新エリー都で宇宙キターッ!   作:一般天高生徒

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小説の書き方に悩んでます。



第二話 初・陣・苦・戦

眩い白い光が、俺の全身を包み込んだ。

 

「──っ!」

 

 反射的に目を閉じる。何かが身体へまとわりつく感覚。

 

 重い。なのに、不思議と動きづらさはない。むしろ。

 

「……え?」

 

 身体が軽い。

 

 光が収まる。恐る恐る目を開けて、自分の両手を見た。

 

 白いグローブに、白い装甲。

 

「…………」

 

 右腕。左腕。胸。脚。

 

 どれもこれも見覚えしかない。

 

「……マジで」

 

 震える手を持ち上げる。

 

「フォーゼだ……」

 

 仮面ライダーフォーゼ。

 

 前世でテレビ越しに何度も見たヒーロー。その姿に、今、俺自身がなっている。

 

「本物……」

 

 声までスーツ越しに少し響いて聞こえる。

 

 俺が仮面ライダーに。フォーゼに変身した。

 

「…………」

 

 そう認識した瞬間、身体の奥からとんでもない高揚感が湧き上がってきた。

 

「…………いや」

 

 待て。落ち着け。

 

 俺は如月弦太朗じゃない。フォーゼに変身したからって、あれまでやる必要は──。

 

「…………」

 

 やりたい。

 

「…………」

 

 めちゃくちゃやりたい。

 

 だって。本物だぞ?

 

 前世で何度も見ていた、本物のフォーゼだぞ?

 

「……一回くらい」

 

 誰に言い訳しているのか分からないまま拳を握り、前屈みになる。

 

「宇宙──」

 

 そして、両腕を大きく振り上げた。

 

「キターーーーーーーーーッ!!」

 

 叫んだ。

 

「…………」

 

 ホロウの中に俺の声が響き渡る。

 

「…………」

 

 やった。やってしまった。

 

「……いやでも」

 

 両腕を下ろしながら、自分に言い聞かせる。

 

「これは仕方ないだろ。本物のフォーゼになったら一回くらい──」

 

「グォォォォォォッ!!」

 

「…………あ」

 

 忘れてたわ。

 

 急いで振り返るも、すぐ目の前には巨大な拳。

 

「ちょ──」

 

 ドゴォッ!!

 

「ぐぉっ!?」

 

 胸部へ拳が直撃した。身体が宙を舞う。

 

「うわああああああああ!?」

 

 そのまま数メートル吹き飛ばされ、背中から瓦礫へ突っ込んだ。轟音と共に大量の石片が飛び散る。

 

「いっ……!」

 

 反射的に身体を丸めたまま、しばらく瓦礫の中に沈黙が流れた。

 

「……宇宙キターしてる場合じゃなかった」

 

 当たり前である。

 

 敵はエーテリアスなのだ。こっちのことを待ってくれるわけがない。

 

「くっそ……!」

 

 瓦礫を押し退けながら身体を起こす。

 

 そこで。

 

「…………あれ?」

 

 違和感に気づいた。

 

 痛い。殴られたんだから当然痛い。だけど。

 

「……これだけ?」

 

 さっき拳を食らった胸を触る。

 

 生身でまともに受けていたら、たぶん今頃こうして喋ってはいない。それどころか、背中からあれだけ派手に瓦礫へ突っ込んだ。

 

 なのに。

 

「普通に動ける……」

 

 立ち上がって腕と足を動かしてみる。……どちらも問題ない。

 

「すげぇ……」

 

 改めて自分の身体を見る。

 

「これがフォーゼ……」

 

「グォォォォッ!」

 

「って、また来た!」

 

 エーテリアスが突進してくる。

 

「今度は食らうか!」

 

 咄嗟に横へ飛んだ。──つもりだった。

 

「うわっ!?」

 

 想像していたより遥かに身体が動き、一気に数メートル横へ跳ぶ。

 

「っと、っとっと!」

 

 何とか着地するも勢いを殺しきれず、何歩かたたらを踏んでしまう。

 

「身体軽っ!?」

 

 まるで自分の身体じゃないみたいだ。

 

 いや、間違いなく俺の身体なんだけど。変身する前とは何もかもが違う。

 

「これが……仮面ライダーの身体能力」

 

 知識では分かっていた。

 

 仮面ライダーなんだから、生身の人間より遥かに強い。そりゃ当たり前だ。

 

 でも、実際に自分の身体で体験するのとはまるで違う。

 

「グォォッ!」

 

 エーテリアスが再び迫る。

 

「っ!」

 

 今度は逃げない。俺は拳を握った。

 

「と、とりあえず……!」

 

 殴る。

 

 本当にそれだけ。

 

 拳の握り方も、腰の入れ方も、なーんにも知らない。喧嘩だって、ほとんどしたことがない。

 

 だから、ただ相手に向けて拳を突き出した。

 

 ゴッ!!

