新エリー都で宇宙キターッ!   作:一般天高生徒

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キャラクターのエミュが難しい……



第3話 仮・名・決・定

 

 邪兎屋の三人について歩き始めて、数分。

 

「なあなあ」

 

「…………」

 

「なあって!」

 

「……俺ですか?」

 

「他に誰がいるんだよ」

 

 いつの間にか隣まで来ていたビリーが、俺の顔を覗き込んでいた。少し前ではニコが歩き、そのさらに前をアンビーが警戒しながら進んでいる。そして、最後尾を任されたはずのビリーは俺の隣。

 

「というか、後ろの警戒は?」

 

「してるしてる」

 

「こっち向いてるじゃないですか」

 

「俺は高性能だからな。前を見ながら後ろも気にできるのさ!」

 

「それ絶対ニコさんに怒られるやつでは」

 

「シーッ!」

 

 口元に人差し指を立てるビリー。機械人なのに妙に人間臭い。

 

「で、さっきから気になってたんだけどよ」

 

「はい?」

 

「結局アンタ、何者なんだ?」

 

「…………」

 

 何者。

 

 そう聞かれると、今日一日で一番答えるのが難しい質問かもしれない。

 

 散歩中にホロウへ巻き込まれた普通の学生。前世の記憶を取り戻した転生者。月面に残されていたフォーゼシステムを偶然受け継いだ人間。

 

 どれも間違ってはいない。

 

 けど、そのどれも説明できるわけがない。

 

 なら。

 

 今、この姿で名乗れるものは一つだけだ。

 

「……仮面ライダーフォーゼ」

 

「カメン……ライダー?」

 

 ビリーが首を傾げた。

 

「はい。仮面ライダーフォーゼです」

 

「へぇ~……」

 

 俺の頭から足先までじっくり眺める。

 

「いいじゃねぇか! なんかめちゃくちゃヒーローっぽい名前だな!」

 

「ありがとうございます」

 

「仮面ライダー……」

 

 アンビーもこちらへちらりと視線を向けた。

 

「仮面を被っているから、仮面ライダー?」

 

「いや……そういう意味では……」

 

 違う。たぶん。

 

 でも、いざ説明しろと言われると困る。そもそも仮面ライダーという名称について真面目に考えたことなんてない。

 

「……そういうものなんです」

 

「説明を諦めた」

 

「すみません」

 

「まあ名前なんてそんなモンだろ! 響きがカッコよけりゃそれでいい!」

 

「それはビリーの基準」

 

「大事だろ!?」

 

 ビリーが笑いながら頷いたところで、ふと何かに気づいたように俺の周囲を見回した。

 

 右。

 

 左。

 

 後ろ。

 

「……ん?」

 

「どうしました?」

 

「いや」

 

 もう一度周囲を見る。

 

「ライダーなんだよな?」

 

「そうですけど」

 

「…………バイクは?」

 

「…………」

 

 痛いところを突かれた。

 

「ないです」

 

「ないの!?」

 

「今は!」

 

「ライダーなのに!?」

 

「俺だってちょっと気になってるんですよ!」

 

 劇中のフォーゼにはちゃんと専用マシンがある。

 

 マシンマッシグラー。

 

 でも、ラビットハッチにそんなものはなかった。少なくとも俺が確認した範囲では。

 

「徒歩?」

 

 アンビーが言った。

 

「…………」

 

「徒歩ライダー」

 

「やめてください! 急にめちゃくちゃ弱そうになる!」

 

「でも今は歩いてる」

 

「事実で殴るのやめてもらえます!?」

 

「ハハハハ! 徒歩ライダー!」

 

「ビリーさんも笑わないでくださいよ!」

 

「ビリー」

 

 前を歩いていたニコが振り返る。

 

「あんた後ろの警戒は?」

 

「…………あ」

 

「『あ』じゃない!」

 

「悪い悪い!」

 

 笑いながらビリーが最後尾へ戻っていく。

 

「……自由だなぁ」

 

「ビリーだから」

 

「納得していいんですか、それ」

 

「いいと思う」

 

「いいんだ……」

 

 そんなことを話しながら進む。前世でゲームをしていた時から知っていた。邪兎屋は騒がしい。ニコが怒鳴り、ビリーがふざけ、アンビーが淡々と妙なことを言う。

 

 でも実際にその中へ入ってみると、画面越しに見ていた時よりずっと騒がしくて──思っていたより、居心地が悪くない。

 

「なあフォーゼ!」

 

「はい?」

 

 後ろに戻ったばかりのビリーが、また声を飛ばしてくる。

 

「さっきのロケットとドリル以外にもあるんだろ?」

 

