ほどいて、また   作:たかやまたろう

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BLEACHはかなりにわかな知識で書いています。
設定や時系列など、できる限り確認しながら進めていますが、解釈違いや間違いがあるかもしれません。

また、本文の構成や執筆にはAIを利用しています。

そのあたりも含めて、ゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。
よければお付き合いください。



第四話 救護

 

「じゃあ、まずこれ」

 

 差し出されたのは。

 

 包帯だった。

 

「巻いてみろ」

 

「誰にですか?」

 

「俺」

 

「怪我してないですよね」

 

「練習だよ」

 

「ああ」

 

 昨日。

 

 演習で怪我をした学生を見て。

 

 何をすればいいのか分からなかった。

 

 だから。

 

 そのまま四番隊まで来た。

 

 そして今日。

 

 授業が終わってから、伊織はもう一度四番隊舎を訪れていた。

 

「昨日言っただろ。回道はまだ無理だ」

 

「はい」

 

「だから先に、怪我人を見た時に何をするか覚えろ」

 

「分かりました」

 

「まず、いきなり動かすな」

 

「はい」

 

「転んでるから起こす。痛そうだから姿勢を変える。そういうのは勝手にやるな」

 

「なんでですか?」

 

「見えないところを痛めてるかもしれねえからだ」

 

「なるほど」

 

「意識があるか。どこが痛いか。動かせるか。まず確認する」

 

「はい」

 

「出血があるなら?」

 

「止める」

 

「どうやって」

 

「……押さえる?」

 

「正解」

 

「おお」

 

「何でお前が驚くんだよ」

 

「当たったから」

 

「試験じゃねえぞ」

 

 隊士が腕を差し出す。

 

「ほら。巻いてみろ」

 

「はい」

 

 伊織は包帯を取った。

 

 腕へ。

 

 一周。

 

 二周。

 

「緩い」

 

「これじゃ駄目?」

 

「すぐずれる」

 

「じゃあ強く」

 

「強すぎても駄目だ」

 

「難しいですね」

 

「だから練習してんだよ」

 

「なるほど」

 

「それ昨日からよく言うな」

 

「便利なので」

 

「便利で使う言葉じゃねえだろ」

 

     ◇

 

 三回。

 

 巻き直した。

 

「これなら?」

 

「まあいい」

 

「まあ」

 

「初めてならな」

 

「じゃあ次はもっと上手くします」

 

「明日も来る気か?」

 

「駄目ですか?」

 

 隊士が伊織を見る。

 

「……授業は?」

 

「終わってから来ます」

 

「毎日は相手できねえぞ」

 

「空いてる時だけでいいです」

 

「お前な」

 

「はい」

 

「結構しつこいな」

 

「よく言われます?」

 

「今初めて言った」

 

「じゃあ一回目です」

 

「そういう意味じゃねえ」

 

 隊士はため息をついた。

 

「来るのは好きにしろ。ただし邪魔になる時は帰す」

 

「はい」

 

「勝手に患者に触るな」

 

「はい」

 

「分からないことを分かったふりするな」

 

「はい」

 

「それができるならな」

 

「分かりました」

 

     ◇

 

 それから。

 

 伊織は何度か四番隊へ顔を出した。

 

 毎日ではない。

 

 授業が長引く日もある。

 

 演習がある日もある。

 

 向こうが忙しくて、帰される日もあった。

 

 それでも。

 

 行ける日は行った。

 

「久世」

 

「はい」

 

「これ畳んどいてくれ」

 

「分かりました」

 

「そっちは触るなよ」

 

「はい」

 

「包帯足りねえ。棚の上から取って」

 

「これですか?」

 

「それ」

 

 教えてもらうだけではなく。

 

 少しずつ。

 

 簡単な手伝いもするようになった。

 

 包帯を畳む。

 

 道具を運ぶ。

 

 使ったものを片づける。

 

 患者へ水を渡す。

 

 最初は。

 

 そんなものだった。

 

     ◇

 

「最近、伊織ちゃん放課後いないね」

 

 昼休み。

 

 桃が言った。

 

「四番隊行ってる」

 

「まだ行ってんのか」

 

 恋次が飯を口へ運ぶ。

 