 

「っ……!」

 

 拳がエーテリアスの腹部へ叩き込まれる。

 

 人間相手なら洒落にならない一撃。

 

 なのに。

 

「…………へ?」

 

 巨体がわずかに揺れただけだった。

 

 一歩。本当に一歩だけ後ろへ足がずれる。それだけ。

 

「嘘だろ」

 

 俺は拳とエーテリアスを交互に見る。

 

「全然効いてないじゃん!」

 

 フォーゼ・ベースステイツのパンチ力。

 

 確か……二・一トン。

 

 生身の人間が出せるような威力じゃない。それをまともに食らわせた。

 

 なのにこれだ。

 

「待てよ……」

 

 改めて目の前のエーテリアスを見る。

 

 人間を遥かに上回る巨体。身体を覆う結晶。そして何より特徴的な、異様なほど発達した二本の腕。

 

「…………」

 

 知っている。

 

 前世で。ゲームの中で、何度も戦ったことがある。

 

「こいつ……」

 

 背筋に嫌な汗が流れた。

 

「ファールバウティじゃねえか!」

 

 エリート級エーテリアス。

 

 巨大な腕を武器にも盾にも使い、正面からの攻撃を弾き返しながら力任せに叩き潰してくる敵。

 

「よりによって初戦闘がエリート級!?」

 

「グォォォッ!」

 

「ですよね!」

 

 ファールバウティが右腕を振り上げる。

 

 避ける。そう思った時にはもう遅かった。

 

「うわっ!?」

 

 巨大な腕が横薙ぎに振るわれる。

 

 辛うじて両腕を前へ出して受けるが、衝撃を殺せるはずもない。

 

 ドゴッ!!

 

「ぐぉっ!」

 

 足が地面から離れ、そのまま横へ吹き飛ばされる。何度か地面を転がって止まった。

 

「いってぇ……!」

 

 さっきより痛い。

 

 スーツが守ってくれているのは間違いない。でも。

 

「仮面ライダーになったからって……エリート級を素手で殴り倒せるわけじゃないよな……!」

 

 当たり前の話だった。

 

 俺は弦太朗じゃない。戦闘経験もない。フォーゼに変身できたからといって、それだけで何でも倒せるわけじゃない。

 

「だったら……」

 

 使えるものを使うしかない。

 

 俺はフォーゼドライバーを見る。

 

 右端。一番。

 

「まずは、これだろ!」

 

 ロケットスイッチ。

 

『ROCKET ON』

 

 電子音が鳴り響いた直後、右腕を包み込むように巨大なロケットモジュールが出現した。

 

「おおっ……!」

 

 オレンジ色の機体に黒い噴出口。

 

 前世で何度もテレビ越しに見てきた、フォーゼを象徴するモジュールの一つ。

 

 実際に自分の右腕についているのを見ると、妙な感動がある。

 

「本物だ……」

 

「グォォォォッ!」

 

「分かってるって!」

 

 危うくまた見惚れるところだった。

 

 ファールバウティへ向き直る。

 

 ロケットモジュールの使い方は知っている。推進力を利用して一気に加速し、その勢いを乗せて殴る。

 

 確かロケットを利用したパンチは約四トン。通常の倍近い。

 

「これなら……!」

 

 ファールバウティへ右腕を向ける。

 

「行ける!」

 

 ロケットを噴射した。

 

 ゴォォォォォォッ!!

 

「──え?」

 

 次の瞬間。

 

「はっやぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 景色が一瞬で後ろへ吹き飛んだ。

 

 凄まじい推進力に右腕どころか全身を引っ張られる。

 

「ちょっ、待っ、待って待って! これどうやって曲がるんだよ!?」

 

 もちろん誰も答えてくれない。

 

 ファールバウティがものすごい勢いで目の前へ迫ってくる。

 

「ええい、もうこのまま!」

 

 右腕を突き出す。

 

 直撃する。そう思った瞬間。

 

「グォッ!」

 

「え」

 

 ファールバウティが巨大な左腕を持ち上げた。

 

 盾のように。

 

「ちょ──」

 

 ドゴォォン!!

 

 ロケットモジュールが、その前腕へ真正面から激突する。

 

「ぐっ……!」

 

 重い衝撃。

 

 ファールバウティの足元で瓦礫が弾けた。その巨体が地面を削りながら。

 

 ズズッ……!

