100年後のサッカーを、君に。   作:peko34

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11 復讐

「んで、誰に出せばいいの。これ」

 

 身体を椅子ごとこちらに向け、足を組んだ女の子。

 篠宮真莉が、またも僕から奪った手紙を右手でヒラヒラさせている。

 

 これはお互い少しずつ我慢しようねって提案なんだ。篠宮さんに話して片方を追い詰めていいものなのか。

 

「あ、なに。もしか適当言ってたとか?」

「むぅ……」

 

 自演を疑われてるから、言うしかないけどさ……

 僕に一切の同情が集まらないなら、弱者の立場は盾にならないし。

 

「……まさか。ただその人たちさ。篠宮さんが絡んでビッてるから、あまり広めないで欲しいなって」

「知らねー、つかガクには言うし」

 

 ? ああ、檜山(ガク)くん。

 

「なんで檜山くん?」

「お前が予想以上に嫌われてっから。今回止めたところで別のやつがやるかもしんねーとかさあ、やだわこんなやつの手伝いとかもう」

「……あー……ふふ、確かに。あはははっ! クラスをまとめる人も大変だ!」

 

 弱者にすごく敏感な時代に、短絡的なことする人がいると困っちゃうよね!

 

「……このメンタル持ちにセコい嫌がらせして、どうするつもりだったんだよそいつらは……」

 

 だって今回絶対僕は悪くないし。

 僕が自演するような奴だから、問題になってもまた自演ってことにできる、かな?

 思ってたより考えなしじゃなかったみたいだけど、だからこそ悪質だ。

 

「じゃあちょっと待っててね」

 

 とにかく止める方向で動いてくれるみたいだし、言うのは問題なさそうだ。

 

 あとは最初から怪しかったツーブロックと、さっき会話へ反応した目の前の男、どちらへ手紙を出すべきかだけど。

 

《現時点ならツーブロック。でも目の前に怪しいやついるんだから、指見せてよ》

(それもそうだね)

 

 篠宮さんも絡んだ以上ここは外したくない。ではちょっと失礼を──

 

「は? なんなの」

 

 席を立ち、目の前の男が机に投げ出している手を記憶。

 頭に意識を向けると、視界記憶をぐんぐん拡大させている。

 指紋照合なんて初めてだけど、この精度なら──

 

《黒。赤いインクの上に一致した指紋。教科書ならともかく、他人の上履きにこんな付くとも思えない》

 

 予想通り、考える間もなく結果が返ってくる。手早く済みそうで良かった。

 

「ねえ、起きてー」

 

 目の前の男子の椅子を揺らす。

 

「だからなにやってんだって──」

「ほら、起きないともっと強く揺らすけど。注目されちゃうよー」

「…………え、そゆこと?」

 

 少しずつ、椅子の振動を強めていくと──

 

「……っ、せえな! なんだよ!?」

 

 勢いよく、だけどボリューム控えめに男は起きてくれた。見た目はどこにでもいそうな普通の男の子。それでも僕を睨む目は鋭いかな。

 

「はいこれ。これ読んでよ」

「っ、あ、ああ!?」

「ふっ、うはは! 犯人目の前って、あたしらの会話めっちゃ聞かれてんじゃん!」

「僕は静かにやろうと思ってたんだけどね」

 

 篠宮さんの詮索のせいで……かわいそうに、ずっとドキドキが止まらなかっただろうな。

 彼は僕を睨みつけ、チラと篠宮さんを見る。

 笑いながらも『早く読め』って表情に気圧されたか、手紙は素直に受け取ってくれた。

 

「……っ!」

 読み終わると僕の手紙はぐしゃと握られてしまう。

 

「し、指紋って、なんだそりゃ! 適当なこと言ってんじゃねーよ!」

「えー、正式に指紋取るってなったら、多分大ごとになっちゃうよ?」

「……っ、ほら、やっぱ指紋取ったわけじゃねーじゃねーか! 高校生にもなって探偵ごっこかよ、寒いんだよ!」

 

 そんなに目を泳がせて……心当たりあるくせに時間かけるなー。

 はあ、視界情報をスマホに移して画像にするか。「どうやったんだよ!」とか言われてまた秘密が増えちゃうよ。

 

