転生予定より11年早かった件について、とりあえず経営科でドラゴン旅行会社を起業する 作:ルクエリシオン
一次試験が終了し、指定された待機場所(控室)で缶ジュースを飲みながらのんびり過ごしていた俺のもとに、二次試験の案内が届いた。
「これより二次試験を開始する! 受験者は全員、用意された特設フィールドへ移動せよ!」
一次試験を突破した猛者たち——そのほとんどが各校から選りすぐられた2年生ヒーロー科の生徒たちだ——が、緊張した面持ちでゾロゾロと移動を開始する。
到着した特設フィールドは、息をのむような惨状だった。
大規模なテロと自然災害が同時に発生したという想定で作り込まれた、壊滅状態の市街地エリア。至る所で建物が崩落し、真っ黒な有毒ガスと煙が立ち込め、燃えさかる火炎が激しく吹き荒れている。
『二次試験は【救助演習】だ! 現場に取り残された要救助者——HUC(Help Us Company)のプロ要救助者たちを、手際よく、かつ安全に救出・応急手当を行い、安全地帯の救護所へ搬送せよ! 評価は減点方式で行う!』
アナウンスが響き渡った瞬間、周囲の2年生たちが気合いの入った表情で駆け出した。
「崩落現場に怪我人がいるぞ! 慎重に瓦礫を撤去しろ!」
「火災エリアの煙を食い止めろ! 二次崩落に気をつけろ!」
要救助者(HUC役)を傷つけないよう、慎重に声をかけ、応急手当の準備を進める他校の受験生たち。
だが、現場は炎と有毒ガス、そしていつ崩れてもおかしくない不安定な瓦礫の山だ。二次災害の危険が常に付き纏い、受験生たちの焦りと冷や汗が伝わってくる。
「あー……煙たいし、熱いな……」
緑と黒の和服の袖口で口元を覆いながら、俺はふうと溜め息をついた。
(被災者の救助で一番大事なのは、手当ての手順以前に『救助活動を行う現場の安全確保(二次災害の防止)』だ。煙や火炎、二次崩落のリスクがある中で手当てなんてしてたら、二次被害でミイラ取りがミイラになっちまう)
俺は深く息を吸い込み、意識を集中させた。
「よし……サクッと終わらせて、龍子ちゃんたちに報告しに行こ」
次の瞬間——俺は本音の姿である【レックウザ(第2形態)】へと、その真価を解放した。
俺が個性を全開にした瞬間、身に纏っていた緑と黒の粋な和服が、光る気流と同化するようにスッと消え去り、神秘的な光の粒子となって身体に収まる。
そして次の瞬間には、漆黒とエメラルドの美しい鱗を輝かせた、神秘的な神龍の巨体が大空へと躍り出た。
◇
グオオオオオオンッ…………!!
突如として、壊滅市街地の上空に大気を震わせる重厚な咆哮が轟いた。
「な、なんだ!? 天気が……いや、空が壊れたのか!?」
受験生たちやHUC役の役者たちが一斉に空を見上げ、その場に氷付いた。
そこに現れたのは、全身から衣服の類を一切排し、純粋な生物にして神々しい美しさを誇る天空の神龍——レックウザだった。その圧倒的な神話の如き存在感が、ゆったりと市街地の上空を回遊する。
「な、なんだあの巨大な怪物……ヴィランか!? いや、ビブスを着てた1年のあの和服の経営科か!?」
受験生たちがパニックを起こしかけた——その時。
ズウゥゥゥン………………ッ!!
