設定や時系列など、できる限り確認しながら進めていますが、解釈違いや間違いがあるかもしれません。
また、本文の構成や執筆にはAIを利用しています。
そのあたりも含めて、ゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。
よければお付き合いください。
四番隊へ通い始めて。
しばらく経った。
「久世」
「はい」
「そこ押さえてろ」
「ここですか?」
「もう少し上」
「はい」
「強すぎる」
「すみません」
「もう少し弱く」
「これくらい?」
「そう。それでいい」
伊織は両手で布を押さえる。
今日の相手は患者ではない。
四番隊員の腕。
止血の練習だった。
「出血してる時は、傷だけ見んなよ」
「はい」
「量と、勢いと、場所を見る」
「場所?」
「腕と首じゃ話が違うだろ」
「ああ」
「あと顔色。意識。呼吸」
「いっぱいありますね」
「だから全部一気に覚えようとすんな」
「はい」
「まず見ろ。それから聞け」
「痛いですか?」
「俺は怪我してねえよ」
「練習で」
「元気です」
「意識あります?」
「あります」
「名前は?」
「知ってんだろ!」
「確認です」
「お前ちょっと楽しんでねえか?」
「真面目にやってます」
「本当かよ」
伊織は少し笑った。
◇
三回。
巻き直した。
「これなら?」
「まあいい」
「まあ」
「初めてならな」
「じゃあ次はもっと上手くします」
「明日も来る気か?」
「駄目ですか?」
隊士が伊織を見る。
「……授業は?」
「終わってから来ます」
「毎日は相手できねえぞ」
「空いてる時だけでいいです」
「お前な」
「はい」
「結構しつこいな」
「よく言われます?」
「今初めて言った」
「じゃあ一回目です」
「そういう意味じゃねえ」
隊士はため息をついた。
「来るのは好きにしろ。ただし邪魔になる時は帰す」
「はい」
「勝手に患者に触るな」
「はい」
「分からないことを分かったふりするな」
「はい」
「それができるならな」
「分かりました」
◇
それから。
伊織は何度か四番隊へ顔を出した。
毎日ではない。
授業が長引く日もある。
演習がある日もある。
向こうが忙しくて、帰される日もあった。
それでも。
行ける日は行った。
「久世」
「はい」
「これ畳んどいてくれ」
「分かりました」
「そっちは触るなよ」
「はい」
「包帯足りねえ。棚の上から取って」
「これですか?」
「それ」
教えてもらうだけではなく。
少しずつ。
簡単な手伝いもするようになった。
包帯を畳む。
道具を運ぶ。
使ったものを片づける。
患者へ水を渡す。
最初は。
そんなものだった。
◇
「最近、四番隊どう?」
昼休み。
桃が聞いた。
「まだ知らないこといっぱいある」
「大変?」
「別に。知らなかったこと分かるし」
「何教わってるんだ?」
恋次が伊織の向かいから聞く。
「今日は包帯巻いた」
「また包帯かよ」
「今日は人に」
「今までは何に巻いてたんだよ」
「腕」
「人の腕だろ?」
「怪我してない腕」
「ああ、練習か」
「うん」
吉良が箸を置く。
「実際の怪我人にも任せてもらえるようになったんですね」
「巻き直しだけだけどね」
「それでもすごいじゃない」
桃が言う。
「一回生ですよ?」
吉良も続ける。
「そうなのかな」
「少なくとも僕にはできません」
「私も」
「俺だってできるぞ」
三人が恋次を見る。
「何だよ」
「できるの?」
伊織が聞く。
「包帯くらい巻けんだろ」
「習った?」
「習ってねえけど」
「じゃあ無理じゃない?」
「何でだよ!」
「恋次、力いっぱい巻きそうだもん」
「またそれか!」
「まだ言ってるんですか」
吉良が笑う。
「吉良、お前どっちの味方だ!」
