「あはっ、あはははっ! ふひゅ……ひひ、ひははは!」
……待って、腹が……痛い! ふふっ、息ができない……!
『いや確かにすげーけど』
『なにがそんなツボったんだよ』
『早く解説しろ』
「ふぅぅー。ふふ、ごめんね。ちょっと巻き戻すね」
芝高の11番。
そのままボールを奪ってゴールを決めた、圧倒的な光景。
「普通に見ると分かんないけどこの加速。実はとんでもないことしてんの。見て」
視界情報の『解析』。その映像をPCに移して視聴者にも見えるようにする。
『でたあ……』
『お前のこの技術まじでなんなんだよ……』
いくら詮索しようが無駄だって。端末の組んでくれた動画サイト。
僕が現役時代のうちに解析、追跡されることはないと、お墨付きなんだから。
画面では、花音の身体からとんでもない数の矢印が伸びている。
「まあまあ。あ、ここ! 止めるね」
一時停止した画面では、彼女が地を蹴って、身体が浮いている。
矢印は見えるが、花音の身体からは新しく生まれていない。
「これは身体中から力が抜けた、一瞬なんだけど。ほら、ここで次に着地する足に大量の矢印を送りこんでる!」
マウスカーソルで注目ポイントを◯で囲って、コマ送りで、少しずつ画面を進めていく。
『分からん分からん分からん!』
『いや確かにそう見えるけど……』
音も大きくしよう。ボリュームのつまみをマウスで上げると──
《ボン》
「ね⁉︎ これ地面蹴った音だよ? あり得なくない?」
『いや……嘘でしょ⁉︎』
「この加速、失敗すると矢印グッチャグチャになるんだ。一日中違和感に苦しむこともあんのに、ここで成功させてゴール奪うって……ふふ、あはははっ! バカだよバカ!」
ここも見て欲しいとピッチを大きく映す。力の集中した足で蹴り上げた地面が、画面外へと吹き飛んでいく。
『ゴリラ過ぎて草』
『いやいやいや! 加速の仕組みすら理解できんかったが⁉︎』
『スローで見ると確かにとんでもねえ加速してるww』
「これ相手選手可哀想過ぎるなー。ちょっと顔アップするね。あ、この選手も顔出し許可取ってて大丈夫だから」
突然180センチの長身女性が、自分に二段階加速して向かってくる。
あはっ、あの技術自慢が腰引けて、目を見開きながらボールを溢してる。
『いや、これは確かに笑う』
『え、女子って今こんな超次元サッカーしてんの』
知らない知らない。こんなことになるなんて思ってもなかったもん。
というかもう、こっち来てから予想外が起こりすぎて頭がおかしくなりそうだ。
『待って。さっきの素人くさいギャルもピックアップ許可出てるってことは、こいつもなんかあんの?』
「あー、その子も実はエグいことしてるんだよ? ちょっとアップするね──」
《──時間》
「っと、ごめん。僕そろそろトレーニングに行かなくちゃ」
『…………は?』
「今日も見てくれてありがとー! では──流星の輝きが、今日もあなたを照らしあげますように」
視聴者数もだいぶ増えてきたなー。この調子なら、来月はルームランナーも──
や、パッパとマッマにマッサージチェアが先か……?
『待て。待て待て待て!』
『このギャルの解説は⁉︎』
知らないよ。この子は既に追っかけてる視聴者も多いから、そっちに聞いておくれ。
「トレーニング優先だよ。なんか君ら、彼女らのただのファンになってきてるし」
『ここまで俺らが大事にされない配信ある?』
『てかそれ目的で配信してんじゃないの?』
全然違うわ。目的なんかただのお金稼ぎと──
四年に一度だけじゃなくて、毎日サッカーを見ろって言ってるの!
「それとこんな小娘たちより、僕を見ろってこと!! 一年後には流星の如く君らの前に現れるから、そっちを見るんだよ!」
『ここで配信閉じるようなクソを誰が見んだよ!』
『一年後っつったら御堂デビュー済みじゃん。普通にそっち見るわ!』
こ、こいつら……
(ねえ、僕もうほとんど肉体完成してる気がするし、デビューしていい? いいよね⁉︎)
《90分走れる体力もないのに? 吹っ飛ばされて、怪我して、また引退したいならどうぞ》
(…………っ、くぅぅっ)
こ、この時代のフィジカルモンスターども……!
男子はサッカーが、いちいちスマートじゃないんだよ‼︎
「はあ……君らなんかに構ってる余裕なかった。僕はもう行くから──」
『悲報:女子高生ファンタジスタの謎の師匠。ただの妄想拗らせ大言壮語マンだった』
「…………言ったね?」
『怒ったw』
『効いてて草』
僕の猿真似なんかし始めた愚妹が、よりにもよって僕より先に……ファンタジスタ、ねー。
「お前らID全部記録してるから! 本物のファンタジスタの復権まで、引退は許さないからな!!」
本当にありがとうございました!