メルループ 傍から見なかったら孤独な戦い 作:haguruma03
目の前でおっさんやヒロっち達があーだこーだ話し合っている。
そんな光景を時々茶々入れながらあてぃしはここ数分前の記憶を思い返していた。
あてぃしが記憶を得たのは、ゴクチョーを見た瞬間だった。
あの鳥を見た時、妙な既視感を覚え、次の瞬間にはまるで天啓が降りるかのように、あてぃしは全てを思い出していた。
そして思った。
え?無理ゲーじゃね?
だって考えても見てろし。
あてぃしが推しの元に帰るためには、全員の生存させ魔女化させてユキっちの説得もする必要がある。
この時点で無理そうなのに【全員の生存させ魔女化】の過程がウルトラハードモード。
単体でやばい、自他を巻き込んで爆発しそうな時限爆弾みたいな奴らがいる。
セットで置くと、いつの間にか片方を殺すナイフみたいな奴らがいる。
ほっとくとドンドン色んな奴らのトラウマを刺激して爆発させていく黒幕もいる。
そしてその黒幕は正体バレると全員殺そうとし始める。
さらに魔女化した瞬間、あてぃしらを全滅させる奴もいる。それどころか人類全滅させる奴もいる。
死にゲーもびっくりの死亡フラグまみれ。
地雷まみれ。
クソゲーすぎる。
唯一の救いのおっさんが恋しい。
メルっちを説得させて、正しい順番で皆を魔女化させて、それまでの間に他の奴らが死なねぇようにする。そして、ユキっちを説得する。
ゲームクリアにはこれが必要である。
その事に気がついた時、あてぃしはブチギレた。
無理だろふざけんな!!
そもそも、あてぃしら13人のトラウマやら地雷をうまく整理して爆発しないようにするなんて、地雷処理担当のおっさんですら無理だし、追加で言わせてもらうけど、全員を魔女化させる度胸なんてあてぃしにはない。
なら未来の話をぶっちゃけて、それができるやつに任せようか….って思ったんだけど….
「悪は死ね!!!!!」
唯一の成功例であるはずの女はハッスルしていやがった。
ハッスルヒロっちが太鼓の達人で遊んでいた。
太鼓はホノカでバチは火かき棒。代金はもちろん命。
絶対エマっちぶっ殺しモードのヒロっちがそこにはいた。
つまりここはヒロっちにとって一週目と言うことになる。
いや…余計に無理だろ。
そんな諦めの極地から、振るわれる棒を呆然と見続けていると、いつの間にか、メルっちが空を舞っていた。
そしたらなんかヒロっちは生き残った。
ついでにあてぃしら全員の生存の芽が出てきた。
ここでヒロっちが死んだら終わりだったから、メルっちまじ神。
運ばれていくメルっちに心の中であてぃしは拝んだ。
とはいえ、メルっち自身特大の死亡フラグでもあるんだけど…
まぁ、そのあと何やかんやで話は進んだ。
メルっちが運ばれて、エマっちとヤンキーがついて行って、全員でもう一回自己紹介して…
そしたらヒロっちが、まぁ怪しい。
めっちゃエマっちを殺そうとしている。
好きあらば殺す機会を探っている。
ほーんとめんどくせぇ〜。さっさと勘違いに気づいて仲直りしろや!って思うが、これをあてぃしが言っても信じてくれる訳が無い。
だからといって、あてぃしが証拠もなく勘違いについてヒロっちに詳しく伝えても拗れるだけだし、下手したら嘘つき扱いされてあてぃしが殺される。
殺してくるのはヒロっちかもしれないし、あてぃしの事邪魔に思ったメルっちかユキっちに唆された誰かかもっ…てそうじゃん!ユキっち見てんじゃん!!
新たな地雷にあてぃしは頭を抱える。
あてぃしを置いてけぼりにして周りでは話が進んでるが聞いてる余裕はない。
そう、ユキっちは見ている。
あてぃしは囁かれてなかったけれど、他の皆の記憶では、ユキっちはいろんな奴が囁いて、ヒロっちに関しては会話までしていた…気がする。
ユキっちはあてぃしらを監視して、時には絶望に落とそうとしてくる。
下手な事して、ユキっいに気が付かれたらあてぃしの命はない。
でも…ユキっちが見れるのはどこまで?ユキっちがどこまで見えているのか、あてぃしは知らないし、皆の記憶にもない…気がする。
…あぁああ!もう!知ってる事と知らない事が多いし、ごちゃついてわかんねぇ!