「誰かの味方をする話なんですか?」
「そういうとこだぞ!」
「何がです?」
「恋次」
声。
「あ?」
恋次が振り返る。
ルキアが盆を持って立っていた。
「また騒いでおるのか」
「またって何だ!」
「そのままの意味だ」
「座る?」
桃が隣を詰める。
「すまぬ」
ルキアが腰を下ろした。
「何の話だ?」
「恋次が包帯巻けるって」
伊織が言う。
「巻けるわ!」
ルキアは恋次を見た。
「やめておけ」
「早えよ!」
「怪我人が気の毒だ」
「お前まで!」
「ほら」
「ほらじゃねえ!」
伊織は少し笑って。
自分の飯へ戻った。
◇
「そういえば」
ルキアが食事をしながら伊織を見る。
「四番隊へ通っておるのだったな」
「うん」
「まだ続いておるのか」
「続いてるよ」
「随分熱心だな」
「知らないこと多いから」
「それで通っておるのか」
「うん」
桃が伊織を見る。
「行くの嫌じゃない?」
「うん。嫌じゃない。勉強になる」
「そっか。卒業するまで続きそうだね」
「たぶん」
恋次が口を挟む。
「向いてんのか?」
「まだ分かんない」
「まだ分かんねえの?」
「まだそんなにやってないし」
「ああ、それもそうか」
ルキアが伊織を見る。
「まあ、続けておればそのうち分かる時が来るかもしれぬな」
「うん」
伊織はそのまま食事を続けた。
◇
午後。
斬術場。
「次!」
木刀を握る。
相手。
恋次。
「また?」
「今度は逃げんなよ」
「逃げないと当たるよ」
「避けろって意味じゃねえ!」
「ああ」
「分かってんだろ!」
「うん」
「お前なあ」
「始め!」
教官の声。
「はい!」
二人。
構える。
先に動いたのは恋次だった。
速い。
正面。
伊織は横へ外れる。
木刀が通り過ぎる。
恋次がすぐに返す。
「っ」
受ける。
重い。
押される。
伊織は力を逃がして下がった。
「逃がすな!」
教官の声。
「はい!」
恋次が追う。
伊織は見る。
肩。
足。
木刀。
どこから来る。
右。
違う。
左。
避ける。
「ちっ」
「今の危なかった」
「当てるつもりだったからな!」
「それは知ってる」
「なら止まんな!」
恋次がまた来る。
今度は。
伊織から。
踏み込む。
「おっ」
恋次が受ける。
一度。
二度。
三度。
押せない。
「重い」
「力負けしてんぞ!」
「知ってる!」
伊織が一歩引く。
恋次が追う。
その瞬間。
伊織は横へ回った。
「あ」
恋次が振り返る。
木刀。
肩。
「一本。そこまで!」
教官の声。
伊織は木刀を下ろした。
「当たった」
「……ちっ」
「嬉しくない?」
「俺が当てられて喜ぶわけねえだろ!」
「そっか」
「次は勝つ」
「勝ち負け大事?」
「俺の中ではな!」
◇
「恋次、負けたのか?」
授業が終わったあと。
斬術場の入口にいたルキアが聞いた。
「負けてねえ!」
「伊織に一本取られたんだって」
桃が言う。
「桃!」
「一本取られたなら負けではないのか?」
「組み手の練習だ!」
「言い訳か」
「違え!」
「ルキアは何でいるの?」
伊織が聞いた。
「恋次を呼びに来た」
「俺?」
「そうだ」
「何だよ」
「忘れたのか?」
「何を」
「買い出し」
「…………」
「忘れておったな」
「今思い出した!」
「同じだ、たわけ」
「痛っ!」
ルキアが恋次の脛を蹴る。
「蹴るな!」
「行くぞ」
「分かったよ!」
恋次が木刀を片づける。
伊織は二人を見る。
「仲いいね」
「久世さん、それ言うの好きですね」
吉良が言った。
「だって仲いいじゃん」
「誰がだ!」
離れたところから恋次の声が飛んできた。
「聞こえてる」
「なら言うな!」
ルキアが恋次の袖を引っ張っていく。
◇
「久世さん」
「はい」
放課後。