 

 後ろへ押される。

 

「おっ……!」

 

 効いた。

 

 素手のパンチとは明らかに違う。

 

 だが。

 

「これでも倒れないのかよ!?」

 

 むしろファールバウティは踏み止まった。

 

 巨大な腕でロケットモジュールを受け止めたまま、身体を捻る。

 

「え?」

 

 嫌な予感。

 

「グォォォォッ!!」

 

 腕が横へ振り抜かれた。

 

「うわああああああ!?」

 

 ロケットの進行方向を強引に変えられる。

 

 自分で制御できていない今の俺に、立て直せるはずもない。

 

「そっちは壁ぃぃぃぃ!!」

 

 ドゴォン!!

 

 肩から建物へ激突した。

 

「ぐえっ!」

 

 そのまま床へ転がる。

 

 噴射が止まり、慌ててロケットスイッチを戻した。

 

『ROCKET OFF』

 

「……テレビで弦太朗が普通に使ってたから忘れてたけど」

 

 壁へ背中を預けたまま、消えていくロケットモジュールを見る。

 

「これ、右腕にロケットエンジンつけて飛んでるようなもんじゃん……」

 

 前世で使い方を見ている。

 

 だからといって、俺自身に操作技術があるわけじゃない。

 

「むしろ何で弦太朗は完全初見でそこそこ扱えたんだよ!?」

 

 いや。弦ちゃんだからか。

 

 あの人、普通の高校生とは思えない戦闘センスだったし。

 

「グォォォ……!」

 

「休ませてくれないよな、そりゃ……」

 

 ファールバウティがこちらへ向き直る。

 

 さっきロケットを受けた左腕。

 

「……?」

 

 よく見ると、表面のエーテル結晶に僅かな亀裂が入っていた。

 

「効いてはいる……」

 

 倒せないわけじゃない。

 

 だったら。

 

「次……」

 

 フォーゼドライバーを見る。

 

 二番。ランチャー。

 

「…………」

 

 右手が止まる。

 

「いや待て。これミサイルだよな」

 

 ロケットで壁に突っ込んだ直後に、今度はミサイル。

 

「……怖っ」

 

 下手したら俺の方がホロウを壊してるんじゃないか?

 

 でも、ファールバウティ相手に素手で戦い続ける方がもっと怖い。

 

「…………あ」

 

 もう一つ。使えるものを思い出した。

 

「そうだ。レーダー」

 

 四番を入れる。

 

『RADAR ON』

 

 左腕に黒いレーダーモジュールが展開した。

 

「おぉ……」

 

 円形のディスプレイへ反応が映る。

 

 目の前のファールバウティ。それをレーダーが捉える。

 

「これなら……」

 

 劇中通りなら。

 

「ランチャー!」

 

 二番。

 

『LAUNCHER ON』

 

 右脚に青いランチャーモジュールが装着される。

 

「うおっ、重っ!」

 

 右脚だけ重量が一気に増し、危うく転びそうになる。

 

「っと……!」

 

 何とか踏ん張る。

 

 本当に。見るのとやるのは違う。

 

 レーダーをファールバウティへ向ける。

 

「確か、これでランチャーを誘導できるはず……!」

 

 反応を捕捉。

 

「ロックオン!」

 

 ファールバウティが迫る。

 

「行け!」

 

 ランチャーから五発のミサイルが放たれた。

 

 シュババババッ!!

 

「うおっ!」

 

 飛び出したミサイルがファールバウティへ殺到する。

 

 一発目。

 

 ファールバウティが右腕を振るった。

 

 ドンッ!!

 

 ミサイルが空中で爆発する。

 

「殴り落とした!?」

 

 二発目も腕で防ぐ。

 

 三発目。

 

 身体を逸らして回避。

 

「逃がすか!」

 

 レーダーが追う。

 

 外れたはずのミサイルが空中で旋回し、再びファールバウティへ向かった。

 

 四発目が肩へ。五発目が左腕へ。さらに避けた一発も背後から追いつく。

 

 ドドドンッ!!