「うん」

 

「何教わってるんだ?」

 

「包帯とか」

 

「包帯?」

 

「巻く」

 

「それは見りゃ分かる」

 

「恋次、たぶん下手そう」

 

「何でだよ!」

 

「力いっぱい巻きそう」

 

「巻かねえよ!」

 

「阿散井君ならやりそうですね」

 

 吉良が言った。

 

「吉良まで!?」

 

「ちょっとだけ」

 

「ちょっとでも言ってんだろ!」

 

「何の話をしておる?」

 

 声。

 

 恋次が振り返る。

 

 盆を持ったルキアが立っていた。

 

「ルキア」

 

「ここ、よいか?」

 

「うん」

 

 桃が場所を空ける。

 

「すまぬ」

 

 ルキアが座る。

 

「伊織が俺のこと雑だって言ってんだよ」

 

「言ってない」

 

「言ってただろ!」

 

「包帯巻くの下手そうって言った」

 

「大体同じだ!」

 

 ルキアが恋次を見る。

 

「実際、不得手そうではあるな」

 

「お前まで言うのかよ!」

 

「力加減が雑だからな」

 

「うるせえ!」

 

 伊織がルキアを見る。

 

「ルキアは上手そう」

 

「包帯か?」

 

「うん」

 

「巻いたことなどないぞ」

 

「でも上手そう」

 

「何を根拠に言っておる」

 

「なんとなく」

 

「適当だな、お主」

 

 ルキアは呆れながら箸を取った。

 

「それで、四番隊へ通っておるのか?」

 

「うん」

 

「救護を習いに?」

 

「まだそんな大したことしてないよ」

 

「何をしておる?」

 

「包帯巻いたり、道具運んだり」

 

「十分ではないか」

 

「そう?」

 

「昨日まで何も知らなかったのだろう」

 

「昨日ではないよ」

 

「ものの例えだ」

 

「ああ」

 

 恋次が口を挟む。

 

「で、向いてそうなのか?」

 

 伊織は少し考える。

 

「分かんない」

 

「まだかよ」

 

「まだそんなにやってないし」

 

「まあ、それもそうか」

 

 ルキアが伊織を見る。

 

「だが、続いてはおるのだな」

 

「うん」

 

「なら今はそれでよかろう」

 

「そうだね」

 

     ◇

 

 その日の放課後。

 

 四番隊舎。

 

「今日は忙しいですか?」

 

「見りゃ分かるだろ」

 

「忙しそうですね」

 

「今日は手ぇ回らねえぞ」

 

「じゃあ帰ります?」

 

「いや」

 

 隊士が束になった布を渡す。

 

「これ運んでくれ」

 

「はい」

 

「奥の棚」

 

「分かりました」

 

 いつもより人が多かった。

 

 隊士たちが行き交っている。

 

 寝台も。

 

 いくつか埋まっていた。

 

「何かあったんですか?」

 

「任務帰りが重なった」

 

「怪我人?」

 

「ああ」

 

「手伝えることあります?」

 

「今はそれ運べ」

 

「はい」

 

 言われた通り。

 

 余計なことはしない。

 

 伊織は布を運ぶ。

 

 棚へ置く。

 

 戻る。

 

 次。

 

「水」

 

「はい」

 

「あっちの寝台」

 

「分かりました」

 

 器へ水を入れる。

 

 運ぶ。

 

 寝台には男が一人。

 

 腕と肩に包帯。

 

 顔にも傷がある。

 

「水です」

 

「おう」

 

 男が身体を起こそうとする。

 

「起きない方がいいんじゃないですか?」

 

「飲みにくいだろ」

 

「じゃあ持ちます」

 

「学生?」

 

「はい」

 

「四番隊の?」

 

「霊術院です」

 

「何でここにいんだ」

 

「勉強です」

 

「変わってんな」

 

「そうですか?」

 

「普通、学生がわざわざ怪我人見に来るか?」

 

「分かんないです」

 

「分かんねえのかよ」

 

「周りに聞いたことないので」

 

 男が笑う。

 

「面白えな、お前」

 

「よく言われます?」

 

「今初めて言った」

 

「それ最近聞きました」

 