もし見てんならユキっちお前、実は殺す気ない感じなんだから諦めてこの場をどうにかしろよ!
あてぃしにどうしろってんだよ!!
そんな事、内心叫んでもユキっちは答えてくれない。
色々と先行きの怪しさに頭を抱えたくなる。
もうどうしたらいいんだよ。こういうのってエマっちやヒロっちの仕事だろー?
なんでぃあてぃしが…
そもそもヒロっちが3週目ならこんなこと悩まなくてよかったんだよ!
なぁんで1週目なんだよ!!
1週目のヒロっちに、どうやったら信用してくれんだよ…..
というかそもそもあてぃし1人じゃ無理に決まってんじゃん。
うまくいくには、ヒロっちがやってきた事、真似しろって事だろ?
ってことは最初に自分が魔女化しなきゃいけないって事
ヒロっちと違ってあてぃしが魔女化したら全員ぶっ殺す自信がある
…最初から終わりじゃん。
ならメルっちの魔法なしで理性保てる人間に代わりにやってもらわなきゃいけなくて
そうなるとヒロっちしか思い浮かばなくて…
いや無理じゃん。今のヒロっち、絶対エマっち全殺しマシンじゃん!
なら、今のヒロっちが未来と全く同じルートを辿らせる様に誘導する?
もう未来変わってるから無理じゃん!
今から頑張って方向修正するにしても、一体ヒロっちが勘違いに気づくまで幾つの難所が…….
あ
その瞬間、あてぃしに電流が走る。
そうだ、アレがあったじゃん
思い出したのは一つのモノ。ヒロっちが手に入れた瞬間真実に気がつき、エマっちも手に入れた時驚愕したモノ。
あの勘違いを示すモノがあれば、そもそも全てが解決する。
あるじゃん!見せたら信用されるモノ!!
アレさえあればヒロっちも話を聞いてくれる!!!
全ての解決を担う存在を思い出し、あてぃしの心に、道が開けたような感覚が走り抜ける。
思い浮かぶは一枚の物品。
そして…それを持つ者。
ぜってぇ手に入れる!それが推しのため….あと皆のため。
そのためには……..
あてぃしは、ニヤリと笑い、メルっちに思いを馳せた。
メルっちを締め上げて奪わねぇとな!
先ほどまでむず痒い静寂に包まれていた医務室はその空気を変えていた。
ベッドに座ったままのメルル。
その脇に置かれた二つの椅子に座るアリサとエマ。
そうやって集まった3人の間に言葉がゆったりと飛び交っていく。
「ちょっと緩いけれど…おいしいね!どう?アリサちゃん?」
「あ?...水なんてどれも味なんてねぇだろ」
「そうかな?よく言わない?この水はおいしい!って」
「そう言うのは高っけぇ値段の水とかだろ…こんな屋敷にある水がそんな水のわけねぇだろ」
「えへへ…それもそっか」
アリサの言葉に対してはにかむように微笑むエマ。
恥ずかしそうに、または照れくさそうにしたその表情は、まるで最初から帰ってくる答えがわかっていたかのような、とりあえず会話をしようと頑張るような、そんな雰囲気を感じさせる。
そう、エマがこの部屋に入ってきてから数分、もどかしい沈黙から、エマが2人に語り続ける空間が構成されていた。
エマが2人に話題を振る。
2人はその話に答える。
話が終わる。
その繰り返し。
エマからしか話は振られず、2人から話が始まることはない。
それが数分間続いている。
その様子は子犬が飼い主に構ってと足元を跳ね回り、飼い主はぶっきらぼうに対応しているように見えるが、飼い主の2人の内心は全く違った。
(桜羽と…どう話しゃいいんだ?)
(私…エマさんとどう話していましたっけ…?)
めっちゃ困っていた。
子犬を飼ったことのない飼い主が、無性の愛をぶつけてくる子犬に困惑しているように、めっちゃ困っていた。
2人は、わからなくなっていたのだ。桜羽エマとの関わり方を。
特にアリサは頭を抱えていた
アリサは桜羽エマと濃い関係性を築いていた記憶がある。
だが、それまでの過程は色々と、本当に色々とあった果ての関係性だ。
牢屋敷に閉じ込められてから、何度も何度もエマを遠ざけようとしてそれでもエマが近づいてきてくれた先にあるアリサとエマの関係性。
それを最初からするにはアリサにはハードルが高いしあまりに違和感があった。
それならその過程を再現すればいいのではないか?
