設定や時系列など、できる限り確認しながら進めていますが、解釈違いや間違いがあるかもしれません。
また、本文の構成や執筆にはAIを利用しています。
そのあたりも含めて、ゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。
よければお付き合いください。
「じゃあ、まずこれ」
差し出されたのは。
包帯だった。
「巻いてみろ」
「誰にですか?」
「俺」
「怪我してないですよね」
「練習だよ」
「ああ」
昨日。
演習で怪我をした学生を見て。
何をすればいいのか分からなかった。
だから。
そのまま四番隊まで来た。
そして今日。
授業が終わってから、伊織はもう一度四番隊舎を訪れていた。
「昨日言っただろ。回道はまだ無理だ」
「はい」
「だから先に、怪我人を見た時に何をするか覚えろ」
「分かりました」
「まず、いきなり動かすな」
「はい」
「転んでるから起こす。痛そうだから姿勢を変える。そういうのは勝手にやるな」
「なんでですか?」
「見えないところを痛めてるかもしれねえからだ」
「なるほど」
「意識があるか。どこが痛いか。動かせるか。まず確認する」
「はい」
「出血があるなら?」
「止める」
「どうやって」
「……押さえる?」
「正解」
「おお」
「何でお前が驚くんだよ」
「当たったから」
「試験じゃねえぞ」
隊士が腕を差し出す。
「ほら。巻いてみろ」
「はい」
伊織は包帯を取った。
腕へ。
一周。
二周。
「緩い」
「これじゃ駄目?」
「すぐずれる」
「じゃあ強く」
「強すぎても駄目だ」
「難しいですね」
「だから練習してんだよ」
「なるほど」
「それ昨日からよく言うな」
「便利なので」
「便利で使う言葉じゃねえだろ」
◇
三回。
巻き直した。
「これなら?」
「まあいい」
「まあ」
「初めてならな」
「じゃあ次はもっと上手くします」
「明日も来る気か?」
「駄目ですか?」
隊士が伊織を見る。
「……授業は?」
「終わってから来ます」
「毎日は相手できねえぞ」
「空いてる時だけでいいです」
「お前な」
「はい」
「結構しつこいな」
「よく言われます?」
「今初めて言った」
「じゃあ一回目です」
「そういう意味じゃねえ」
隊士はため息をついた。
「来るのは好きにしろ。ただし邪魔になる時は帰す」
「はい」
「勝手に患者に触るな」
「はい」
「分からないことを分かったふりするな」
「はい」
「それができるならな」
「分かりました」
◇
それから。
伊織は何度か四番隊へ顔を出した。
毎日ではない。
授業が長引く日もある。
演習がある日もある。
向こうが忙しくて、帰される日もあった。
それでも。
行ける日は行った。
「久世」
「はい」
「これ畳んどいてくれ」
「分かりました」
「そっちは触るなよ」
「はい」
「包帯足りねえ。棚の上から取って」
「これですか?」
「それ」
教えてもらうだけではなく。
少しずつ。
簡単な手伝いもするようになった。
包帯を畳む。
道具を運ぶ。
使ったものを片づける。
患者へ水を渡す。
最初は。
そんなものだった。
◇
「最近、伊織ちゃん放課後いないね」
昼休み。
桃が言った。
「四番隊行ってる」
「まだ行ってんのか」
恋次が飯を口へ運ぶ。
「うん」
「何教わってるんだ?」
「包帯とか」
「包帯?」
「巻く」
「それは見りゃ分かる」
「恋次、たぶん下手そう」
「何でだよ!」
「力いっぱい巻きそう」
「巻かねえよ!」
「阿散井君ならやりそうですね」
吉良が言った。
「吉良まで!?」
「ちょっとだけ」
「ちょっとでも言ってんだろ!」
「何の話をしておる?」
声。
恋次が振り返る。
盆を持ったルキアが立っていた。
「ルキア」
「ここ、よいか?」
「うん」
桃が場所を空ける。
「すまぬ」
ルキアが座る。
「伊織が俺のこと雑だって言ってんだよ」
「言ってない」
「言ってただろ!」
「包帯巻くの下手そうって言った」
「大体同じだ!」
ルキアが恋次を見る。
「実際、不得手そうではあるな」
「お前まで言うのかよ!」
「力加減が雑だからな」
「うるせえ!」
伊織がルキアを見る。
「ルキアは上手そう」
「包帯か?」
「うん」
「巻いたことなどないぞ」
「でも上手そう」
「何を根拠に言っておる」
「なんとなく」
「適当だな、お主」
ルキアは呆れながら箸を取った。
「それで、四番隊へ通っておるのか?」
「うん」
「救護を習いに?」
「まだそんな大したことしてないよ」
「何をしておる?」
「包帯巻いたり、道具運んだり」
「十分ではないか」
「そう?」
「昨日まで何も知らなかったのだろう」
「昨日ではないよ」
「ものの例えだ」
「ああ」
恋次が口を挟む。
「で、向いてそうなのか?」