 とにかくスマホを取り出そうとすると、眉をひそめている篠宮さんが目に入る。

 

「……あんさ、指紋とか気味わりいからその反応は分かるけど、普通はまずなんの話か聞かね?」

「っ!? なに、どういうことだよ……」

「自分がなんの犯人にされてんのか、聞くのが先だっつってんの」

「……おお。おおー」

 

 確かに。手紙には『あなたのしたことは分かっている』としか書いてないし、指紋の話はちょっと早い。

 思わず篠宮さんに、パチパチと拍手を贈る。

 

「おお、じゃねーんだわ。もう少し考えて動けよ」

「!? 篠宮さんに言われた!」

「なにショック受けてんだ殺すぞ!」

 

 いや、だって……篠宮さんには感謝してるけど、勢いでごり押すタイプにしか見えないから……

 

「ちょ、待てよ、そんなの証拠になんねえだろ! ただ俺が寝たふりしてて、お前らの話を聞いてたかもしんねーだろ!」

「……っ、確かに!」

「なんで仮説形式だよ。本当にそれが理由なら断定しろよ」

「っ、確かに!!」

 

 篠宮さんに、僕の椅子が蹴られる。

 感心してるのに……

 

「……っ、それは、だから……」

 

 男の子はもう、見るからにしどろもどろになっている。

 分かるなー。僕もここ来てから不自然な事ばっか言っちゃってるから。

 きれいな嘘を付くには心の準備が必要なんだよね。

 

「つかさ、確かな証拠とか、裁判でもしたいわけ? それか小学生の『地球が何回回った時』ってノリ? ダルすぎんだけど」

「…………ぅ」

 

 でもちょっと……篠宮さんが強すぎるな。前の席の男の子と険悪になる僕の立場も考えて欲しい。

 全く、なんで被害者の僕が仲裁するはめになるんだか。

 

「あのさ、お友達と一緒でテンション上がっちゃったんだよね? 僕は大丈夫だから──」

「っ、う、上から言うな殺すぞ!!」

「話す人みんなに殺すぞって言われる!」

「……一ノ瀬はもう、ダマっててくんね」

 

 ついに言われた。

 どうにも自分が年上という感覚が抜けてくれないな……

 

「ほら、こいつのウザさは分かんだろ! こんだけ迷惑掛けたのに、授業中も……ずっとニヤニヤして!」

「迷惑ー? お前ら一ノ瀬が飛び降りたって聞いてはしゃいでたじゃん」

「……頑張る生徒に、悪影響だ」

 

 ……そうかな? いや、これはこの時代ならではの価値観な気がする。自分が頑張れないことと、邪魔してるわけじゃない他人は……多分関係ない。

 す、推定無罪。

 

「なんでお前らってわざわざ綺麗な建前用意するかなー。ムカついたから、ってだけのがよっぽどマシだわ」

「……あ、あと! 支倉さんにあんなこと言ったクセに、謝罪のひとつもなくて──」

『ガンッ』

「っ! なんで僕!?」

 

 篠宮さんによる、僕の座る椅子への強烈な蹴り。

 その身長じゃ届かないからって……というかめちゃくちゃ続きが聞きたい話だった。

 篠宮さんの表情は──あ、見たくない。

 

「なんで支倉が関係すんの? え、また支倉を下らないことで有名にさせる気なん」

「……いや、俺はそんなつもりじゃ」

「バレたらそうなることくらい分かるよな。お前らと一ノ瀬、なにが違うわけ?」

 

 や、やっぱり僕も、悪かったかもしれない……

 僕が支倉さんに、なにかを言って有名にした。謝罪が必要ななにか。

 もう全部篠宮さんに任せた方が良さそうだ。

 

      ♢

 

 篠宮さんは、相手に一切の反論を許さず収めてくれた。

 教科書、上履きの弁償、面倒事起こすからって席まで変更、他の犯人とか興味ないからお前が伝えろ。

 影響を考えない短絡さに関しては、檜山くんに丸投げするらしい。

 

「……あの、ありがとうございました」

 

 アフターケアまで完遂されて、正直頭が上がらない。

 

「うざ。敬語とかなんなの」

 

