ほどいて、また   作:たかやまたろう

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BLEACHはかなりにわかな知識で書いています。
設定や時系列など、できる限り確認しながら進めていますが、解釈違いや間違いがあるかもしれません。

また、本文の構成や執筆にはAIを利用しています。

そのあたりも含めて、ゆるく楽しんでもらえたら嬉しいです。
よければお付き合いください。



第六話 現世実習

 現世実習の日。

 

 集合場所には、一組の学生たちが揃っていた。

 

 いつもの授業とは少し違う空気。

 

 楽しそうな者。

 

 緊張している者。

 

 何度も浅打の位置を確かめている者。

 

「恋次」

 

「あ?」

 

 声に振り返る。

 

 ルキアが立っていた。

 

「何でお前いんだよ」

 

「見送りに来てやったのだ。文句があるか」

 

「ねえよ」

 

 ルキアは一組の学生たちを見る。

 

「現世実習か」

 

「うん」

 

 伊織が答える。

 

「ルキアたちは?」

 

「今日は通常授業だ」

 

「そっか」

 

「……何だ、その反応は」

 

「別に」

 

「もう少し何かあるだろう」

 

「頑張って?」

 

「私が残る側なのだが」

 

「あ、そっか」

 

「お主な」

 

 ルキアが呆れた顔をする。

 

 桃が笑った。

 

「ルキアちゃんも一緒だったらよかったのにね」

 

「仕方あるまい。一組の実習なのだからな」

 

「羨ましいんだろ?」

 

 恋次が笑う。

 

 ルキアが睨む。

 

「恋次」

 

「何だよ」

 

「現世へ着いた途端に浮かれて走り回るなよ」

 

「誰がそんなことするか!」

 

「お主ならやりかねぬ」

 

「やらねえよ!」

 

「あと勝手に虚を探しに行くな」

 

「行かねえって!」

 

「本当か?」

 

「何で信用ねえんだよ!」

 

 伊織が恋次を見る。

 

「私もちょっと心配」

 

「伊織!」

 

 吉良が小さく笑う。

 

「僕も少しだけ」

 

「吉良まで!?」

 

「阿散井!」

 

 教官の声。

 

「集合しろ!」

 

「はい!」

 

 恋次が慌てて向き直る。

 

「ほら」

 

 ルキアが言う。

 

「行ってこい」

 

「おう」

 

 少し歩いて。

 

 恋次が振り返った。

 

「帰ったら話してやるよ」

 

「頼んでおらぬ」

 

「聞けよ!」

 

「気が向いたらな」

 

「可愛くねえ!」

 

「貴様!」

 

「行ってきます!」

 

 恋次が逃げた。

 

 伊織はルキアを見る。

 

「行ってくるね」

 

「うむ」

 

「桃、吉良」

 

「いってらっしゃい。気をつけてな」

 

「うん」

 

     ◇

 

 六回生の三人が、一組の前に立っていた。

 

 一人は。

 

 既に霊術院ではかなり有名な学生だった。

 

「檜佐木修兵だ」

 

 黒髪。

 

 落ち着いた声。

 

「今回、お前たち一組の現世実習を俺たち六回生が補助する」

 

 その隣。

 

 女性が前へ出る。

 

「蟹沢です。今日は三人一組で行動してもらいます」

 

 さらにもう一人。

 

「青鹿だ。現世だからって浮かれんなよ。何かあったらすぐ俺らを呼べ」

 

 伊織は何となく恋次を見た。

 

「何で俺を見るんだよ」

 

「今朝ルキアにも似たようなこと言われてたから」

 

「関係ねえだろ!」

 

 青鹿が恋次を見る。

 

「まあ、浮かれんなよ」

 

「俺だけですか!?」

 

「そこ、静かに!」

 

 蟹沢の声が飛ぶ。

 

「はい!」

 

 恋次が黙る。

 

 青鹿は少し笑ってから、前へ向き直った。

 

「元気なのはいいけどな」

 

 檜佐木が説明を続ける。

 

「今日の目的は魂葬の実地経験だ」

 

 一組の空気が少し引き締まる。

 

「現世に残っている魂魄を見つけ、話を聞いて、尸魂界へ送る。授業でやったことを実際にやるだけだ」

 

 だけ。

 

 と言われても。

 

 現世へ出るのは初めてだった。

 

「周辺は六回生が警戒している。ただし、ここは現世だ。何が起きてもおかしくない」

 

 檜佐木が一組全体を見る。

 

「異常を感じたら、確信がなくても報告しろ」

 

「はい!」

 

「それから」

 