 

「っ!」

 

 爆風に思わず身を屈める。

 

 煙が広がった。

 

「…………」

 

 静かだ。

 

「やったk──」

 

 口にしかける。

 

「…………いや」

 

 やめておこう。この言葉を言うと大体やってない。

 

 数秒後。

 

「グォォォォォォッ!!」

 

「ほらぁ!」

 

 爆煙を突き破ってファールバウティが現れた。

 

 でも。

 

「…………」

 

 さっきまでとは違う。

 

 身体のあちこちに傷。そして、ロケットパンチを受けた左腕。

 

 その腕を少し下げている。表面の結晶にも、さっきより明らかに大きな亀裂が走っていた。

 

「腕……」

 

 思い出す。

 

 ファールバウティ。

 

 頑丈な両腕を盾として利用するエーテリアス。

 

 でも。

 

「無敵ってわけじゃない」

 

 攻撃を受け続ければ、あの腕だって耐えられない。

 

「…………」

 

 使えるのは、ロケット。ランチャー。ドリル。レーダー。

 

 ランチャーでも倒しきれなかった。でも、確実にダメージは入った。

 

 だったら。

 

 視線が三番のスイッチへ落ちる。

 

「ドリル……」

 

 そして、ロケット。

 

 頭の中に前世で何度も見た光景が浮かぶ。

 

「…………これなら」

 

 フォーゼの必殺技。

 

 ライダーロケットドリルキック。

 

「いやいや待て」

 

 さっきロケット一個すらまともに扱えなかったじゃないか。

 

 それを今度はドリルまで付けてライダーキック?

 

「普通に考えて無理だろ……」

 

「グォォォォッ!!」

 

「でも考える時間もない!」

 

 ファールバウティが地面を踏み砕きながら突進してくる。

 

 もう。やるしかない。

 

『DRILL ON』

 

 左脚を包み込むように巨大なドリルモジュールが出現する。

 

「重……!」

 

 ランチャーとはまた違う重量感。

 

 足先に巨大なドリルがついているんだから当然だ。

 

 続けて。

 

『ROCKET ON』

 

 右腕に再びロケットモジュール。

 

「…………」

 

 右腕にロケット。左脚にドリル。

 

「本当にフォーゼだ……」

 

 さっきから何度も実感しているのに、この組み合わせを見るとまた胸が高鳴る。

 

 これから俺が。本物のライダーキックを使う。

 

「…………」

 

 いや。感動してる場合じゃない。

 

 ファールバウティは両腕を前へ出し、こちらへ迫っている。

 

 まともに突っ込めば。

 

「……また防がれる」

 

 でも。

 

 見る。

 

 左腕。ロケットとミサイルを受け続けた方。

 

 亀裂。

 

「…………そこだ」

 

 どうせ防ぐなら。

 

「その腕ごとぶち抜く!」

 

 ロケットを噴射する。

 

 ゴォォォォォォッ!!

 

「うおっ!?」

 

 身体が一気に宙へ持ち上げられる。

 

「やっぱり速ぁぁぁぁい!!」

 

 そして空中でエンターレバーを操作する。

 

『LIMIT BREAK』

 

 左脚のドリルが高速回転を始めた。

 

「合わせろ……!」

 

 右腕を動かす。身体の角度を変える。

 

「こっち……!」

 

 逸れる。

 

「違う!」

 

 無理やり身体を捻る。

 

「曲がれ! 曲がれって!」

 

 ロケットの向きを少し動かすだけで進行方向が大きく変わる。

 

「操作難しすぎるだろこれぇぇぇぇ!!」

 

 それでも。

 

 少しずつ。少しずつ。

 

 軌道が合う。

 

 その先。

 

 ファールバウティが巨大な両腕を交差させた。

 

 やっぱり。ガードする。

 

「だったら……!」

 

 狙うのは傷ついた左腕。

 

「そこだぁぁぁぁぁ!!」

 

 ドリルが直撃した。

 

 ガギィィィィィィン!!

 

「ぐっ……!」

 

 身体全体へ凄まじい衝撃が走る。

 

 ファールバウティの両腕に止められた。

 

 硬い。

 

 ライダーロケットドリルキックですら、一瞬で貫けない。

 

「マジかよ……!」

 

 逆に押し戻されそうになる。

 

 ロケットが轟音を立て、ドリルが火花を散らす。

 

「ぐっ……!」

 

 このままじゃ。弾かれる。

 

 その時。

 

 ピシッ。

 

「……!」

 

 小さな音。

 

 傷ついていた左腕の亀裂が広がった。

 

「いける……!」

 

 もっと。ロケットを。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 推進力をぶつける。ドリルが回転する。

 

 ピシッ。

 

 ピシピシッ!

 

 ファールバウティの左腕を覆う結晶が次々と砕け始める。

 

「グォォォォォォッ!!」

 

 ファールバウティが叫ぶ。

 

 腕が押し込まれていく。

 

「そのまま……!」

 

 あと少し。

 

「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 バキィィンッ!!