エマに対して再び厳しく接して遠ざけ、そしてエマに来てもらう。
それを繰り返す事で、関係性を再現できる。
アリサはそう考えて
(無理だろ。可哀想だろ…桜羽が)
ベタ甘だった。
一度優しくした捨て犬に厳しくできない不良精神に溢れていた。
ゆえに、エマが警戒心なく近づいてくることにうまく対応できず、オロオロとぶっきらぼうに対応するしかない。
そもそも最初から、昔は昔、今は今と、他の世界線とこの世界線を割り切り、こちらも最初フレンドリーにエマと交流するなんて発想はアリサにはなかった。
それができたらアリサはこんなところにいない。
対してメルルもまた困っていた。
アリサから聞いたこの世界のエマは、自分が医務室に連れてこられた際心配で追ってきたアリサについてきたらしく。その後、メルル達のために一度医務室からでてお水を取りに行ってもどってきたことをメルルはアリサから聞いている。
やっぱりエマさんは優しい。
メルルは心からそう思う。
そしてそれに伴い、過去の楽しかった記憶、その優しさを踏み躙った記憶、共に牢屋敷を管理した記憶、共に大魔女様を救った記憶。
そしてお別れした記憶。
とても楽しく苦しく救われた記憶。
メルルにとって大事な記憶だった。
メルルに取ってエマは大魔女様の次に...いやもしかしたら近いぐらい大事な友人だった。
ゆえにメルルは思った。
(エマさんが...エマさんが...怖いです...!!)
エマは本来ならシェリーやハンナと行動していた。
だが、彼女はメルルについてきてしまった。
そのため、シェリーやハンナと一緒にいない。
つまり、今のエマはボッチだ。
あの3人組は2人と1人に分かれてしまった。
未来が変わってしまった。
ボッチエマの完成である。
その事にメルルの背筋に冷や汗が流れる。
エマさんがボッチ…仲間はずれ...
魔女化が進むかもしれない…
実際はそんなことは無いとメルルはわかっている。
だけれど、メルルにとって、エマは大事な友人であると同時に最大の爆弾にも等しかった。
大魔女様からの愛を一心に受けていて、目をかけられている。
人類皆滅ぼす魔法を持っているので、下手に魔女化させた瞬間、全てが終わってしまう。
大魔女様を説得するキーパーソンなので最重要人物。
なのに、最初から殺害目標に設定されていて、なおかつ設定したその人物もまた大魔女様を説得するキーパーソンであり、エマさんを安全に魔女化できる唯一の人物。
一歩対応を間違ったら、全てが終わってしまう取扱注意の特大の爆弾。
まさに火事の現場に存在する火薬の塊。
それもこの火薬がなければ火事を消せないというおまけ付き。
その現実にメルルの体は震える。
決して、大釜に落とされた時の恐怖による震えでは無いはず…です。
そうメルルは思い込み、震えや怯えが表情に出るのを抑え込む。
震えてはダメです。
怯えてはダメです。
大魔女様を追い求めていた時と同じ様に...いつもの、いつもの私でいれば何も問題ありません!
メルルは奮い立つ。
思い出すのは仲間達を騙し通したヒロが最初に死んだ世界。
皆さんと仲良く生活し、囁き、魔女化させ、最後の3人まで騙し切ったあの世界。
最後はバレてしまいましたが、それでも何日も黒幕だとバレなかった実績が...
『無駄な努力だったね...』
「どうしたの?メルルちゃん」
エマが不思議そうに首を傾げメルルの顔を覗き込む。
その瞬間メルルは、エマの表情が、エマの声が、過去のトラウマとダブって聞こえてしまい思わず悲鳴がメルルの口から漏れた。
「ひゅっ…!」
恐怖に支配されたメルルの様子に、エマが悲しい顔をする。
それを見たメルルの背に冷や汗が滝のように流れる。
エマさんにストレスをかけてしまってます…!