 青鹿が言う。

 

「実習だからって無理に全部自分たちでやろうとするな。困ったら呼べ」

 

 蟹沢が紙を取り出す。

 

「では、事前に渡した印を確認してください。同じ印の三人で組を作って」

 

 一斉に学生たちが動く。

 

「俺これ」

 

 恋次が紙を見せる。

 

「僕も同じです」

 

 吉良。

 

「私も!」

 

 桃。

 

「三人一緒だね」

 

 伊織が言う。

 

「伊織ちゃんは?」

 

「違う」

 

「別かあ」

 

「同じ区域にはいるでしょ」

 

「それもそうだね」

 

 伊織は自分と同じ印を持つ二人を探す。

 

 知らない学生。

 

 一人は男子。

 

 一人は女子。

 

「久世さん?」

 

「うん」

 

「よろしく」

 

「よろしく」

 

 檜佐木が全員を確認する。

 

「組めたな」

 

 穿界門。

 

 現世へ。

 

 初めての実習が始まった。

 

     ◇

 

 現世は。

 

 思っていたより普通だった。

 

 建物。

 

 道。

 

 灯り。

 

 歩いている人間。

 

 ただ。

 

 その人たちには、自分たちが見えていない。

 

「変な感じ」

 

 伊織が呟いた。

 

「何が?」

 

 同じ班の学生が聞く。

 

「こんな近くにいるのに見えてない」

 

「ああ」

 

 人の流れを避ける必要もない。

 

 すり抜ける。

 

 それも。

 

 少し変だった。

 

「久世さん、あそこ」

 

 班の一人が指す。

 

 路地。

 

 小さな人影。

 

 子どもの魂魄。

 

 三人で近づく。

 

「こんにちは」

 

 声をかけると。

 

 子どもが顔を上げた。

 

「……誰?」

 

「死神」

 

「死神?」

 

「うん」

 

 伊織は少し困る。

 

 こういう時。

 

 授業では何と言っていたか。

 

「尸魂界って知ってる?」

 

「知らない」

 

「そうだよね」

 

 隣の学生が小声で言う。

 

「久世さん」

 

「なに?」

 

「もう少し安心させる感じで……」

 

「ああ」

 

 伊織は子どもを見る。

 

「怖いところじゃないよ」

 

「ほんと?」

 

「たぶん」

 

「久世さん!」

 

「嘘つくよりいいでしょ」

 

「そうですけど!」

 

 もう一人が苦笑する。

 

「大丈夫。私たちも尸魂界から来たんだよ」

 

 その言葉には。

 

 子どもも少し安心したらしい。

 

「痛い?」

 

 胸元から伸びた鎖を見る。

 

「ううん」

 

「そっか」

 

 浅打を抜く。

 

 柄頭。

 

「じゃあ、送るね」

 

 額へ触れる。

 

 魂葬。

 

 光。

 

 子どもの姿が消えていく。

 

 伊織は。

 

 しばらくその場所を見た。

 

「……これでいいの?」

 

「成功ですよ」

 

「そっか」

 

 記録をつける。

 

 一人目。

 

     ◇

 

 実習は。

 

 思っていたより静かに進んだ。

 

 魂魄を探す。

 

 話をする。

 

 魂葬する。

 

 次。

 

 また次。

 

 離れたところでは。

 

 恋次たちの班も動いている。

 

「だからお前は話しかけ方が怖えんだよ!」

 

「じゃあ恋次やってみてよ!」

 

「俺は普通だ!」

 

「普通ではありません!」

 

 遠くから聞こえる。

 

「元気だね」

 

 同じ班の学生が言った。

 

「いつもあんな感じ」

 

「仲いいんだ」

 

「うん」

 

 その時。

 

 少し離れた場所で桃が立ち止まった。

 

 空を見る。

 

「……?」

 

「桃?」

 

 距離がある。

 

 声は届かない。

 

 桃は少し周囲を見て。

 

 そのまま恋次と吉良についていった。

 

「どうしたんだろ」

 

「久世さん?」

 

「なんでもない」

 

 伊織も自分の班へ戻った。

 

     ◇

 

 日が傾き始める。

 

「集合!」

 

 檜佐木の声が響いた。

 

 各班が指定された場所へ戻っていく。

 

 伊織の班も合流した。

 

 恋次。

 

 桃。

 

 吉良。

 

 いる。

 

「どうだった?」

 

 桃が聞く。

 

「二人送った」

 

「私たちも」

 

「恋次ちゃんとできた?」

 

「何で俺だけ確認すんだよ!」

 

「できた?」

 