 

 ついに傷ついていた左腕の防御が崩れた。

 

「っ!」

 

 身体が一気に前へ抜ける。

 

 交差していた両腕の隙間。

 

 その奥にある、ファールバウティの胸部。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 高速回転するドリルが真正面から胸部へ叩き込まれた。

 

 ガギィィィィィン!!

 

「グォォォォォォッ!!」

 

 ファールバウティが咆哮を上げる。

 

 凄まじい抵抗が左脚へ返ってくる。それでもロケットの推進力は止まらない。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 ドリルがさらに深く食い込む。

 

 そして。

 

「……!」

 

 ファールバウティの身体に異変が起きた。

 

 胸部から全身へ、亀裂のような光が走っていく。

 

「グォォォォォ……!」

 

 咆哮が徐々に弱まる。

 

 巨体の輪郭が崩れ始めた。

 

「……消える?」

 

 腕。胴体。頭部。

 

 ファールバウティの身体が次々と崩れ、エーテルの粒子となって消えていく。

 

 やがて、俺のドリルが貫いていたはずの胸部も消えた。

 

「…………」

 

 抵抗が。なくなった。

 

「倒した……!」

 

 そう理解した。

 

 ただし、喜ぶのはまだ早かった。

 

 ゴォォォォォォッ!!

 

「って、まだ止まってない!?」

 

 ファールバウティが消えたことで、それまで押し返していたものがなくなった。

 

 ロケットの推進力をまともに受けた俺の身体が、そのまま勢いよく前方へ飛び抜ける。

 

「うわああああああ!?」

 

 地面が迫る。

 

「どうやって着地すんだこれ!」

 

 その時。

 

 前世の記憶にある光景が脳裏をよぎった。

 

「……あ」

 

 これ。フォーゼなら。

 

「こうだ!」

 

 咄嗟に左脚を下へ向ける。

 

 高速回転を続けるドリルが地面へ触れた。

 

 ガガガガガガガッ!!

 

「うおっ!?」

 

 ドリルが地面を削りながら深く食い込んでいく。

 

 そして。

 

 ガキィンッ!!

 

 ドリルが地面へ突き刺さった。

 

 直後。

 

「うわぁぁぁぁ!?」

 

 まだ残っていた勢いに引っ張られ、身体全体がドリルを支点に大きく横へ振られる。

 

 一周。

 

「おおおお!?」

 

 二周。三周。

 

「これ知ってる! 知ってるけど実際やると怖ぁぁぁぁ!!」

 

 ロケットの噴射が徐々に弱まっていく。

 

 それに合わせて回転の勢いも落ちていき、最後に身体を起こして右脚を地面へつけた。

 

「っと……!」

 

 何とか着地に成功する。

 

 左脚のドリルを地面から引き抜き、右腕のロケットを解除した。

 

『ROCKET OFF』

 

『DRILL OFF』

 

 スイッチを戻すと、右腕のロケットと地面へ突き刺さっていたドリルが消える。

 

 ようやく普通に両足で立った。

 

「…………勝った」

 

 改めて口にする。

 

「ファールバウティを……倒した」

 

 エリート級エーテリアス。

 

 ついさっきまで生身だった俺なら、遭遇した時点で逃げることしかできなかった相手。

 

 それを。

 

「俺が……?」

 

 いや。違う。

 

 俺自身が突然強くなったわけじゃない。

 

 視線を白い両手へ落とす。

 

「フォーゼで……」

 

 しかも。

 

「ライダーキックで……」

 

 子供の頃、画面の前で何度も真似した。

 

 本物を使う日なんて絶対に来ないと思っていた必殺技。それを、本当に自分が使った。

 

「……マジか」

 

 まだ夢でも見ているみたいだ。

 

 でも、壁にぶつけた肩の痛みも、ロケットに振り回された感覚も、この白い身体も。

 

 全部現実だ。

 

「…………」

 

 ふと、先代の声が頭をよぎる。

 

『もしフォーゼを使うことがあるなら──少しでも楽しんでくれたら、作った側としては嬉しいかな』

 

「…………まあ」

 

 最初のパンチはほとんど効かなかった。

 

 ロケットには振り回された。壁にもぶつかった。ミサイルまで撃った。

 

 最後の着地だって、見よう見まねだ。

 

 本気で何度も死ぬと思った。

 

 でも。

 

「……ちょっとだけ楽しかったかも」

 

 いや。正直に言えば。

 

 仮面ライダーフォーゼになったこと自体は。

 

「……かなり嬉しいな、これ」

 

 自分でも分かるくらい声が弾んでいた。

 

「さて……」

 

 いつまでも余韻に浸っている場合じゃない。

 