伊織は少し考える。
「分かんない」
「まだかよ」
「まだそんなにやってないし」
「まあ、それもそうか」
ルキアが伊織を見る。
「だが、続いてはおるのだな」
「うん」
「なら今はそれでよかろう」
「そうだね」
◇
その日の放課後。
四番隊舎。
「今日は忙しいですか?」
「見りゃ分かるだろ」
「忙しそうですね」
「今日は手ぇ回らねえぞ」
「じゃあ帰ります?」
「いや」
隊士が束になった布を渡す。
「これ運んでくれ」
「はい」
「奥の棚」
「分かりました」
いつもより人が多かった。
隊士たちが行き交っている。
寝台も。
いくつか埋まっていた。
「何かあったんですか?」
「任務帰りが重なった」
「怪我人?」
「ああ」
「手伝えることあります?」
「今はそれ運べ」
「はい」
言われた通り。
余計なことはしない。
伊織は布を運ぶ。
棚へ置く。
戻る。
次。
「水」
「はい」
「あっちの寝台」
「分かりました」
器へ水を入れる。
運ぶ。
寝台には男が一人。
腕と肩に包帯。
顔にも傷がある。
「水です」
「おう」
男が身体を起こそうとする。
「起きない方がいいんじゃないですか?」
「飲みにくいだろ」
「じゃあ持ちます」
「学生?」
「はい」
「四番隊の?」
「霊術院です」
「何でここにいんだ」
「勉強です」
「変わってんな」
「そうですか?」
「普通、学生がわざわざ怪我人見に来るか?」
「分かんないです」
「分かんねえのかよ」
「周りに聞いたことないので」
男が笑う。
「面白えな、お前」
「よく言われます?」
「今初めて言った」
「それ最近聞きました」
「何の話だ?」
「こっちの話です」
水を渡す。
「ありがとうございます」
「こっちが言うんじゃねえの?」
「そうでした」
「お前、本当に変わってんな」
◇
少しして。
また声が飛ぶ。
「久世!」
「はい!」
「こっち!」
伊織が振り返る。
さっきまでいた寝台。
隊士が二人集まっている。
「これ持ってろ」
「はい」
道具を渡される。
「声、聞こえますか?」
返事がない。
さっきの男。
目を閉じている。
「……さっきまで喋ってたのに」
「久世」
「はい」
「そこ置いて、一歩下がれ」
「はい」
言われた通りにする。
何が起きたのか。
分からない。
でも。
隊士たちの動きが。
さっきまでと違うことだけは分かった。
「呼吸が浅い」
「回道入れます」
「こっち押さえて」
「はい」
伊織は。
邪魔にならない場所まで下がった。
見る。
それしかできない。
少し前まで。
普通に話していた。
水を飲んで。
笑っていた。
それが。
今は返事をしない。
昨日まで元気だったとか。
ついさっきまで何ともなかったとか。
そういう話ではない。
ほんの少し前まで。
自分と喋っていたのに。
◇
「久世」
「はい」
「今日はもう帰れ」
しばらくして。
最初に教えてくれた隊士が言った。
「……あの人は?」
「今、処置してる」
「大丈夫ですか?」
「分からん」
「そうですか」
「お前がいても今はできることがない」
「はい」
「だから帰れ」
「分かりました」
伊織は頭を下げた。
「ありがとうございました」
「ああ」
四番隊舎を出る。
外は。
もう少し暗くなっていた。
◇
「伊織?」
帰り道。
声に顔を上げる。
「ルキア」
向こうから歩いてきたルキアが止まった。
「今帰りか?」
「うん」
「四番隊から?」
「うん」
ルキアが伊織を見る。
「何かあったか?」
「なんで?」
「顔がいつもと違う」
「そう?」
「少しな」
伊織は立ち止まる。
少し考える。
「さっき」
「うむ」
「怪我してる人と喋った」
「そうか」
「水渡して」
「うむ」
「普通に喋ってたんだけど」
その先。
一度止まる。
「急に返事しなくなった」
ルキアは何も言わない。
「四番隊の人が処置してる」
「そうか」
「大丈夫かは分かんないって」
「……そうか」
また。
少し歩く。
「何したらいいか分かんなかった」
伊織が言う。
「前も同じこと言ってたね、私」
「今度は何かしたのだろう?」
「水運んだ」
「なら何もしておらぬわけではあるまい」
「でも、それだけ」
「今のお主にできるのが、それだったのだろう」
伊織はルキアを見る。
「たぶん」
「なら、次にできることを増やせばよい」
「……うん」
ルキアはそれ以上言わなかった。
二人で歩く。
少しして。
「腹は減っておらぬのか?」
ルキアが聞いた。
伊織は自分の腹を見る。
鳴った。
「減ってた」
「そこはいつも通りだな」
「うん」
「食堂へ行くか?」
「行く」
二人は歩き出した。
伊織は。
一度だけ。
四番隊舎の方を振り返った。
向いているかどうかは。
まだ。
分からない。
でも。
もう少し。
知りたいと思った。