現代ダンジョン世界に転生したので修行してたら、一人だけ別のスキルツリーに接続した 作:すきつりー
であれば、幼い頃から修行してダンジョン探索に備えるのが転生者の務め。
そう考えて日々修行を続けていたある日、ついに俺は”神”との邂逅に成功する。
これは勝ったな、と思ったらどうやらこの神はダンジョンが世界中に出現する以前に存在していた神で、ダンジョンの出現と同時に忘れられてしまったらしい。
まぁいいや力には変わりないし、というわけで受け入れた結果、神は重くなるわスキルツリーが別物になるわで大変なことになった男の話。
なお神も含めて周囲は振り回されるものとする。
転生した。
死んだと思ったらおぎゃあとないていて、赤ん坊になっていたのだ。
周囲の環境を見る限り、文明レベルはまず現代。
しかもほぼ日本。
勝った、と俺は思ったね。
異世界に転生して無双するのも悪くはないが、やはり文明レベルの高い世界で衣食住が保証されている方が断然いいのだ。
漫画やアニメ、ゲームのない生活なんて考えられない。
それにもう一度前世と同じように人生を送れるだけでも、とんでもないチートってやつだ。
そんなこの世界には、ダンジョンがあった。
いわゆる現代ダンジョンだ。
ただし、発生したのは今から数百年ほど前で、この世界ではもうダンジョンが前提になっているという。
おかげで安全対策が充実しており、学生でもダンジョンに部活動として潜れるっていうんだからすごい話だ。
なんならダンジョン専門学校なんてものもある。
こうなると、そこに通うのがオタクの性というものだろう。
いや、正直遠巻きに眺めていたいという気持ちもある。
外野から安全な場所にいたほうが、前世で喧嘩すらまともにしたことのないもやしにとっては無難な選択なのだろう。
だけどそれだと、万が一ダンジョンから魔物が溢れてハザードになった時に被害者にしかなれない。
加えて、転生者にはチートがつきもの。
それを活かして安定した生活を手に入れる方が、前世のような社畜人生よりずっと幸福に決まってる。
そうと決まれば、修行だ修行。
幼い頃から自我が発達していることは、あまりに大きなアドバンテージである。
それを活かして、何としても俺のチートを見つけ、磨かなければ。
はっきり言って、幼いうちにできることはすくない。
体を鍛えようにも体が出来上がっていないし、情報端末にアクセスするのも一苦労だ。
だがそれでも、少ない情報源の中から「マナ」というものが存在することだけは把握できた。
それさえ分かれば十分だ。
何故ならマナが存在すれば、”感じ取る”修行ができる。
いわゆる、瞑想だ。
俺にはマナが存在しなかった世界の感覚がある。
それを元に、マナが存在する感覚との違和感を見つけ出すのだ。
やり方としては、非常に合理的かつ転生者としての特性を活かしているとおもうのだが、どうだろう。
――この時の俺の失敗は二つ。
一つはそもそも、
正確に言うと、ダンジョンの中にしか存在しないのだ。
そしてダンジョンは、この世界とは少しだけ違う異空間に存在する。
人はマナを体内に取り込むことで、常人ならざる力を発揮できるようになるが、それができるのはダンジョン内だけ。
ダンジョンの外でいくら体を鍛えても、意味がないのである。
そしてもう一つは――この世界に
○
何か感じ取れ、何か感じ取れ。
俺はただただひたすら祈るようにそう念じていた。
この修行を始めてから四年間、未だ成果は出ていない。
最初のうちに感じていた強いモチベは、今では半ば呪いのようになっている。
四年もかけて、マナを感じ取るために努力してきた。
それが俺を、止められなくしているのだ。
成長して、物心がついたと言われるような年齢になって、情報収集の手段が増え始めた。
テレビや新聞といったものがほとんどで、一番の頼みの綱であるインターネットにはまだ接続できていない。
ただ、だんだんと自分のやっていることが無意味なのではないか、と感じ始めてきたのだ。
いや、そんなはずはない。
四年も結果を得られなかったのは、それだけ一から何かを磨き上げるのが難しいということだ。
決して、そもそも前提が間違っているだなんてそんなこと。
それじゃあ俺の四年は何だったんだ。
人生において幼い時間は短い。
人はすぐ大人になっていく。
中学に上がった頃にはもう、転生というチートを活かせるようなアドバンテージを活かす余裕は無くなってくる。
だからこそ、最初の数年が大事なのだ。
普通なら、自我という概念すら曖昧なこのタイミングで、何かを掴まなくてはならない。
――タイムリミットは、五年と決めていた。
今の自分がドツボにはまっている自覚はある。
こういうのは、どこかで損切りしなければ一生引きずってしまうのだ。
けど、おそらくこの五年で結果を出さなければ、この後の人生にさほど大きな変化はないだろうという予感があった。
諦めた場合に取れる選択肢は、本格的に情報を集めてそれを活かすというもの。
だけど、集められる情報なんて大人だって集められる程度のものなのだ。
誰にも手の届かない、俺だけの”チート”ではなくなってしまう。
そうなれば俺は、結局ただの人に収まってしまうはず。
タイムリミットは五年、生まれて四年と数ヶ月。
もう、ほとんど猶予はない。
――そもそも、どうしてこんなにも焦っているのだっけ? どうしてこんなにもチートを欲しがっているのだっけ?