 俺は離れた場所へ転がっているアストロスイッチカバンへ向かおうとする。

 

 その時だった。

 

「ちょっと、そこのアンタ!」

 

「…………」

 

 聞き覚えのある女の声。

 

 さっきまでファールバウティと戦っていた時とは別の意味で、身体が固まった。

 

「まさか……」

 

 ゆっくり振り返る。

 

 少し離れた瓦礫の向こうから、三人の人影がこちらへ近づいてきていた。

 

 一人は派手なピンク色の髪をした少女。その隣には白髪の少女。そして最後の一人は、赤いジャケットを身に着けた銀色の機械人。

 

「…………」

 

 嘘だろ。

 

 見覚えがある。ありすぎる。

 

「ヒュー! 派手にやったなぁ!」

 

 銀色の機械人が、さっきまでファールバウティのいた場所と地面に残ったドリルの跡を交互に見る。

 

「すげぇ音がすると思って来てみりゃ、最後にとんでもねぇモン見せてもらったぜ。あのキック、すげぇじゃねーか!」

 

「ビリー、まだ近づかないで」

 

 アンビーがビリーの前へ片腕を出す。

 

「相手の所属も目的も分からない」

 

「おっと。そいつはもっともだ」

 

 ビリーは素直に一歩下がった。

 

「悪い悪い。ちょいとテンション上がっちまった」

 

「ちょっとじゃないでしょ」

 

 ニコが呆れたように腰へ手を当てる。

 

「あんた、さっきからずーっと喋ってるじゃない」

 

「だってよ、ニコの親分。ロケットで飛んできてドリルでキックだぜ? スターライトナイト好きとしては見逃せねぇだろ!」

 

「今はそれの話してる場合じゃないっての」

 

「…………」

 

 頭が、また追いつかなくなってきた。

 

 ピンク髪。ニコ・デマラ。

 

 白髪。アンビー・デマラ。

 

 そして機械人。ビリー・キッド。

 

 間違いない。邪兎屋だ。

 

 前世の記憶にある。ゲームの中で何度も見た。

 

「……邪兎屋」

 

 思わず口から漏れた。

 

「ん?」

 

 ニコがすぐに反応した。

 

「アンタ、あたしたちを知ってんの?」

 

「…………」

 

 しまった。

 

「えっと……名前くらいは」

 

「名前くらい、ねぇ……」

 

 ニコがじっとこちらを見てくる。

 

 完全には信じてない。そりゃそうだ。

 

 ゲームで知ってました、なんて言えるわけがない。

 

 アンビーも俺を観察するように見ている。

 

「ニコ」

 

「何?」

 

「少なくとも、今すぐ戦う必要はないと思う」

 

「理由は?」

 

「武器を解除した。それに、私たちが出てきてから一度も攻撃態勢を取ってない」

 

「……まあ、そうね」

 

「映画でも、こういう時に先に撃った側は大体あとで誤解だったと判明する」

 

「最後の理由いらなくない?」

 

「大事よ」

 

「…………」

 

 ああ。

 

 アンビーだ。

 

 前世で知っていたアンビーが、本当に目の前にいる。

 

「で?」

 

 ニコが一歩前へ出た。

 

「あんた、何者?」

 

「…………」

 

 俺だって知りたい。

 

 今日の昼まで普通の高校生だったんだぞ。

 

 ホロウに巻き込まれて。月へ飛ばされて。前世を思い出して。気がついたら仮面ライダーになっていた。

 

「いや……その、別に怪しい者じゃ」

 

「そのセリフ、怪しい人がよく言う」

 

 アンビーが即答した。

 

「ですよね」

 

「アンビー、いちいち追い詰めなくていいの」

 

「事実を言っただけ」

 

「…………」

 

 どう説明する?

 

 全部? 無理だ。

 

「俺は……ここに迷い込んだだけです」

 

「迷い込んだ?」

 

「散歩してたらホロウに巻き込まれて」

 

「…………」

 

 ニコが瞬きをする。

 

「散歩?」

 

「散歩です」

 

「そりゃまた……とんでもなくツイてないわね、アンタ」

 

「俺もそう思います」

 

「映画なら典型的な導入ね」

 

 アンビーが呟く。

 

「平凡な日常を送っていた主人公が、突然異常事態に巻き込まれて、謎の力を手に入れる」

 

「…………」

 

 妙に正確だな。

 

「アンビー、それ映画じゃなくて今こいつに起きてることじゃねぇか?」

 

 ビリーが首を傾げた。

 

「だから似ていると言ったの」

 

「お、おう」

 

