ほどいて、また   作:たかやまたろう

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BLEACHはかなりにわかな知識で書いています。
設定や時系列など、できる限り確認しながら進めていますが、解釈違いや間違いがあるかもしれません。

また、本文の構成や執筆にはAIを利用しています。

そのあたりも含めて、ゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。
よければお付き合いください。



第五話 できること

 四番隊へ通い始めて。

 

 しばらく経った。

 

「久世」

 

「はい」

 

「そこ押さえてろ」

 

「ここですか?」

 

「もう少し上」

 

「はい」

 

「強すぎる」

 

「すみません」

 

「もう少し弱く」

 

「これくらい?」

 

「そう。それでいい」

 

 伊織は両手で布を押さえる。

 

 今日の相手は患者ではない。

 

 四番隊員の腕。

 

 止血の練習だった。

 

「出血してる時は、傷だけ見んなよ」

 

「はい」

 

「量と、勢いと、場所を見る」

 

「場所?」

 

「腕と首じゃ話が違うだろ」

 

「ああ」

 

「あと顔色。意識。呼吸」

 

「いっぱいありますね」

 

「だから全部一気に覚えようとすんな」

 

「はい」

 

「まず見ろ。それから聞け」

 

「痛いですか?」

 

「俺は怪我してねえよ」

 

「練習で」

 

「元気です」

 

「意識あります?」

 

「あります」

 

「名前は?」

 

「知ってんだろ!」

 

「確認です」

 

「お前ちょっと楽しんでねえか?」

 

「真面目にやってます」

 

「本当かよ」

 

 伊織は少し笑った。

 

     ◇

 

 三回。

 

 巻き直した。

 

「これなら?」

 

「まあいい」

 

「まあ」

 

「初めてならな」

 

「じゃあ次はもっと上手くします」

 

「明日も来る気か?」

 

「駄目ですか?」

 

 隊士が伊織を見る。

 

「……授業は?」

 

「終わってから来ます」

 

「毎日は相手できねえぞ」

 

「空いてる時だけでいいです」

 

「お前な」

 

「はい」

 

「結構しつこいな」

 

「よく言われます?」

 

「今初めて言った」

 

「じゃあ一回目です」

 

「そういう意味じゃねえ」

 

 隊士はため息をついた。

 

「来るのは好きにしろ。ただし邪魔になる時は帰す」

 

「はい」

 

「勝手に患者に触るな」

 

「はい」

 

「分からないことを分かったふりするな」

 

「はい」

 

「それができるならな」

 

「分かりました」

 

     ◇

 

 それから。

 

 伊織は何度か四番隊へ顔を出した。

 

 毎日ではない。

 

 授業が長引く日もある。

 

 演習がある日もある。

 

 向こうが忙しくて、帰される日もあった。

 

 それでも。

 

 行ける日は行った。

 

「久世」

 

「はい」

 

「これ畳んどいてくれ」

 

「分かりました」

 

「そっちは触るなよ」

 

「はい」

 

「包帯足りねえ。棚の上から取って」

 

「これですか?」

 

「それ」

 

 教えてもらうだけではなく。

 

 少しずつ。

 

 簡単な手伝いもするようになった。

 

 包帯を畳む。

 

 道具を運ぶ。

 

 使ったものを片づける。

 

 患者へ水を渡す。

 

 最初は。

 

 そんなものだった。

 

     ◇

 

「最近、四番隊どう?」

 

 昼休み。

 

 桃が聞いた。

 

「まだ知らないこといっぱいある」

 

「大変?」

 

「別に。知らなかったこと分かるし」

 

「何教わってるんだ?」

 

 恋次が伊織の向かいから聞く。

 

「今日は包帯巻いた」

 

「また包帯かよ」

 

「今日は人に」

 

「今までは何に巻いてたんだよ」

 

「腕」

 

「人の腕だろ?」

 

「怪我してない腕」

 

「ああ、練習か」

 

「うん」

 

 吉良が箸を置く。

 

「実際の怪我人にも任せてもらえるようになったんですね」

 

「巻き直しだけだけどね」

 

「それでもすごいじゃない」

 

 桃が言う。

 

「一回生ですよ?」

 

 吉良も続ける。

 

「そうなのかな」

 

「少なくとも僕にはできません」

 

「私も」

 

「俺だってできるぞ」

 

 三人が恋次を見る。

 

「何だよ」

 

「できるの?」

 

 伊織が聞く。

 

「包帯くらい巻けんだろ」

 

「習った?」

 

「習ってねえけど」

 

「じゃあ無理じゃない?」

 

「何でだよ!」

 

「恋次、力いっぱい巻きそうだもん」

 

「またそれか!」

 

「まだ言ってるんですか」

 

 吉良が笑う。

 

「吉良、お前どっちの味方だ!」

 

「誰かの味方をする話なんですか?」

 

「そういうとこだぞ!」

 

「何がです?」

 

「恋次」

 

 声。

 

「あ?」

 

 恋次が振り返る。

 

 ルキアが盆を持って立っていた。

 