「できたわ!」

 

「ならよかった」

 

「その言い方腹立つな!」

 

 吉良が記録を見る。

 

「これで全班ですか?」

 

「まだ確認中」

 

 蟹沢が答える。

 

 青鹿も周囲を見る。

 

「問題なさそうだな」

 

「そうですね」

 

 蟹沢が少し息を吐いた。

 

「初回にしては順調だったんじゃない?」

 

「そうだな」

 

 檜佐木が記録を確認する。

 

「これで最後か」

 

 その時。

 

 檜佐木が首元の通信器へ手を伸ばした。

 

「こちら檜佐木。結界班、状況を報告してくれ」

 

 返事がない。

 

「……?」

 

 もう一度。

 

「結界班。聞こえるか?」

 

 無音。

 

 檜佐木の顔が変わった。

 

「どうした?」

 

 青鹿が聞く。

 

「返事がない」

 

「通信の不調?」

 

 蟹沢。

 

「分からない」

 

 その瞬間。

 

「檜佐木!」

 

 蟹沢の声。

 

 振り返る。

 

 伊織には。

 

 最初。

 

 何が起こったのか分からなかった。

 

 大きな影。

 

 蟹沢の身体。

 

 その間を。

 

 太い何かが貫いている。

 

「……え」

 

 誰かの声。

 

 巨大な虚。

 

 さっきまで。

 

 そこには何もいなかった。

 

 蟹沢の身体が持ち上がる。

 

 血。

 

「蟹沢!」

 

 青鹿が叫ぶ。

 

 虚が腕を振る。

 

 蟹沢の身体が投げ捨てられた。

 

「待て、青鹿!」

 

 檜佐木の声。

 

 でも。

 

 青鹿は既に走っていた。

 

「てめえ!」

 

 浅打。

 

 抜く。

 

 飛び込む。

 

 巨大な爪。

 

「青鹿先輩!」

 

 伊織が叫ぶ。

 

 間に合わない。

 

 爪が青鹿を捉える。

 

 身体が吹き飛んだ。

 

 地面へ落ちる。

 

 動かない。

 

「全員逃げろ!」

 

 檜佐木の声が響く。

 

 一回生たちが固まっている。

 

「聞こえなかったのか!」

 

 檜佐木が浅打を抜く。

 

「逃げろ! できるだけ遠くへ!」

 

 その声で。

 

 ようやく。

 

 全員が動き始めた。

 

     ◇

 

「走れ!」

 

 恋次の声。

 

 伊織も走る。

 

 桃。

 

 吉良。

 

 他の一回生たち。

 

 後ろ。

 

 音。

 

 振り返らない。

 

「伊織ちゃん!」

 

「いる!」

 

「吉良くん!」

 

「ここです!」

 

「恋次!」

 

「いる!」

 

 走る。

 

 走る。

 

 でも。

 

 桃の足が止まった。

 

「桃!」

 

 恋次も止まる。

 

「何してんだ!」

 

「檜佐木先輩一人だよ!」

 

「分かってる!」

 

「なら!」

 

「俺ら一年だぞ!」

 

 吉良が息を切らす。

 

「雛森さん、今は逃げないと……!」

 

「でも!」

 

 伊織は。

 

 後ろを見る。

 

 遠い。

 

 でも。

 

 見える。

 

 地面。

 

 青鹿。

 

 僅かに。

 

 腕が動いた。

 

「……青鹿先輩」

 

「何?」

 

 桃が見る。

 

「まだ動いてる」

 

 三人が黙る。

 

「伊織」

 

 恋次が言う。

 

「まさか戻るとか言うなよ」

 

 伊織は少し考える。

 

 檜佐木は。

 

 逃げろと言った。

 

 正しいと思う。

 

 自分たちは一回生だ。

 

 戻って。

 

 何ができるのかも分からない。

 

 でも。

 

「青鹿先輩のところまで行く」

 

「お前な!」

 

「戦うとは言ってない」

 

「同じだろ!」

 

「違う」

 

 伊織は青鹿が倒れている方を見る。

 

「あのままにはできない」

 

「久世さん」

 

 吉良が苦い顔をする。

 

「危険です」

 

「うん」

 

「……分かってて言ってるんですよね」

 

「うん」

 

 桃が向きを変えた。

 

「私も戻る」

 

「雛森さんまで!?」

 

「檜佐木先輩を一人にはできない」

 

「桃」

 

 恋次が顔をしかめる。

 

「分かってるよ!」

 

 桃の声も少し震えていた。

 

「怖いよ。でも……」

 

 恋次が頭を掻く。

 