 今度はビリーが少し押されていた。

 

「それで?」

 

 ニコが俺の身体を指差す。

 

「散歩してた一般人が、なんでそんな格好でエーテリアスと戦ってんのよ?」

 

「これは……」

 

 一瞬、言葉に詰まる。

 

「今日手に入れました」

 

「…………」

 

 今度は三人とも黙った。

 

「今日?」

 

「今日です」

 

「その装備を?」

 

「はい」

 

「で、あのデカブツと?」

 

「さっきが初めてです」

 

「…………」

 

 数秒の沈黙。

 

 最初に動いたのはビリーだった。

 

「……あー」

 

 顎へ手を当てる。

 

「なるほどな」

 

「何が?」

 

 ニコが訊く。

 

「いや、最後しかちゃんと見てなかったから確信なかったんだけどよ」

 

 ビリーが俺を見る。

 

「アンタ、あのロケットまだ全然乗りこなせてねぇだろ?」

 

「…………」

 

「当たりです」

 

「やっぱりな!」

 

「分かるんですか?」

 

「そりゃ戦うのは俺の仕事だからな。最後の飛び方も、狙ってるっつーより必死に軌道合わせてる感じだったしよ」

 

 ビリーはそこで笑った。

 

「ま、それでも初陣でデケェの仕留めたなら上出来どころじゃねぇだろ」

 

「途中で普通に壁へ突っ込みましたけど」

 

「ロケットで?」

 

「はい」

 

「…………」

 

 ビリーが一瞬黙った。

 

 そして。

 

「ハハハッ! そいつぁ派手にやったな!」

 

「笑い事じゃないですよ!」

 

「いやいや、初陣ならそんなモンだって! 俺だって新しい武器に替えた時は──」

 

「ビリー」

 

 ニコが冷たい声を出した。

 

「何だ、ニコの親分?」

 

「あんたの失敗談まで始めたら日が暮れるわよ」

 

「そんなにねぇって!」

 

「ある」

 

 アンビーが即答した。

 

「アンビー!?」

 

「この前も銃を回しながらポーズを取って、壁にぶつけてた」

 

「あ、あれは演出のリハーサルだ!」

 

「傷がついて落ち込んでた」

 

「やめろってアンビー!」

 

「…………」

 

 思わず笑いそうになる。

 

 やっぱり。本当にこいつらだ。

 

「まあ、話を戻すけど」

 

 ニコがため息交じりに俺を見る。

 

「プロキシは?」

 

「いません」

 

「一緒に入った仲間は?」

 

「いません」

 

「出口は分かる?」

 

「全然」

 

「地図は?」

 

「ないです」

 

「…………」

 

 ニコが額へ手を当てた。

 

「アンタ、よく生きてたわね」

 

「本当に」

 

 そこだけは心の底から同意する。

 

「ニコ」

 

 アンビーが声をかける。

 

「置いていくのは危険だと思う」

 

「分かってるわよ」

 

 ニコは少しだけ考えるように周囲を見る。

 

「こっちもそろそろ依頼を片付けて戻るところだし……一人増えたくらいなら、まあ何とかなるでしょ」

 

「え?」

 

「ついて来なさい」

 

「いいんですか?」

 

「ここに置いてって、あとでエーテリアスになられても寝覚め悪いじゃない」

 

 そう言ってから、ニコは人差し指を立てた。

 

「ただし、勝手な行動は禁止。あたしたちから離れない。ホロウの中じゃ、ちょっと道を間違えただけで二度と会えなくなることだってあるんだから」

 

「はい!」

 

 即答する。

 

 これで。帰れる。

 

「それと」

 

「…………」

 

 来た。

 

 俺は身構えた。

 

「何よ、その顔」

 

「いや……料金とか取られるのかなって」

 

「はぁ!?」

 

 ニコの声が裏返った。

 

「アンタ、あたしを何だと思ってんのよ!」

 

「えっ」

 

「遭難者助けてその場で請求書突きつけるほど落ちぶれてないわよ!」

 

「すみません!」

 

 予想と違った。

 

「……まあ」

 

 ニコが少し視線を逸らす。

 

「無事に出られたら、今度仕事が必要になった時に邪兎屋を思い出すくらいはしてくれてもいいけど」

 

「ニコ」

 

 アンビーが見る。

 

「それは営業活動」

 

「タダで助けるんだから宣伝くらいしたっていいでしょ!」

 

「さっすがニコの親分! こんな時でも商売を忘れねぇ!」

 

「ビリー、褒めてないでしょそれ!」

 

「褒めてる褒めてる!」

 

「絶対嘘!」

 