いつものように四番隊へ行く。
「今日は少し手伝ってもらえますか?」
「はい」
「こちらです」
案内された先。
若い男が寝台へ座っている。
足首。
腫れている。
「歩けますか?」
「一応」
「痛いです?」
「ああ」
伊織は四番隊員を見る。
「何をすれば?」
「まず見てください」
「はい」
「前に教えましたね」
「動かさない」
「そうです」
伊織はしゃがむ。
「どこで怪我しました?」
「段差踏み外した」
「いつですか?」
「さっき」
「ここは痛い?」
「痛い」
「こっちは?」
「そこは平気」
触る。
強く押さない。
腫れ。
熱。
変色。
「どうです?」
四番隊員が聞く。
「……分かりません」
「それでいいです」
「いいんですか?」
「分からないものを、勝手に決めるよりは」
「ああ」
「今、何が分かりました?」
伊織はもう一度足を見る。
「腫れてる」
「はい」
「ここは痛くて、こっちはあんまり痛くない」
「はい」
「歩けるけど痛い」
「そうですね」
「それくらい」
「十分です」
四番隊員が患者の前へしゃがむ。
「では、ここからは私が見ます」
「はい」
伊織は少し下がる。
処置を見る。
まだ。
知らないことの方が圧倒的に多い。
でも。
前なら。
痛そう。
それしか分からなかった。
今は。
少しだけ。
何を見るのかが分かる。
◇
四番隊からの帰り。
「伊織ちゃん!」
声。
桃だった。
「待ってたの?」
「うん。吉良くんも」
少し後ろ。
吉良が手を上げる。
「恋次は?」
「ルキアちゃんと買い物」
「ああ」
「帰ろう?」
「うん」
三人で歩く。
「今日どうだった?」
桃が聞く。
「足怪我した人見た」
「治したの?」
「私は見ただけ」
「でも何かやったんでしょ?」
「痛いところ聞いた」
「へえ」
「触って確認した」
「すごいじゃん」
「まだ全然だよ」
「でも」
吉良が言う。
「一月前の演習では、何をすればいいか分からないと言ってましたよね」
「うん」
「今日は、聞くことは分かった」
伊織は少し考える。
「そうだね」
「なら、少し進んだんじゃないですか」
「少し?」
「少しです」
「吉良くん、そこは絶対少しなんだ」
「一気に何でもできるようになったわけじゃないでしょう?」
「それはそう」
桃が笑う。
「じゃあ明日はもう少しだね」
「何が?」
「できること」
「……そうかも」
三人で寮へ戻る。
途中。
前から。
「お前ら!」
恋次の声。
ルキアもいる。
両手には荷物。
「遅かったね」
「誰のせいだと思ってんだ!」
「お主が買う物を忘れておったからだろう!」
「思い出したって言っただろ!」
「店に着いてからな!」
「それは忘れてたね」
伊織が言う。
「伊織は黙ってろ!」
「なぜ伊織に当たる」
「お前も黙れ!」
「貴様!」
「ほら始まった」
桃が笑う。
吉良も苦笑した。
「手伝おうか?」
伊織が聞く。
「頼む」
ルキアが荷物を一つ渡す。
「俺のも」
恋次が差し出す。
「恋次は自分で持って」
「何でだよ!」
「元気だから」
「ルキアも元気だろ!」
「私は伊織に頼んだだけだ」
「ずるくねえか!?」
「知らない」
伊織はルキアから受け取った荷物を持つ。
「戻って正解じゃなかったかもしれませんね」
吉良が小さく言った。
恋次が振り返る。
「今言うな!」
桃が笑う。
「ちょっと分かる」
「雛森まで!」
伊織は荷物を持ち直した。
「でも、手伝う人増えたからよかったんじゃない?」
吉良が頷く。
「それはそうですね」
「なら文句言うな!」
「恋次が一番文句言ってるよ」
「誰のせいだ!」
騒がしい。
でも。
いつもの帰り道になっていた。
伊織にできることは。
まだ。
少ない。
でも。
一月前よりは。
少しだけ増えていた。