「また騒いでおるのか」

 

「またって何だ!」

 

「そのままの意味だ」

 

「座る?」

 

 桃が隣を詰める。

 

「すまぬ」

 

 ルキアが腰を下ろした。

 

「何の話だ?」

 

「恋次が包帯巻けるって」

 

 伊織が言う。

 

「巻けるわ!」

 

 ルキアは恋次を見た。

 

「やめておけ」

 

「早えよ!」

 

「怪我人が気の毒だ」

 

「お前まで!」

 

「ほら」

 

「ほらじゃねえ!」

 

 伊織は少し笑って。

 

 自分の飯へ戻った。

 

     ◇

 

「そういえば」

 

 ルキアが食事をしながら伊織を見る。

 

「四番隊へ通っておるのだったな」

 

「うん」

 

「まだ続いておるのか」

 

「続いてるよ」

 

「随分熱心だな」

 

「知らないこと多いから」

 

「それで通っておるのか」

 

「うん」

 

 桃が伊織を見る。

 

「行くの嫌じゃない?」

 

「うん。嫌じゃない。勉強になる」

 

「そっか。卒業するまで続きそうだね」

 

「たぶん」

 

 恋次が口を挟む。

 

「向いてんのか?」

 

「まだ分かんない」

 

「まだ分かんねえの?」

 

「まだそんなにやってないし」

 

「ああ、それもそうか」

 

 ルキアが伊織を見る。

 

「まあ、続けておればそのうち分かる時が来るかもしれぬな」

 

「うん」

 

 伊織はそのまま食事を続けた。

 

     ◇

 

 午後。

 

 斬術場。

 

「次!」

 

 木刀を握る。

 

 相手。

 

 恋次。

 

「また?」

 

「今度は逃げんなよ」

 

「逃げないと当たるよ」

 

「避けろって意味じゃねえ!」

 

「ああ」

 

「分かってんだろ!」

 

「うん」

 

「お前なあ」

 

「始め!」

 

 教官の声。

 

「はい!」

 

 二人。

 

 構える。

 

 先に動いたのは恋次だった。

 

 速い。

 

 正面。

 

 伊織は横へ外れる。

 

 木刀が通り過ぎる。

 

 恋次がすぐに返す。

 

「っ」

 

 受ける。

 

 重い。

 

 押される。

 

 伊織は力を逃がして下がった。

 

「逃がすな!」

 

 教官の声。

 

「はい!」

 

 恋次が追う。

 

 伊織は見る。

 

 肩。

 

 足。

 

 木刀。

 

 どこから来る。

 

 右。

 

 違う。

 

 左。

 

 避ける。

 

「ちっ」

 

「今の危なかった」

 

「当てるつもりだったからな!」

 

「それは知ってる」

 

「なら止まんな!」

 

 恋次がまた来る。

 

 今度は。

 

 伊織から。

 

 踏み込む。

 

「おっ」

 

 恋次が受ける。

 

 一度。

 

 二度。

 

 三度。

 

 押せない。

 

「重い」

 

「力負けしてんぞ!」

 

「知ってる!」

 

 伊織が一歩引く。

 

 恋次が追う。

 

 その瞬間。

 

 伊織は横へ回った。

 

「あ」

 

 恋次が振り返る。

 

 木刀。

 

 肩。

 

「一本。そこまで!」

 

 教官の声。

 

 伊織は木刀を下ろした。

 

「当たった」

 

「……ちっ」

 

「嬉しくない?」

 

「俺が当てられて喜ぶわけねえだろ!」

 

「そっか」

 

「次は勝つ」

 

「勝ち負け大事?」

 

「俺の中ではな!」

 

     ◇

 

「恋次、負けたのか?」

 

 授業が終わったあと。

 

 斬術場の入口にいたルキアが聞いた。

 

「負けてねえ!」

 

「伊織に一本取られたんだって」

 

 桃が言う。

 

「桃!」

 

「一本取られたなら負けではないのか?」

 

「組み手の練習だ!」

 

「言い訳か」

 

「違え!」

 

「ルキアは何でいるの?」

 

 伊織が聞いた。

 

「恋次を呼びに来た」

 

「俺?」

 

「そうだ」

 

「何だよ」

 

「忘れたのか?」

 

「何を」

 

「買い出し」

 

「…………」

 

「忘れておったな」

 

「今思い出した!」

 

「同じだ、たわけ」

 

「痛っ!」

 

 ルキアが恋次の脛を蹴る。

 

「蹴るな!」

 

「行くぞ」

 

「分かったよ!」

 

 恋次が木刀を片づける。

 

 伊織は二人を見る。

 

「仲いいね」

 

「久世さん、それ言うの好きですね」

 

 吉良が言った。

 

「だって仲いいじゃん」

 

「誰がだ!」

 

 離れたところから恋次の声が飛んできた。

 

「聞こえてる」

 

「なら言うな!」

 

 ルキアが恋次の袖を引っ張っていく。

 

     ◇

 

「久世さん」

 

「はい」

 

 放課後。

 