「…………」

 

 思っていたのと少し違う。

 

 でも、こっちの方がずっと。

 

 俺が知っている邪兎屋らしい。

 

「ほら、行くわよ」

 

 ニコが歩き出す。

 

「アンビー、前お願い」

 

「了解」

 

「ビリーは後ろ」

 

「任せろ! 後方警戒はこのビリー・キッド様に──」

 

「ちゃんとやって」

 

「やってるって!」

 

 自然に隊列ができる。

 

 俺は少し離れた場所へ転がっていたアストロスイッチカバンへ駆け寄った。

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

 持ち上げる。

 

「……お」

 

 変身しているおかげか、さっきまでの重さが嘘みたいに軽い。

 

 とはいえ、中にアストロスイッチが二十個近く入った大きなケース。

 

 邪魔なものは邪魔だ。

 

「それ」

 

 横からビリーが覗き込んでくる。

 

「何入ってんだ?」

 

「装備です」

 

「さっきのロケットみたいなのも?」

 

「まあ……」

 

「へぇ~」

 

 ビリーの目があるなら、たぶん今ものすごく輝いているんだろう。

 

「触らないでくださいよ」

 

「まだ何もしてねぇだろ?」

 

「触りそうだったので」

 

「信用ねぇな俺!?」

 

「会って五分も経ってないですから」

 

「そりゃそうだ!」

 

 あっさり納得した。

 

「でもよぉ、あのロケット以外にも面白いモンあるんだろ?」

 

「ありますけど」

 

「おっ!」

 

「ビリー」

 

 前からニコの声が飛んでくる。

 

「人の装備漁ろうとしない!」

 

「漁らねぇって! 見せてもらえないかな~って交渉してるだけだ!」

 

「同じよ!」

 

「違うだろ!?」

 

「……ビリー」

 

 先頭を歩いていたアンビーが振り返る。

 

「こういう場合、正体不明のアイテムを勝手に触ると爆発する可能性が高い」

 

「何でだよ!?」

 

「映画ではよくある」

 

「また映画かよ!」

 

「…………」

 

 危なかった。ちょっと笑った。

 

 数分前までエーテリアスに殺されかけていたはずなのに。

 

「何笑ってんの?」

 

 ニコがこちらを見る。

 

「いや……」

 

 何と言えばいい。

 

 前を歩く三人を見る。

 

 今朝までは、ただ学校が休みだった。暇だから散歩へ出た。それだけだった。

 

 なのに今は。

 

 ホロウに巻き込まれ。月へ飛ばされ。前世の記憶を取り戻し。自分のいる世界が『ゼンレスゾーンゼロ』だと知り。フォーゼシステムを託され。仮面ライダーになり。エーテリアスと戦い。

 

 そして。

 

 前世ではゲームのキャラクターだった邪兎屋の三人と、同じホロウを歩いている。

 

「……今日一日で色々ありすぎだなって」

 

「そう」

 

 アンビーは一度だけ頷いた。

 

「ホロウでは予想外のことが起きる」

 

「……そうですね」

 

 たぶん。俺に起きたことはそういうレベルじゃないけど。

 

「でも」

 

 アンビーが続ける。

 

「少なくとも、今は一人じゃない」

 

「…………」

 

 一瞬だけ言葉に詰まる。

 

「……はい」

 

「おーい、二人とも!」

 

 後ろにいたはずのビリーが、いつの間にか少し先へ出てこちらを振り返っていた。

 

「置いてくぞー! ホロウ脱出ツアーは待ってくれねぇぜ!」

 

「ビリー!」

 

 ニコが怒鳴る。

 

「あんた後ろ見ろって言ったでしょ!」

 

「あっ」

 

「『あっ』じゃない!」

 

「悪い悪い、今戻る!」

 

「まったくもう……!」

 

「…………」

 

 やっぱり。騒がしい。

 

 ゲームで見ていた時より、ずっと。

 

 でも。この三人についていけば。

 

 少なくとも。

 

「……家には帰れそうだ」

 

 俺は小さく息を吐き、白い装甲をまとったまま邪兎屋の三人の後を追った。




主人公
フォーゼに変身できてテンションが高い。宇宙キターーーーッ!!

ニコ
邪兎屋の社長。金にがめつい。主人公のことは一応怪しんでいる。

アンビー
邪兎屋の従業員第一号。クールな映画好き。主人公のことは戦闘の素人だと見抜いている。

ビリー
同じく邪兎屋の従業員第二号。特撮ドラマ『スターライトナイトの大ファン』。主人公の変身したフォーゼを見てテンションが上がっている。
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