設定や時系列など、できる限り確認しながら進めていますが、解釈違いや間違いがあるかもしれません。
また、本文の構成や執筆にはAIを利用しています。
そのあたりも含めて、ゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。
よければお付き合いください。
現世実習の日。
集合場所には、一組の学生たちが揃っていた。
いつもの授業とは少し違う空気。
楽しそうな者。
緊張している者。
何度も浅打の位置を確かめている者。
「恋次」
「あ?」
声に振り返る。
ルキアが立っていた。
「何でお前いんだよ」
「見送りに来てやったのだ。文句があるか」
「ねえよ」
ルキアは一組の学生たちを見る。
「現世実習か」
「うん」
伊織が答える。
「ルキアたちは?」
「今日は通常授業だ」
「そっか」
「……何だ、その反応は」
「別に」
「もう少し何かあるだろう」
「頑張って?」
「私が残る側なのだが」
「あ、そっか」
「お主な」
ルキアが呆れた顔をする。
桃が笑った。
「ルキアちゃんも一緒だったらよかったのにね」
「仕方あるまい。一組の実習なのだからな」
「羨ましいんだろ?」
恋次が笑う。
ルキアが睨む。
「恋次」
「何だよ」
「現世へ着いた途端に浮かれて走り回るなよ」
「誰がそんなことするか!」
「お主ならやりかねぬ」
「やらねえよ!」
「あと勝手に虚を探しに行くな」
「行かねえって!」
「本当か?」
「何で信用ねえんだよ!」
伊織が恋次を見る。
「私もちょっと心配」
「伊織!」
吉良が小さく笑う。
「僕も少しだけ」
「吉良まで!?」
「阿散井!」
教官の声。
「集合しろ!」
「はい!」
恋次が慌てて向き直る。
「ほら」
ルキアが言う。
「行ってこい」
「おう」
少し歩いて。
恋次が振り返った。
「帰ったら話してやるよ」
「頼んでおらぬ」
「聞けよ!」
「気が向いたらな」
「可愛くねえ!」
「貴様!」
「行ってきます!」
恋次が逃げた。
伊織はルキアを見る。
「行ってくるね」
「うむ」
「桃、吉良」
「いってらっしゃい。気をつけてな」
「うん」
◇
六回生の三人が、一組の前に立っていた。
一人は。
既に霊術院ではかなり有名な学生だった。
「檜佐木修兵だ」
黒髪。
落ち着いた声。
「今回、お前たち一組の現世実習を俺たち六回生が補助する」
その隣。
女性が前へ出る。
「蟹沢です。今日は三人一組で行動してもらいます」
さらにもう一人。
「青鹿だ。現世だからって浮かれんなよ。何かあったらすぐ俺らを呼べ」
伊織は何となく恋次を見た。
「何で俺を見るんだよ」
「今朝ルキアにも似たようなこと言われてたから」
「関係ねえだろ!」
青鹿が恋次を見る。
「まあ、浮かれんなよ」
「俺だけですか!?」
「そこ、静かに!」
蟹沢の声が飛ぶ。
「はい!」
恋次が黙る。
青鹿は少し笑ってから、前へ向き直った。
「元気なのはいいけどな」
檜佐木が説明を続ける。
「今日の目的は魂葬の実地経験だ」
一組の空気が少し引き締まる。
「現世に残っている魂魄を見つけ、話を聞いて、尸魂界へ送る。授業でやったことを実際にやるだけだ」
だけ。
と言われても。
現世へ出るのは初めてだった。
「周辺は六回生が警戒している。ただし、ここは現世だ。何が起きてもおかしくない」
檜佐木が一組全体を見る。
「異常を感じたら、確信がなくても報告しろ」
「はい!」
「それから」
青鹿が言う。
「実習だからって無理に全部自分たちでやろうとするな。困ったら呼べ」
蟹沢が紙を取り出す。
「では、事前に渡した印を確認してください。同じ印の三人で組を作って」
一斉に学生たちが動く。
「俺これ」
恋次が紙を見せる。
「僕も同じです」
吉良。
「私も!」
桃。
「三人一緒だね」
伊織が言う。
「伊織ちゃんは?」
「違う」
「別かあ」
「同じ区域にはいるでしょ」
「それもそうだね」
伊織は自分と同じ印を持つ二人を探す。
知らない学生。
一人は男子。
一人は女子。