 目の前の席に座る篠宮さんはもう、僕に興味はないと隣を向いている。

 

「……真莉ー、ぜんっぜん! どんな流れでこうなったのか想像もできないんだけど!」

 

 隣に、元の席に戻った支倉さんの方をだ。

 篠宮さんは今までのムスッとした表情はなく、ケタケタと自然に笑っている。

 

「急に私の席占拠したと思ったら、武藤君がシナシナになってるのなに!?」

「……むとう? ああ、あいつ。あいつはいいんだよ」

 

 犯人の彼は、さっきまで支倉さんがいた席で下を向いている。篠宮さんはその武藤くんが座っていた席へ。クラス内で権力握るとここまでできるもんなの……?

 

「それよりこいつ、一ノ瀬。ちょっと絡んだけど、こいつの世話とか絶対必要ねーわ。支倉が気にする理由もねえから」

「……どういうこと。え、一ノ瀬くん?」

 

 知らない、どういうこと。僕は面倒見て欲しいよ?

 篠宮さんに目を向けると、彼女も僕を見て話す。

 

支倉(こいつ)、一ノ瀬が飛び降りた原因は自分にもあるとか言ってんだけど」

「…………は!?」

「ちょ! ま、真莉!?」

 

 え、いや……僕が悪いって話じゃなかったの!?

 

「そんだけ図太けりゃ、一人で平気だよな?」

「も、勿論勿論! 一切の手助けいりません!」

 

 り、理由を聞くか……? ってバカ! それはあまりにも、葉月として生きる覚悟が足りてない!

 

「真莉、なんか強く言ったりしたとか……」

「最初っからこのキモさだったわ……」

 

 とにかく今は葉月として、僕にできること──

 

「……支倉さんが一切関係していない、証拠を見せます」

 

 少なくとも、こんな罪悪感だけは消さなきゃいけない。

 自分のスマホを顔認証で開き、支倉さんに渡す。

 

「え、なに」

「そこにある『復讐帳』ってアプリを見てほしいんだけど」

「う、うん。えっと、これかな…………復讐帳!?」

 

 葉月の感情は勝手に作れないけど、葉月本人の思いなら伝えていい、分かんないけどそう決めた。

 

「名前の欄、支倉さんの名前なんかないでしょ? 全然杞憂だよもう……」

「……え、え?」

「でも心配ありがとね!!」

 

 心からお礼を。僕に恨みなんか一つだってないと、満面の笑顔で締める。

 支倉さんは口を半開きのまま固まって。

 

 篠宮さんはいま、復習じゃなくて『復讐』の方だと気付いたみたい。急に目をカッと開いている。

 

「…………え、えーと」

「……っ、く。あは、うそでしょ? うははははっ、いくら支倉でも、こんなキモいもん見せられたのはじめてじゃね!?」

 

 アプリ、消さないでよかったよ。

 それにはそんな理由で? ってのも含めて十何人も書かれてるんだ、名前がないなら完全無罪でいいんだよ。

 

「あ、あはは」

「お、おお、すげーわ一ノ瀬。支倉に悪口振って否定されないの、初めてなんだけど!」

「ま、真莉っ!」

 

 いいよもう。失う好感なんてなかったみたいだし……というか関係ない人が僕のせいで苦しむより全然マシだ。

 だって俺は、不自然に空き容量があるPCに残された、葉月の『遺書』を読んで知っているんだから──

 

 騙された、利用された。だっけ。

 個人名もないしよく分からない。でも、そうだ。

 

「僕はね、僕を利用した人に思うところがあるだけなんだ」

 

 せっかくなら少し聞いてみようか。

 これは勝手な代弁じゃない。実際に今、僕が思ってることだから……って、ギリギリかな。

 

「……り、利用? あ、詮索しちゃだめだよね!」

「一ノ瀬を利用……なんかできんの?」

 

 ……なにかできたのかなー。とにかくこの反応、別に疑ってなかったけど、二人は白かな。いや黒でもなんもする気ないけども。

 

「つかどうでもいいわ。それ見せてみ!」

 

 なんて気軽に僕のスマホに手を伸ばす篠宮さんの手を、ペチと払い落とす。篠宮さんはリストアップされてるから駄目!

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