「くそ!」

 

 振り返る。

 

「吉良!」

 

「……はい」

 

「行くぞ!」

 

「結局行くんですか!」

 

「お前はどうすんだよ!」

 

 吉良は。

 

 数秒だけ黙って。

 

「行きますよ!」

 

「なら決まりだ!」

 

 伊織が言う。

 

「私は青鹿先輩見る」

 

「分かった!」

 

 桃。

 

「俺らは檜佐木先輩の方だ!」

 

 恋次。

 

「無茶はしないでくださいよ!」

 

 吉良。

 

「吉良くんもね」

 

「久世さんもです!」

 

「うん」

 

 四人。

 

 来た道を戻った。

 

     ◇

 

 轟音。

 

 檜佐木が壁へ叩きつけられる。

 

「ぐっ……!」

 

 右目。

 

 血。

 

 視界を塞いでいる。

 

 巨大な虚が迫る。

 

「檜佐木先輩!」

 

 桃。

 

「お前ら!?」

 

 檜佐木が振り返る。

 

「何で戻ってきた!」

 

「あとで怒ってください!」

 

 恋次が前へ出る。

 

「今はこいつ!」

 

「馬鹿野郎!」

 

 巨大な腕。

 

「右!」

 

 吉良の声。

 

 恋次が飛ぶ。

 

 桃が構える。

 

「破道の三十一、赤火砲!」

 

 爆発。

 

 虚の動きが止まる。

 

「効いてねえ!」

 

「分かってる!」

 

 伊織は。

 

 戦闘へ向かわなかった。

 

 青鹿。

 

 地面に倒れている。

 

「青鹿先輩」

 

 返事がない。

 

 しゃがむ。

 

 首。

 

 胸。

 

 呼吸。

 

 分からない。

 

 でも。

 

 四番隊で教わったこと。

 

「青鹿先輩、聞こえますか」

 

「……」

 

「青鹿先輩」

 

 微かに。

 

 息。

 

「ある」

 

 傷。

 

 大きい。

 

 血。

 

 多い。

 

「動かさない」

 

 自分に言う。

 

 傷口。

 

 布。

 

 押さえる。

 

「っ……」

 

 青鹿の身体が僅かに動いた。

 

「青鹿先輩?」

 

「……く、ぜ……?」

 

「はい」

 

「……逃げろ……」

 

「今は喋らなくていいです」

 

「一年……が……」

 

「分かってます」

 

「分かって……ねえだろ……」

 

「それも分かってます」

 

「……何だ、そりゃ」

 

 声。

 

 出る。

 

 伊織は布を押さえ続ける。

 

「青鹿先輩」

 

「……」

 

「眠らないでください」

 

「無茶……言うな……」

 

「じゃあ喋っててください」

 

「どっち……だよ……」

 

 まだ。

 

 返事はある。

 

     ◇

 

「阿散井! 下がれ!」

 

「はい!」

 

 恋次が虚の爪を避ける。

 

 吉良。

 

 桃。

 

 檜佐木。

 

 三人で。

 

 いや。

 

 檜佐木を含めて四人で。

 

 巨大な虚を止めている。

 

 でも。

 

 一体ではなかった。

 

「……嘘だろ」

 

 恋次の声。

 

 別の影。

 

 さらに。

 

 もう一つ。

 

 空気が歪む。

 

 何もいなかった場所から。

 

 巨大な虚が姿を現す。

 

「こいつら……霊圧を隠してやがる」

 

 檜佐木が血の流れる右目を押さえる。

 

 通信器を掴む。

 

「増援要請は出した!」

 

「いつ来るんです!?」

 

 吉良。

 

「分からねえ!」

 

「それまで?」

 

 桃。

 

「持たせるしかねえ!」

 

 虚が吠える。

 

 恋次の足が。

 

 一瞬だけ止まった。

 

「……怖え」

 

 小さな声。

 

 伊織には聞こえなかった。

 

 でも。

 

 恋次は。

 

 次の瞬間には浅打を握り直していた。

 

「来るぞ!」

 

     ◇

 

「伊織ちゃん!」

 

 桃の声。

 

 見る。

 

 虚。

 

 こちらへ。

 

「まずい!」

 

 吉良。

 

 青鹿を置いて。

 

 逃げる。

 

 それは。

 

 できない。

 

 伊織は浅打へ手を伸ばす。

 

「久世!」

 

 檜佐木の声。

 

「青鹿から離れるな!」

 

「はい!」

 

 檜佐木が前へ。

 

 虚の攻撃。

 

 受ける。

 

「ぐっ!」

 