 いつものように四番隊へ行く。

 

「今日は少し手伝ってもらえますか?」

 

「はい」

 

「こちらです」

 

 案内された先。

 

 若い男が寝台へ座っている。

 

 足首。

 

 腫れている。

 

「歩けますか?」

 

「一応」

 

「痛いです?」

 

「ああ」

 

 伊織は四番隊員を見る。

 

「何をすれば?」

 

「まず見てください」

 

「はい」

 

「前に教えましたね」

 

「動かさない」

 

「そうです」

 

 伊織はしゃがむ。

 

「どこで怪我しました?」

 

「段差踏み外した」

 

「いつですか?」

 

「さっき」

 

「ここは痛い?」

 

「痛い」

 

「こっちは?」

 

「そこは平気」

 

 触る。

 

 強く押さない。

 

 腫れ。

 

 熱。

 

 変色。

 

「どうです?」

 

 四番隊員が聞く。

 

「……分かりません」

 

「それでいいです」

 

「いいんですか?」

 

「分からないものを、勝手に決めるよりは」

 

「ああ」

 

「今、何が分かりました?」

 

 伊織はもう一度足を見る。

 

「腫れてる」

 

「はい」

 

「ここは痛くて、こっちはあんまり痛くない」

 

「はい」

 

「歩けるけど痛い」

 

「そうですね」

 

「それくらい」

 

「十分です」

 

 四番隊員が患者の前へしゃがむ。

 

「では、ここからは私が見ます」

 

「はい」

 

 伊織は少し下がる。

 

 処置を見る。

 

 まだ。

 

 知らないことの方が圧倒的に多い。

 

 でも。

 

 前なら。

 

 痛そう。

 

 それしか分からなかった。

 

 今は。

 

 少しだけ。

 

 何を見るのかが分かる。

 

     ◇

 

 四番隊からの帰り。

 

「伊織ちゃん!」

 

 声。

 

 桃だった。

 

「待ってたの?」

 

「うん。吉良くんも」

 

 少し後ろ。

 

 吉良が手を上げる。

 

「恋次は?」

 

「ルキアちゃんと買い物」

 

「ああ」

 

「帰ろう?」

 

「うん」

 

 三人で歩く。

 

「今日どうだった?」

 

 桃が聞く。

 

「足怪我した人見た」

 

「治したの?」

 

「私は見ただけ」

 

「でも何かやったんでしょ?」

 

「痛いところ聞いた」

 

「へえ」

 

「触って確認した」

 

「すごいじゃん」

 

「まだ全然だよ」

 

「でも」

 

 吉良が言う。

 

「一月前の演習では、何をすればいいか分からないと言ってましたよね」

 

「うん」

 

「今日は、聞くことは分かった」

 

 伊織は少し考える。

 

「そうだね」

 

「なら、少し進んだんじゃないですか」

 

「少し?」

 

「少しです」

 

「吉良くん、そこは絶対少しなんだ」

 

「一気に何でもできるようになったわけじゃないでしょう?」

 

「それはそう」

 

 桃が笑う。

 

「じゃあ明日はもう少しだね」

 

「何が?」

 

「できること」

 

「……そうかも」

 

 三人で寮へ戻る。

 

 途中。

 

 前から。

 

「お前ら!」

 

 恋次の声。

 

 ルキアもいる。

 

 両手には荷物。

 

「遅かったね」

 

「誰のせいだと思ってんだ!」

 

「お主が買う物を忘れておったからだろう!」

 

「思い出したって言っただろ!」

 

「店に着いてからな!」

 

「それは忘れてたね」

 

 伊織が言う。

 

「伊織は黙ってろ!」

 

「なぜ伊織に当たる」

 

「お前も黙れ!」

 

「貴様!」

 

「ほら始まった」

 

 桃が笑う。

 

 吉良も苦笑した。

 

「手伝おうか?」

 

 伊織が聞く。

 

「頼む」

 

 ルキアが荷物を一つ渡す。

 

「俺のも」

 

 恋次が差し出す。

 

「恋次は自分で持って」

 

「何でだよ!」

 

「元気だから」

 

「ルキアも元気だろ!」

 

「私は伊織に頼んだだけだ」

 

「ずるくねえか!?」

 

「知らない」

 

 伊織はルキアから受け取った荷物を持つ。

 

「戻って正解じゃなかったかもしれませんね」

 

 吉良が小さく言った。

 

 恋次が振り返る。

 

「今言うな!」

 

 桃が笑う。

 

「ちょっと分かる」

 

「雛森まで!」

 

 伊織は荷物を持ち直した。

 

「でも、手伝う人増えたからよかったんじゃない?」

 

 吉良が頷く。

 

「それはそうですね」

 

「なら文句言うな!」

 

「恋次が一番文句言ってるよ」

 

「誰のせいだ!」

 

 騒がしい。

 

 でも。

 

 いつもの帰り道になっていた。

 

 伊織にできることは。

 

 まだ。

 

 少ない。

 

 でも。

 

 一月前よりは。

 

 少しだけ増えていた。

 

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