慌ててメルルは訂正しようと口を開いた。
「えええ、エナさん!違うんです!」
思いっきり舌を噛んで間違えた。
またもや顔を青くするメルル。
首を傾げるエマ。
「エ...ナ?」
「ち、違います…!エマさんです!」
「え?そ、そうだね?ボクはエマだよ…ね?」
「そうです!エマさんです….!エナさんじゃありません!」
「う、うんボクは…エナじゃない….そ、そうだ!そもそもエナって、だ、誰かな?...知ってる?アリサちゃん」
「ウチによくわからねぇ話振るんじゃねぇよ。氷上も落ち着け」
「で、でも私、エマさんの名前を…」
「ボク、気にして無いよ?メルルちゃん」
「ほら、桜羽もそういってんじゃねぇか」
「で、ですが…」
「うーん….メルルちゃん」
一向に謝るのをやめないメルルに、エマはズイっと近づいた。
「ひゅい…!!」
「ねぇメルルちゃん!」
「は、はい!わ、私は氷上、メルルです」
「ボクと友達になってくれないかな?」
エマは満面の笑みで、メルルに手を伸ばした。
シェイクハンド。
友好の証を求めるその動きにメルルは目を見開いた。
メルルにとってエマは、重要な人物であると同時に、この世界ではまだ出会って10分も経っていない他人である。
なのに、エマは何の警戒心も抱いていない笑みを浮かべ、自分に手を伸ばしている。
そんな、突然の行動にメルルは戸惑い思わず、アリサを見る。
だが、アリサは微笑ましい視線をその腕にそそいでいた。
助け舟が届かないことを察し、メルルはエマの手に向かって、オズオズと手を伸ばす。
「私で…いいのでしょうか…?」
そんな戸惑いながらも伸ばされたメルルの腕。
そんな手を、エマは笑顔で握りしめた。
「メルルちゃんだからいいんだ!」
エマは繋がれた腕を一振り、二振りと嬉しそうに振る。
その腕が振られていくごとに、メルルの心から恐怖心が薄れていく。
そうです...エマさんは最初からこうでした。
ポジティブで元気な少女。寂しがりやで人のぬくもりに敏感で、それゆえに思いやりがあり、優しく、誰かを助けるために皆で助かるために、諦めない、めげない女の子。
何も起こらなければ、そんな...ただの女の子なんです。
ゆえにメルルは、ペコリとエマに頭を下げた
「ごめんなさいエマさん…!」
そんなメルルの言葉がどんな意味を持つのか。その答えをメルルは言葉にしない。
名前を間違えた事になのか、わざわざ医務室まで来てくれたことになのか...はたまた別の意味を持つのか
ただただ、メルルはエマに頭を下げた。
そんなメルルに対して。エマはポカンとした顔で受けた後、クスリと笑った。
「謝んなくてもいいよ!むしろボク、メルルちゃん感謝したいんだ」
「感...謝?」
首を傾げるメルル。
そんなメルルにアリサは口を挟む。
「二階堂を助けてくれてって事だろ」
エマは頷いた。
「うん!だから、ボクの友達を助けてくれたお礼。ありがとうメルルちゃん!」
純粋な想いがこもったエマの言葉に、メルルの瞳が涙で潤み、エマの手を握りしめる。
「こちらこそ……ありがとうございます..!」
メルルの声が医務室に響く。
そんなメルルとエマを見てアリサは思う
やっぱり桜羽は優しい。こいつはいつも純粋で裏のない優しさを持っている。
それは氷上もだ。
わかってはいたが、こいつの優しさも嘘じゃねぇんだ。
ただ、ただ、大魔女に、家族に会いたいから狂っちまった。
だからこのままだと、2人とも最悪の未来にいっちまう
だから…ウチが、ウチだけが、全員助けれる。いや、ウチが助けるんだ…!
アリサの目に決意が灯る。
傍にいるエマとアリサを見てメルルは思う。
エマさんは優しい。こんな初対面の私にも寄り添い、欲しい言葉を授けてくれる。
その裏のない純粋な優しさが、大魔女様の心を溶かしたのです。
そして、それはアリサさんもです。
アリサさんも優しいのはヒロさんの一周目の世界や二周目の世界の見てわかります。
そして今も、身も知らぬ私のために医務室まできてくれる。心配してくれる。
だから…だから、私が、皆さんを救わなければならないんです…!
メルルの瞳に決意が灯る。
そして、2人から裏のない純粋な優しさだと想われているエマはニコニコと笑みを浮かべて思う。
(よし!これで友達になれたからメルルちゃんから写真を見せてもらえるはず!!)
めっちゃ裏があった。