「ありますよ」

 

「どれくらい?」

 

「…………」

 

 俺は手にしたアストロスイッチカバンへ視線を落とした。この中に入っているのは五番から二十番まで。ドライバーには一番から四番。ラビットハッチには二十一番から三十九番。そして四十番は、ない。

 

「……いっぱい」

 

「雑だな!?」

 

「いや、説明すると長いんですよ」

 

「じゃあ今度じっくり聞かせてくれよ!」

 

「今度?」

 

「おう!」

 

 何の迷いもなく頷かれた。

 

「また会う気満々なんですね」

 

「そりゃそうだろ。こんな面白そうなヤツ、一回会っただけで終わりじゃもったいねぇ!」

 

「面白そうって……」

 

「褒めてるぜ?」

 

「たぶん褒めてないですよね、それ」

 

「ハハハ!」

 

 明るい笑い声がホロウ内へ響く。

 

「ビリー」

 

「今度はちゃんと後ろにいるぜ!」

 

「声が大きい」

 

「そっちか!」

 

 本当に騒がしい。

 

 しばらく進んだところで、先頭を歩いていたアンビーがこちらを振り返った。

 

「フォーゼ」

 

「はい?」

 

 一瞬、反応が遅れた。

 

 今。

 

 普通にフォーゼと呼ばれた。

 

「確認したいことがある」

 

「どうしました?」

 

「あなた、ホロウに入ってからどのくらい経ってる?」

 

「え?」

 

 時間か。散歩中にホロウへ巻き込まれて、ラビットハッチへ行って、前世を思い出して、先代の録音を聞いて、戻ってきて、戦って。

 

「……数時間くらい?」

 

「正確には?」

 

「分からないです」

 

「そう」

 

 アンビーの視線が俺の身体を上から下へ移動する。

 

「それにしては平気そう」

 

「平気?」

 

「侵食」

 

「…………あ」

 

 言われて思い出した。先代は録音で、フォーゼにホロウ内で活動するための対策を施したと言っていた。

 

「このスーツ……ホロウの中でも活動できるようになってるみたいです」

 

「みたい?」

 

「俺も今日知ったので」

 

「…………」

 

 アンビーが黙り、ニコもこちらを見る。

 

「本当に何も知らないのね、アンタ」

 

「面目ないです」

 

「エリート級を倒せるくらいの力があって、ホロウ内でも侵食をほとんど受けない装備……」

 

 ニコの目が細くなった。

 

「…………」

 

「何よ」

 

「……売りませんよ」

 

「まだ何も言ってないでしょ!?」

 

「今ちょっと値段考えてませんでした?」

 

「考えてないわよ!」

 

「ニコ」

 

「何よアンビー」

 

「考えてる顔だった」

 

「アンビー!?」

 

「やっぱり!」

 

「考えただけ! 売れなんて言ってないでしょ!」

 

「考えてたんじゃないですか!」

 

 後ろからビリーの笑い声が聞こえてくる。

 

「ハハハ! さすがニコの親分だぜ!」

 

「ビリーも黙ってなさい!」

 

「止まって」

 

 不意に、アンビーの声色が変わった。さっきまでの空気が一瞬で消える。全員が足を止め、アンビーが腰を落とす。ビリーもいつの間にか二丁拳銃を構えていた。

 

「何かいるんですか?」

 

「前方」

 

 数秒後、瓦礫の影から複数のエーテリアスが姿を現した。さっき戦ったような巨体ではない。比較的小型の奴が数体。

 

「なら、俺も──」

 

 まだ変身中だ。こっちにだって戦える力はある。そう思って一歩前へ出たところで、アンビーの腕に止められた。

 

「待って」

 

「え?」

 

「まだその装備に慣れてないでしょ」

 

「いや、でも」

 

「ニコ」

 

「分かってる」

 

 ニコも既に身構えている。

 

「フォーゼはそこで見てなさい」

 

「え」

 

「せっかく助けた遭難者に、また壁へ突っ込まれたら困るのよ」

 

「ぐっ……」

 

 何も言い返せない。

 

「行くよ!」

 

 ニコの声と同時に、アンビーが駆け出した。

 

「え?」

 

 一瞬、消えたのかと思った。それほど速かった。

 

 あっという間にエーテリアスとの距離を詰め、斬撃が走る。一体が大きく体勢を崩した直後、乾いた銃声が連続して響いた。

 

「ヒュー!」

 

 ビリーだ。さっきまで俺を徒歩ライダー呼ばわりして笑っていた奴が、二丁拳銃を正確に撃ち込んでいる。逃げようとする相手の進路を銃撃で塞ぎ、そこへアンビーが追撃。別方向から迫った一体をニコが吹き飛ばした。