「久世さん?」
「うん」
「よろしく」
「よろしく」
檜佐木が全員を確認する。
「組めたな」
穿界門。
現世へ。
初めての実習が始まった。
◇
現世は。
思っていたより普通だった。
建物。
道。
灯り。
歩いている人間。
ただ。
その人たちには、自分たちが見えていない。
「変な感じ」
伊織が呟いた。
「何が?」
同じ班の学生が聞く。
「こんな近くにいるのに見えてない」
「ああ」
人の流れを避ける必要もない。
すり抜ける。
それも。
少し変だった。
「久世さん、あそこ」
班の一人が指す。
路地。
小さな人影。
子どもの魂魄。
三人で近づく。
「こんにちは」
声をかけると。
子どもが顔を上げた。
「……誰?」
「死神」
「死神?」
「うん」
伊織は少し困る。
こういう時。
授業では何と言っていたか。
「尸魂界って知ってる?」
「知らない」
「そうだよね」
隣の学生が小声で言う。
「久世さん」
「なに?」
「もう少し安心させる感じで……」
「ああ」
伊織は子どもを見る。
「怖いところじゃないよ」
「ほんと?」
「たぶん」
「久世さん!」
「嘘つくよりいいでしょ」
「そうですけど!」
もう一人が苦笑する。
「大丈夫。私たちも尸魂界から来たんだよ」
その言葉には。
子どもも少し安心したらしい。
「痛い?」
胸元から伸びた鎖を見る。
「ううん」
「そっか」
浅打を抜く。
柄頭。
「じゃあ、送るね」
額へ触れる。
魂葬。
光。
子どもの姿が消えていく。
伊織は。
しばらくその場所を見た。
「……これでいいの?」
「成功ですよ」
「そっか」
記録をつける。
一人目。
◇
実習は。
思っていたより静かに進んだ。
魂魄を探す。
話をする。
魂葬する。
次。
また次。
離れたところでは。
恋次たちの班も動いている。
「だからお前は話しかけ方が怖えんだよ!」
「じゃあ恋次やってみてよ!」
「俺は普通だ!」
「普通ではありません!」
遠くから聞こえる。
「元気だね」
同じ班の学生が言った。
「いつもあんな感じ」
「仲いいんだ」
「うん」
その時。
少し離れた場所で桃が立ち止まった。
空を見る。
「……?」
「桃?」
距離がある。
声は届かない。
桃は少し周囲を見て。
そのまま恋次と吉良についていった。
「どうしたんだろ」
「久世さん?」
「なんでもない」
伊織も自分の班へ戻った。
◇
日が傾き始める。
「集合!」
檜佐木の声が響いた。
各班が指定された場所へ戻っていく。
伊織の班も合流した。
恋次。
桃。
吉良。
いる。
「どうだった?」
桃が聞く。
「二人送った」
「私たちも」
「恋次ちゃんとできた?」
「何で俺だけ確認すんだよ!」
「できた?」
「できたわ!」
「ならよかった」
「その言い方腹立つな!」
吉良が記録を見る。
「これで全班ですか?」
「まだ確認中」
蟹沢が答える。
青鹿も周囲を見る。
「問題なさそうだな」
「そうですね」
蟹沢が少し息を吐いた。
「初回にしては順調だったんじゃない?」
「そうだな」
檜佐木が記録を確認する。
「これで最後か」
その時。
檜佐木が首元の通信器へ手を伸ばした。
「こちら檜佐木。結界班、状況を報告してくれ」
返事がない。
「……?」
もう一度。
「結界班。聞こえるか?」
無音。
檜佐木の顔が変わった。
「どうした?」
青鹿が聞く。
「返事がない」
「通信の不調?」
蟹沢。
「分からない」
その瞬間。
「檜佐木!」
蟹沢の声。
振り返る。
伊織には。
最初。
何が起こったのか分からなかった。
大きな影。
蟹沢の身体。
その間を。
太い何かが貫いている。
「……え」
誰かの声。
巨大な虚。
さっきまで。
そこには何もいなかった。
蟹沢の身体が持ち上がる。
血。
「蟹沢!」
青鹿が叫ぶ。
虚が腕を振る。
蟹沢の身体が投げ捨てられた。
「待て、青鹿!」
檜佐木の声。
でも。
青鹿は既に走っていた。
「てめえ!」
浅打。
抜く。
飛び込む。
巨大な爪。
「青鹿先輩!」
伊織が叫ぶ。
間に合わない。