それは……正直よくわからない。
自分でもこんなに、特別とかチートとかそういうものを欲しがるとは思わなかった。
そもそも俺は、そんな積極性のある人間じゃないんだ。
前世なんて、流されるままに社畜になって、仕事なんてしたくないと思いながら生きてきた。
そういう人間が、普通に考えて転生してもやり直せるだけの積極性を持つことは難しい。
だから多分、きっかけは楽がしたかったというそれだけのことだ。
他人より優れた所があれば、金を稼ぎやすいだろう。
そういう打算と、欲望。
はっきり言って不純だな。
でも、誰だってそういう感情はあるはずだ。
――じゃあどうして、そんなありきたりな感情だけで、五年近くこれを続けられたの?
さぁ。
さぁ、て自分でも言っておいて変だなって思う。
でも、正直これっていう理由はないと思う。
他にやることがなかった、というのは大きな理由だ。
あと、赤ん坊の時ってめちゃくちゃ恥ずかしいことさせられてるからな。
おむつとか、授乳とか、思い出したくない。
それから意識をそらすため、というのもあるだろう。
転生という機会を経て、最初のうちはモチベーションが高かったのもある。
でもそれは、四年もやっていれば薄れていってしまう理由だ。
途中から焦りや不安が俺を苛むようになってきた。
きっと成果が出ないことへの焦りだろう。
いや、でも。
――それだけじゃ、ないんじゃないか?
――それは?
怖い。
そう、怖いんだ。
俺は何者にもなれないのが怖い。
言い換えれば、意味がないということが怖い。
意味のある人間にならなきゃ、意味のあることをしなきゃ。
そんな焦りが、常に自分を突き動かしている。
ああ、そっか。
その焦りって――
俺は死んだから焦ってたんだ。
――ありきたりではないけど、ごくごく普通の経緯ね。
……違うな、これまでの事を考えると、違う。
――違う?
俺は、そうだ。
そう。
――――
そうだよ、死んだことは何も悪いことじゃない。
だって前世の記憶を引き継いで、新しい人生を始められたんだから。
――普通じゃない考えだわ。
普通じゃない? 確かにそうかもしれない。
でも、そもそも俺は普通じゃないことを経験してここにいる。
転生した人間がどういう考えを持つかなんて、誰にもわからないだろ。
少なくとも俺は、これが普通だと思うけどね。
さて、それで――
――
そう、先程から。
俺の意識に語りかけるようにしてくる何者か。
この場には、他に誰もいない。
父も母も、手のかからない俺からは基本目を離していて、俺に声をかけてくるものは今、誰もいないのだ。
なのに、こうして語りかけてくる何者か。
ああ、そうだ――
やっと見つけた。
――――あは。
そうか、俺は……間に合ったんだな。
五年、長かった。
後少しで、諦めてしまうところだった。
――君の祈りは、願いは、全て私の元まで届いていた。でも、ごめんなさいね。私は、眠っていたの。
眠っていた?
――そう、貴方が起こしてくれたのよ? ずっとずっと、闇の奥深く、底の底で眠りについていた私を、貴方が呼び覚ました。
五年の歳月、ただただ今とは違う何かがほしいと願い続けたから。
結局最後まで、自分の手で何かを掴むことは、なかったんだな。
――それでも、貴方は私を見つけたの。ねぇ、話をしましょう? こっちへ来て。
ひとりでに、玄関の扉が開く音がした。
ああ、なるほど。
――私、貴方のことがとってもとっても、気になってるのよ?
俺はようやく、機会を手に入れたらしい。
それを断る選択肢は、どこにもなかった。