 

 それから、ほんの僅か。

 

 気づけば戦闘は終わっていた。

 

「…………」

 

 俺は何もしていない。ただ見ていただけだ。

 

「よし。行くわよ」

 

「…………」

 

「どうしたの?」

 

 アンビーが振り返る。

 

「いや……強っ」

 

 思わず漏れた。

 

「ん?」

 

 ビリーが銃を弄びながらこちらを見る。

 

「何か言ったか?」

 

「普通に強いなって」

 

「だろ?」

 

 得意げに胸を張る。

 

「俺たち邪兎屋をナメてもらっちゃ困るぜ!」

 

「別にナメてたわけじゃないんですけど……」

 

 前世では何度も見ていた。ゲームなら当たり前のように戦わせていたし、敵を倒すのも普通のことだった。

 

 でも現実で見ると分かる。

 

 こいつらは、ホロウで仕事をして生き残ってきたプロだ。

 

 俺はフォーゼになって、さっきエリート級のエーテリアスを倒した。でも、それはフォーゼの力があったからだ。戦う技術も経験も、俺なんかこの三人の足元にも及ばない。

 

「……俺、やっぱり練習しないと駄目だな」

 

「何を?」

 

「ロケットとか」

 

「ああ。必要だと思う」

 

「即答」

 

「壁にぶつかってたから」

 

「見てないはずなのに何で知ってるんですか」

 

「ビリーが言ってた」

 

「ビリー!」

 

「悪い悪い!」

 

 また笑い声が上がる。

 

 そのまましばらく歩いていると、ニコが何かを思い出したようにこちらを見た。

 

「そういえば」

 

「はい?」

 

「フォーゼっていうのは分かったけど、アンタ自身の名前は?」

 

「…………」

 

 来た。

 

「本名ってことですか?」

 

「他に何があるのよ。呼び方はフォーゼでいいとしても、名前くらい聞いておこうかなって」

 

「それは……」

 

 どうする?

 

 本名くらいなら教えてもいい──とは、どうにも思えなかった。今後もフォーゼとして動くことがあるなら、本名とこの姿が結びつくのはたぶん良くない。

 

 この世界でフォーゼがどういう扱いになるのかすら分からないのだ。治安局や防衛軍なんかに目をつけられる可能性だってある。

 

「えっと……」

 

「ちょーっと待ったぁ!」

 

 突然、後ろからビリーが割り込んできた。

 

「うわっ!?」

 

「何よビリー」

 

「ニコの親分!」

 

 ビリーがびしっと指を立てる。

 

「変身ヒーローに本名を聞くなんてご法度だぜ!」

 

「…………は?」

 

 ニコの顔が露骨に歪んだ。

 

「何そのルール」

 

「あるんだよ!」

 

「ないと思う」

 

「アンビーまで!?」

 

 ビリーはめげずに両腕を広げた。

 

「考えてみろって! 普段はどこにでもいる普通の市民! だが悪が現れたその時、秘密の力で変身して人知れず街を守る! 正体は秘密! 本名も秘密! これぞ変身ヒーローの王道ってヤツだろ!」

 

 こいつ。

 

 ビリー。今だけは、お前が神に見える。

 

「そもそも、あたしはちょっと気になっただけなんだけど」

 

「なら聞かない方がロマンがあるだろ!」

 

「ロマンで決めないでよ」

 

「秘密の正体がある方が絶対カッコいいって!」

 

 ビリーが勢いよく俺を見る。

 

「なあ、フォーゼ!」

 

「え? あ、はい」

 

「本名は秘密なんだろ?」

 

「…………」

 

 これは。

 

 乗るしかない。

 

「……秘密です」

 

「ほらな!」

 

「今絶対ビリーに合わせたでしょ」

 

「そ、そんなことは」

 

「間があった」

 

「アンビーさん!」

 

「まあいいわ」

 

 ニコが肩を竦める。

 

「言いたくないなら無理に聞き出すようなことでもないし。あたしたちもフォーゼって呼べばいいんでしょ?」

 

「……はい」

 

「ただし、もしアンタが犯罪者だったりしたら話は別だからね」

 

「違いますよ!」

 

「それはまだ証明されてない」

 

「アンビーさん!?」

 

「安心しろフォーゼ! ヒーローに秘密は付き物さ!」

 

「ビリーさんヒーローについて詳しいですね……」

 

「好きだからな!」

 

 こうして。

 

 俺の本名は邪兎屋には伏せられた。

 

 フォーゼ。

 