爪が青鹿を捉える。
身体が吹き飛んだ。
地面へ落ちる。
動かない。
「全員逃げろ!」
檜佐木の声が響く。
一回生たちが固まっている。
「聞こえなかったのか!」
檜佐木が浅打を抜く。
「逃げろ! できるだけ遠くへ!」
その声で。
ようやく。
全員が動き始めた。
◇
「走れ!」
恋次の声。
伊織も走る。
桃。
吉良。
他の一回生たち。
後ろ。
音。
振り返らない。
「伊織ちゃん!」
「いる!」
「吉良くん!」
「ここです!」
「恋次!」
「いる!」
走る。
走る。
でも。
桃の足が止まった。
「桃!」
恋次も止まる。
「何してんだ!」
「檜佐木先輩一人だよ!」
「分かってる!」
「なら!」
「俺ら一年だぞ!」
吉良が息を切らす。
「雛森さん、今は逃げないと……!」
「でも!」
伊織は。
後ろを見る。
遠い。
でも。
見える。
地面。
青鹿。
僅かに。
腕が動いた。
「……青鹿先輩」
「何?」
桃が見る。
「まだ動いてる」
三人が黙る。
「伊織」
恋次が言う。
「まさか戻るとか言うなよ」
伊織は少し考える。
檜佐木は。
逃げろと言った。
正しいと思う。
自分たちは一回生だ。
戻って。
何ができるのかも分からない。
でも。
「青鹿先輩のところまで行く」
「お前な!」
「戦うとは言ってない」
「同じだろ!」
「違う」
伊織は青鹿が倒れている方を見る。
「あのままにはできない」
「久世さん」
吉良が苦い顔をする。
「危険です」
「うん」
「……分かってて言ってるんですよね」
「うん」
桃が向きを変えた。
「私も戻る」
「雛森さんまで!?」
「檜佐木先輩を一人にはできない」
「桃」
恋次が顔をしかめる。
「分かってるよ!」
桃の声も少し震えていた。
「怖いよ。でも……」
恋次が頭を掻く。
「くそ!」
振り返る。
「吉良!」
「……はい」
「行くぞ!」
「結局行くんですか!」
「お前はどうすんだよ!」
吉良は。
数秒だけ黙って。
「行きますよ!」
「なら決まりだ!」
伊織が言う。
「私は青鹿先輩見る」
「分かった!」
桃。
「俺らは檜佐木先輩の方だ!」
恋次。
「無茶はしないでくださいよ!」
吉良。
「吉良くんもね」
「久世さんもです!」
「うん」
四人。
来た道を戻った。
◇
轟音。
檜佐木が壁へ叩きつけられる。
「ぐっ……!」
右目。
血。
視界を塞いでいる。
巨大な虚が迫る。
「檜佐木先輩!」
桃。
「お前ら!?」
檜佐木が振り返る。
「何で戻ってきた!」
「あとで怒ってください!」
恋次が前へ出る。
「今はこいつ!」
「馬鹿野郎!」
巨大な腕。
「右!」
吉良の声。
恋次が飛ぶ。
桃が構える。
「破道の三十一、赤火砲!」
爆発。
虚の動きが止まる。
「効いてねえ!」
「分かってる!」
伊織は。
戦闘へ向かわなかった。
青鹿。
地面に倒れている。
「青鹿先輩」
返事がない。
しゃがむ。
首。
胸。
呼吸。
分からない。
でも。
四番隊で教わったこと。
「青鹿先輩、聞こえますか」
「……」
「青鹿先輩」
微かに。
息。
「ある」
傷。
大きい。
血。
多い。
「動かさない」
自分に言う。
傷口。
布。
押さえる。
「っ……」
青鹿の身体が僅かに動いた。
「青鹿先輩?」
「……く、ぜ……?」
「はい」
「……逃げろ……」
「今は喋らなくていいです」
「一年……が……」
「分かってます」
「分かって……ねえだろ……」
「それも分かってます」
「……何だ、そりゃ」
声。
出る。
伊織は布を押さえ続ける。
「青鹿先輩」
「……」
「眠らないでください」
「無茶……言うな……」
「じゃあ喋っててください」
「どっち……だよ……」
まだ。
返事はある。
◇
「阿散井! 下がれ!」
「はい!」
恋次が虚の爪を避ける。
吉良。
桃。
檜佐木。
三人で。
いや。
檜佐木を含めて四人で。
巨大な虚を止めている。
でも。
一体ではなかった。
「……嘘だろ」
恋次の声。
別の影。
さらに。
もう一つ。
空気が歪む。
何もいなかった場所から。