「先輩!」

 

「いいからそいつ見てろ!」

 

 伊織は手を戻した。

 

 傷を押さえる。

 

 今。

 

 自分がやること。

 

 戦うことではない。

 

「青鹿先輩」

 

「……聞こえてる……」

 

「よかった」

 

「……何がだよ」

 

「返事あるから」

 

「基準……低いな……」

 

「四番隊の人にも言われました」

 

「なんだ……それ」

 

「青鹿先輩」

 

「……だから……聞こえてる」

 

 また。

 

 大きな音。

 

 伊織は顔を上げる。

 

 檜佐木。

 

 恋次。

 

 桃。

 

 吉良。

 

 押されている。

 

 自分には。

 

 どうにもできない。

 

 その時。

 

 光。

 

 一瞬だった。

 

 伊織の目の前にいた巨大な虚。

 

 その身体が。

 

 斬り裂かれた。

 

「……え」

 

 長く伸びた刃。

 

 それが。

 

 元の長さへ戻っていく。

 

「いやぁ」

 

 声。

 

 銀色の髪。

 

 細い目。

 

「学生相手に、えらい大人気ないなぁ」

 

 その隣。

 

 眼鏡をかけた男。

 

「無事かい、檜佐木君」

 

「……藍染隊長」

 

 檜佐木の声。

 

 桃が息を呑んだ。

 

「市丸副隊長……」

 

「もう大丈夫だ」

 

 藍染が前へ出る。

 

 巨大な虚が腕を振り下ろす。

 

 受け止める。

 

 素手で。

 

 伊織は。

 

 見ているしかなかった。

 

 次の瞬間。

 

 霊圧。

 

 虚の身体が崩れる。

 

「……すご」

 

 誰かが言った。

 

 伊織も。

 

 同じことを思った。

 

 でも。

 

 すぐ青鹿へ視線を戻す。

 

「青鹿先輩」

 

「……うるせぇ」

 

「はい」

 

「お前が……返事して……どうすんだ……」

 

「確認です」

 

「……意味わかんねぇ」

 

 遠く。

 

 戦闘の音が。

 

 少しずつ。

 

 止んでいった。

 

     ◇

 

 増援が来た。

 

 四番隊も来た。

 

「こちらです!」

 

 伊織が手を上げる。

 

 隊士が走ってくる。

 

「青鹿先輩です。ずっとここ押さえてました」

 

「分かりました。代わります」

 

「はい」

 

「久世さん?」

 

「はい」

 

 見覚えのある四番隊員だった。

 

「あなたも怪我してます」

 

「え?」

 

 言われて。

 

 肩を見る。

 

 服。

 

 裂けている。

 

 血。

 

「いつ?」

 

「こちらが聞きたいです」

 

「分かんない」

 

「座ってください」

 

「でも青鹿先輩」

 

「私たちがいます」

 

 伊織は。

 

 少しだけ迷って。

 

「……はい」

 

 座った。

 

 恋次も。

 

 桃も。

 

 吉良も。

 

 あちこち怪我をしている。

 

 檜佐木は。

 

 右目の周りを押さえられていた。

 

 そして。

 

 少し離れたところ。

 

 大きい白い布。

 

 その下。

 

 蟹沢。

 

 伊織は見た。

 

 でも。

 

 何も言わなかった。

 

     ◇

 

「戻って正解だったかな」

 

 誰が言ったのか。

 

 帰還を待つ間。

 

 恋次が顔を上げる。

 

「今言うな」

 

「ごめん」

 

「……俺も考えてたから」

 

 吉良が少し俯く。

 

「檜佐木先輩には、逃げろと言われましたからね」

 

「うん」

 

 伊織が言う。

 

「戻らない方がよかったかもしれない」

 

「久世さんまで」

 

「でも」

 

 三人が見る。

 

 伊織は少し考える。

 

「戻らなかった方がよかったかもって思うのと」

 

「うん」

 

「戻ったことを後悔してるのは、別だと思う」

 

 恋次が少し眉を寄せる。

 

「……分かるような、分かんねえような」

 

「私も」

 

「お前が分かってねえのかよ!」

 

「今考えてるから」

 

「そういうとこだぞ」

 

 桃が少しだけ笑った。

 

 吉良も。

 

 ほんの少し。

 

 それから。

 

 四人とも黙った。

 

 現世実習は。

 

 終わった。

 

 魂葬はできた。

 

 習ったことも使えた。

 

 でも。

 

 それだけでは終わらなかった。

 

 何が正しかったのか。

 

 まだ。

 

 分からなかった。

 

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