不意に、フィールド全体を包んでいた激しい熱気と爆風、そして煙がピタリと停止した。
「え……? 煙が……消えていく……!?」
レックウザ(俺)が上空で身をくねらせ、パッシブ能力『エアロック』をフィールド全体へ全開で展開したのだ。
気流の完全制御と異常天候の無効化。
燃えさかっていた火炎は酸素の供給を絶たれて一瞬で鎮火し、立ち込めていた黒煙や有毒ガスは上空へ一気に押し流されて消滅。いつ崩れるか分からなかった不安定な瓦礫の風圧や振動すらも、完璧な『凪』の絶対空間によって固定・沈静化された。
地獄絵図だった被災現場が、一瞬にして「風ひとつない、完全に安全な無菌室のような空間」へと変貌を遂げたのだ。
「二次災害の危険ゼロ。これで手当ても救出もやり放題だな」
レックウザの姿のまま、俺はスピーカーを通じて朗々とした声をフィールド全体へ響かせた。
◇
気流操作によって完璧な『凪』を作り出した俺は、そのまま巨体を滑らかに下降させた。
「ひぃっ!? 大きな龍が降りてきた……!?」
瓦礫の隙間で脚を挟まれ、不安そうに震えていたHUC役のおじさん(プロ要救助者)。
俺は傷つけないよう絶妙な加減で『龍の爪』の風圧を振るい、精密機械のような手さばきで危険な瓦礫だけを綺麗に撤去した。
そして、レックウザのしなやかな胴体と、柔らかい気流のクッションで包み込むようにして、おじさんをそっと背上へ固定する。
『大丈夫ですか? 痛みはありませんか?』
「あ、はい……全く痛くないです……というか、煙も熱気も全然なくてすごく息がしやすい……!?」
『そのままリラックスしていてくださいね。救護所へお送りします』
俺は『神速』を応用した、揺れの全くない滑らかな低空飛行で安全地帯(救護所)へと一瞬で移動。おじさんを医療スタッフの元へ優しく送り届けた。
「お見事です! 傷病者への配慮、搬送の迅速さ、何より二次災害の危険を根底からゼロにする空間維持……! 文句のつけようがありません!」
救護所の審査員たちが、驚愕で目を丸くしながらバインダーの手帳に次々と加点チェックを入れていく。
その後も、俺はフィールド全体を『エアロック』で無力化・安全化しながら、取り残された要救助者たちを次々と回収。
パニックを起こす暇すら与えない圧倒的な安心感とスピードで、すべての救助をわずか数分で完了させてしまった。
◇
「これより、プロヒーロー仮免許試験の最終結果を発表する!」
試験が終了し、巨大モニターに合格者の番号がズラリと表示された。
『第一位——翡翠凪(レックウザ/雄英高校・経営科)。得点:100点(満点・減点ゼロ)』
「「「満点ぇぇぇえええ!? 減点ゼロだとぉぉお!?」」」
会場にいた他校の2年生たちが、ひっくり返りそうな声で悲鳴を上げた。
救助演習において、些細なミスや言葉遣い、二次災害の考慮漏れなどで必ず何点かは削られるのが常識だ。にもかかわらず、減点一切なしの完全満点。
モニターの横で、審査員長である公安の男がマイクを取った。
「翡翠選手は、救助現場における最大の敵である『二次災害(煙・火災・崩落)』を自身の個性で完璧に無効化した。被災者を一切の危険に晒さず、精神的恐怖すら与えない救助スタイルは、まさに救出の理想形である。文句なしのトップ合格だ」
「「「………………」」」
もはや誰も文句は言えなかった。
人型での一次試験10秒殺、そしてレックウザ姿での二次試験・二次災害完全無効化と満点合格。
1年生の経営科でありながら、全国の2年生ヒーロー科を完全に置き去りにした圧倒的な実力を、見せつけられたのだから。
◇
「ふぅ……疲れた。無事に貰えて良かったよ」
試験会場の出口。
レックウザの姿から人型へと戻ると、光の気流の中から緑と黒の和服がシワひとつなく完璧な状態で身に纏わさる。
俺の手元には、プラスチック製の重厚なカード——『プロヒーロー仮免許証(天空ヒーロー:レックウザ)』が輝いていた。
(よし……! これで日本国内でレックウザになって空を飛んでも、法律上『緊急避難』や『ヒーロー活動』として合法化される。起業への一番大きな壁をクリアできたぞ)
俺がホッと胸を撫で下ろしていると、遠くからパタパタと駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「レックウザ……あ、翡翠くん!!」
「おい緑髪!!」
出迎えてくれたのは、私服姿の龍子(リューキュウ)とルミ(ミルコ)の二人だった。
「仮免……合格したのね!? しかも満点で1位って、ニュースの速報に出ていたわよ!」
龍子は自分のことのように目を輝かせ、パッと表情を華やがせて俺の手を両手でギュッと握しめてきた。
「へっ、やるじゃねぇか和服野郎! 1年で仮免ゲットとか、ヒーロー科の立場がねぇな!」
ルミもニシシと笑いながら、俺の肩をバシバシと力強く叩いてくる。
「うん、ありがとう二人とも。これで堂々と国内で飛べるようになったよ」
「ふふ、本当におめでとう……! すごいわ、翡翠くん」
握られた龍子の手の温もりと、心からの祝福の笑顔。
俺たちの「合法的なドラゴン旅行会社」と「スローライフ」への扉が、今まさに大きく開かれたのだった。