 前世では弦太朗が変身していた仮面ライダーの名前。それが今、この三人にとっては俺自身を指す名前にもなった。

 

「……フォーゼ」

 

 小さく呟いてみる。

 

 妙な感じだ。

 

 でも、悪くない。

 

「そろそろ出口」

 

 アンビーが前方を指した。

 

「本当ですか!?」

 

「多分」

 

「多分!?」

 

「ルートに大きな変化がなければ」

 

「急に不安になること言わないでくださいよ!」

 

「ホロウだから仕方ない」

 

「大丈夫よ」

 

 ニコが歩きながら言う。

 

「ここまで来ればあと少し」

 

「……よかった」

 

 ようやく帰れる。

 

 どれだけ時間が経ったのかも、もうよく分からない。散歩に出ただけだったのに、本当に長い一日になった。

 

「ところで」

 

 ニコが俺の身体を見る。

 

「その格好、外でもそのままなの?」

 

「…………」

 

 忘れてた。

 

 この姿で新エリー都を歩いたら、どう考えても目立つ。

 

「……まずいですよね」

 

「まずいっていうか目立つでしょ」

 

「ですよね」

 

「解除できないの?」

 

「できますけど……」

 

 邪兎屋の三人を見る。

 

 今しがた本名を隠したばかりなのに、ここで変身解除して素顔を見せたら意味がない。

 

「ちょっと事情があって、人前では解除できないんです」

 

「へぇ」

 

 ニコが目を細めた横で、ビリーが大きく頷く。

 

「やっぱり正体を隠してるんだな!」

 

「……そういうことにしておいてください」

 

 ビリーが勝手に納得してくれるの、こういう時はかなり楽だ。

 

「問題ない」

 

 アンビーが言う。

 

「使う出口は人通りが少ない」

 

「助かります」

 

 その後も何度か道を曲がり、崩れた建物と歪んだ空間を抜けていく。やがてアンビーが一か所で立ち止まった。

 

「ここ」

 

「ここ?」

 

 目の前の空間が僅かに揺らいでいる。

 

「抜けるわよ」

 

 ニコを先頭に、アンビー、俺、最後にビリーの順でその揺らぎを通り抜ける。

 

「──っ」

 

 空気が変わった。

 

 遠くから聞こえる車の音。街灯。建物。見慣れた新エリー都の景色。

 

「…………帰ってきた」

 

 思わず立ち止まった。

 

 朝までは当たり前だった、何の変哲もない街並み。それが今はものすごく安心する。

 

「大げさね」

 

「いや、本当に死ぬかと思ったんで……」

 

「まあ、一人であそこに放り込まれて生きて帰れたなら、大げさでもないか」

 

「ですよね」

 

 出た場所は古い倉庫が並ぶ区画の裏手らしく、周囲に人影はない。少なくとも今すぐ誰かに見つかる心配はなさそうだった。

 

「ここまで来れば一人で帰れる?」

 

「はい」

 

「本当に?」

 

「さすがに街中で迷子にはなりませんよ」

 

「ホロウに散歩で巻き込まれた奴が言うと説得力ねぇなぁ」

 

「ビリーさん、それ事故ですからね!?」

 

 ビリーが楽しそうに笑う。

 

「じゃあ、あたしたちはここで」

 

 ニコが手を振った。

 

「ありがとうございました。本当に助かりました」

 

「いいって」

 

 少し照れたように視線を逸らしたニコだったが、すぐに人差し指を立てる。

 

「その代わり、今度ちゃんと仕事を頼む時は邪兎屋をよろしく」

 

「やっぱり営業するんですね」

 

「当たり前でしょ!」

 

「ニコらしい」

 

「アンビー!」

 

「またな、フォーゼ!」

 

 ビリーが大きく手を振った。

 

「次会った時は他の装備も見せてくれよ!」

 

「約束してませんよ!」

 

「じゃあ今した!」

 

「勝手だなぁ!」

 

「ロケットの練習もしておいた方がいい」

 

「……それは本当にそうします」

 

「人のいない場所で」

 

「はい」

 

「建物もない場所」

 

「はい……」

 

「できれば壁もない場所」

 

「そこまで言わなくても!」

 

 最後まで容赦がない。

 

「じゃあな!」

 

「またね、フォーゼ」

 

 ニコにもそう呼ばれて、一瞬だけ反応が遅れた。

 

「何?」

 

「いや……何でもないです」

 

「変な奴」

 

「よく言われ……いや、言われたことないな」

 

「どっちよ」

 

 俺も軽く手を上げる。

 

「……じゃあ、また」

 

「おう!」

 

「また」

 

「じゃあね」

 

 三人が離れていく。

 

