ってないだろ」
「はい」
「応急処置も?」
「まだです」
「なら、回道を教えるのは無理だ」
「そうですか」
「ただ」
伊織が顔を上げる。
「怪我人を見た時に、やってはいけないことくらいなら教えられる」
「本当ですか?」
「ああ」
「お願いします」
「今?」
「駄目ですか?」
隊士は少し伊織を見る。
「……少し待ってろ」
「はい」
奥へ消えていく。
「よかったね、伊織ちゃん」
桃が言った。
「うん」
「本当にそのまま聞くんだな、お前」
恋次が言う。
「聞かないと分かんないし」
「そりゃそうだけどよ」
「伊織」
ルキアが呼ぶ。
「なに?」
「向いているかどうかなど、今はまだ分からぬだろう」
「うん」
「なら、知りたいと思ったことをやってみればよい」
伊織は少し考える。
「そうだね」
四番隊舎の奥を見る。
向いているかは。
まだ分からない。
でも。
知りたいことが。
一つ増えた。