巨大な虚が姿を現す。
「こいつら……霊圧を隠してやがる」
檜佐木が血の流れる右目を押さえる。
通信器を掴む。
「増援要請は出した!」
「いつ来るんです!?」
吉良。
「分からねえ!」
「それまで?」
桃。
「持たせるしかねえ!」
虚が吠える。
恋次の足が。
一瞬だけ止まった。
「……怖え」
小さな声。
伊織には聞こえなかった。
でも。
恋次は。
次の瞬間には浅打を握り直していた。
「来るぞ!」
◇
「伊織ちゃん!」
桃の声。
見る。
虚。
こちらへ。
「まずい!」
吉良。
青鹿を置いて。
逃げる。
それは。
できない。
伊織は浅打へ手を伸ばす。
「久世!」
檜佐木の声。
「青鹿から離れるな!」
「はい!」
檜佐木が前へ。
虚の攻撃。
受ける。
「ぐっ!」
「先輩!」
「いいからそいつ見てろ!」
伊織は手を戻した。
傷を押さえる。
今。
自分がやること。
戦うことではない。
「青鹿先輩」
「……聞こえてる……」
「よかった」
「……何がだよ」
「返事あるから」
「基準……低いな……」
「四番隊の人にも言われました」
「なんだ……それ」
「青鹿先輩」
「……だから……聞こえてる」
また。
大きな音。
伊織は顔を上げる。
檜佐木。
恋次。
桃。
吉良。
押されている。
自分には。
どうにもできない。
その時。
光。
一瞬だった。
伊織の目の前にいた巨大な虚。
その身体が。
斬り裂かれた。
「……え」
長く伸びた刃。
それが。
元の長さへ戻っていく。
「いやぁ」
声。
銀色の髪。
細い目。
「学生相手に、えらい大人気ないなぁ」
その隣。
眼鏡をかけた男。
「無事かい、檜佐木君」
「……藍染隊長」
檜佐木の声。
桃が息を呑んだ。
「市丸副隊長……」
「もう大丈夫だ」
藍染が前へ出る。
巨大な虚が腕を振り下ろす。
受け止める。
素手で。
伊織は。
見ているしかなかった。
次の瞬間。
霊圧。
虚の身体が崩れる。
「……すご」
誰かが言った。
伊織も。
同じことを思った。
でも。
すぐ青鹿へ視線を戻す。
「青鹿先輩」
「……うるせぇ」
「はい」
「お前が……返事して……どうすんだ……」
「確認です」
「……意味わかんねぇ」
遠く。
戦闘の音が。
少しずつ。
止んでいった。
◇
増援が来た。
四番隊も来た。
「こちらです!」
伊織が手を上げる。
隊士が走ってくる。
「青鹿先輩です。ずっとここ押さえてました」
「分かりました。代わります」
「はい」
「久世さん?」
「はい」
見覚えのある四番隊員だった。
「あなたも怪我してます」
「え?」
言われて。
肩を見る。
服。
裂けている。
血。
「いつ?」
「こちらが聞きたいです」
「分かんない」
「座ってください」
「でも青鹿先輩」
「私たちがいます」
伊織は。
少しだけ迷って。
「……はい」
座った。
恋次も。
桃も。
吉良も。
あちこち怪我をしている。
檜佐木は。
右目の周りを押さえられていた。
そして。
少し離れたところ。
大きい白い布。
その下。
蟹沢。
伊織は見た。
でも。
何も言わなかった。
◇
「戻って正解だったかな」
誰が言ったのか。
帰還を待つ間。
恋次が顔を上げる。
「今言うな」
「ごめん」
「……俺も考えてたから」
吉良が少し俯く。
「檜佐木先輩には、逃げろと言われましたからね」
「うん」
伊織が言う。
「戻らない方がよかったかもしれない」
「久世さんまで」
「でも」
三人が見る。
伊織は少し考える。
「戻らなかった方がよかったかもって思うのと」
「うん」
「戻ったことを後悔してるのは、別だと思う」
恋次が少し眉を寄せる。
「……分かるような、分かんねえような」
「私も」
「お前が分かってねえのかよ!」
「今考えてるから」
「そういうとこだぞ」
桃が少しだけ笑った。
吉良も。
ほんの少し。
それから。
四人とも黙った。
現世実習は。
終わった。
魂葬はできた。
習ったことも使えた。
でも。
それだけでは終わらなかった。
何が正しかったのか。
まだ。
分からなかった。