「何の話だ?」

 

「こっちの話です」

 

 水を渡す。

 

「ありがとうございます」

 

「こっちが言うんじゃねえの?」

 

「そうでした」

 

「お前、本当に変わってんな」

 

     ◇

 

 少しして。

 

 また声が飛ぶ。

 

「久世!」

 

「はい!」

 

「こっち!」

 

 伊織が振り返る。

 

 さっきまでいた寝台。

 

 隊士が二人集まっている。

 

「これ持ってろ」

 

「はい」

 

 道具を渡される。

 

「声、聞こえますか?」

 

 返事がない。

 

 さっきの男。

 

 目を閉じている。

 

「……さっきまで喋ってたのに」

 

「久世」

 

「はい」

 

「そこ置いて、一歩下がれ」

 

「はい」

 

 言われた通りにする。

 

 何が起きたのか。

 

 分からない。

 

 でも。

 

 隊士たちの動きが。

 

 さっきまでと違うことだけは分かった。

 

「呼吸が浅い」

 

「回道入れます」

 

「こっち押さえて」

 

「はい」

 

 伊織は。

 

 邪魔にならない場所まで下がった。

 

 見る。

 

 それしかできない。

 

 少し前まで。

 

 普通に話していた。

 

 水を飲んで。

 

 笑っていた。

 

 それが。

 

 今は返事をしない。

 

 昨日まで元気だったとか。

 

 ついさっきまで何ともなかったとか。

 

 そういう話ではない。

 

 ほんの少し前まで。

 

 自分と喋っていたのに。

 

     ◇

 

「久世」

 

「はい」

 

「今日はもう帰れ」

 

 しばらくして。

 

 最初に教えてくれた隊士が言った。

 

「……あの人は?」

 

「今、処置してる」

 

「大丈夫ですか?」

 

「分からん」

 

「そうですか」

 

「お前がいても今はできることがない」

 

「はい」

 

「だから帰れ」

 

「分かりました」

 

 伊織は頭を下げた。

 

「ありがとうございました」

 

「ああ」

 

 四番隊舎を出る。

 

 外は。

 

 もう少し暗くなっていた。

 

     ◇

 

「伊織?」

 

 帰り道。

 

 声に顔を上げる。

 

「ルキア」

 

 向こうから歩いてきたルキアが止まった。

 

「今帰りか?」

 

「うん」

 

「四番隊から?」

 

「うん」

 

 ルキアが伊織を見る。

 

「何かあったか?」

 

「なんで?」

 

「顔がいつもと違う」

 

「そう?」

 

「少しな」

 

 伊織は立ち止まる。

 

 少し考える。

 

「さっき」

 

「うむ」

 

「怪我してる人と喋った」

 

「そうか」

 

「水渡して」

 

「うむ」

 

「普通に喋ってたんだけど」

 

 その先。

 

 一度止まる。

 

「急に返事しなくなった」

 

 ルキアは何も言わない。

 

「四番隊の人が処置してる」

 

「そうか」

 

「大丈夫かは分かんないって」

 

「……そうか」

 

 また。

 

 少し歩く。

 

「何したらいいか分かんなかった」

 

 伊織が言う。

 

「前も同じこと言ってたね、私」

 

「今度は何かしたのだろう?」

 

「水運んだ」

 

「なら何もしておらぬわけではあるまい」

 

「でも、それだけ」

 

「今のお主にできるのが、それだったのだろう」

 

 伊織はルキアを見る。

 

「たぶん」

 

「なら、次にできることを増やせばよい」

 

「……うん」

 

 ルキアはそれ以上言わなかった。

 

 二人で歩く。

 

 少しして。

 

「腹は減っておらぬのか?」

 

 ルキアが聞いた。

 

 伊織は自分の腹を見る。

 

 鳴った。

 

「減ってた」

 

「そこはいつも通りだな」

 

「うん」

 

「食堂へ行くか?」

 

「行く」

 

 二人は歩き出した。

 

 伊織は。

 

 一度だけ。

 

 四番隊舎の方を振り返った。

 

 向いているかどうかは。

 

 まだ。

 

 分からない。

 

 でも。

 

 もう少し。

 

 知りたいと思った。

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