 俺はしばらくその場に立ち、足音と話し声が完全に聞こえなくなるまで待った。それから周囲を見回す。右、左、後ろ。

 

「……行ったよな?」

 

 誰もいない。

 

「解除……」

 

 フォーゼドライバーのトランスイッチを戻す。装甲が光へ変わり、白い身体が消えていく。

 

「ふぅ……」

 

 久しぶりに見る、自分自身の手。

 

「ようやく帰ってきた……」

 

 ほっと息を吐き、アストロスイッチカバンを持ち直す。

 

「…………」

 

「重っ!!」

 

 腕が一気に下がった。

 

「そうだった!」

 

 変身中は余裕で持てたせいで完全に忘れていた。

 

「これ持って帰るのかよ……!」

 

 家まで。

 

「先代ぇ……もうちょっと変身前の持ち運びも考えてくれよ……」

 

 文句を言ったところで軽くなるわけでもない。仕方なく両手でカバンを抱え直し、家へ向かって歩き始めた。

 

 ◇

 

 部屋へ入った瞬間、アストロスイッチカバンを床へ下ろした。

 

 ドサッ!!

 

「無理……腕が死んだ」

 

 何キロあるんだよ、これ。

 

 フォーゼドライバーを外して机の上へ置き、ゲートスイッチもその横へ並べる。

 

「…………」

 

 改めて見る。

 

 フォーゼドライバー。アストロスイッチ。ゲートスイッチ。朝にはこの部屋に存在すらしていなかったものばかりだ。

 

「……夢じゃないんだよな」

 

 呟いてみても、当然返事はない。

 

 最低限のことだけ済ませると、俺はベッドへ身体を投げ出した。身体も重いし、頭も重い。もう何も考えたくない。

 

「疲れた~~~~……」

 

『いや~、今日はホントに大変だったね~』

 

「ほんとだよ……」

 

 枕へ顔を埋めたまま返事をする。

 

「散歩に出ただけだったのにホロウに巻き込まれるわ、月に行くわ、前世思い出すわ、フォーゼになるわ、エーテリアスと戦うわ……」

 

『うんうん』

 

「そのあと邪兎屋に会って、何とか帰ってきて……」

 

『うんうん』

 

「カバンはクソ重いし……」

 

『それはごめん』

 

「ホントだよ。もう少し軽く──」

 

 そこで、言葉が止まった。

 

「…………ん?」

 

 今。

 

 誰と喋った?

 

 ゆっくり顔を枕から上げる。この部屋には今、俺しかいない。

 

 なのに返事があった。それも一回じゃない。俺は今、完全に誰かと会話していた。

 

「…………え?」

 

 一瞬で眠気が吹き飛んだ。

 

 恐る恐る、声が聞こえた方へ顔を向ける。

 

 床に置いたアストロスイッチカバン。その上に、いつの間にか淡い光が浮かんでいた。

 

「…………は?」

 

 淡い光が、人の姿を形作っている。

 

 宇宙飛行士が着用するような青いスーツ。その頭部は、顔全体を覆う銀色のヘルメット状の仮面に包まれている。

 

 半透明ではあるものの、その姿には見覚えがあった。

 

 知っている。

 

 前世で見た。

 

「……タチバナ?」

 

 『仮面ライダーフォーゼ』に登場した、あのタチバナ。

 

 その姿と瓜二つのホログラムが、アストロスイッチカバンの上に浮かんでいた。

 

 腕を組みながら、何故か「うんうん」と満足そうに頷いている。

 

「…………」

 

 口を開けたまま固まる。

 

 向こうもこちらを見る。

 

 目が合った。

 

 数秒。

 

 すると、タチバナの姿をした何かは気軽に片手を上げた。

 

『こんばんは~』

 

 ひらひらと手を振ってくる。

 

「…………」

 

 一回、瞬き。

 

 二回。

 

 三回。

 

「…………誰?」

 

『え?』

 

 向こうが首を傾げる。

 

「タチバナ……だよな?」

 

『ああ、見た目?』

 

 ホログラムは自分の青いスーツを見下ろした。

 

『うん。そうだね』

 

「…………」

 

 そうだね、じゃない。

 

「いや……誰だよお前ぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 今日一番の叫び声が、自分の部屋に響き渡った。

 





主人公
今日一日だけで色々なことがあって疲れている。

ニコ
フォーゼの機能に興味を持っている。売ったらいくらになるのかしら?

アンビー
主人公がただの一般人だと確信。なぜこんな装備を?

ビリー
仮面ライダーの響きが気に入った。主人公を面白いやつだと思っている。

タチバナ?
こんばんは〜
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